「歌割1文字」から自分の強みを見つけるまで――モーニング娘。’20 生田衣梨奈の軌跡
「1文字から昇格したとよ。21文字やろ? 大出世やわ」
現在モーニング娘。’20をサブリーダーとして引っぱる生田衣梨奈は、ソロの歌割は少なく、立ち位置は後列が多かった。
加入翌年の2012年にリリースされたシングル曲『One・Two・Three』で彼女に与えられたソロの歌割は、たった1文字。それが5年後の『BRAND NEW MORNING』では躍進を遂げた。冒頭で引用したのは、本人も抑えきれない喜びを表明したときのブログである。
その後も、アクロバットやゴルフなど独自の強みを伸ばしてきた彼女が、最近さらに輝いている。きっかけとなったのが、Instagramでの発信だ。5月に開設した個人アカウントのフォロワーは9万人(2020年7月中旬現在)。まだまだこれからではあるが、彼女が更新するたびに、投稿内容がネットニュースになる状況が生まれている。
ここまでの心境の変化と、今注力しているSNSの発信について具体的に語ってもらった。
「1日で歌がうまくなるわけない」意識変えたつんく♂の言葉
- 歌割が「愛してる」の「る」だけだった時期もありましたが、今の生田さんはアクロバットやゴルフなど自分の強みを活かして輝いています。
- 加入後初のシングル曲『まじですかスカ!』では、新メンバー全員ソロパートがもらえたんです。けど、私はその次の『Only you』でソロはゼロになったんですよ。約4分半の曲中でたった10秒、4ヶ所しか歌割がなかったんです。
- リリースから9年経っても、具体的な尺が即答できるくらいショックだったんですね……。
- そうなんです。応援してくれるファンの方にも申し訳なくて。でも、つんく♂さんに「1日ですぐに歌がうまくなるわけないから!」と言われたことがあって、そこからちょっと考えを変えてみたんです。
- どんなふうに?
- まず、立ち位置がよくて、歌割も多い鞘師里保ちゃんに注目しました。彼女はダンスが本当に上手。「私もダンスを頑張ったらパートをもらえるんじゃないか?」と思えるようになって、それまで以上に一生懸命レッスンに取り組みました。その後、本当にダンスメンバーに選ばれるようになったんです。自分の中でも、大きな自信につながりましたね。
- 視点と努力の方向性を、少しだけ変えてみたんですね。
- 今もメインで歌っているわけじゃないけど、歌番組に出演したとき、カメラに抜いてもらえる尺が確実に伸びてきたんですよ。そこから「もっと可愛くなろう! ビジュアルを磨こう!」と、意識が変わりました。今も、最強に綺麗な状態で卒業したいと思って、美意識を常に高く持っています。
- 具体的には、どんな努力を?
- ヘアメイクだけでなく、マッサージやむくみとりを意識しています。体重は関係ないと思うので、無理なダイエットはしません。仮に50kg以上あったとしても、ごまかせればOKなんですよ(笑)。綺麗な見せ方は、ポージングも含めて研究しています。
- 生田さんは、2011年に加入してから今まで、一度も仕事を欠席したことがないんですよね。体調管理のプロとして、ファンのあいだでも「鉄人」と言われています。
- スタッフさんも、頑張りが見えない子に対して、頑張れないと思うんです。もちろん自分のための努力だけど、ファンの方や周りの人にも、気持ちは伝わると考えています。
同期の鞘師里保ともやりとり。こだわり抜いたInstagram運用
- 最近始めたInstagramも、スゴい勢いでフォロワーが伸びていますね。投稿すると、ネットニュースで記事になることもあって。「ポテチ映え」写真も話題になりました。
- ありがたいですね。メンバーだけでなく、アイドル友達とも連携して、「どんな投稿が伸びるのか」を情報共有しています。
- 同期の鞘師里保さんが少し先にアカウントを開設されていましたね。彼女ともよくLINEでやりとりしているそうで。
- 開設してから30分くらい経っても全然フォロワー数が伸びなくて「誰も見つけてくれなかったらどうしよう」「まだフォロワー10人なんだけど……」って弱音をこぼしていて、9期のみんなで「大丈夫だよ!」って励ましていました(笑)。
- 鞘師さんのアカウント、プロフィール欄も「本物だよーー!」しか書いてなくて、最初はファンの方々も「偽物なんじゃないか」と疑ってましたからね(笑)。
- そうなんですよ(笑)。ファンの方が本物だと気づいてからは一気にフォロワー数が伸びたから、やっぱり里保ちゃんの人気は本当にスゴいなと。
- 狙ってない感じが彼女の魅力でもありますね。対して、生田さんはSNS運用もかなり凝っていますよね? 具体的な戦略はありますか?
- 里保ちゃんみたいにやっても、私は無理だから、練りましたよ(笑)。
Instagramはまず、プロフィールの3行で自分をアピールしなきゃいけないんです。「誰なのか」、「何をしているのか」、「何が好きなのか」を、初見の人に一瞬で伝えないといけません。私は海外の方にもわかるように、英語で設定しています。 - 新規フォロワー獲得をかなり意識しているんですね。投稿する内容は、どうやって考えているんですか?
- 何か発信できるものはないかなと、世界中のハッシュタグから常に探しています。もともとのファンの方や、日本だけに発信するのではなく、英語や韓国語などを勉強して、それぞれのハッシュタグをつけていますね。やっぱり、海外のユーザーのほうが圧倒的に多いですし。
引きの全身写真より、顔のアップ! 投稿内容も入念に計算
- 私服投稿も、「#GUコーデ」など検索ボリュームが多いハッシュタグを狙っていますよね。
- 「アイドルに興味がない人に見つけてもらうにはどうしたらいいかな」と、ずっと考えています。
中国で話題のブランドをチェックして、開店前から並んで購入して投稿もしていますね。私自身も買いものやお出かけ情報が欲しいとき、インスタでハッシュタグ検索をよくするので「実際に、自分が情報を拾うときにどのワードで検索するか」も考えています。 - 生田さん、Instagramで一気に開花したように見えます。ここまで楽しんで戦略的に運用できるのは、なぜでしょうか。
- 無理に勉強しようという意識はないんです。もともと私自身、時事ネタとかトレンドを追うのが大好き。自然と入ってくる情報が多いので、投稿に落とし込んでいる感じですね。
- Instagramユーザーが何を求めているか、わかっていてスゴいです。
- 開設する前から、どんなアカウントが伸びるのか、ずっと調査してたんです。ノウハウを公開している方もたくさんいるので。一般の方でも、ニッチな分野でインフルエンサーになる方もいるし、「アイドルはファンの方が応援してくださって、本気で取り組んだら、けっこういけちゃうんじゃないかな?」と淡い期待を…。
- いろいろと研究しているんですね。他のアイドルのみなさんの発信から学んだことは?
- アイドル仲間には「どういう投稿がいいね数が多いの?」と、全部素直に聞いたんですよ。そうすると、みんな「引きの全身写真より顔アップのほうが、いいねが倍以上伸びることが多い」と言うんです。
- インスタグラマーっぽく作り込んだ写真が伸びる、というわけではないんですね。
- やっぱり、私たちはアイドルなので、複数投稿するときも1枚目では顔を売ったほうがいいんです。必ず1枚目は自分の顔がはっきりわかる写真にして、その他の情報は、2枚目以降にくわしく入れています。
新規ファンを取り込めるよう、「自己紹介」的な投稿を意識
- 実際に、Instagram経由で新しいファンが増えたという手応えはありますか? どうやって効果測定しているんでしょうか。
- 私はインスタの管理画面を見て、新規フォロワーの伸び率を毎日チェックしていますね。たとえば、ディズニーランド関連の投稿をすると、アイコンがディズニーキャラの方々から怒涛のいいねがつくんです。ディズニー系ハッシュタグ内で「人気の投稿」に入ることができれば、私を知らない方にも見ていただける機会が増えます。
- 超戦略的!
- ディズニーランドで遊ぶときって、みんな、「どこで、どのアングルで写真を撮るか」に悩んで、ハッシュタグ検索するんですよ。それで、可愛い写真の真似をするんです。だから、私もベタなスポットで撮影してアップします。
- 納得感があります。
- やっぱり、これまでハロプロやモーニング娘。を知らなかった方々にも興味を持ってもらいたいんですよね。なので、「自己紹介」的な投稿をすることを心がけています。昔からのファンの方は、みんな離れないでずっとついてきてくれる。だからそこは安心して、今は「最近知りました!」「YouTubeで気になって来ました!」など、新規ファンの方からのコメントの伸び率もかなり意識しています。
- 単純なフォロワー数だけでなく、ファン層を意識しているんですね。生田さんの投稿写真、どれも綺麗ですが、よく使うカメラアプリは?
- 今のアプリって、本当にどれもスゴいんです。前髪がちょっとペタっとしたときは、コピペして増やしちゃう。なんとでもなるんで(笑)。
- スゴい。もう、こっそり加工する時代でもないんですね。
- いちばん使うカメラアプリは「Makaron」で、フィルターは「Ulike」。中国のアプリ「FiuFiu」もめっちゃ盛れるので、おすすめです。
知識は出し惜しみせず、組織に還元していきたい
- 生田さんは調査して得たSNSの情報を、他のメンバーに共有しているのだとか。自分のためだけにとっておこう、という気持ちにはならないですか?
- 個人の損得を考えるより、知識はどんどんみんなでシェアしたほうがいいなと考えていますね。アイドル業界やハロプロ全体が盛り上がれば、結局相互でファンを増やせるので。Win-Winって感じですね。
- 相互送客まで考えているんですね。
- 他のアイドルとのツーショットをアップすると伸びるし、打算的ですけど、私もどんどんあやかろうと思ってます(笑)。ハロプロメンバーとの写真も、積極的に出していますね。何より「SNSが好き!」って言い続けると、今回みたいにインスタを語るお仕事もいただける。本当にうれしいです。
- 本日の取材、生田さんが楽しそうにお話してくれてこちらもありがたいです。本当に、トレンドキャッチやSNSが好きだからこそ、Instagramでも工夫して発信を継続できるんですね。
- 最近は投稿内容をニュースにしてもらう機会も増えたから、記者の方がすぐ記事を作れるような文言でポストしているんです。きっかけはなんでもいい。ちょっとでも露出が増えることで、私だけでなく、アイドルを知ってもらえるきっかけをどんどん作りたいんです。
- 昔とは違って、情報発信やマーケティングなど、アイドルにもさまざまな力が必要になりましたよね。これからのアイドルには、さらにどんなことが求められると思いますか。
- できる子はもうやっているけど、動画編集ですね。YouTubeは、あと10年は伸び続けると思うんです。見たいときに好きなものを再生できるし、忙しいときには倍速再生もできる。メディアとして、最強なんですよ。
私はYouTubeの個人アカウントはまだないので、今後インスタでも動画を使って発信していきたいですね。ストーリーズ機能はまだ工夫できていないので、まずはそこから。
インスタを始めて、後輩からたくさん話しかけられるように
- 加入して以来ずっと忙しく動いてきたかと思いますが、新型コロナウイルスの流行を受けての活動制限で、ある意味で空白期間ができました。どんなことをして過ごしていましたか?
- 「何もできないなりに頑張った」としか言えないですね。9期メンバーは来年で活動10周年なのに、何もできないことがすごく悔しいです。コンサートや出演予定のイベントも中止になってしまったし……。
- 「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2020」の中止、本当に残念でした。
- コンサートツアーも、レッスンからゲネプロまでやっていたのに、ファンのみなさまに届けられないのがつらくて。でも、誰のせいでもないし、しかたないことなので、そのぶんインプットやSNSでの発信に集中するようにしました。
- メンバー同士も会えない状況が続いていたと思います。どんなやりとりがありましたか?
- 15期(新メンバー)の岡村ほまれちゃんが誘ってくれて、『あつまれ どうぶつの森』で通信して遊びました。「後輩から誘ってくれる」っていうのが、うれしかったですね。怖がられてるわけではないと思うけど、やっぱり年齢がこれだけ離れていると、絶対に相手に気を遣わせちゃうので。
- 基本的に生田先輩は「誘われ待ち」なタイプですか?
- 私、全員平等に接したいタイプなので、これまで個別に後輩とLINEのやりとりをすることはなかったんです。ブログに掲載する写真を「これ載せてもいいかな?」って確認するくらいで。でも、インスタを始めてからは後輩からたくさん話しかけてもらえるようになりました。「生田さん、見ましたよ!」「可愛かったです!」って。
- Instagramは、広報・ファン向けの発信だけでなく、メンバー間のコミュニケーションツールにもなっているんですね。
- 後輩が、ブログで私の名前を出してくれることも増えましたね。うれしいし、もっと書いて!って気持ちになっちゃう(笑)。
ファンを不安にさせたくない。「卒業しません」宣言の意図
- このインタビューの前半で「最強に綺麗な状態で卒業したい」という発言がありましたが、実際はイベントなどで「卒業しません」と宣言していますよね。
- 私はもうすぐ加入して10年。ファンのみんなも、そろそろじゃないかって思ってる。だから、ちゃんと宣言していくことにしました。
私は福岡出身なので、コンサートツアーの福岡公演とかで卒業発表があるんじゃないかって、ファンも怖いしそわそわするじゃないですか? そんな心配はしないで、みなさんにコンサートを最初から最後まで純粋な気持ちで楽しんでほしいんです。 - ファンの方を安心させたい、という優しさが伝わってきました。
- いつでも「みんな」に対して話すようにしているけど、1人ひとりに私の気持ちが届けばいいなって思ってます。
- 「いつでも『みんな』に対して話す」。生田さんは、かなり意識されていますよね。
- 誰かを特別扱いするとかじゃなくて、みんなを大切にしたいんです。コンサートで客席を煽るときも「そこの人〜!」じゃなくて「そこらへんの人〜!」って言う(笑)。
- ファンの方に対して、全員平等に接したい気持ちが強いんですね。たしかに、生田さんのファンはみなさん団結力が強い印象があります。生田さん提唱のハッシュタグ「#えりぽんかわいい」をつけて、記事を拡散してくれますし。
- そうなんです。みなさん、いち早くシェアしてくれます。「生田ヲタはみんな友達」って感じみたいで。握手会でもブースの外から「元気〜!?」って、ファンの方々の明るいやりとりが聞こえてくるんです(笑)。うれしいですね。ゴルフのイベントをやったときも、たくさんの方が遊びに来てくださいました。
- さて、「卒業はまだしない」ということで。改めて、モーニング娘。’20のサブリーダーとしての意気込みは。
- 「日本代表」として、海外でも人気のアイドルになりたいです。今はまだ新型コロナウイルスの影響もあって難しいけれど、「Japan Expo」などの海外でのイベントやファッションショーに呼ばれるようなアイドルになりたいです。そのために、Instagramも歌もダンスも、メディアのお仕事も、さらに頑張ります。
- 生田衣梨奈(いくた・えりな)
- 1997年7月7日生まれ、福岡県出身。A型。2011年にハロー!プロジェクト「モーニング娘。」の9期メンバーのオーディションに合格し、デビュー。2014年から同グループのサブリーダーも務める。
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