やはり俺の書くラブコメはまちがっている。『俺ガイル』渡 航が語る、逆張りの創作術

累計発行部数1000万部を突破し、『このライトノベルがすごい!』(宝島社)では2014年より3年連続で作品部門1位を獲得。同賞で史上初となる殿堂入りを果たすなど、2010年代のラノベ界に燦然と輝く残念系青春ラブコメ『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』(以下、『俺ガイル』)。

青春とは嘘であり、悪である。

主人公は「ぼっち」を極めた高校2年生の比企谷八幡。空気を読まない雪ノ下雪乃、空気を読みすぎる由比ヶ浜結衣など、魅力的なキャラクターたちと繰り広げる青春ストーリーは、それでいてビターな味わいに満ちている。同調圧力、スクールカースト、息苦しい人間関係、間違い続ける主人公たち……。本作は学び舎のダークサイドを鮮明に描き出し、心に針を突き立てるかのような異色作と言える。

2019年11月に完結編となる第14巻を上梓し、今年7月にTVアニメ最終シーズンの放送を予定している現在。原作者である渡 航(わたり・わたる)に、改めて『俺ガイル』の誕生から完結までを振り返ってもらった。

撮影/小嶋淑子 取材・文/岡本大介
※注意※
本取材は、3月下旬に行いました。
インタビューでは、アニメで描かれたストーリーより先の展開にも言及しています。また、原作の結末について触れている部分もあります。

カッコ悪い芝居をカッコよく。声優・江口拓也の凄味

アニメ完結編となる『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。完』の放送が迫ってきましたね。
嬉しいです。じつは、個人的に第3期まではやらないかなと思っていたんですよ。
どうしてですか?
のっけから生々しい話ですみませんが、アニメのシリーズものって第1期の数字から6掛けで下がっていく印象があったんです。第1期から計算したとき、第3期までやるとなるとリクープライン(損益分岐点)に乗らないんじゃないかと(苦笑)。
シビアに計算していたんですね。エンタメ企業の社員としても働いている渡先生らしいです。
でも、ありがたいことに第3期までやってもらえることになったので、すごく気合が入りました。当時はまだ原作が完結していなかったので、完結編に相応しいものに仕上げないとなって。
アフレコもすでに始まっているそうですね。キャストさんも長い付き合いだけに、「終わってしまう」寂しさもあったのでは?
いえ、逆にみんな「さあ、終わらせるぞ!」と、いい意味で盛り上がっている気がします。役者陣のお芝居も第2期よりさらにスゴくなっていて、それが今回の大きな見どころになっていると思います。
原作の12〜14巻が描かれるだけに、ストーリーはかなりシリアスですよね。
とくに序盤で結衣ちゃん(CV:東山奈央)が大泣きするシーンなどは、こちらの心がえぐられるようで、ブースで聴いていても本当につらかったですね。雪乃(CV:早見沙織)は雪乃で「姉さん、わかってるから」みたいな、何気ないひと言がいちいちうまくて、スタッフ陣が思わず「うわぁ!」って一斉に鳥肌が立っていました。

江口(拓也)くんの比企谷八幡はまあ、いつも通りかな(笑)。
▲3期第4話より先行カット。プロムをめぐって母親と対立する雪ノ下雪乃(写真上)。そんな雪乃を助けようと動く八幡に対し、涙をこぼす由比ヶ浜結衣(同下)。
©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。完
江口さんのことは褒めないんですね。
江口くんを褒めるのはなんか恥ずかしいんですよ(笑)。でも大真面目に言うと、あれだけカッコ悪い芝居をカッコよくできる人はそういないんじゃないかと思っています。

基本的に八幡って「カッコいいセリフをカッコいい声で言われても困るよ」っていう謎のディレクションをしているんです(笑)。そんな中で江口くんのお芝居は、情けない雰囲気の中にも苦みばしった男っぽさが出ていて、そこがとてもいいなと思っています。
八幡に関しては、第2期になってから芝居の雰囲気が変わったように思います。
そうですね。第2期を始めるにあたって、ここから先はストーリーがどんどんと重くなっていくので、コメディ寄りのお芝居を続けているとのちのち苦しくなるだろうと。それで意図的にリアル寄りに転換したんです。
それは渡さんの提案ですか?
江口くん、及川(啓)監督の3人で、ですね。最初に声のテストをしたときに話し合いまして。おふたりとも同じように感じていたので、すんなり決まりました。
過去2シーズンとも、アニメーションとしてのクオリティが非常に高い作品ですから、ファンの期待も大きいと思います。
僕も楽しみにしてます。本当に素晴らしいアニメと芝居ですから。

モノローグやセリフに頼ればもっと簡単でラクなのに、そこに逃げないで、ちょっとした間や表情、仕草、手先の細かい動きなどに仮託している。だから意味のないカットはひとつもないんですよね。ぜひ一瞬たりとも目を離さずに観てほしいと思います。
▲3期第1話より先行カット。シリアスなシーンが多い最終シーズンにあわせて、2期以降は八幡の声も一新している。
©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。完

就職活動の保険から、まさかのライトノベル作家に

ここからは原作のお話をうかがいます。渡先生は2009年に時代劇モノの『あやかしがたり』でデビューされていて、『俺ガイル』は2作目。ラブコメを書こうと思ったのはなぜですか?
『あやかしがたり』が死ぬほど売れなかったからです(笑)。

もっと多くの人に読んでもらえるジャンルを探したところ、当時の世間では学園青春モノが大流行していたので。じゃあ僕も書こうかと、かなり安易な発想でした。
それまでにラブコメ的な物語を書いた経験は?
ありません。なんなら「ラブコメだけは絶対に書きたくない」と思っていたくらい(笑)。

ラブコメ作品そのものには馴染みはあったんですけど、どうやればいいかまったく想像できないですし、読者へのサービスシーンやお約束展開とかに対して、「なんでそんなことが起きるんだ?」って考え込んでしまって、手が止まるというか。だから「書きたくない」というよりは「僕には書けない」っていう感じでした。
それでも挑戦しようと。
もしも僕が学園ラブコメを書いたら、それは自然と王道に対するカウンター的な作品になるんじゃないかと思ったんです。

僕はもともとずっと逆張りをしてきた人間で、最初に『あやかしがたり』を書いたのも、「ライトノベルに時代劇はないだろう」と思ったから。実際は、売れづらいからみんな書かなかっただけだったんですけど(苦笑)。
個人的な趣味嗜好よりも、マーケットを分析して戦略を立てるタイプなんですね。
それでいえば、そもそもライトノベル作家としてデビューしたことさえ、「ラノベなら下積みなしでイケるんじゃね?」っていう発想ですからね。
えっ、そうなんですか?
僕が作家になろうと思ったのは大学4年生のころなんですけど、当時は無職を回避するための保険のつもりだったんです。
就職できなかったら作家になろうと?
子どものころは「将来は小説家になりたいな」と漠然と思っていましたけど、現実になれるとは思っていなくて。

だから、大学時代はマンガの編集がやりたくて就職活動をしていたんです。当時受けることができたおよそこの世すべての出版社は受けたと思うんですけど、うまくいかず、なんの結果も出ないまま大学4年の夏休みを迎えてしまって。
夏前に就職先が決まるケースが多いですからね。
仲間うちで決まっていないのは僕くらいだったので、これはヤバいと思ってたんです。じゃあ作家になろうかと思い立ったとき、いきなり純文学の賞を狙うのは難しいけど、ラノベの賞ならイケるんじゃないかと(笑)。
それまで同人などで活動されていたんですか?
いえ、物語を書いたのはそのときが初めてでした。

ただ、昔から文章を書くことで苦労した覚えはなかったので、書けるだろうと(笑)。それで夏休みを使って書いたのが『あやかしがたり』なんです。
生まれて初めて書いた小説が「小学館ライトノベル大賞」で「ガガガ大賞」を受賞するとは、スゴいですね。書き上げた当時はどんな心境でしたか?
「すげえ! 俺、小説書いちゃったよ!」って(笑)。とにかく達成感が大きすぎて、賞を取れるとか作家になれるかは忘れていたような気がします。
渡さんは結果的に兼業作家になるわけですが、「ガガガ大賞」も受賞したわけですし、専業でやっていくという選択肢もあったのでは?
受賞した時点ですでに今の会社の内定が決まっていたんです。会社に事情を話したら「作家もやっていいよ」って言われたので、そのまま10年間勤めています。
兼業はかなり大変ではないですか?
僕が働いている会社はエンターテイメント系の企業なので、会社員としての仕事と作家としての仕事がけっこうシームレスなところがあって、僕としてはほとんどストレスがないんです。

それに作家は浮き沈みの激しい世界ですから、専業として一生やっていけるとも思っていませんでしたし。

八幡という男は、自然にベタ展開を避けて動く

結果的に『俺ガイル』は大人気を博しました。「王道へのカウンター」という言葉通り、異色の学園ラブコメです。
この手のラブコメ作品って、大前提として「主人公とヒロインがほれたはれたする」のが基本ですよね。でも、『俺ガイル』は簡単にそこへ持っていくことはしたくなかったのと、なるべくベタな展開というかわかりやすい綺麗に収まるシーンづくりにはならないようにと意識はしていました。

ただ、なんだかんだで八幡って、自然とそうはならない方向に自分で動いていくんですよ。最終的にラブコメ展開になっちゃうのは仕方ないかなと思っていたら、まったくそうはならなくて。

八幡という男はなんでここまで懐疑的なのか、と不思議に思いながら書いていました(笑)。
学園モノは卒業までを描くケースが多い中、高校2年生の1年間を描くという設定も絶妙だと思います。
高校2年生の1年間がいちばん感受性豊かに描けるし、キレイに終われるだろうと思ったんです。

高校1年生だとまだ人間関係を構築している最中なので、キャラクターをさほど掘り下げられないですし、逆に高校3年生になると受験や進路を意識してしまいますから。
本編は全14巻で完結しましたが、ここまで続くとは想定されていましたか?
いえ、最初に考えていた構想は1巻だけです。続けたいという気持ちがあっても売れなかったらおしまいなのが現実ですから。

結果的にここまで長く続けることができたので、書きながらどんどんと膨らんでいきましたけど、結末だけは当時から決めていたもので、そこは変わっていませんね。
▲2期第13話より。奉仕部の3人で葛西臨海水族園を訪れたワンシーン。
©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。続

八幡は過去の分身。『俺ガイル』キャラクターの誕生秘話

続いては登場キャラクターについてお聞かせください。最初に生まれたキャラクターは?
最初に生まれたのは八幡と雪乃のふたりです。結衣は、ストーリーを展開させるにあたってできたキャラクターでした。

キャラクターそれぞれにモデルになる人物はいないんですけど、八幡だけは自身に重なる部分もあり、ある意味では分身ですね。単純に分身というわけではなく、あくまで自分の一側面、過去の自分が考えていたことの一端です。なので、彼は自分の分身であり、弟であり、子どもでもある。そんな距離感です。
八幡は「ぼっち」を極めていますが、渡先生もそういうタイプだったんですか?
さすがに八幡ほどではないんですけど、学生時代はひとりで過ごすことも多かったですし、抱いていた感情に似たところはありました。

実際、高校時代の友人で、今でも連絡を取り合っている人間はたったひとりしかいませんから(笑)。
雪乃はメインヒロインですが、八幡とは違った意味で「ぼっち」を極めていますよね。
主人公とヒロインが似た属性を持っているようにしたいと思っていました。

八幡はコミュ力のなさや周囲の無理解、また周囲への無理解ゆえに「ぼっち」の道へ進んだ人ですが、雪乃は優秀すぎるがゆえに排斥されて「孤高」になった人で、結果は同じでもその過程と根本が違います。

それに、このふたりは決して仲が悪いわけではないんですが、仲のよさそうな雰囲気は一切生まれない。そんな絶妙な距離感も心地いいなと。
結末は最初から決めていたということですが、それは「八幡と雪乃が結ばれる」ことを決めていたということですか?
結ばれるという言葉の定義にもよりますが、少なくとも、なにがしかの感情で強い関係性を築く、という点だけは最初の時点で決めていて、ぼんやりとした結末は見据えていました。

ただ、どういった経緯でそこに着地するのかはまったく考えてなくて、結果的に14巻をかけてそこにたどり着いたという感じでした。
▲2期第11話より。マラソン大会後、保健室で頬を赤らめる八幡と雪乃。出会った当初と比べ、大きく関係性が変化している様子がよくわかる。©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。続
ちなみに、雪乃のような女性は個人的にタイプですか?
いや、実際にいたら絶対にムカつきますね(笑)。でも、親目線で見ると、こんな娘でも可愛いと思えるんですね。
親目線なんですね。
これは全キャラクターに対してですけど、いつも親目線になっちゃいます。

それに面倒くさい女の子ほど気に掛けるというのはありますよね。かといって好意につながるかどうかはその人次第ですが、八幡にはその面倒くささがよかったんでしょう。

「なんでこんな面倒なことに付き合わにゃいかんのだろう」と思いつつも、だからといって放っておくと死んでしまいそうで、それが八幡の庇護欲をそそったんじゃないかなと思います。
結衣は雪乃の対抗ヒロインとして、八幡をめぐる三角関係の一角を担うキャラクターです。
結衣は八幡と雪乃に続いて3番目に生まれました。

世の中を見たとき、クラス内カーストの頂点にいたことがある人はかなり限られますけど、周辺にいる5人のうちのひとりだった人はそれなりにいる。そういう意味では読者目線にいちばん近いですし、僕にとっても理解しやすいキャラクターなんです。
クラスの女王(三浦優美子)の取り巻き的なポジションから出発して、メインヒロインのライバルになっていくパターンは、ヒロイン像として珍しいと思いました。
そうかもしれませんね。結衣は書いていくうちに自然と大人になっていったキャラクターです。僕自身も彼女の成長には驚きました。
▲2期第13話より。葛西臨海水族園でのデートの後、結衣は「最後の相談はあたしたちのことだよ」と3人の関係についてある決意をする。
©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。続
本編ではそこまで細かく描いていませんが、おそらく作中のキャラで結衣がいちばん悩んだはずだし、傷ついてきたんだろうと思います。
原作後半、インタールード(幕間)などにある描写では、結衣の葛藤や成長がはっきりと描かれていますね。
そうですね。きっとそこに至る前にも、本当にいろいろなことを考えたんだろうなと。そもそも八幡と雪乃に関わるというのはそういうことなんですけど、その苦悩をヒシヒシと感じる子です。
原作での登場は7.5巻と遅いですが、作中では3人目のメインヒロインとして描かれます。
登場こそ遅かったんですけど、じつはキャラクター自体はかなり早くにできていたんですよ。もともとは2巻くらいで登場させようと思っていました。

というのも、八幡、雪乃、結衣という三角関係ができてしまうと、ストーリーがどんどんと狭く重くシリアスになっていくのがわかりきっていたので。「八幡は結局どちらを選ぶの?」っていうモチベーションだけで読むのもキツいなと、三角関係を引っ掻き回すトリックスター的な第三勢力がいたほうが楽しいだろうと思いました。
▲3期第3話より先行カット。先輩と後輩の間柄ながら、八幡と対等な関係で会話ができるいろは。
©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。完
いろはは後輩ながらも、恋愛に関してはいちばん計算高いですよね。
小悪魔というか、表向きはシンプルに性格が悪いクソ女なんですが(笑)、でもそれが最高にいいなって思います。

じつは個人的に書いていていちばん楽しいのが彼女なんですよ。クソ女なところはもちろん、女の子っぽいところも、ふとした瞬間に本音が漏れるところも楽しいんです。

おかしな言い方ですが、いろはは、まったくリアルではないけどリアリティを感じるんですよね。
八幡が本音で話せる、貴重なポジションに収まりましたね。
八幡という男は、セリフの裏を読みすぎるあまり、つい曲解して受け止めてしまうんですよね。

じゃあそもそもセリフに裏のある子が相手だとどうなるのかなと試してみたら、結果的に対等に話せる子として定着しました。

それに、雪乃や結衣とはまったく違う角度から攻めるいろはが登場したことで、八幡自身の気持ちも浮き彫りになったとも思います。
平塚先生は数少ない大人キャラクターです。
僕もそうなんですけど、八幡の言動を見ていると「いや八幡、それは違うよ」って思うことが多々あると思うんです。

それは僕や読者さんがすでに大人になっているからなんですけど、平塚先生はそういう気持ちを代弁してくれる役割として存在しているような気がします。セリフを書いていても照れを感じずストレートに言葉にできるんですよ。
逆に、八幡のセリフはどこかに照れを感じるんですか?
八幡の場合はどうしても自分と重ねてしまうところがあるので、「さすがにこれは青臭いな」とか、「こんなカッコ悪いこと、あるいはカッコつけたこと女の子に言えないだろ」といった少年らしい自意識が働いて、どこかで躊躇してしまうことがあるんです。

でも、平塚先生は「大人」で「先生」というフィルターがあるぶん、正論を言って当然だから書いちゃえと、抵抗を感じないで済むんです。
平塚先生は八幡に対して冗談なのか本気なのかわからない好意的なアプローチを仕掛けるじゃないですか。そういう意味ではヒロインのひとりでもあったのかなと思うんですが、実際の可能性としては、ワンチャンあったんですか?
あったと思います。なんなら、ほかのどのヒロインよりもワンチャンあったかもしれませんね(笑)。
▲2期第8話より。「今だよ、比企谷。…今なんだ」と八幡の背中を押す平塚先生。記憶に残る名シーンだ。©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。続

『俺ガイル』のいちばん人気はヒロインではなく八幡

作中では体育祭や文化祭など多くの学校行事が描かれていますが、ストーリーはイベントありきで考えているんですか?
そうですね。最初は違ったんですが、途中からイベント主体のやり方に切り替えました。

高校生活で体験しそうなイベントをすべて書き出して、それぞれに起こりそうな問題を考えるようにしたら、かなり執筆ペースが上がりましたね。

高校2年生の時期って、何をやっても揉めるに決まっていますから、どんなイベントでも書けるだろうと。なので、入れもの自体は何でもよくて、揉めるに至る感情や心理、関係性を考えていくようになりました。
「このイベントでは○○をメインに描こう」といった、掘り下げるテーマやキャラクターはどのように決めていますか?
ひとつのイベントを書いている途中で、たまたま筆がすべって次に掘り下げるべきテーマやキャラクターが決まることが多いです。

たとえば生徒会選挙のエピソードなどは、その前の修学旅行を書いている途中ですでに考え始めていましたね。修学旅行がちょっと嫌な雰囲気で終わるので、次のイベントでは関係性を回復させなきゃいけないんですけど、普通のイベントではどうも無理くさくて(笑)。

これは一度はっきりと決別して対立する何かが必要になって、それで生徒会選挙を思い付いたんです。いざ書いてみたら余計にこじれていたので、こいつらほんと面倒くさいなとつくづく思いましたが。
▲2期第3話より。生徒会選挙にまつわるいろはからの相談。これを機に、八幡と雪乃の溝はいっそう深まっていく。©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。続
ご自身がいちばん手応えを感じたイベントなどはありますか?
読者からの反響という意味では文化祭です。あそこから「八幡カッコいい!」っていう声が一気に大きくなったんです。じつは『俺ガイル』って八幡がいちばん人気なんですよ。ヒロインよりも人気があるので僕も驚いています。
ヨゴレ役を厭わないヒールさが魅力的ですよね。
存在としてはまるで『ジョーカー』ですよね(笑)。
そして原作を締めくくる最後のイベントが「プロム」です。これはイギリスや北米の学生イベントで、日本ではあまり馴染みがないですよね。
彼らが3年生だったら卒業式で終わらせるだけでよかったんですが、まだ2年生なので、自分たちが深く関わるイベントをということでプロムにしました。じつは僕もどんなイベントかはほとんど知りませんでしたね(笑)。
▲3期第2話より先行カット。いろはから提案されたプロムの開催。奉仕部の3人は彼女を手伝うことにするが…。©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。完

『俺ガイル』は僕のライフワークにしたい

『俺ガイル』はラブコメを軸としつつも、学校や社会に存在する人間関係の暗く汚い側面も描いていて、とてもリアルですよね。もともと人々のリアルな内面をテーマに盛り込もうと考えていたんですか?
最初はまったく考えていませんでした。ただ、高校生たちのリアルな学園生活を描くには僕はもう年齢が離れすぎているので、そこに何枚かフィルターを挟み込んでいるうちに、自然とそういうテーマが浮かび上がってきたんだと思います。

高校時代もなんとなくは感じていたことなんですけど、それが何かは当時の僕にはわからなくて。でも、会社員として働き始めると、「あれ? この感じって高校時代と同じじゃない?」って気付くんですよ。クラスの中にもじつはドロドロな政治力学や同調圧力のようなものが存在していたんだと。
会社員として働いている渡先生ならではの着眼点ですね。たしかに本作は社会人にも響くテーマと内容で、とくにストーリーが進むにつれ「お仕事モノ」的な要素も増えていった印象です。
そこは完全に会社員モードの僕が出すぎちゃいましたね。本命を通すために「捨て企画」を用意するなど、だんだんと高校生離れしていって(笑)。
もうプロの仕事に近いですよね。
そこはちょっと反省してます(笑)。でもまあ、たとえば灘とか開成みたいな、超エリート高校ならコレよりスゴいことをやっていると思います。起業している高校生だっているくらいですから、そういうこともあるっていうことで(笑)。
また、『俺ガイル』は高校生らしい直接的なセリフによる会話が少ない点も大きな特徴だと思います。
たぶん純粋にセリフだけを追って読んだところで、さっぱり会話の意図がつかめないと思います。

でも誰かと揉めたとき、お互いの胸ぐらをつかみながら「なんだコラ!?」ってなるのはフィクションの世界だけですよね。

まあ僕の性格上の問題かもしれないんですが、「だってリアルじゃそうだもん」って思っちゃうんですよ(笑)。どんなときも空気を察して生きてきた生粋のジャパニーズですからね。
▲2期第8話より。雪乃と結衣を前に、「本物がほしい」と涙を浮かべながら語る八幡。大きな一歩を踏み出した名シーン。©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。続
たしかに、現実はそれとなく不快感を示すくらいが精一杯ですね。
そうそう、「う〜ん、それはちょっと、どうですかね〜?」みたいな感じですよね(笑)。

そういうときの実際の反応って、セリフの文言以上に、トーンや表情、仕草で感情を表現しているはずなんです。コミュニケーションのおよそ7割は非言語といわれていますが、その部分を小説に落とし込んで、言葉では完結しない言葉を探していくのが『俺ガイル』なんです。

第1巻の時点ではコメディ要素が強かったので意識していなかったんですけど、第2巻の後半で人間ドラマが動き出したときにそう思って、徐々にテイストが変化していったと思います。
ラブコメ、仕事、コミュニケーションと、結果的にいろいろな側面を持った作品になりました。それらを通じて「ぼっち」だった八幡も大きく成長しましたね。
そこはまったくの誤算でしたが(笑)。やはり葉山(隼人)の存在が大きかったと思います。八幡は最初こそ「ふ〜ん、キミはスゴイね、ハハ」くらいのリアクションで、理解できない、理解する必要がないというスタンスだったのが、だんだんと彼の生き方やあり方も肯定できるようになっていくんですね。
▲3期第2話および第3話より先行カット。葉山隼人(写真上)や戸塚彩加(写真中)といったクラスメイトたち、また妹の小町(写真下)など、八幡のまわりにいるキャラクターたちも魅力的。
©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。完
ただ、終わってみれば『俺ガイル』って、八幡が「カッコいいとはどういうことだろう?」を探す物語だったのかなという気もしています。

それまでの斜に構えたカッコよさではなくて、自分の中にある本当の気持ちや、なりたい存在、目指すべき姿は何だろうと正面から向き合って、最後にはちゃんと一歩を踏み出せた。それは本当によかったですね。
14巻をもってひとまず本編は完結しましたが、これから先の八幡たちを描きたい気持ちもありますか?
ありますね。3年生に進級した彼らの物語も描いてみたいなとは思っているんですが、どういう形で発表するかはまだわかりません。
たとえば10年後の彼らはどうなっているか、イメージはあるんですか?
はっきりとではないですけど、「なんとなくこうなっているかな」っていう絵はあります。
ズバリ八幡と雪乃は10年後も付き合っていますか?
どうでしょう? そもそも最後のエピソードが本当に恋愛的な帰結だったのかどうかも明言はしていませんから。
この先の彼らの物語も読んでみたいです。
僕も社会人になった八幡を書いてみたいし、なんならライフワークにしたいくらいなんですよ。新人編とか昇進編とか、漫画『課長 島耕作』シリーズのように「社長 比企谷八幡」まで頑張ってみたいですね(笑)。
渡 航(わたり・わたる)
1987年1月24日生まれ。千葉県出身。A型。大学在学中に書き上げた『あやかしがたり』が第3回小学館ライトノベル大賞ガガガ文庫部門でガガガ大賞を獲得。2009年に同作でライトノベル作家としてデビューを果たす。2011年から『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』を発表し、2019年11月に本編14巻で完結。そのほかの作品に『ガーリッシュ ナンバー』(KADOKAWA)、『GETUP! GETLIVE!』(文藝春秋)などがある。また、『クオリディア・コード』ではさがら総と橘公司と作家ユニット・Speakeasyを組んで活動するなど、多岐にわたって活躍中。

作品情報

TVアニメ『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。完』
TBS系にて7月より放送予定
Twitter(@anime_oregairu)
https://twitter.com/anime_oregairu
公式サイト
https://www.tbs.co.jp/anime/oregairu/

©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。完

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2020年6月12日(金)12:00〜6月18日(木)12:00
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  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
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