ウーバーイーツ日本上陸から3年――成長の陰にあった、想定以上の「生みの苦しみ」

レストランの本格的な食事が、30分以内で手元に届くサービスとして大きなブームになっているフードデリバリー代行サービス「Uber Eats(ウーバーイーツ)」。2016年9月に日本に上陸し、3年で登録レストラン数が約100倍に拡大するなど順調な成長を見せている。

一方で、一部の利用者の「商品がぐちゃぐちゃで食べられない」「受取拒否した商品が自宅付近に捨てられていた」などのSNSへの書き込みも存在し、これらをネタ元にしたネットニュースも散見される。

ポジティブな成長曲線と、小さくはないネガティブな反応。2018年6月にウーバーイーツの日本における責任者に就任した武藤友木子氏は、こうした現状をどのようにとらえているのだろうか?

撮影/西田周平 取材・文/阿部裕華

まだまだ若いサービス。引き続き改善していく

ウーバーイーツが日本に上陸して、約3年半が経ちました。率直に、現状の手ごたえはいかがでしょうか?
ウーバーイーツならではの「場所にとらわれない食事」「新しい働き方」の双方で、社会に大きな影響を与えられたと思っています。

2016年9月に日本でサービスを開始したとき、登録されているレストラン数は150店舗、エリアは東京の一部のみでした。3年後の2019年9月には、登録レストラン数が1万4,000店舗と約100倍に。エリアも東京・名古屋・大阪・福岡・神戸などの10都市以上をカバーしています。
3年で100倍はスゴい…!
レストランの数が増えているため、お客さまの数も順調に増え続けています。

アクティブに事業を行うウーバーイーツの配達パートナーは2019年7月の時点で1万5,000人になりました。勤務時間や場所が自由な働き方を提案し続けた結果が、数字にも現れてきたと感じています。
3年でこれほどまでに拡大しているのは素晴らしいと思うのですが、消費者からのクレームや配達員からの不満が出てくることも増えたのではないでしょうか?
そうですね、まだ若いサービスですので、引き続き改善していくべきことはあると思います。ウーバーイーツは「食」「働き方」のリーディングプレーヤーです。だからこそ、積極的に新しいアクションを提案して、課題を改善していく必要があると考えています。

そのため、お客さま、配達パートナー、レストランパートナーのみなさんから上がってくる、ありとあらゆるフィードバックは常に確認し、社内で共有しているんです。
批判も、成長へのカギになると。
はい。いただいたご意見に応じて、必要なアクションを随時取っています。
▲Googleトレンドで「ウーバーイーツ」を検索した際の関連キーワード(過去12ヶ月間の注目キーワード。1月28日測定)。「危ない」が上位に入っている。

クレーム数は、競合と比べても多くはない

ネットでは「配達が遅い」や「配達員のマナーが悪い」「家の前に食事がポイ捨てされていた」などネガティブな反応も散見されます。こういった批判は予想されていましたか?
想定以上ではあったかもしれません。正直、生みの苦しみは感じています

ただ、ユーザーからのクレーム数は、競合のフードデリバリーサービスと比べても決して多くはないんです。
そうなんですか?
はい。また、グローバルで比較すると、サービスに高いクオリティを求める方が、日本には多い。そういった他国との“意識の差”もあるかと思います。ただそれは、お客さまだけでなく、我々、さらにはレストランや配達パートナーなどサービスを提供する側も同じなんです。
と、いうと?
他国では、オーダーがきてもレストランが受けない、配達中にお客さまがキャンセルする、配達パートナーが問題を起こす、といったケースもあります。ですが、日本はそういった事例が極めて少ないんです。

配達パートナーの問題行動の少なさ、配達完了率の高さなど、グローバルの指標を見るとすべてTOP3に入るほど。この数字は、他人への要求が高い代わりに、自身の持つ意識も高い国民性の表れだと思っています。
そうなんですね。ネガティブな話題を見かけることもありますが、世界的に高水準のサービスを提供できている、と。
新しいことに取り組んでいるため、ネガティブな反応が出てくることも時にあるかと思います。私たちは、それをしっかり受け入れた上でより良いサービスを提供するべく前に進んでいこうと思っています。
ウーバーイーツといえば、個人事業主という雇用形態が話題です。会社員ではないため出社の義務などがない反面、配達員からは「労災保険が適用されない」という待遇面の不満の声も上がっています。どのような対応を行っているのでしょう?
2019年の10月に「配達パートナー向けサポートプログラム」という傷害補償制度をローンチしました。この制度を作るために、じつは年単位の時間を費やしているんです。
なぜ、そこまで時間がかかってしまったのでしょうか?
一般的な補償制度は、働く時間や場所が固定されているという前提で提供されています。これに対し、ウーバーイーツの場合、いつどこで働くのか配達パートナーがご自身の状況に応じて決定するため、わからない。こうした完全にフレキシブルな新しい働き方に対応できる補償制度をつくるのは、とても時間がかかるものでした。

新しいことにチャレンジしていく中で、今後も課題は発生することもあると思います。ウーバーの企業行動規範のひとつである「正しいことをする(Do the right thing.)」を信じて、進んでいきます。

配達員が働く理由:海外は“本業”、日本は“副業”

国民性のお話がありましたが、海外のほうがフレキシブルな働き方への取り組みが進んでいる印象があります。働き方の面で、海外とのギャップを感じることはありましたか?
まず、配達パートナーとして働く理由が海外と日本ではまったく違います。

海外は失業率が高いことから、生活のために配達パートナーの仕事をする人が一定数いらっしゃる。それに対し、日本は副業的な形で配達パートナーの仕事を選ぶ人が大部分を占めています。
副業的な形というのは?
学生や社会人、ほかにもフリーランスや芸人さんなど、本業は別にある方たちが空き時間に配達員の仕事をされています。お金は稼ぎたいけど、ほかにやることがあって、そのため、決められたシフトで働くのは難しい。そんな方たちがほとんどです。
そうだったんですね。みなさん、フレキシブルな働き方を活用されている。
「働きたい時間に働きたい場所で働く」を提供したことで、お子さんのいる女性にとっても働きやすい環境をつくることができました。

育休明けのお母さんも、子どもを幼稚園や保育園に預けている限られた時間に働けます。会社員やフリーランスだと子どもが熱を出したときに休みづらいですが、配達パートナーなら気にせず休むことができます。

休職して家に引きこもっていた方が、配達パートナーの仕事を始めて社会復帰された事例もあります。気分のよいときだけ配達員の仕事をしているうちに、いろんな方と接点が生まれて、コミュニケーションが取れるようになったと話してくださいました。新しい働き方をつくることができてよかったと感じましたね。
配達員の仕事は通勤する必要もなく、社会復帰の足がかりとしては、ちょうどいいのかもしれませんね。
そうなんです。これも日本ならではですが、車で配達するのに営業登録が必要なので、基本的には自転車やバイクでの配達がほとんど。渋滞に巻き込まれるストレスもないため、働きやすいのではないでしょうか。
▲武藤氏は、自転車での勤務形態は、狭い小路が多い日本の特徴にもフィットしていると話す。
「自由な働き方」について、現場の反応はいかがでしょう?
配達パートナーの90%以上が、フレキシブルな働き方をポジティブにとらえています。私どもが実施している配達パートナーへのアンケート調査でも「配達パートナーの仕事をクールだと感じる」と回答した人が70%もいました。

配達の仕事のイメージも少し変えることができたと感じています。
▲配達用のバッグは使用が推奨されているが、服装は自由。

配達員1人ひとりのネガティブな声も、ちゃんと聞く

配達員のアンケートは、どのように実施しているのでしょうか?
定期的に、配達パートナー全員にアンケートをお配りして、ネガティブな声も含めてお伺いしています。
アンケート以外に、配達員の方の声を聞く機会もありますか?
サポートセンターがエリアごとにあるので、何かあれば直接ご相談いただくことが可能です。また、四半期に一度程度、直接声を聞かせていただくコミュニティイベントを設けています。
約1万5,000人以上の配達員がいらっしゃるということですが、配達員であれば誰でも参加可能なイベントなのでしょうか?
配達パートナーのみなさんにメールでご案内をお送りして、応募があった方から抽選で参加できる形を取っています。配達パートナーの方であれば、どなたでもご応募いただけます。
不満を持っている方だと、わざわざ応募してイベントに参加しなさそうですが…。
それが、そんなこともないんです。ハッピーな話ばかりではなく、「アプリのバグが多いからなんとかしてよ」「サポートの対応が微妙だった」など、マイナス面のフィードバックも受けますよ。そこから改善案を考えていくことも多いです。
意外とみなさん、直接言われるんですね。
抽選なので、必ずしも100%の声をお聞きすることはできませんが、イベントを開催することで、少なからずUberに直接ご意見をおっしゃっていただく機会をつくれているのではないかと考えています。
ただ、中にはSNSに不満を投稿してしまう方もいるかと。個人事業主という契約形態だと、会社への帰属意識が低くなる傾向もあると思うのですが、意識づけなどはされているのでしょうか?
イベントもひとつですが、「ウーバーイーツのコミュニティに属している」意識を持ってもらう機会をつくっています。自由を楽しむためには、コミュニティに属する人たちがお互いにリスペクトを持たなければならないと私たちも思っているので。

たとえば、ウーバーイーツに関わるすべての人へ快適な体験を促すために、配達やお客さま対応時のルールやマナーを定めた「コミュニティガイドライン」を設定しています。本ガイドラインは、配達パートナーだけでなく、お客さまやレストランパートナーにも守っていただくお願いをしているものです。

ほかにも、ユーザー評価が高い配達員の方にはトロフィーマークが表示されるのですが、ゴールドパートナープログラムというもので、彼らにはウーバーイーツ登録レストランで割引を得られるなど特典があります。
よい評価をもらうことで、得をする仕組みを設けているんですね。
そういった仕組みを設けることで、健全なマーケットプレイスづくりに貢献できているかなと考えています。

台風の日などは、サービス自体をストップすることも

あくまで個人事業主としての自由は担保しつつ、サポートを行う形ですね。
交通面に関しての意識改革にも、かなり力を入れています。じつは警察の方々と協力して「交通安全対策レクチャー」の実施もしているんです。私たちが配達パートナーに送っているメールマガジンにも、警察からいただいた自転車やバイクの運転に関するコンテンツを入れています。
たしかに交通マナーは、命にも関わってきますよね。
おっしゃる通りです。そのため、自転車の走行スピードが早すぎる場合は、配達パートナーのスマートフォンにアラートを出す機能を備えています。また配達ルート、配達完了までの時間など、さまざまな指標でモニタリングしているので、何か異常があればメールで通知します。

ユーザーの方から悪い評価が積み重なっている、事件性が高いなどの場合は、改善していただけるようにご連絡を行っています。さらに、長時間働きすぎると運転事故の危険性が高まるので、連続して働いている場合は、強制的にリクエストを受け付けない機能も導入しています。
そんな機能があったとは! とはいえ、土砂降りのときでもウーバーイーツの配達員の方を見かけるときもあって…大丈夫なのかなと心配になります。
土砂降りの中で仕事をしてほしいとは、私たちも思っていません。実際、雨の日はみなさん外に出たくないので、オーダーは増えるんです。その一方で、配達パートナーの数は激減します。ですが、私たちとしては「働いてほしい」とは言いません。

むしろ、台風の日などはウーバーイーツのサービスをストップしています。
台風の日ほど需要は高まりそうですが…。
それでも、ウーバーイーツにとって配達パートナーのみなさんは、サービスの核をなす重要な存在です。彼らが安全に働ける環境ではない限り、サービスを提供すべきではないと考えています。配達パートナーのみなさんが安心安全に働けるように、全力でサポートしています。

「夕食は女性がつくる」意識を取っ払いたい

配達員だけでなく、ユーザーからもフィードバックを吸い上げているということですが、どういった声が多いのでしょうか?
「助かった」の声がいちばん多いですね。
「助かった」ですか?
日本はミシュランの数も世界1位を誇っているほど、食を楽しむ文化が強い国です。ただ同時に、買いものの手間や献立を考えることにストレスを感じる数字もかなり高いんですよ。
たしかに…食事をつくるのが面倒に感じること、あります。
とくに、日本は「夕食は女性がつくるもの」という考えが、いまだに根強くあります。金銭的な話ではなく、夕食をオーダーしたもので済ませることに気が引けてしまう人が多い。日本のウーバーイーツにとって、若干壁になっている部分でもあります。
女性が家事をしなければならないという意識を取り除くのは、難しい気もします。文化的な壁を超えるために、何か施策などは考えているのでしょうか?
純粋に「食を楽しむこと」への啓蒙活動は、積極的に取り組んでいきます。料理をつくることへの煩わしさが、本来の「食を楽しむ」文化を邪魔している面もあるかもしれません。でもウーバーイーツなら、煩わしさを取っ払って「食べることの楽しさ」を感じられる仕組みを提供できるはず。

実際、子育て中のお客さまから「子育てでバタバタしている中、家でレストランの食事を楽しめた」というフィードバックをいただいています。そんな方たちをたくさん増やしていきたいですね。
▲日本での人気商品第1位は、3年連続でハンバーガー。近年ではタピオカ、韓国料理、麻辣湯(マーラータン)なども人気だという。

毎年30%のレストランが廃業。この流れを食い止める

ユーザーの声を吸い上げて、サービスに反映させていくこともあるのでしょうか?
2019年6月に開始した「ピックアップ(持ち帰りサービス)」は、まさにお客さまのニーズに合わせたサービスです。「会社帰りに電車の中で注文して、ピックアップしたい」という声から、システムを導入しました。

さらに、同年8月にはローソンともサービスの実証実験を開始しています。
コンビニでどのようにウーバーイーツを使うんですか?
お弁当やおにぎり、デザートなどのコンビニで販売されている食料品の配達に加えて、日本で初めて、トイレットペーパーやティッシュペーパーなど日用品の配達も始めました。
それはかなり便利…!
ローソンの利用はかなり評判が高いです!

また、お客さまのニーズだけでなく、レストランなどのお店側のニーズにも応えていきたいと思っています。
レストランにはどんなニーズがあるのでしょうか?
日本には、レストランが約60万店舗あります。しかし、そのうちの約30%が毎年廃業しているといわれています。レストラン経営は、賃料や人件費などの固定費が高い一方、席数が限られているので、売上が大きく伸びない。満席でも利益を生みづらい状況があります。
消費税が10%に引き上がった影響はありますか?
やはり外食マーケットは伸び悩んでいるのですが、ただそれは、中食(調理済みの料理を購入し、家で食べる形態)のマーケットに顧客を奪われているから。

ウーバーイーツが外食のマーケットを中食のマーケットに取り入れる手助けをすれば、レストラン業界全体の底上げができます。デリバリーやテイクアウトなら、原材料以外の固定費はそのままに、追加の売上を生むことができます。

配達パートナー、お客さま、レストラン、ウーバーイーツに関わるすべての人たちのニーズを真摯にお伺いする。そして、良好な関係を築く仕組みを、今後もつくっていきたいと考えています。
武藤友木子(むとう・ゆきこ)
東京都出身。1998年に国際基督教大学を卒業後、アクセンチュア株式会社(元 アンダーセンコンサルティング)に入社。2000年に25歳でインターネット企業を設立し、9ヶ月後、楽天株式会社へ売却。自身も楽天株式会社へ転籍。2007年よりトラベルズー・ジャパン株式会社 代表取締役社長に就任。その後OpenTable株式会社 代表取締役社長を務める。2017年にはグーグル合同会社の新規顧客開発 日本代表に就任。現在は日本におけるUber Eatsの責任者。重要市場である日本のウーバーイーツのビジネスを統括している。海外出張の際など、ホテルでウーバーイーツを多く利用しているという。
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