「佐藤流司のやりたいお芝居」ではお金はもらえない。うちはサスケを演じ続けた男の矜持

2.5次元舞台の世界で、トップを走る俳優のひとり、佐藤流司。

ミュージカル『テニスの王子様』などを経て、ミュージカル『刀剣乱舞』では加州清光役を演じ、2018年にはミュージカル『刀剣乱舞』の「刀剣男士」として『第69回NHK紅白歌合戦』に出場するなど、社会現象ともいえる熱狂を巻き起こした。この秋には、代表作のひとつ、ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」〜暁の調べ〜の2年ぶりの再演に挑む。

うちはサスケ役として熱く支持された前回の公演。自身では「“佐藤流司”になってしまった瞬間があった」と反省するほど、役への入り込みを徹底する。

「舞台は、お客様あってこそ。主観的なことをしているようじゃ、お金はいただけない」

「2.5次元舞台を牽引する存在」とまで評されるようになっても、決しておごることなく、戦い続ける彼の目には、何が映っているのだろうか?

撮影/アライテツヤ 取材・文/江尻亜由子
スタイリング/高森聖弥(BVC) ヘアメイク/稲越夕貴(BVCメイク)

サスケは、誰から見てもカッコよくなければならない

ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」〜暁の調べ〜の再演、おめでとうございます。
ありがとうございます。2年ぶりのサスケということで、改めて初演の映像を見返したんですけど、自分の中で「もっとこうしたい」と思う点がたくさんあったんです。なので、それを克服できる機会をいただけたことを、非常にうれしく思います。
続編ではなく、再演だからこその難しさもあるのでしょうか?
ありますね。お客様の中には、『NARUTO』の原作を知っている方も多いですし、自分たちも、どういう感情で動いていくかはある程度わかっているので、いわゆる“マンネリ”との戦いにもなります。その中で、何回観ても「面白いな」と思わせなければいけない。
「初演を超えなくては」というプレッシャーも?
プレッシャーもありつつ、自信もあるかな、と。自分の中で課題点がすでに見つかっているのは、再演の大きいところです。2年のあいだに、他の作品でお芝居の勉強もたくさんさせていただきましたし、ミュージカル『刀剣乱舞』があり、刀に触れる機会もすごく多かった。サスケはやっぱり刀が大事で、そこに関しては、退化していない自信があります。
2015年のライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」初演の段階から、サスケを演じるうえで「ここだけは守らないと」と意識していた部分はありますか?
やっぱり、誰から見ても「カッコいい」と思えること。男女限らず、「やっぱりサスケっていちばんカッコいいな」って思わせなきゃいけない。
アニメも見てたんですけど、あの特徴的な声色は大事にしたいです。俺は、原作漫画やアニメありきでお芝居を作るので、なるべく取り入れられたらいいなと。
ちなみに佐藤さんはやはり、サスケがいちばん好きなのでしょうか?
そうですね。サスケがいちばん……いや、同着が3人います(笑)。サスケはもちろんですが、それ以外に(マイト・)ガイ先生とロック・リーも大好きなんですよ。
熱血キャラですね。サスケとは真逆な印象が…。
そうなんです。それこそ週刊『少年ジャンプ』の「友情・努力・勝利」のように、がんばって報われる泥臭いヤツが大好きなんですよね。

キャラクターに肉付けしていく作業が、2.5次元の醍醐味

今作のサスケを演じるうえで大切にしていることはありますか?
今回の物語は、「木ノ葉隠れの里を抜けてから、うちはイタチ(演/良知真次)を倒して真実を知るまで」という流れですが、最後に向けて怒りのボルテージがどんどん上がるよう、あえて前半のお芝居は低血圧にしています(笑)。そうすることで、最後のイタチ戦での必死さが際立つので。それに、サスケが必死になることで、お客様にイタチの強さも伝わるかな、と思っています。
『暁の調べ』初演では、具体的にどのようにサスケへと入り込んでいかれたのでしょう?
とりあえず、前半は表情筋をまったく動かさずにやってみよう、というところから始めました。「表情筋を動かさない」のと「感情が動かない」のは別なので、表情を変えずに顔や声色以外で感情を表に出せたらいいな、と思っていました。

役者って、自分が圧倒的に優位な立場にいるとき、笑う芝居を入れたくなっちゃうんです。狂気性があるほうが面白いかな、と考えたりして。でも、サスケはそれを一切やらないようにしました。
先ほど、「自分の中で課題点がすでに見つかっている」とお話されていましたが、どのような部分でしょうか?
メリハリが少ないくせに、うるさいところはうるさかったな、というのが反省点です。ちょっと感情を爆発させすぎている瞬間があったんですよね。

それをよしとする役者さんもたくさんいらっしゃるし、ハズレでもないのはわかってるんですけど、自分が2.5次元で演じる場合のセオリーには反するな、と。そこをもう少し、サスケ寄りにしたいと思っています。
それは、生の感情がキャラクターよりも出すぎてしまった、ということですか?
そうですね。自分の芯に「サスケ」という存在がいて、それに肉付けしていく作業が2.5次元の醍醐味だと思っているんですが、その芯を取っ払って、完全に「佐藤流司」のやりたいお芝居をやっちゃったな、と。

具体的には、イタチの真実を聞くシーン。あそこは、サスケのボルテージがマックスになるのですが、「上げすぎたな」と。上げすぎて言葉が不明瞭になってしまったので、そこは改善したいと思っています。
今作ではサスケの心の中が闇に侵されていく展開ですが、サスケに共感できる部分もあるのでしょうか?
サスケって、よくわかんないんですよ。初演では、台本を読んでも「何でサスケはこんなことをしちゃうんだろう」って思うことがけっこうありました。彼を理解するのは、かなり難しいです。今でも理解しきってはいないと思いますし。

その中でも、わかるな、と思うのは、家族をすごく大事に思っているところ。あとは、友達の成長を疎ましく思うところも。人間味がないように見えて、意外と人間くさい人物だから、等身大で向き合えるキャラクターだとは思いますね。
役作りの際には、改めて原作を読み直すことも?
2015年の初演の段階で、2〜3週間のあいだに4、5回は読み直しました。
そんなに何度も読むんですね。
やっぱりサスケは難しいキャラクターなので。俺は完全に、原作主体で役作りをするので、「何でこうなるんだ?」と考え始めると、何回も読んでしまうんですよね。

(うずまきナルト役の松岡)広大は逆らしいです。アニメをあえて見ずに“自分の解釈するナルト”で勝負すると言っていました。その真逆なところも、ナルトとサスケらしくていいですね。

素の「佐藤流司」ですら、ブランディングして提供している

サスケは心情が複雑なキャラクターですが、過去に演じてきた役柄と比べて大きな違いはありますか?
サスケのことを考え出すと、入り込んでしまって視野が狭まっていくのが、今まで演じてきた他のキャラクターにはない特徴です。
そうすると、日常生活でも考え込みがちになる?
本当にそうですね。最近は大丈夫だと思いますが、初演のときは、かなりサスケに引きずられました。
日常生活まで持っていかれてしまうと、次の役柄を演じるための切り替えも難しそうですが…。
切り替えは、大丈夫ですね。公演が終わって、打ち上げで「お疲れ様でした」ってなった瞬間に、スパンと自分に戻れますね。
公演が終わると、熱を出しがちだというお話もされていますよね。
そんなことしゃべってました!?(笑)そうなんですよ。一段落すると、体を壊しちゃうんです。そこは最近も変わらなくて、毎回、必ず熱が出ます。

逆に、休みなく仕事が続いてくれると、熱も出ないんです。千秋楽が終わって、翌日が休みだと体調を崩すけど、すぐに次の稽古が始まると、大丈夫なんですよね。
では、お休みが欲しいという気持ちはあまりないのでしょうか?
全然いらないです。2、3日休みがあると、家から出たくないな…と思ってしまう(笑)。
ストイックなイメージなので、全然想像がつかないです。
よく「ストイックだよね」と言われますけど、他の方がどれくらいやってるか知らないし、俺は普通だと思っています。でも、仕事をくれないと、本当に家から出なくなっちゃう(笑)。
(笑)。さまざまな役柄を演じ分けていますが、どのようにご自身のアイデンティティを保っているのでしょうか?
「佐藤流司」も、自分の中でブランディングして提供しているつもりです。普段も、ひとつの役のような感じです。本当の、ひとりでいるときの佐藤流司は、外に出せない(笑)。
ブランディングしていない佐藤さんも気になります(笑)。
マジでつまんないですよ(笑)。メガネかけてゲームしてます。ヘアゴムで頭くくって。干物ですね(笑)。

舞台で主観的なことをするようじゃ、お金はいただけない

佐藤さんは、カーテンコールの際もクールに振る舞っていますが、そこもサスケを意識されているのでしょうか?
ケラケラ笑ってはしゃいでいるサスケを俺は見たくないな、と思うんです。サスケのことは絶対、誰よりも俺が知っている自信があるので。「(カーテンコールでは)サスケのままでいなくていい」と思う人のほうが少数かな、と。

それに、お子さんもけっこう見に来ているので、夢を壊さないでおきたいなという思いもあります。はしゃぐにしても、俺が客観的にサスケを見たときに、ギリギリ見られるラインにしています。
やはりお客さんからどう見えるかが大事なんですね。
舞台は、お客様あってこそ。主観的なことをしているようじゃ、お金はいただけないですね。
松岡広大さんら共演者のみなさんとは、普段はどのような関係性なのでしょうか?
きのう久しぶりにみんなと会ったんですけど(※取材が行われたのは9月中旬)、安心感があったし、あったかい気持ちになりました。ああいう感じになるのは、『NARUTO』だけなんです。大先輩もいれば、後輩もいて、大家族感がありますね。
みなさんとは、どんな話をするのでしょうか?
前回は、めちゃめちゃくだらない話ばかりで、芝居の話はあまりしていなくて。

今まで、広大ともお芝居について話し合ったことはなかったんです。でも、今回はもう1回気を引き締めて、ワンランクレベルの高いものにするために、気兼ねなく言い合えるカンパニー作りを目指そう、という話をしました。だから、芝居の話は多くなるんじゃないかな。

『NARUTO』という作品に出会わなければ、2.5次元にいない

改めて、佐藤さんにとってライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」はどのような作品でしょうか?
「この作品に出会えたから…」と綺麗ごとを言うつもりはないですが、世界的に知名度のある作品で、サスケという昔からカッコいいと思っていた役を自分が演じていることはシンプルにうれしいです。
初演でサスケを演じ切れたことで、その後の自信につながった部分もありますか?
ありますね。生身の役者がアクロバットなどにチャレンジするので、初演は、1回でも集中力を切らしたら危ないという意識を持った状態でやっていました。

でも、それを乗り切ったら「意外と大丈夫なんだな」と。人間、適応する能力があると感じました。初演のときは「死ぬかもしれない」と思ってたことが、再演では全然怖くなくて「楽勝だな」と思えて。
1回そういう気持ちになると、他の作品とも冷静な気持ちで向き合えますよね。
他の舞台では、ちょっとやそっとのことじゃスタミナも切れなくなりました。本当に体力がついたから、全然へっちゃらなんですよね。
『NARUTO』の舞台に出会っていなかったら、どうなっていたと思いますか?
たぶん、2.5次元にいないんじゃないですかね。この作品のおかげで、いろんな番組にも出させてもらったり、ワールドツアーにも行ったりして。ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」に出演していなかったら、この世界にいない気がします。

1位は下がるしかない。これ以上、上がないから

今や“2.5次元を牽引する存在”と言われている佐藤さんですが、そのような評価をどう受け止めていますか?
恐怖ですよね。後ろに壁が迫ってきている状態です。ありがたいことに、この前ランキング(「週刊女性PRIME」が実施した「いちばん好きな2.5次元俳優」)で1位をいただいたんですけど、1位って下がるしかないんですよね。これ以上、上がないから。
だから、本当にありがたいことであると同時に、めちゃめちゃ怖いです。でも、今後も期待に応えていきたいという自信にもつながっています。
以前は「1位を目指したい」という気持ちもあったのでしょうか?
そうですね。前回は3位だったのかな。だから「絶対超えてやる」って思っていました。でも、実際超えてみると…今度は、みんなから「超えてやる」と思われるってことですよね。
「超えさせるか!」という気持ちも?
そう…ですね…、(しばらく考え込んで)はい。でも、とにかく怖い(笑)。プレッシャーがスゴいです。
ちなみに、佐藤さんが舞台上で工夫していることはあるのでしょうか?
めちゃくちゃやってますが、企業秘密です!(笑)
言える範囲で、何かひとつ…(笑)。
(笑)。とくにミュージカル『刀剣乱舞』はそうですが、2部のライブで客席に降りてお客様の近くで歌う曲があるんです。そういうときに、1人ひとりとしっかり目を合わせることを何より大事にしています。目立とうと思って工夫してるのではなく、しっかりお客様とコミュニケーションをとろうという姿勢が大事だと思ってます。

「俺は、全方向に向かってるんです」

昨年末にはミュージカル『刀剣乱舞』の刀剣男士として『第69回NHK紅白歌合戦』に出場され、ドラマ、映画、CM…と2.5次元舞台以外での活躍も増えています。
たまに「どこに向かっているんですか?」って聞かれることがあるんですけど、俺は、どこにでも向かってるんですよね。全方向に向かってる。

ひとつのことに固執して、それだけをやり続ける人生って、すごくもったいないと思うんです。もちろん、ひとつのことを追求する人もカッコいいとは思うんですけど、俺は1回しかない人生、いろんなことにトライしていきたい

だから、魅力的な仕事が来たら何でもかんでもやらせてもらう、という感じですね。
2.5次元舞台とは違った難しさを感じることもありますか?
もちろん、他のジャンルに行ったらぺーぺーなので、すべてが刺激になるし、勉強になる。それが結果的に自分のお芝居に返ってくるので、いろんなことを体験して勉強するのは、すごく大事なことだと思うんですよね。
とくに勉強になったことは?
バンド活動(The Brow Beat)でPENICILLINのHAKUEIさんにレコーディングのディレクションもしていただいていますが、ロックって、めちゃくちゃ難しい。今まで自分が「できる」と思ってやっていた歌は、歌ですらなかったと思わされるくらい、音楽のプロの方が持っているものはスゴくて。根本から変えようと思って、勉強中です。
それは、歌い方でしょうか? それとも心構えですか?
歌い方ですね。声の出し方、語尾の切り方、ニュアンス、抑揚。もちろん、音程をとるのも大事ですが、音の乗せ方と引き方など、まるで自分が思っていたことと違っていたから。
ロックで学んだことで、ミュージカルにフィードバックできるものもありますか?
めちゃめちゃあります。だから今回の再演も、初演とはまったく違うと思います。きのう、歌稽古がありましたが、歌いたいベクトルが、すでに違っていました。

「ここで息継ぎはしたくない」とか、「ビブラートを入れる、入れない」みたいな小さいことではあるけど、それが積もり積もって、大きな違いになると思います。

仲間が出ている番組は、見ると勉強になるから悔しい(笑)

他の2.5次元俳優の方々も、ドラマやバラエティへの出演が増えたように思います。みなさんが出ている番組はチェックされていますか?
ミュージカル『刀剣乱舞』〜阿津賀志山異聞〜で共演したメンバーが出た番組は見ます。
どのように思いますか?
「ちくしょう」と思いますね。「何、活躍してんだ」と(笑)。はははっ。
「ちくしょう」というのは、負けていられない、という気持ちですか?
勉強になるんですよ。それぞれに「ちくしょう、こいついいこと言うな」、「いい芝居するな」って思う部分が、絶対にある。見れば勉強になるんですけど、勉強になるのがイヤというか、見てる途中で悔しくなっちゃう(笑)。

でも、佐伯大地くんと俺は一緒の意見で。友達や、近しい役者のヤツらがやってるお芝居は、絶対に見たほうがいいと思ってるんです。

近いからこそ、尊敬できる部分と、「ここはこうしたほうがいい」と思える部分の両方があって。それが自分にも生きてくるんですよ。人の改善点を見つけることで、自分の改善点も見つかる。だから舞台も、なるべく行くようにしています。
舞台の感想は、ご本人に伝えることもありますか?
よかったところは、ちゃんと伝えます。ただ、俺の舞台はマジで、誰も来ないんだよな!(笑)何で来ないんだ!?
佐藤さん、目つきが変わっちゃってます(笑)。
大地くんしか来ないんですよ。俺は他の仲間の舞台もすっげぇ行ってんのに。
みんな、俺の舞台を見に来い!(笑)
佐藤流司(さとう・りゅうじ)
1995年1月17日生まれ。宮城県出身。B型。2011年にドラマ『仮面ライダーフォーゼ』(テレビ朝日系)で俳優デビュー。主な出演作に、ミュージカル『忍たま乱太郎』シリーズ(田村三木ヱ門役)、ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズン(財前 光役)、ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」シリーズ(うちはサスケ役)、ミュージカル『刀剣乱舞』シリーズ(加州清光役)、映画『HiGH&LOW THE WORST』(泰志役)など。現在、ドラマ『Re:フォロワー』(テレビ朝日系)に出演中。ボートレースCM曲「見えないスタート」も歌っている。

舞台情報

ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」〜暁の調べ〜
http://www.naruto-stage.jp/
【大阪公演】2019年10月25日(金)〜11月4日(月・祝)@メルパルク大阪 ホール
【東京公演】2019年11月8日(金)〜11月10日(日)@TOKYO DOME CITY HALL
      2019年11月15日(金)〜12月1日(日)@天王洲 銀河劇場
【深セン公演】2019年12月6日(金)〜12月8日(日)@深セン保利劇院
【上海公演】2019年12月14日(土)〜12月22日(日)@虹橋芸術センター
©岸本斉史 スコット/集英社 ©ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」製作委員会2019
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