俺はもう“ゴースト”ではない。新垣隆を輝かせたのは、ジェニーハイとの運命的な出会い

人には誰しも転機が訪れる。それがいつやってくるかは誰にもわからない。

大切なのは、その後の自分自身の決断であり、行動なのは間違いないだろう。

“世間を騒がせた人物”となってしまったピアニスト・新垣隆。彼にとっての転機のひとつは、とあるバンドとの出会いだったのではないだろうか?

川谷絵音(ゲスの極み乙女。)、小籔千豊、くっきー!(野性爆弾)、中嶋イッキュウ (tricot)、そして新垣隆。各界で活躍する5人によるスーパーバンド「ジェニーハイ」は、テレビ番組『BAZOOKA !!!』から生まれた“企画バンド”であるが、その枠を超えた楽曲クオリティとパフォーマンスにより瞬く間に話題となった。

かつての“ゴースト”は、今やステージに上がれば若者たちから「ガッキー!!」と声援を浴びる存在へ。

転機を迎えた新垣は、音楽を通して再び社会と関われる喜びを感じている。「唯一無二の場所ですね」と、一言一言を大切に発する姿が印象的だった。

撮影/アライテツヤ 取材・文/照沼健太
▲右から、ギター/プロデュース:川谷絵音
ドラム:小籔千豊
ボーカル:中嶋イッキュウ(tricot)
ベース:くっきー!(野性爆弾)
キーボード:新垣隆

自分のキャリアを一変させた、ジェニーハイとの出会い

ジェニーハイ加入のオファーを受けたとき、率直にどのように思われましたか?
2017年7月に「バンドを組みたい」と小籔さんから連絡をいただき、はじめは大変びっくりしました。

でも、小籔さんにはゴーストライター騒動後の間もなく、テレビ番組『BAZOOKA!!!』で取り上げていただいたり、「コヤブソニック」に出演させていただいたりと音楽的交流もあり、本当に嬉しかったので、迷うことなく「ぜひ参加したい」と思いました。
『BAZOOKA!!!』出演は、新垣さんにとって印象的な経験だったのでしょうか?
はい。自分がやらかしたあの騒動が2月で、4月のはじめには『BAZOOKA!!!』出演のお話をいただいたんです。

騒動についてテレビで特集を組まれることはあったし、もちろん『BAZOOKA!!!』もその流れとは無縁ではないと思うのですが、それでも、現代音楽をテーマとして、私の音楽活動にスポットを当ててもらえたのは初めてのことだったんです。

『BAZOOKA!!!』は特別な番組であり、その後どうなるかわからなかった私の歩みにおいても大事なものでした。

自分はずっと、作曲してピアノを弾くということを続けてきたわけですが、あの騒動後は、もう社会の中でそれはできないのでは…と思っていたんです。でも小籔さんをはじめ、いろんな方が機会を作ってくれたおかげで、クラシックや現代音楽の世界でまた仕事ができるようになりました。

音楽家として、川谷絵音の総合力はずば抜けている

川谷さんはじめ、ファンの方々からも、新垣さんのピアノを絶賛する声が挙がっています。
それは…すごく嬉しいですね。本当に。褒められると調子に乗るので…もっと褒めてほしいなと思います(笑)。
(笑)。
川谷さんがプロデューサーとして、クラシック音楽的な要素をうまく入れた曲を作ってくれているんです。僕だけじゃなく、他のメンバーの良さも引き出すように、川谷さんは曲を作られていますね。
ジェニーハイのピアノは、普通のポップスとは違ったフレーズなのでしょうか?
はい。川谷さんとちゃんMARIさん(ゲスの極み乙女。のキーボード担当)がピアノの部分を作ってくれているように、ジェニーハイの音楽性は基本的に、ゲスの極み乙女。の延長にあるんです。

もともと、ちゃんMARIさんの鍵盤はポップスであると同時にクラシカルな要素を持ったものなので、自然とそれを受け継いでいます。
新垣さんとしては、どう演奏しようと心がけていますか?
楽譜に忠実に演奏するようにしています。ときどき即興演奏的な要素が入ることもありますが、そうした部分も基本的にはちゃんMARIさんのトーンで弾くようにしています。

自分としては、川谷さんとちゃんMARIさんが作り上げたバンドサウンドに浸りながら演奏しているような感覚です。
なるほど。同じ音楽家として、新垣さんは川谷さんをどのように思いますか?
まず、ゲスの極み乙女。を聞いた時点で「これはスゴいな」と思っていました。

川谷さんはポップスを中心としながらも、いろいろな音楽のスタイルを吸収するキャパシティが広いんですよね。そのうえで伝えるべきメッセージを持っていて、それをどう届けるかというプロデュース力もある。

音楽家として、トータルでのクオリティがずば抜けている存在です。だからこそ評価されるし、話題にもされるんだと思います。
ふたりで音楽の話をすることも多いのでしょうか?
いえ、川谷さんとはほとんど音楽の話はしないです。
では、どんな話を?
「いつかラーメン屋に連れてって」という話ばかり。「いいよ」って言われてそれっきりなんですけどね。

このあいだ、休日課長さん(ゲスの極み乙女。のベース担当)が一緒にラーメンを食べていらして、うらやましいなと思っています。
(笑)。
正直なところ、川谷さんと私とではフィールドも世代も違うから、ついていけない部分もあるんですよね。でも、そんな違うところにいる私の強みを発揮できる楽曲を作ってくれるから、やっぱり本当にスゴい人だと思います。

イロモノ扱いされるだけが、ジェニーハイの目的じゃない

『ジェニーハイのテーマ』のラップについても伺えますか?
(思わず苦笑いしながら)まずは、ラップ自体に抵抗がありました。何というか、自分はラップをする身体ができていないのですが、川谷さんに「ラップしてください」と言われて泣きながらやっているんですね。

でも、他の4人が本当にプロ中のプロなので、ひとり下手なのがいても「それはそれでアリなんだ」と小籔さんには言われてます。うまくなりたいから自分なりに頑張ってるんですが、なかなか認めてもらえないですね…(苦笑)。
葛藤があるんですね(笑)。しかし、「俺はもうゴーストではない ゴーストではない 俺のピアノをただ聴け!」という新垣さんのラップパートは衝撃的でした。
あのラップは川谷さんがメンバー4人のことを調べて、素敵な歌詞を書いてくれたものなんです。あの歌詞を見て、「自分のことをわかってくれているんだな」という気持ちになり、すごく嬉しかったし、他の3人もそうだったと思います。

「騒動繋がりの二人」と自身のことも含めて“批評”できる。そこも川谷さんのスゴいところですね。
「騒動繋がり」もスゴいフレーズですよね。
小籔さん、くっきー!さんというコメディアンもいらっしゃって、イロモノ扱いされるのがバンドの目的でもありますが、ただのコミックバンドというだけではなく、「川谷絵音の音楽を表現する」ということもジェニーハイの目的なんですよね。

もちろん、いろんな評価もされるし批判もされるだろうけど、「それも含めて話題にしてくださいよ」というバンドです。
バンドとして実際に5人で演奏してみていかがですか?
一流のミュージシャンの集まりだと感じますね。

それぞれの仕事があるので集まれる時間は限られているのですが、きちんと準備ができているので、リハーサルでも純粋に音楽を楽しむことができるんです。それはメンバーみんなが、ミュージシャンとしてたしかなテクニックを持っているからだと思います。
クラシック、そして現代音楽の奏者として、ジェニーハイに化学反応のようなものを起こしたいという気持ちはありましたか?
もちろんそういう気持ちはありました。でも、川谷さんがプロデューサーとしてそういう化学反応的なものも考えて作ってくれているので、今の自分としてはもう何も考えず、ただジェニーハイという場を楽しんでいる感覚ですね。

「ポップスのキレが足りないな」と自分で感じることもあるんですけど、そこはもう、「自分はクラシック音楽家だから!」と開き直っちゃってるかもしれないです(笑)。

ライブで「ガッキー!」とたくさん呼んでもらえて嬉しい

ジェニーハイのライブでは「ガッキー!」という歓声が飛び交っています。
嬉しいですね…(笑)。さすがにクラシックや現代音楽の場ではそういった声援はないので、今でも「自分がこんなところにいるなんて」と信じられない気持ちもあります。

音楽にはいろんな楽しみ方があるので、そういうところも含めて「ジェニーハイにいると面白い経験ができる」と感じています。
MV出演も、やはりバンドにいるからこその経験ではないかと思います。
MVを作っているときは、どういう完成形になるのかもわからないまま、真っ青になりながら必死に演技しています。他の4人は舞台に立つ人間としてプロ中のプロですからね。

もし僕が吉本新喜劇のリハーサルにいたら、小籔さんに「ちょっと立ってろ」と叱られると思うのですが、MV撮影ではそんな僕にも優しくしてくれるので、スゴい経験だと思っています(笑)。
新曲の『シャミナミ』MVでの、新垣さんの演技を絶賛するコメントも多いですが…。
えっ、そうなんですか!?
はい。新垣さんが見せる表情が切なすぎる、といった反応も少なくありません。
(意味ありげに)いや、演技じゃないかもしれませんよ……?
…!?
いや、はい、あの……(照)。
??
いや、やっぱりあれは「演技じゃないんです」ってことにするのが良さそうですね!
心からの表情かもしれない、と(笑)。
しかし、あのお話は恥ずかしいですね。だってあれ、先生ですよね……? 高校の教師が生徒に恋心を持つっていうのは…良いんですかね!?
(笑)。
「ちょっとヤバいんじゃないか?」って思っている、ということはお伝えしておきます(笑)。

ジェニーハイがなかったら、まったく違う人生になっていた

ジェニーハイでの活動を通して、世間からの新垣さんの見られ方が変わったのではないかと思います。
見られ方の変化は計り知れないですね。ゴーストライター騒動のときは「よくわからない人だな」と感じていた人たちも、ジェニーハイを通して自分の音楽を聴いてくれたはずだと思っています。
「自分はこのバンドの一員だ」と感じられた、初めての瞬間を挙げるとしたら?
メンバーが揃って、最初のリハーサルで「バン!」って音を出した瞬間ですね。バンドメンバーひとりひとりが輝いた存在なので、だからこそ自分も輝けるんだと感じました。

本来、バンドってある種の家族のようであり、時には仲違いしたり人間関係がうまくいかなかったりするものだと思うのですが、ジェニーハイは企画バンドです。でも、普段はバラバラに活動している人たちが集まるからこそ、お互いを理解しようとしながらできることがあるんです。

それぞれが自立しながらも、それぞれをカバーし合っている。やはり特別なバンドだと思います。
改めて、ジェニーハイとは新垣さんにとって、どのような存在でしょうか?
自分の音楽活動の中で、奇跡のような巡り合わせで成り立っている存在だと感じます。そして、より多くの人と音楽を通じてコミュニケートできる唯一無二の場所ですね。

ジェニーハイに入っていなかったら、まったく違う人生になっていただろうなと思います。
▲2018年7月に出演したライブイベント「JOIN ALIVE2018」での1枚。

音楽家としての自分がいるから、モデルの仕事もできる

騒動以降は、雑誌のモデルなどいろんなお仕事をされていらっしゃいましたが、どのような思いがあったのでしょうか?
基本的には「音楽家として、社会と接点を持ちたい」というのが、仕事に対するスタンスです。

そうした“音楽家としての自分”がいるうえで、音楽以外の仕事にもなるべくお応えしたいとは思っています。でも、もしベースにある“音楽家としての自分”が揺らいで、バラエティ番組などの仕事がメインになるようでは、自分はダメになると考えています。
あくまで音楽家としての軸があるからこそ、冒険ができる、と。
はい。ファッションモデルのオファーをいただいたときは、正直、「何考えてるんだ?」と思いましたけど、音楽という“戻ってこられる場所”があるから、未知のジャンルにも飛び込んでいけましたね。

しかし、何でモデルなんてオファーが来るんでしょうね…?
クラシックのピアノ奏者としても、現代音楽家としても精力的にコンサートを行っています。多ジャンルで活動することについてはどうお考えですか?
自らの仕事を通して、なるべく“広がり”が生まれてほしいと思っています。

世の中にはいろんな音楽がありますが、その音楽にはそれぞれの良さがあります。もちろんジャンルによっては相容れないものもあるかもしれないけど、場合によっては混ざって良くなることもある。そういう中で「新しいもの、面白いもの」を作れたらと思っています。
音楽は多様で、自由であるということですね。
はい。自分は「自由な気持ちになれる」ということを目指して、音楽をやっているんです。

ジェニーハイを見ると、メンバーみんながサービス精神もプロ意識も強く、そのうえで“何だかよくわからない人たち”ですよね。そんな才能が集まって共存しているってスゴいことじゃないですか。自分はそういう場にいたくて音楽をやっているんだと思います。

学生には「ゴーストライターだけにはなるな!」と伝えたい

新垣さんには、教育者としての側面もあります。騒動後は桐朋学園大学の非常勤講師を辞任されてしまいましたが、2018年度に復帰されましたよね。
はい。正直、今も「いいんだろうか?」という気持ちを引きずってはいるのですが…。当時は「騒動を起こした人間が、教育の場で何食わぬ顔をして教えることはできない」と思ったんです。
そこから復帰されたということは、少しずつ心境の変化があったのでしょうか?
騒動後、仕事を1つひとつ積み重ねて5年間続けられたというところで、ある程度、音楽家として認知してもらえたと思ったんです。そこで、また学生とともに切磋琢磨していけるようになりました。

もちろん、学生的には「あの新垣がいる」と思うかもしれない…と感じる部分はありますが、「このフレーズはどうできているのか?」などを学生たちと考えることのほうが大切だと思っています。
教育現場における新垣さんのモチベーションとは?
学生の成長過程に関わることができる、というのと同時に、必死になって自分を高めていきたいと思っているんです。

また、「ステージで声援を受けて、いい気になっているガッキー」とは違うところも見せていかないと、という気持ちもありますね。
教育者として学生たちに伝えたいことはありますか?
“音楽家としての自分”と一致するのですが、なるべく「音楽は自由なものだ」と伝えたいと思っています。

もちろん、いくら綺麗ごとを言ったところで、楽器を習得するのは本当に大変です。ブラスバンド部が運動部のような厳しい面を持っているように、「自由」に到達するためには、過酷なこともついてきます。

それが良いことか悪いことかはわかりませんが、自分なりの経験を踏まえて、音楽が自由だと教えたい。その方法が、手取り足取りなのか、「俺の背中を見ろ」なのかはわからないですけど。
なるほど。
あるいは、「あいつのようにだけはなりたくない」と学生に思われるのも、大事かもしれないですね。

自分としても、学生たちには「ゴーストライターだけにはなるな!」と言いたいですし(笑)。
新垣さんだからこそ言えるセリフですね(笑)。
教師的な面も“反面教師的”な面も、両方持つ。それが、私にできる“責任を持つ”ということだと思っています。
新垣隆(にいがき・たかし)
1970年9月1日生まれ。東京都出身。A型。4歳よりピアノをはじめ、1989年に桐朋学園大学 音楽学部 作曲科に入学。卒業後は作曲家・ピアニストとして活動する。 2014年2月、佐村河内守氏のゴーストライターを18年間務めていたことを告白。その後はテレビやラジオ番組への出演、コンサートの開催など多岐にわたって活躍し、2018年3月には川谷絵音プロデュースのロックバンド「ジェニーハイ」への参加が話題となる。2018年度より、桐朋学園大学の非常勤講師に復帰。2019年11月27日にはジェニーハイの1stフルアルバム『ジェニーハイストーリー』が発売される。

サイン入りポラプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、新垣隆さんのサイン入りポラを抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
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受付期間
2019年9月24日(火)18:00〜9月30日(月)18:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/10月1日(火)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから10月1日(火)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき10月4日(金)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
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