【ネタバレ注意】ここからは『彼方のアストラ』の物語の核心に関わるシーンについての話が含まれています。作品をこれから読まれる方はご注意ください。

『彼方のアストラ』に影響を与えた藤子・F・不二雄作品

『彼方のアストラ』を構想する際に、インスピレーションを受けた作品はありましたか?
藤子・F・不二雄先生の『宇宙船製造法』という短編です。バトル漫画を自分でボツにして、SF路線で考えはじめたときに「(冒険に)行く」のではなく「帰る」物語にしたらイケるんじゃないか、って思ったんですよ。そのときに思い出したのが『宇宙船製造法』でした。

『宇宙船製造法』は、宇宙船が故障して遭難し、船員たちが地球型の星で共同生活をしながら、地球に帰る方法を探っていく話です。「ああいう感じでやればいいのかな」というのがヒントになりました。藤子・F・不二雄先生の短編集は、ものすごく勉強になります。
▲仕事場の机から手を伸ばして取れる棚に差してある『藤子・F・不二雄 SF全短篇』全3冊。インタビューの中で触れた『宇宙船製造法』は、第2巻『みどりの守り神』に収録されている。
「宇宙船という閉鎖空間で繰り広げられるミステリー」という点では、萩尾望都先生の『11人いる!』からも影響を受けているのでしょうか?
テイストはもちろん入っていると思います。『11人いる!』って、文庫だと1冊に収まっているじゃないですか。あの少ないページ数の中に、あれだけの要素を詰め込んでいるということに、すごく勇気をいただいたので。
『彼方のアストラ』では、アストラ号の乗員は9人ですね。
最初は『十五少年漂流記』(ジュール・ヴェルヌ著)からの着想で15人を想定していたんですよ。『週刊少年ジャンプ』の編集会議でボツを食らってから、徐々に整理していきました。

ちなみに初期段階の15人の中には、宇宙人を入れるアイデアもあったんですよ。
宇宙人、ですか?
そのキャラは「ニール」という名前で、アルファベット表記は「NEILA」。反対から読むと「ALIEN(エイリアン)」になります。ニールはボツになりましたが、名前を逆から読むというアイデア自体は「ARIES(アリエス/セイラ)」に使われることになりました。結果的に伏線となるネタが増えたので、よかったと思います。
▲『彼方のアストラ』(第5巻「#44」)より。

若い人には新しい世界を切り開いてもらいたい

初期段階のアイデアは、最終的にだいぶ活かされているとおっしゃっていましたね。
クローンは『彼方のアストラ』用に考えたアイデアですが、巨大ワームホールで惑星をくっつける、といった要素はそうですね。最初から遭難モノを想定して考えたネタじゃなくて、『彼方のアストラ』の前に企画していたバトル漫画で使う予定だったアイデアを再利用しました。
でも、カナタたちが暮らしていた惑星アストラが本当は地球人の移民先で、歴史修正による仮初(かりそめ)の平和を手に入れていたという展開は衝撃でした。
惑星アストラで実現している平和というのは、本当の平和なんですよ。先ほど藤子・F・不二雄先生の作品が好きだと言いましたが、とくにSFの世界観が好きなんです。

SF映画で描かれる未来像って、それこそ『ブレードランナー』(アメリカ、1982年公開)に代表されるように、圧倒的にディストピアで暗いイメージが多いじゃないですか。でも『ドラえもん』でタイムマシンに乗って訪れる未来とか、『21エモン』で描かれる未来社会は、すごく便利になっているだけじゃなくて、緑の公園もあってユートピアなんですよ。
みんな幸せそうですもんね。
だから惑星アストラは、そういう場所にしたかったんです。国の成り立ちはディストピア的かもしれないけど、それが嫌になって、人々が本気でユートピアを目指して作った世界。だから、いちおうは平和が実現している。そう悪い世界ではないはずです。……でも、こうして漫画を描いていると、いろいろ考えちゃうことがあって……。
どういったことでしょう?
世界が平和になるにはどうしたらいいんだろう……、って(苦笑)。
壮大な話ですね。
絶対に解決不能だとはわかってるんです。現代では核、原発、銃に代表されるようなテクノロジーが当てはまるのかもしれないけど、作っちゃってから次の若者の世代に後回しにしている。どうしたらこれを一斉になくすことができるんだろう?って。
終盤でシャルスも言っていましたね。「作ってから震えるのさ いつも」(第5巻「#47」収録)って。
▲『彼方のアストラ』(第5巻「#47」より)。
そう思ったら、世界を丸ごとリセットするしかない。「せーの」で引っ越しするしかない。そして引っ越し先に兵器を持ち込まなければいい、と。
「世界の引っ越し」が惑星アストラのアイデアの源だったんですか。
世界平和のためには世界を手放す(引っ越す)しかない、というのは嫌みっぽいですかね? そこがこの作品のテーマではないので、そこばかりをクローズアップしてほしくはないのですが。
先ほど「子どもに向けて描きたいと思っている」とおっしゃっていましたが、そういった意識もあるのでしょうか?
そういう意識は、たしかにあります。若者はいろいろな問題を全部丸投げされているわけですから、かわいそうだと思っているんですよ。僕はおっさんだけど「君たち頑張ってね」なんて無責任なことは言えなくて、「大人のことはもういいよ」と言ってあげたい。大人は嘘ばっかり言うしね(苦笑)。

若い人に漫画を読んでもらって、世界を見てほしい。嘘を暴いてほしい。そして、新しい世界を切り開いてほしいと思って描いてます。

篠原先生の仕事場を初公開!

① 先生の仕事机。左側には本棚、机の右脇にはBlu-ray&DVDプレーヤーがあって、作業中に視聴できるように。また隣のハシゴはロフトスペースにつながっていて、アシスタントたちが仮眠を取れるようになっている。

② 作画は基本的にデジタル環境で行っていて、右手にペン、左手にショートカットキーなどを設定した専用デバイスを持って行う。

③ アシスタント用のPCと作業机は6人分そろえている。現在は次回作の準備中なので、アシスタントは稼働していない。
④ 本棚には『SKET DANCE』『彼方のアストラ』のほか、ジャンプ作品を中心に多彩な漫画が並ぶ。ほかにも映画『ドラえもん』やスタジオジブリ作品、『水曜どうでしょう』などのBD&DVDのほか、漫画を描くためのポーズ集や風景資料本も。ただ、新居に引っ越して間もないため、ダンボールから棚に移していない本なども多数あるとか。

⑤ 専用の入り口から仕事場がある2階へ上がると、最初に「マンガ大賞2019」大賞の額が飾られていた。

⑥ 仕事部屋にはサニタリールームも完備。また、その横には小部屋があり、『SKET DANCE』などこれまでに描いた自作の生原画がすべて格納されている。
⑦仕事部屋の隣は書斎で、一変してノスタルジックな内装。完全に篠原先生のプライベート空間で、この部屋を境に、仕事と自宅がわかれている。

⑧ また、「(書斎ができたら)やりたかった」というアナログ用の水彩絵の具もそろう。

⑨ 仕事部屋の本棚とは違い、書斎の本棚はより趣味性の高いラインナップ。とくに『まんが道』など藤子不二雄両氏の作品が多数並び、中央には小学館漫画賞少年向け部門で受賞したときに撮影したというA先生とのツーショットが。

⑩ 書斎机には魔法系のグッズ即売会で購入した雑貨などが飾られている。

⑪ 書斎と仕事場をつなぐ扉には『彼方のアストラ』をモチーフにしたステンドグラスが埋め込まれている。先生によれば右下の惑星が地球、アストラ号の背景にある星座は旅の航路を示しているのだとか。
篠原健太(しのはら・けんた)
1974年1月9日生まれ。千葉県出身。サラリーマンとしてグラフィック制作を経験した後に脱サラし、2005年に『赤マルジャンプ』WINTER号に掲載された『レッサーパンダ・パペットショー』で漫画家デビュー。2007年に『週刊少年ジャンプ」(集英社)で初連載作品『SKET DANCE』を開始すると、2013年まで6年間にわたる長期連載に。2016年からは『少年ジャンプ+(プラス)』で『彼方のアストラ』を連載(2017年に連載終了)。2019年には同作で「マンガ大賞」を受賞。同作は今年7月からテレビアニメが放送中。

作品情報

漫画『彼方のアストラ』
全5巻
第1話リンク
©篠原健太/集英社

『彼方のアストラ』ミニファンブック付き全5巻セット

今回インタビューをさせていただいた、篠原健太さんの『彼方のアストラ』ミニファンブック付き全5巻セットを抽選で5名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
ライブドアニュースのTwitterアカウント(@livedoornews)をフォロー&以下のツイートをRT
受付期間
2019年8月28日(水)18:00〜9月3日(火)18:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/9月4日(水)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから9月4日(水)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき9月7日(土)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
  • 複数回応募されても当選確率は上がりません。
  • 賞品発送先は日本国内のみです。
  • 応募にかかる通信料・通話料などはお客様のご負担となります。
  • 応募内容、方法に虚偽の記載がある場合や、当方が不正と判断した場合、応募資格を取り消します。
  • 当選結果に関してのお問い合わせにはお答えすることができません。
  • 賞品の指定はできません。
  • 賞品の不具合・破損に関する責任は一切負いかねます。
  • 本キャンペーン当選賞品を、インターネットオークションなどで第三者に転売・譲渡することは禁止しております。
  • 個人情報の利用に関しましてはこちらをご覧ください。
ライブドアニュースのインタビュー特集では、役者・アーティスト・声優・YouTuberなど、さまざまなジャンルで活躍されている方々を取り上げています。
記事への感想・ご意見、お問い合わせなどは こちら までご連絡ください。