『西郷どん』を終えて、覚悟は決まった。鈴木亮平は中途半端に生きられない

大河ドラマ『西郷どん』の撮影を終えて約8ヶ月。取材に現れた鈴木亮平は、いくぶんスラっとした印象だった。

西郷隆盛の18歳から生き直し、自分の年齢を超えて、49歳で死ぬまでを演じる。それは鈴木にとって、人生観が変わる経験だったという。「1回死んで帰ってきたような不思議な感覚。国を背負って人民を背負って政治の世界で戦って、戦争に敗れて死んでいった人の疑似体験をさせてもらうと、今までの36歳ではいられない」と言葉にする。

小学生の頃は声優に憧れ、中学生から映画が大好きだった。18歳で兵庫から上京し、役者ひとすじ。ひたむきに芝居心を育み、今や日本を代表する俳優のひとりになった。

英検1級で語学堪能、世界遺産検定1級、マジックもプロ級と、博識で多彩なエピソードには事欠かないが、本人は「じつはバランスが悪くて、数字は苦手なんですよ」と謙虚。

インタビューでは、彼の目線が役者として次はどこを見据えているのか、一端に触れることができた。力強い言葉から、元気を受け取ってもらいたい。

撮影/須田卓馬 取材・文/高橋彩子 制作/アンファン
スタイリング/八木啓紀 ヘアメイク/森泉謙治(THE GLOBES) 
衣裳協力/ジョンスメドレーのニット¥31,000(リーミルズ エージェンシー)、COSのパンツ¥13,889(COS 銀座店)、そのほかスタイリスト私物 ※すべて税抜き価格

“ザ・藤原竜也”な芝居を受け止めたい。10年ぶりの共演

蓬莱竜太さんの書き下ろし・演出で、藤原竜也さんとダブル主演される舞台『渦が森団地の眠れない子たち』。お稽古はこれからだそうですが、今はどんなことを楽しみにしていますか?
まず、蓬莱さんの新作という点ですね。蓬莱さんの舞台はいくつか拝見していますが、どれも本当にすばらしかったので、今回は僕らをイメージしてどういうものを書いてくださるのか期待しています。今回は書き下ろすだけでなく演出もしてくださるので、蓬莱さんがイメージするとおりの世界で生きられるのが待ち遠しいですね。

そして、竜也くんとどんな戦いをお見せできるのか。竜也くんとは舞台でも映像でも過去に1回ずつ共演しているのですが、がっつり絡むのは今回が初めて。

俳優としてタイプの違うふたりだと思うので、どんな化学反応になるのか気になっていますし、同い年とはいえ舞台でも映像でも大先輩なので、自分が何を学べるのかも楽しみにしています。
竜也さんとのタイプの違いというのは、具体的には?
竜也くんは自分の色がものすごく強くて、「これが藤原竜也だ!」というものを持っていらっしゃいます。一瞬で、「いよっ!! 藤原竜也!」みたいな(笑)。とくに今回は小学生の役だから、絶対、「ザ・藤原竜也」が出てくると思うんですよ。
それは純粋さのようなものですか?
無邪気さですね。大人なところももちろんあるんですけど、それは大人ならみんな持っているもの。同時に無邪気さを持ち続けているところが、竜也くんの魅力です。無邪気な人のまっすぐなパワーには勝てないですよ。

そんな竜也くんの攻めのお芝居に対して、僕はわりと守りというか、受けのお芝居をするタイプなのではと勝手に思っているんです。どれだけ相手を受け止められるか。と言いつつ、僕が今まで演じてきた役はけっこうアグレッシブな雰囲気だったと思いますが(笑)、自分では、相手から来たものを受け止めて心が動くのが好きなんです。

ですから竜也くんの演技を受けつつ、「ここだ!」というところではこちらも攻めて、大河ドラマ的な戦いをお見せできたらいいですね。

小学生の頃は騒がしいお調子者。いつでもあの頃に戻れるぜ!

竜也さんもそうですし、小栗 旬さんや山田孝之さんなど、同世代で活躍される俳優の方は多いですが、意識されますか?
うーん。昔は意識していましたけど、この世代は層が厚いので、今は気にしていても仕方がないという気持ちになっています。
層が厚いからこそ、さっきおっしゃったようなご自身の俳優としてのタイプができあがってきた可能性は?
たしかに、みんな20代から活躍しているなか、僕は若い頃から忙しかったわけではないので、自分には何ができるんだろう、どういうポジションでいけるんだろうといったことは無意識に考えていたと思います。同じ色で勝負しても大勢いるから、というところはあったかもしれません。
そんな同世代の亮平さん、竜也さんが、小学生役でぶつかる“団地大河ドラマ”。どんなものになるのでしょう。
蓬莱さんですから単純なエンタテインメントでは終わらないと思うのですが、まだ台本が上がっていないので(※取材が行われたのは7月上旬)、まったく想像がつかないんですよ。もしかしたら子どもらしさを一切出さずシェイクスピア劇みたいな感じでやるかもしれないし、稽古が始まったら蓬莱さんから「もっと声高く! 舌足らずで」なんて言われるかもしれませんし。

何にしても、意外と小学生はイケるはずなんですよ、経験者だから(笑)。大げさな役作りをしなくても、いつでもあの頃に戻れるぜ!と今は思っています。
ちなみに亮平さんは、どんな小学生だったのですか?
うるさい子どもでした(笑)。ガキ大将みたいにヒエラルキーが上ではないけれど、ただ騒がしいお調子者って、クラスにいるじゃないですか。周囲の人をからかって、それで相手が傷ついたことを知ったり「うるさい」と怒られたりして、「あー、俺、ウザかったのかな」と落ち込む……。そういう、うっとうしいタイプでしたね。
その性格が、今も亮平さんのなかに眠っている?
そうだと思います。普段はなんとなく大人ぶっていますけど、竜也くんほどの童心は持っていなくても中身が子どもなので、いつでもあの頃に戻れます。とくに男はそうなんじゃないでしょうか。子どもの頃の男子なんて本当に精神年齢が低いのに、クラスの女子はよくしゃべってくれましたよね。あんなガキンチョと話したくなかっただろうなあ(笑)。

西郷隆盛の半生を演じ切ると、今までの36歳ではいられない

亮平さんというと、極度に体重を減らしたり増やしたりと、徹底して役を作り込むことでも知られています。なぜそこまでストイックになれるのでしょう?
僕は演じる人間に入り込めるところが好きでこの仕事をしていますし、役への責任もあるので、自分にできる準備をするのは義務だと考えています。

体型に関して言えば、みんなやっていること。僕がちょっと過激なのは認めますが(笑)、別にそのこと自体が好きでやっているわけではないんですよ。病人の役のすぐあとに巨漢の役や西郷さんの役が来て、受けた以上はきちんとやらなければいけないな、というだけなんです。

たしかに体型を変えるのはキツいですが、外見から近づいてしまったほうが、お芝居していて無理がない。やっぱり自分にとっては、中身と外見、どちらかだけだと足りないんですよ。

中身だけ一生懸命作っても、外見が伴っていないと、どこかで自分が嘘をついているってわかってしまう。病人の役なのに体が元気な状態だと、「病人の役をがんばってやってる」という気持ちになってしまうし、「病人に見えているだろうか?」などと余計なところに意識がいってしまいますから。

この人はどういう人なんだろうと考え、セリフも入れるなかで、「ああ、こういう体の人だな」というイメージが今の自分と違っていたら、近づかなければ仕方がないんです。
役に入るのが好きとおっしゃいましたが、役の人生とご自分の人生のふたつがあると、時には消耗しませんか?
そこが楽しいんです。朝ドラや大河ドラマのようにずっと同じ世界にいるお仕事では、演じている世界のほうが本物だという感覚が生まれ、自分の日常生活が気持ち悪く感じられることがあります。

『西郷どん』では、休みの日に「こんなところでセリフを覚えている場合じゃない。早く政治を動かさなきゃいけないんだ」という感覚に陥ったり、ふと街に出ると「この国を良くしていかなければ」「歩いているこの人たちの命が、俺の政治に懸かっている」と思ったり(笑)。

ずっと本気でそう考えるわけではないんですけど、ちょっとだけ、ふと、日常と虚構が混じり合う瞬間があるのがおもしろいですね。
大河ドラマの主演という大役を果たされた『西郷どん』。やはり大河ともなると視聴者もかなり幅広く、ほかのお仕事とはまた違った雰囲気だったのではないでしょうか?
本当にみなさん観てくださってるんですよね。表に出てくる視聴率以上というか。一定の年齢以上の方はとくにそうですし、一方で若い人も観てくれますし。1年観てくれている人が多いから、他人ではないように思ってくれて、「観ましたよー、もう、たまらなかった!」といった具合に、熱がスゴいんです。

放映後は鹿児島の方から話しかけられる率がすごく高くなりましたね。居酒屋で「私、鹿児島なんです!」と言われたら、僕も「そうなんですかっ!」って(笑)。鹿児島じゃなかったら「ありがとうございます」で終わるところでも、「ホントですか!!」と、ついついこちらのリアクションも熱くなって。
振り返ってみて、ご自分にとってどのような経験だったのでしょう。
語り尽くせないくらいの経験でした。なかでも大きかったことのひとつは、36歳までしか生きていない自分が、虚構の世界とはいえ18歳から生き直し、自分の年齢を超えて、49歳で死ぬまでを経験したこと。

1回死んで帰ってきたような不思議な感覚で、ちょっと人生観が変わる感じはありましたね。しかも自分より大きな人物というか、国を背負って人民を背負って政治の世界で戦って、戦争に敗れて死んでいった人の疑似体験をさせてもらうと、今までの36歳ではいられないというか。うまく言えないのですが……。大河ドラマに出演した人にしかわからない感覚かもしれません。
では俳優としても変化が?
大きな責任を背負うことに慣れたと思います。俳優部だけではなく、ほかのスタッフとか企画全体とかを背負っていくことにドキドキしなくなったというか。

竜也くんはそういうことにも慣れていらっしゃるでしょうけど、僕の場合はプロとしてやり始めたのが23歳くらいでスロースターター。みんなに神輿を担いでもらって何かをガッと推し進めていくような経験はあまりなかったし、何だったら居心地悪く感じてしまうところがありました。正直、それは未だにありますが、そうも言っていられないというか、下半身が太くなった感じがします。

何も言わずにじっとしていても、10秒もつ役者になりたい

3年ほど前にお話をうかがったとき、「以前はやりたい演技や好きな芝居から離れられなかったけれど、30代に入ってからもっと違う色に染まりたいと考えるようになった」とおっしゃっていました。今、30代も半ばを過ぎて、いかがですか?
また今、変わってきています。(制作の方たちが)僕を使いたいと思ってくれるままにいろいろな役を演じるというよりも、そろそろ、もう少し自分がやりたい方向性や色を確立していってもいいのかなと。
具体的にはどういったことでしょう?
基本的には、感情を自然に表に出す以上にお芝居で説明することに興味がなくなってきました。今までは、外見や経験、力量含めて、自分の場合は説明しないとおもしろくなかったり伝わらなかったりということはあったと思います。

でも、『西郷どん』で違う人物として1年生きてみて、そうしなくてももつ役者になっていたいし、なってきているんじゃないかという希望も生まれてきて。
大河ドラマは幅広い層の視聴者がいるぶん、説明が必要だという考え方もできそうですが。
その必要があると思っていましたけれども、後半からは、要らなかったかなという反省も毎回していて。前半の頃にそれを目指してもできなかったと思うのですが、自分も経験を重ねながら、そういう気持ちになってきたんです。

人の心のなかって誰でも複雑ですよね? 複雑なものをあえてシンプルにして表現するのではなく、複雑なまま出しても、お客さんはわかってくれるんじゃないかなと考えるようになって。

そのためにも経験と技術をもっと磨いていかなければいけないんですけど、自分のなかできちんと落とし込めていればいいんだという覚悟がつきました。

最終的には、何も言わずにじっとしていても、10秒くらいもつ役者になりたい。生まれ持ったものもあるので、なりたいと言ってなれるものでもないですが、そういうところに一歩踏み出したい気持ちがあります。アラフォーですから。まあ、今回の役は小学生ですけど(笑)。
お芝居のおもしろさに、より目覚めた感じでしょうか。
僕だけが感じていることではなく、こういう年齢になったらみんなそうなんじゃないかな。だから先輩方のお芝居は、どんどんカッコよく素敵になっていくのでしょう。
体で表現するというお仕事上、年輪が出るというか、日々、生き方が試されるようなところもありそうです。
人間力ですよね。そういう意味で、お芝居はテクニックだけではない。

中途半端に生きていたらそれが出てしまう怖さがあるけれど、仕事のために自分を高め続けなければいけないということは、仕事している以上は高まっていくとも考えられるので、お得だなとも思います(笑)。
▲舞台『渦が森団地の眠れない子たち』で小学生役の鈴木亮平。童心にかえって、けん玉にチャレンジしてもらった。なんと一発目で、けん先に乗せることに成功! 「案外うまいんですよ」とうれしそう。さらに、大皿と中皿に交互に乗せる技を連続4回。無邪気な笑顔を見せてくれた。

語学や世界遺産、止まない好奇心。今は生物の進化が気になる

そのためにも日々、さまざまなインプットをされているかと思いますが、最近ハマっていることは何ですか?
大河が終わってから映画を2本撮って、普段の時間はけっこう燃え尽きてダラダラと過ごしていたのですが、2本目の映画が終わってからはまた以前のアクティブさに戻りたくなり、今、いろいろな人に会ったり、将来のビジョンを語ったりしています。

あと、生き物が好きなのですが、最近では進化や遺伝子のことが気になっていて。進化って、科学で説明されているものでは、僕はどうしても納得できないんです(笑)。とくに虫や深海魚を調べていくと、たかだか何十億年で、突然変異の繰り返しでこんなものが生まれるのかな?と。生物の神秘、多様性に、すごく興味があります。
亮平さんは英語やドイツ語が堪能で、世界遺産にも詳しく、手品もできて、多彩な印象です。勉強を始めたのはいつ頃から?
俳優を志し、大学に行くという名目で東京に出てきてからかもしれないです。始めたのが遅いぶん、いろいろなことをやりたい、やらなきゃ!と思ったんですよ。

で、映画の街である調布に住み、映画関係者が来そうなお店でアルバイトして。そうしたら、店長がマジックにハマり出して「お前もやれ」と言われ、たしかにやっておいたらオーディションに役立つかな、と。

英語は以前から好きだったのですが、プロフィールに「英語が好きです」と書くだけではダメだなと思い、「英検1級」と書いちゃってから猛勉強しました(笑)。
すべて、俳優業のためだったんですね!
初めはそうです。ただ、それで癖がついたというか好奇心に火がついたというか。旅行が好きだったから世界遺産とか、そういうふうにのめり込んでいきました。周囲からは変人扱いされますが、変人で何が悪い、変人でいいじゃないか、と(笑)。変人であることを良しとした瞬間というのが、役者を目指した瞬間かもしれません。

不思議なもので、“変人な部分”を何個か持っていると、人には多彩に見えるようです。でも、じつはすごくバランスが悪くて、知らないことは何も知らないし、数学が苦手だから、みなさんがお仕事で使うような資料の数字やグラフを見ただけで「うっ」となるんですよ(笑)。
鈴木亮平(すずき・りょうへい)
1983年3月29日生まれ。兵庫県出身。A型。2007年に『椿三十郎』で映画デビュー。2018年のNHK大河ドラマ『西郷どん』では、西郷隆盛役で主演を務めた。近年の出演作に、映画『TOKYO TRIBE』、『俺物語!!』、『海賊とよばれた男』、『忍びの国』、『羊と鋼の森』、ドラマ『花子とアン』、『天皇の料理番』、『宮沢賢治の食卓』、舞台『ライ王のテラス』、『トロイ戦争は起こらない』ほか。11月8日から映画『ひとよ 一夜』が、2020年に映画『燃えよ剣』が公開予定。

出演作品

舞台Sky presents『渦が森団地の眠れない子たち』
[東京公演]10月4日(金)〜20日(日)新国立劇場 中劇場
[鳥栖公演]10月26日(土)、27日(日)鳥栖市民文化会館 大ホール
[大阪公演]10月29日(火)、30日(水)森ノ宮ピロティホール
[名古屋公演]11月1日(金)〜4日(月・祝)御園座
[広島公演]11月7日(木)〜8日(金)JMSアステールプラザ大ホール
[仙台公演]11月16日(土)、17日(日)多賀城市民会館大ホール(多賀城文化センター内)
https://horipro-stage.jp/stage/uzugamori2019/
作・演出:蓬莱竜太
出演:藤原竜也、鈴木亮平/奥貫 薫、木場勝己/岩瀬 亮、蒲野紳之助、辰巳智秋、林 大貴、宮崎敏行、青山美郷、伊東沙保、太田緑ロランス、田原靖子、傳田うに

サイン入りポラプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、鈴木亮平さんのサイン入りポラを抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
ライブドアニュースのTwitterアカウント(@livedoornews)をフォロー&以下のツイートをRT
受付期間
2019年8月5日(月)12:00〜8月11日(日)12:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/8月13日(火)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから8月13日(火)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき8月16日(金)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
  • 複数回応募されても当選確率は上がりません。
  • 賞品発送先は日本国内のみです。
  • 応募にかかる通信料・通話料などはお客様のご負担となります。
  • 応募内容、方法に虚偽の記載がある場合や、当方が不正と判断した場合、応募資格を取り消します。
  • 当選結果に関してのお問い合わせにはお答えすることができません。
  • 賞品の指定はできません。
  • 賞品の不具合・破損に関する責任は一切負いかねます。
  • 本キャンペーン当選賞品を、インターネットオークションなどで第三者に転売・譲渡することは禁止しております。
  • 個人情報の利用に関しましてはこちらをご覧ください。
ライブドアニュースのインタビュー特集では、役者・アーティスト・声優・YouTuberなど、さまざまなジャンルで活躍されている方々を取り上げています。
記事への感想・ご意見、お問い合わせなどは こちら までご連絡ください。