アクセラレータに出会わなければ、今の岡本信彦は存在しない。

ひとつの役との出会いが、その先の自分を形作る──声優として生き抜くためにはどうすればいいか、冷静に自己分析する岡本信彦。

キーとなるのが、今から11年前に出会ったアクセラレータだという。『とある魔術の禁書目録』に登場する人気キャラクターだ。

「アニメ作品に出演したい」という純粋な思いだけでやっていけるほど、声優業界は甘くない。だからこそ岡本は「自己ブランディング」に注力している。

アクセラレータに代表される狂気をはらんだ芝居は、この先も彼が声優として歩んでいくために欠かせない大事な要素であり、「より濃くしていきたい」という言葉には切実さが込められていた。

撮影/祭貴義道 取材・文/とみたまい 制作/アンファン

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▲アクセラレータ(声/岡本信彦)。
学園都市第1位の超能力者。線が細く中性的な見た目、戦闘で見せる残虐さ、ラストオーダー(声/日高里菜)とのやり取り……。多くの矛盾や葛藤を抱えたキャラクターに岡本の狂気的ともいえる独特な声が乗ることで、アクセラレータの“異質さ”が、より色鮮やかに浮かび上がる。

声優・岡本信彦としてのブランディングの原点

『とある魔術の禁書目録』第1期のTVアニメが始まったのは約10年前。当時22歳の岡本さんが演じたアクセラレータは視聴者に強烈な印象を与えましたが、以降の岡本さんの声優人生において、その影響は大きいのではないでしょうか?
本当に大事な存在というか、アクセラレータを演じなかったら、僕は好青年の役をずっとやり続けていたのかもしれないと思うんです。

ある先輩に言われたのが…20代はお試し期間で、30代は「自分はどういう求め方をされるのか」を探っていく。40代からはその「求められていること」を研ぎ澄ませていく。つまり、ブランディングです。その40代からのブランディングの土台を作るのが20代、30代であると。

そういう意味で、僕は20代でアクセラレータという役に出会ったおかげで、40代に向かっての道が少なからず見えてきたのかな?と思います。
たしかに狂気や怒りを爆発させるキャラクターは岡本さんの持ち味という印象です。
そうなんです。僕、実生活で怒ったことってほぼないんですけど(笑)。怒号に至っては一生に一度もない。ですが、怒号や「クソ」、「死ね」のオンパレードっていうのが僕に求められている部分だとすると、原点はアクセラレータなのかなって思います。
当時は、そうなるとは思っていなかった?
当時の僕は、『ゴーストハント』のジョン・ブラウンや『sola』の(森宮)依人のような優男と、アクセラレータのようなクレイジーなキャラクターと、両方やれたらいいなと思っていたんですが…。

まぁ、今はほとんど優男の役がないので(笑)。やっぱりクレイジーなほうが求められてるんだなと思います。

20代の頃は「この役は岡本だろ?」とか「また岡本、こういう役かよ」みたいに思われるのが嫌でしたが、考え方によっては、それって大事だなって最近思えるようになってきて。だから今、アクセラレータをやるときも「これをどんどん濃くしていこう」と思うんです。そうすることが、自分のブランディングになるんじゃないかと思っています。

ヒース・レジャーに学んだ、狂気と“気持ち悪さ”

そんなきっかけになったアクセラレータについて改めて振り返っていただきたいのですが、オーディションではどういった部分を意識しましたか?
僕は元からクレイジーな役が好きだった記憶があるんです。「このキャラいいな」って思うのは、『バットマン』のヒース・レジャー(ジョーカー役)とか『シャイニング』のジャック・ニコルソン(ジャック・トランス役)とか、どこかおかしいキャラクターなんです。

たとえばヒース・レジャーさんのジョーカーは、狂気はもちろんあるんですが、狂気とはまた違った“気持ち悪さ”があって。それってどこから出てくるかというと、「人が不快になる音」を多用しているんですよね。笑うときにリップを混ぜる“クチャクチャ音”とかが、気持ち悪さの原因なんじゃないかって思うんです。
たしかに、ヒース・レジャーのジョーカーは不気味なところがありますね。
音の出し方のほかにもいっぱいあって。

たとえば、爆破する予定だったビルが、バットマンのせいで爆破されなかったシーンがあるんですが、台本には「悔しそうに見ているジョーカー」みたいなト書きが入っているはずなんです。でも、ヒース・レジャーさんはアドリブでニターって笑って拍手した。それを観て「狂気って、予想だにしないところからくるものがいいんだろうな」って思ったんです。

そういったお芝居が好きで、ずっと自分の心に残っているということは、どこかしら、そういう役を求めている自分がいたのかなと思います。なので、『とある魔術の禁書目録』のオーディションも「こうやったら気持ち悪くなるんじゃないかな?」と思いながら受けに行った記憶があります。
アクセラレータの“気持ち悪さ”はどのように表現したのでしょう?
アクセラレータのセリフって、「なンだ?」とかって、急にカタカナが入るんです。「なんだ?」だったら「ん」の音が普通に消えますが、アクセラレータの場合は「ン」(喉に引っかかるような音を実演しながら)に“ドライブ”を入れるようにしているんです。ドライブっていうのは歌の手法なんですが、そういったところを意識していました。

あとはもう、オーディションから全開でギャハギャハやっていました(笑)。まぁでも、役者はみんなクレイジーな役って好きだと思うんです。普通じゃないからこそお芝居が楽しいし、非現実を演じることが楽しいので。
クレイジーにもいろんなクレイジーがあると思うのですが、アクセラレータの“クレイジーさ”はとても複雑な印象です。
そうなんです。第1期であんなにバンバン殺しておいて、第2期で「じつはあまり殺したくなかった」って…。「えー!」ってビックリしました(笑)。それで、「どうしようかなぁ?」と思って。

ただ、僕も“自分から気持ち悪くなりにいっていた”というか、「殺人鬼になるんだ!」っていう意識で、無理やりスイッチを入れていたところがあるので、アクセラレータの心境とも整合性はとれるかなと思って演じました。
改めて思う、アクセラレータの魅力とは?
『とある魔術の禁書目録』第1期では単純に狂っていて、最強だけど負けるときは豪快に負けたりと(笑)、すごく爽快ないいキャラクターだなって思いましたが、『とある魔術の禁書目録』第2期の「じつはあまり殺したくなかった」が出てからは、かわいいキャラへと変貌を遂げたと僕は思っていて(笑)。

自覚がない純粋な悪ってあると思うんですが、アクセラレータはどっちかというと「悪になろうとしている悪」みたいな感じで。まぁ、「自分は悪だ」と言ってますけど、悪の美学で人を守ったりとかもするんで、複雑ですよね(笑)。そういったところがかわいさとして映るので、今はもはや“かわいい”キャラクターです。

血管が切れそうになるほど、喉への負担が大きい

アクセラレータといえば名言がたくさんありますが、苦労したセリフなどはありますか?
「木ィィィ原くゥゥゥゥゥゥゥゥン!!」(『とある魔術の禁書目録』第2期21話)は苦労した気がします。あと、「くかきけこかかきくけききこかかきくここくけけけこきくかくけけこかくけきかこけききくくくききかきくこくくけくかきくこけくけくきくきくきこきかかかーーーーーッ!!」(『とある魔術の禁書目録』第1期14話)の最後の「かー!」も血管が切れそうで…。

ときどきあるんです、血管切れそうなとき(笑)。「なんか血管切れそうだなぁ」って。ははは!
以前『殺戮の天使』のインタビューで「アクセラレータを演じることでヘッドボイス(息漏れしない裏声)が出るようになった」とおっしゃっていましたが、ほかにもアクセラレータを演じていて特徴的なことはありますか?
ディレクターさんから「掠れ(かすれ)こそアクセラレータ」って言われたんです。

金切り声というか、音にならない音…要するに喉を痛めつけているような音なんですが、「それこそがアクセラレータだよな。普通のキャラクターだったら、あれはOKが出ない」っておっしゃっていたので、そういうところにもアクセラレータの魅力があるのかもしれないです。普通じゃ聞けない音があるのでは?って思いますね。
毎回喉に負担がかかる収録で大変そうですね…。
大丈夫なときと大丈夫じゃないときがありますけど(笑)。アクセラレータの場合は、鼻とこめかみあたりの血管が切れそうになります。身体にかなりダメージはあるだろうなって思います(笑)。でもアクセラレータって、それくらいやらないとできない役なのかなとも思うんです。

普通だったら、喉をあれだけ使うのは仕事柄怖いかもしれないけど、本番になったら「やんなきゃ!」って思っちゃうんです。僕は人よりも喉は強いほうですが、いつか蓄積された何かが一気に出るんじゃないかって心配ではあります(笑)。
20代から蓄積されたものが…。
そうです(笑)。というのも、先輩たちによく言われるんですが、役者って28歳から32歳が一番の黄金期らしいんです。変化のときでもあり、自分のことを理解できるようになってきて楽しい時期がこの4年。と同時に、それを過ぎた途端に「身体の衰えを感じる」と。

20代は勢いでいけて、30歳を過ぎても2年間くらいはまだその余力でいけるらしいんですが、それ以降はもう通用しないよってみなさん言うんです。だいたい一度は身体を壊すって。だから僕も怖いです(笑)。

チャンピオンではなく、挑戦者であり続けないといけない

今回アクセラレータを演じる際に、約10年前に演じていたときとの体力的な違いなども感じますか?
感じます。『とある魔術の禁書目録』第1期の頃より叫びやすくはなったんですが、前はいくら叫んでもダメージがなかったのが、今は喉が痛いっていうよりは、もう、全身が疲れてます(笑)。

今回アニメ化される『とある科学の一方通行』ではアクセラレータが主人公ですし、第1話はわりと落ち着いた感じの描写が多かったので、余裕を持って演じたんです。2話以降もそんな感じでやっていたら、「主人公しすぎ」というディレクションを受けまして。チャレンジャーのお芝居じゃなくて、チャンピオンのお芝居をしてしまったというか。なので、2話以降はもう1段ギアを上げてがんばった結果、やっぱり疲れが出ました(笑)。
「主人公しすぎ」とはどういうことなのでしょう?
主人公にもいろいろあると思うんですが、今回のアクセラレータで僕がやっちゃった“主人公芝居”は、“何があっても動じない主人公”。強大な敵がやってきてボコッとやられても、(落ち着いた口調で)「……痛かったな」みたいな感じでやってしまって(笑)。

でも、アクセラレータはそうじゃなくて、(アクセラレータの口調で)「痛かったなァ!」ってやらなきゃいけない。挑戦者でいかなきゃいけないんです。
そこが今回、大事にして演じられている点でしょうか?
とはいえ、アクセラレータ自身が『とある魔術の禁書目録』第1期の頃から変化してきているので、落ち着かなきゃいけないとも思っていて。そのバランスが難しいなと思います。
しかも今回はイケメン的な感じですもんね。
そうなんです! 周りに女の子も多くなるので、「こんなアクセラレータ…いるんだ…」って思いましたもん(笑)。

セリフの意図を考えすぎてはいけない、と再確認した

最近の収録で大変だったシーンはありますか?
ラストオーダー(声/日高里菜)が言った「つぶつぶザクロジュース」という言葉にアクセラレータが「!」って反応して、「つぶつぶ?」って聞くシーンです。アクセラレータの問いに対してラストオーダーが「つぶつぶ」って答えて、アクセラレータがまた「つぶつぶ?」って聞いて、「つぶつぶ」「つぶ?」「つぶ」って掛け合うんですけど、最初はぜんぜん意味がわからなくて(笑)。

事前に、台本を読んで自分なりに2線考えました。ひとつは、つぶつぶザクロジュースで思い出す敵がいて「そうだ、アイツのところに行ってやるぜ」みたいになった、という線。

もうひとつは、その掛け合いの前にラストオーダーの「冷静に考えてみると」っていうセリフがあるので、ラストオーダーが冷静に考えたら危険なところへ行っちゃいそうだったから、つぶつぶザクロジュースで思考を逸らしたんじゃないかっていう線。
正解は、どっちだったんでしょうか?
「どっちも違う」と(笑)。「人間誰しも“つぶつぶトーク”したくなるじゃん」と言われて、「なります…ね? いや、なりますなります!」って、つぶつぶトークしました。そこはもう、つぶつぶトークに興じました(笑)。
(笑)。わからない部分は、そうやっていつも自分なりのストーリーを考えていく?
3線、4線、少なくとも2線以上は持っていくようにしているんですが、たまに10線ぐらいあるときは「どうしよう?」って思います。
10線も…! 考え抜くことが習慣になっているのでしょうか?
「誰が、誰に、何を、いつ、どう言ったか」みたいな台本の読み方って、20代前半だとわからなかったし、わかったとしてもマイク前に立つと忘れがちなんです。冷静になれずに、がんばっちゃうから忘れるんですけど。

そこからだんだん現場に慣れてくると、台本が読めるようになってきて、「誰が何の意図で話しているか」など、いろんなベクトルが見えてくる。そのうちに、声の音に情報が乗るようになってくるんです。

まぁでも、今回は2線考えて持っていったら両方違ったので、「これは考えすぎてしまっているな」と。「読解しようとしちゃいけないところが、アニメにはあるんだ!」と再確認しました。
『とある科学の一方通行』のアニメ化ということで、楽しみにしているファンも多いと思います。
「監督はこれを、狂った者同士の戦いに…したいのかな?」って思うくらい(笑)、アクセラレータのほかにも狂ったキャラクターがいっぱい出るんです。

第1話で出てくるアニメのオリジナルキャラクターも、「もっと狂ってください」とディレクションされていて。ガヤやモブの方たちも「ヒャハハハ!」って言ってて、かなり狂ってるんです。もうホント、“ヒャハハ祭り”になっているので(笑)、純粋に楽しんで観ていただけたらうれしいです。
アクセラレータという役を通して20代から現在にかけての声優・岡本信彦についてお話を伺ってきましたが、30代はどんな方向に進んでいきたいと思っていますか?
僕個人としては、好きなことをやりつつ、やっぱりアニメに出たいです。マイク前でみんなとお芝居するのが好きで声優になったので。

ただ、今の声優業界はかなり複雑な構造になってきているので、純粋に「アニメにたくさん出たい!」っていう気持ちだけではなかなかうまくいかないところもあって…僕より若い子たちなんか、もっと難しい状況にいると思うんです。

なので、極端な話、声優であるための近道のひとつとして、自分でアニメを作ったほうが早いんじゃないかって、最近は思うことがあります。
自分で作る!?
「そうしたら、声優でい続けられる」っていう逆転の発想みたいな(笑)。「そのためには、どこに出資したらいいんだろう?」って、想像を膨らませたりもしています。
岡本信彦(おかもと・のぶひこ)
10月24日生まれ。東京都出身。B型。2006年に声優デビューし、翌年『sola』(森宮依人)で初主演を果たす。主な出演作に『青の祓魔師』(奥村 燐)、『ハイキュー!!』(西谷 夕)、『暗殺教室』(赤羽 業)、『僕のヒーローアカデミア』(爆豪勝己)、『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』(ギアッチョ)など。

「2019夏のアニメ」特集一覧

出演作品

TVアニメ『とある科学の一方通行』
7月12日(金)よりAT-X、TOKYO MX、MBS、BS11、AbemaTVほかにて、毎週金曜に放送
https://toaru-project.com/accelerator/
©2018 鎌池和馬/山路新/KADOKAWA/PROJECT-ACCELERATOR

サイン入りポラプレゼント

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応募方法
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受付期間
2019年7月8日(月)18:00〜7月14日(日)18:00
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  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから7月16日(火)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき7月19日(金)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
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