「この街での発砲事件は、遊園地のアトラクションみたいなもの」歌舞伎町の賢者に街の“今”を聞く

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チンピラ芸人ペンギンズが大都会・新宿の夜の住人たちをインタビューし、街の魅力を特濃濃縮還元でお届けしていく街レポ企画第1弾。

ふたりが今回訪れたのは、言わずと知れた日本一の歓楽街「歌舞伎町」だ。

歌舞伎町――今年1月にも銃殺事件があったばかりの、危険な空気に満ちた夜の街。ペンギンズはチンピラとして“ワル”に磨きをかけるべくこの地へ足を踏み入れたのだが、偶然、街の表も裏も知る“賢者”たちと出会い、今、歌舞伎町が大きな変革の時期を迎えているのを知ることになる。

大資本による再開発、ヤクザの締め出し、止まらない観光地化…。歌舞伎町の現在、そして未来はどうなるのか? 現場の声をお届けしよう。
出演/ペンギンズ
撮影/水上俊介
文・構成/飯田直人(livedoorニュース)
デザイン/桜庭侑紀
取材協力/SUZU BAR、寺谷公一
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オイついにカチ込むぞ歌舞伎町ゥ!
やっちまおうぜアニキィ!!片っ端からシメんぞコルァ!
――彼らがなぜ歌舞伎町へカチ込むのか、説明しよう。

ペンギンズは不安なのだ。最近、テレビへの出番が少ない。「芸を磨け」と言われるが、何をすればいい? わからない。焦りだけが募る。

しかし黙って座っているわけにはいかない。ふたりは着実に、できることからやろうと決意した。

そして最初に思いついたのが「ワルを磨くこと」。今回はそのために歌舞伎町に来たのだ。この街の猛者どもを、残らずシメあげるために…。
オッパイいかがですか!
しかし突然、露骨にいやらしい誘い文句が、闘志に燃えるペンギンズの耳を奪い去った。
オッパイ!
いかがで〜しょうか?
テメェ、キャッチ! アニキに気安く声掛けてんじゃねえぞ! 風営法違反じゃねえのかコラ!
まあ話くらいは聞いてやれ。
話してみろや! 相手がアニキで良かったな! アニキは給料が入るとまず風俗に行ける回数を計算するってくらいの風俗好き…
余計なこと言うんじゃねぇよ。
すみませんでしたぁー!!
で? キャッチのにいちゃん、オレは一筋縄ではいかねぇぜ?
ウチのサービスを他と一緒にされちゃ困りますよ! 最強コスパのポッキリ3000円、もみ放題、なめ放題、吸い付き放題でいかがでしょう?
さ、3000円で…? おほ…おほほ…。
ノブオ、よだれを拭け。
へへ…へへへ…。
おまえ、去年に自分の子どもと一緒に本出したんじゃねぇのか? 親として恥ずかしくねえのかよ?
はっ! そうだった! き、聴こえる…エマちゃんの声が…。
どっか行けキャッチこらぁ!!『ノブオのこつまみ』、主婦の友社から絶賛発売中ぅぅ!!
さらっと宣伝入れ込んでんじゃねぇよ。次の場所いくぞ。
キャッチの誘惑に打ち勝ったペンギンズは、街の散策を続けた。
大通りから、細い路地へ、そしてまた大通りへ。光り輝く看板を眺めながら、歌舞伎町を隅々まで見て回る。

しかし、“ワル”はどこにいるんだ? 通りは人でにぎわっているが、見掛けるのは外国人観光客やサラリーマン、大学生に女子高生…ワルそうなやつは、まったくいない。
「チャラついたホストの店に殴り込むか?」
「やっちまおうぜアニキィ!」
いよいよシビレを切らしたふたりが息巻いていたところ、新宿随一の名物男が姿を現した――。
アニキ! なんすかあの人! 超派手! ペンギンズのキャラがかすむっす!!
おお、タイガーじゃねえか。まだこの街にいたんだな。
えっ! 知ってるんすか?
あたりめえだ。奇人に見えるが、あいつは男の中の男だぞ。新聞配達員として40年以上、あの格好で真面目に仕事をしてるんだ。
新聞配達員?? なんであんな格好してるんすかね?
たしか「新宿の街を明るくするため」って何かのインタビューで言っていたな。だけど、実際どうなのか、話したことはないから、くわしくは知らねえな。
話してみたいっす!!
行ってみるか。
こんちわー!!あの、どど、どうして、貴殿はそのような格好をされてるんでしょうか?
微妙にビビって萎縮すんな。
まあ君たち、これを見なさい。
てめぇ勝手に自分の宣伝してんじゃねぇよ!
お前もさっき勝手に自分の本の宣伝してたろ。
ノブオくん、気が合うね。じゃあ、元気でな。
え、もう行っちゃうの!? マイペース!
夜遊びはほどほどにしろよ〜!
なんだったんすかね、あの人…。
どうも今日は調子が狂うな…。おいノブオ、とりあえず、どっかで落ち着いて酒でも飲むか。
はい! アニキが行きたいとこなら墓場でも、地獄でも、トイレの中でも!!
気が散るとうんこ出なくなるタイプだから、トイレはやめてくれ。
すみませんでしたぁー!!
とりあえず「ゴールデン街」に来てみたが...。お、ここは落ち着いた雰囲気で入りやすそうだ。この店にしよう。
昭和の空気を今に残す飲み屋横丁ゴールデン街。アニキが選んだのは、ゴールデン街には珍しいオーセンティックなバー「SUZU BAR」だ。扉を開けると、店内にはマスターの中島大渡さんと、常連の寺谷公一さんがいた。この二人こそ、今回ペンギンズが出会った“賢者”である。歌舞伎町の表も裏も知るふたりからはどんな話が聞けるのか...。本題はいよいよここからだ。
右/中島大渡(なかじま だいと)
1985年生まれ、東京都新宿区出身。一般企業を退職し、4年程前からSUZU BARのマスターを務める。週に1度はジムに通い、太りすぎないように気をつけている。

左/寺谷公一(てらたに こういち)
1965年生まれ、東京都新宿区出身。日本全国の繁華街に詳しいフリーのジャーナリスト。歌舞伎町コンシェルジュ委員会を主宰、歌舞伎町公式のホームページやフェイスブックページの運用なども受託している。
いらっしゃいませ。お飲みものはいかがいたしましょう。
オレンジジュース!
薄めのハイボール。
酒弱いからって笑ってんじゃねぇぞ!
誰も笑ってねぇよ。しかしよぉマスター、俺たちは“ワル”を磨くために歌舞伎町に来たんだけど、思いのほかワルそうなヤツは街に少ねえんだなって思ったぜ。どうなってんだ?
ははは。そういう感想のお客さん、けっこういますね。海外からの観光客は特にそうですけど、歌舞伎町は実際以上に危険でカオスな世界だと思われてるみたいですね。
「ヤクザが見当たらない!」って驚く人、いるよね(笑)。
そりゃそんな絵に描いたようなヤクザは、今どきねぇ(笑)。「歌舞伎町にありそうなもの」ってたぶん、実際はほとんどないですよ。
いやいや! この前あったろ!発砲事件!(※ここでいう「発砲事件」とは、2019年1月21日、カラオケ店で元暴力団員の男性が左胸など3ヶ所を撃たれ死亡した事件のこと)
あったね。でもあれは別に抗争とかじゃないからね。週刊誌でも報道されてたけど、犯人の男は自分の女を寝取られて逆上してた、っていうだけの話でさ(笑)。しかも、犯人が別件で刑務所に入っていた間の出来事で、殺された方の男は女に麻薬を打って、いわゆる“キメセク”を楽しんでいたという、コテコテのストーリー。
その辺の経緯は、事件発覚から30分くらいでもう僕ら街の人間にはだいたい伝わってましたね。なんかもう、ほっこり心が和む話ですよね(笑)。
どういう感覚なんだよ! あの日近くでちょうどライブだったから、アニキ怖がってプルプル震えてたぞ!
だってこえーだろ! もしかして、発砲事件って日常茶飯事? 報道されてないだけで、もっと頻繁に起きてたりするのか?
いやいやそれはないよ(笑)。マスターがほっこりしたっていうのはさ、「男が女のために命張る」みたいな、歌舞伎町での“あるある行動”を久々に見たなーってことでしょ?
なんだそうか俺はてっきり…。
まあ、「歌舞伎町らしさ」みたいな幻想が世の中にはあるよね。ワルいヤツがいっぱいいて、薬物がそこら中にあって、銃弾が飛び交ってて…みたいな。
僕らはよく「歌舞伎町は大人のテーマパークだ」みたいな言い方をしてます。ネオンが光ってて、いろんな楽しいショーがあって、これってディズニーランドと一緒じゃないですか? ある意味、1月の発砲事件だって、歌舞伎町にあるべきひとつのアトラクションみたいなものだと思うんですよ。
ははは。まあ、そう言ってもいいかもね。
アトラクションで人死なねぇだろ!
肝が座ってんなぁ…。
でも昔はちゃんとヤクザもいたんですよね? それこそペンギンズみたいな格好の、いかにもチンピラというような人たちとか。
君たちみたいな格好だったかはともかく(笑)、もちろんヤクザはいたよ。今もまったくいないわけじゃない。年寄りが多くなって、あまり目立たくなってるけどね。まあやっぱり「暴力団対策法」が出来たのが大きかったなあ。
時代が変わったんだな…。他に何か街の変化ってあるかい?
ヤクザに対する締め付けが厳しくなったのと多少は関係があると思うんだけど、以前は4、5軒あったマクドナルドが今は1軒に減ったね。
ヤクザはハンバーガー大好きだもんな!
たぶん違ぇよ。
100%断言はできないけど恐らく、風俗の店舗経営が難しくなったからかな。無店舗型の風俗が前より増えて、客との待ち合わせでマックが使われるようになって、客単価が下がったから潰れた。そんなふうに俺は見てるよ。
「風が吹けば桶屋がもうかる」の逆だな。
変化といえばあとは、これはどこの街にでも言えることかもしれないですけど、観光地化が目に見えて進んでますよね。海外からの観光客はここ数年でかなり増えました。それが嫌で店を辞めちゃう人とかもいるくらいです。
へえ? 客が増えるなら店にとっても良くない?
英語しゃべれないと困るじゃないですか。それに店の雰囲気が変わるから常連さんが来にくくなるっていうのもあって、働いてる身としては寂しい思いもしますよね。自分の居場所なのにアウェーみたいな状況になると。
常連がクダ巻いてだらだら喋ってるみたいな、そういう居心地の良さはなくなってくるよね。でも、だからといって今後どうしようみたいな対策とかって特にないよね。
まあ自分も含めて、この街の人間は後先1週間くらいのことしか考えないですからね。毎日酔っ払っちゃてるからあんま記憶ないし(笑)。
オレも一緒一緒(笑)。
しょうもないとこで同調するなよ。
酔っ払っているからってだけじゃなく、この街の人間は過去にあんまりこだわらないところがあるね。人を雇うときにも履歴書の確認をまともにしない店はザラだし、そもそも履歴書を出す必要すらなかったりする。だから過去に罪を犯していたり、いろんな事情を抱えて、本名と違う名前を使って働いてる人がそれなりにいる。過去に意味はないんだよなあ、この街じゃ。
たしかに、そういうところありますね。
これって良く言えば、「人生のリカバリーが利く場所」だよね。決して世間に胸張れるようなことでもないと思うけどさ。
自分は前科とかないですけど、そういう“ゆるい”街だからこその居心地良さは感じますね。
マスターは歌舞伎町で働いてて、何かトラブルに巻き込まれたこととかないの?
ん〜、そんなに困ったことはないですね。面倒な客はたまにいますけど。
お、たとえばどんなのがいる?
まあ一番面倒だったのはうちの両親ですかね。ふたりとも速攻で出禁にしました。
親に厳しいな!
いや、冗談にならないくらい仕事の邪魔だったんですよ(笑)。両親は離婚してるんで別々に来ましたけど、母親は居合わせた客全員に「ウチの息子を! よろしくお願いします!」ってうるさかったし、父親は「あそこの席の女子を落したいからお前、アシストしろ」って耳打ちしてきたりして…。
本当に迷惑でした。
しばらく話してて、歌舞伎町の独特な人情味みたいなのがわかってきたな。
“寛容さ”と“無関心さ”が共存してるって感じだよね。
無関心さ、ありますね。古参のおじいちゃんとか、話しているうちに熱くなると大体何言ってるのか理解できなくなってくるけど、僕もよく「まあいいや」って聞き流してしまいます(笑)。
でも同時に、「言っていることの意味はわからないけど、何かが通じ合ってしまう」という不思議な感覚もあって…何なんですかねあれ。
知らないよ(笑)。でもまあ、年寄りとのコミュニケーションなんて大体そんなもんじゃないの。それに、そういうやりとりができるのも、この先長くないから大事にしてもいいよね。
この先長くないっていうのは?
歌舞伎町は昭和50-60年代にオープンした店が多くて、そこの経営者たちが大体70歳近くになってるんだ。つまり、世代交代のタイミングなんだよね。
しかも、店の事業継承がうまく行っていない店が多いから閉店する店もかなりあるだろうし、これから何年かで街の人も、景色も、かなり変わってくるはずだよ。
世代交代っていうのは前向きにも捉えられるけど、ちょっと悲しいすね…。
歌舞伎町は高度経済成長期(およそ1954年〜1973年)に発展した街だから、築50年を超えるビルもかなりある。建物も一斉に建て替えの時期が来てるよ。
2022年には新しく東急資本の大きな商業ビルも立ちますしね。かなり大箱のおしゃれなクラブも入るそうです。

▲東急電鉄と東急レクリエーションが計画している商業ビルの建設予定地。元々「新宿ミラノ座」があった土地で、今年3月末まではバンダイナムコアミューズメントが運営する「VR ZONE SHINJUKU」が営業している。

意外かもしれないけど、歌舞伎町は去年、地価の上昇率が東京都内で一番高かったエリアなんだよ。
地価が上がればテナント料も上がる。個人経営の店は続けにくくなる。大資本の後ろ盾があるチェーン店ばかりが増えやすくなる。そうすると次第に、君たちが抱いてたような「“ワル”のいる歌舞伎町」って幻想も薄れてくることになるのかな…。
僕らのネタがあんまりウケなくなってきた理由がそこにあるのかもしれないですね…。
関係ねぇだろたぶん。
そうだ君たち「ロータリー」っていうキャバレーの吉田会長に話を聞いてきたらどう? もう82歳なんだけどまだ現役で店の経営をしてる、歌舞伎町の生き字引みたいな人だよ。吉田会長からは、面白い話がもっといろいろと聞けるんじゃないかな。
ノブオ…。
ハイ!
「ロータリー」行くぞ…!
ハイ!!!!!
なになに、それ持ちネタなの? 面白いね。
入ってくんな!!
【次回予告】キャバレー「ロータリー」の吉田会長は歌舞伎町の“伝説の支配人”とも呼ばれる人物。この街で水商売ひとすじ60年以上のキャリアを誇るレジェンドが、歌舞伎町の知られざるディープな歴史を語ってくれた...!(3/29 22:00公開予定)
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