バトルシーンより人間ドラマに時間をかけたのは英断だった。TVアニメ『シンカリオン』制作陣が明かす舞台裏

今年1月の放送スタート直後から“明るいエヴァ”と評判になり、2019年の放送継続も決定したTVアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン』。「E5系はやぶさ」や「E6系こまち」など実在する新幹線が巨大ロボに変形して戦う、王道ロボットアニメだ。

「大人と子どもがともに未来を守る時代になった」(第2話より)というテーマは、子ども向けアニメの枠を超えて、幅広い世代に響く。

公式にJR各社の許諾を得て新幹線をモチーフにしているアニメは、『シンカリオン』が初めて。「鉄道は街だけでなく、人と人、時代と時代を繋いでいる」という愛のあるセリフをはじめ、丁寧な鉄道のディテール描写にリスペクトが感じられ、鉄道ファンの心も掴んでいる。ライブドアニュースでは、その本質に迫るべく『シンカリオン』特集をお届けする。

第4弾は、TVアニメを手がける池添隆博監督、シリーズ構成の下山健人、TBSの那須田 淳 元プロデューサーの鼎談をお届けする。家族のあり方にも、ロボットと比較して「何が人間たり得ているのか」という問いにも、アニメの作り方にも、正解はない。このチームだからこそ生み出された『シンカリオン』にエールを送りたい。

取材・文/千葉玲子 制作/アンファン

「シンカリオン」特集一覧

池添隆博(いけぞえ・たかひろ)
アニメーター、アニメーション監督。ウォルトディズニーアニメーション・ジャパン出身。監督作品に『SHOW BY ROCK!!』シリーズ、『プリプリちぃちゃん!!』、総監督作品に『ソードガイ The Animation』など。
    下山健人(しもやま・けんと)
    脚本家。『手裏剣戦隊ニンニンジャー』や『仮面ライダージオウ』などでメインライターを担当。シリーズ構成を担当したアニメに『武装少女マキャヴェリズム』、『つくもがみ貸します』、『デスマーチからはじまる異世界狂想曲』など。
      那須田 淳(なすだ・あつし)
      1988年TBS入社。TVドラマや映画の演出、プロデュースを多数手がける。プロデュース作品に、ドラマ『流星の絆』、『コウノドリ』、『重版出来!』、『逃げるは恥だが役に立つ』、映画『恋空』、『ハナミズキ』、『ビリギャル』など。
        第6話より、男鹿アキタ(左)、速杉ハヤト(中央)、大門山ツラヌキ(右)。

        ロボットアニメというより特撮ヒーローのようなイメージ

        『シンカリオン』のTVアニメ化は、那須田プロデューサーからの発案だったそうですね。
        那須田 『アニメサタデー630』という土曜朝の子ども向けアニメの枠で、2016年の『カミワザ・ワンダ』、2017年の『トミカハイパーレスキュー ドライブヘッド 機動救急警察』に続く企画を探しているとき、『シンカリオン』に出会いました。この枠の提供であるタカラトミーさんにご相談に伺ったとき、『シンカリオン』のプロモーション映像を観たのがキッカケです。

        日本中の誰もが親しんでいる新幹線が、カッコいいロボットに変形する。このインパクトは絶大でしたね。「ぜひTVアニメでやらせてほしい」と。
        これはいける、と。
        那須田 土曜朝の時間帯は、子ども向けだからといわず、幅広い世代が楽しめることを大事にしているんです。新幹線や鉄道という題材はうってつけ。それと、『シンカリオン』という名前がすごくいいじゃないですか。ネーミングって大事だから。

        TVアニメにするからには、すべての新幹線を登場させたいとお願いしました。新幹線は日本各地を走っていて、地元のヒーローのような感覚があるでしょう。全国どの地域のご家庭でも楽しめる番組にしたいから、JR全7社に主旨をご理解いただき、協力してほしいと。
        第7話より、シンカリオン E6こまち(左)、シンカリオン E5はやぶさ(中央)、シンカリオン E7かがやき(右)。
        第38話より、シンカリオン ドクターイエロー。
        そこで、各地から運転士が集まってくるという設定が生まれたのですね。シリーズ構成の下山さんは、もともと鉄道がお好きだったとか。
        下山 鉄道が好きというか、鉄道のCMが好きだったので。ちょっと知っているくらいです。
        那須田 謙遜されてますけど、僕らからしたら、“大てっちゃん”ですから。
        下山 いや、もっとスゴい人が大勢いますから。どちらかというと乗るのが好きだったので、『シンカリオン』は初めて自分の引き出しと重なったタイトルではあります。
        池添監督は、以前から小学館集英社プロダクションとお仕事をされていた経緯で参加されたと伺いました。
        池添 アニメ制作を手がけるSMDE(小学館ミュージック&デジタル エンタテイメント)さんとも以前からお付き合いがあって。アクションパートの絵コンテなどを手伝っていました。

        ロボットアニメの監督は『シンカリオン』が初めてです。当初、メインはアクションパートだというお話だったので、それで声をかけてもらったんじゃないかなと。
        下山 3DCGバトルで、『シンカリオン』をいかにカッコよく見せるかってところですよね。
        池添 でも実際には、いかに作品を組み立てて、視聴者にどう伝えていくのか、おふたりを通じて勉強させていただいている感じです。作品のメッセージや、「ここはこういう意図で」という話をプロデューサーの方から伺うのは初めてです。
        下山 アニメ制作ではめったにないですよね。
        池添 基本的にないですね。でも那須田さんは、プロデューサーであり演出家でもあるので。
        那須田 僕は『カミワザ・ワンダ』が始まるときにアニメ部長になったんですけど、それまでずっとTVドラマや映画を担当していました。アニメに関しては素人ですから、勝手なことを言っていたのかもしれない。
        池添 いえ、シナリオ打ち合わせが毎回勉強になります。

        思い返せば、第1話は相当迷いましたよね。わかりやすく前向きな少年の視点でいくのか、大人の視点も交えて、現実を俯瞰したシリアスな方向でいくのか。最終的には那須田さんから後者でいこう、と。
        那須田 最初から、小学生を主人公にしたいと考えていました。でも小学生がロボットに乗っていいのかっていうのは、クリアしなきゃいけない問題だと。

        昔だったら平気でやっていましたよね。でも今の時代、「アニメだから」っていうわけにはいかないと思うんですよ。基本設定に視聴者の“納得感”がないと、先へ進めない。『シンカリオン』はほぼリアルな時代設定にしていることもありますし。

        小学生が『シンカリオン』に乗って、それを送り出す親って……普通だったらやめさせたいじゃないですか。周りの大人だって、危険なことを承知しているわけでしょう。ここらへんを最初にすごく話し合ったし、その結果、納得のいく設定でスタートできたのは良かったと思いますね。
        第1話より、ハヤト。
        下山 そこは那須田さんが実写の方だってことも大きいと思うんですよ。
        那須田 視聴者が受け入れてくれるかは、TVドラマでも大事にするところ。一部の視聴者が“はじかれないように”っていうのかな。全国区で捉えたときに、誰もが納得できる設定とか、入り込みやすい要素を積んでおくと、ストレスなく観られる。
        下山 池添さんはアニメ畑出身で、僕はアニメも特撮も書いているので中間にいるんですけど、アニメ畑の人間からすると「最後は戦わせなきゃいけない」っていうところから逆算して考えるんです。『シンカリオン』に乗るまでにそんなに時間をかけていたら、バトルできませんけど、いいんですか?って話になったわけです。
        池添 本来なら『シンカリオン』のバトルをメインにもってきますよね。
        下山 そうじゃなく、第1話で『シンカリオン』に乗るまでのドラマを丁寧に尺を取って描いたのは、かなり英断でしたよね。池添さんは3DCGのアクション演出を期待して監督として呼ばれたはずが、第1話から2Dを頑張っちゃったっていう(笑)。
        池添 ホントだね(笑)。でも僕自身も、人間ドラマで見せる方向性が嫌いじゃないですし。目玉である『シンカリオン』のアクションについては、限られたバトルシーンをどれだけ盛り上げるかに集中できたかもしれないです。

        その後の話数でも、変形バンクを省略せざるを得ない状況は、けっこう心苦しくはあるんですけど。お子さんが喜ぶシーンをカットするのは、胸が痛いです。尺の配分や編集は一番苦労しているかもしれないですね。

        でもさっき、全国から運転士が集まってくる設定という話がありましたが、僕としてはまさにロボットアニメというより特撮ヒーローのようなイメージで作っていて、「ロボットアニメだからバトルにカタルシスをもってこなくては」みたいな気負いはないんです。
        第2話より、シンカリオン E5はやぶさ。

        鉄道を本当に大好きな人にも、このアニメを愛してほしい

        “納得感”を高めるために、人間ドラマだけでなく、鉄道のディテール描写もとても丁寧です。第1話が深夜の保線作業シーンから始まったことも話題になりました。
        下山 じつは、那須田さんとお会いする前の企画段階では、「鉄道ファンのためだけに作るわけではない」と聞いていたんです。「誰もが鉄道をわかると思うな」と(笑)。

        でもいざTVアニメの打ち合わせが始まったら、那須田さんのお話の中で、リアリティ、説得力が必要だと。それなら鉄道ファンも納得するくらい、ちゃんと描いたほうがいいんじゃないでしょうか、って。那須田さんが旗を振ったから、僕もそこに乗ったわけです。そのかわり、本気でやるぞ?と。
        那須田 鉄道を本当に大好きな人にも、このアニメを愛してほしいんですよね。うらやましいのよ、鉄道ファンのあの情熱が。鉄道をよく知らない人からすれば何を言ってるのかわからないことでも、わからないことを言われれば言われるほど面白い、みたいな。

        主人公のハヤト(声/佐倉綾音)も新幹線ネタでひとりで盛り上がってて、周りにはその「新幹線たとえ」は伝わってないけど、微笑ましいじゃないですか(笑)。下山さん自身もオタクの気持ちがわかるから、「好き」に力点を置いてストレートにハヤトを描けているんだと思います。
        下山 そういう意味では、僕の趣味が入っているのはツラヌキ(声/村川梨衣)なんです。第5話で、プロットになかったツラヌキの地形ネタ(※1)を初稿で書いたら、那須田さんが「面白いよ」と言ってくださって。5話目でようやく自分の色を出せたと思いました。

        僕は本来の鉄道ファンとはズレてるんですよ。地形が好きなんです。古地図とか、江戸城の城郭も好きで。で、地形から入るとやっぱり鉄道に行き着く。ロケハンのときなんか、いつも地形の話ばっかりしちゃって、池添さんに申し訳なかったなって(笑)。
        池添 写真を撮りたいんだけど、地形の話が止まらないんですよ(笑)。下山さんはツラヌキとハヤトを足したような人なんです。
        那須田 日本人が地形の面白さに気づいたのって、やっぱり『ブラタモリ』だよね。じつはスタッフのあいだでもよく、NHKのドキュメンタリーや最先端の科学を特集した番組を参考にしているんです。
        下山 人類の進化は熱かったですよね(笑)。
        那須田 作中にも豆知識を盛り込んでいますが、最近は、視聴者がバラエティだけじゃなくためになる番組を求めていると感じるんです。『シンカリオン』もそういうタイミングにうまくハマったかなと。
        (※1)江戸城のお堀があった場所へ行きその地形を確認して興奮するツラヌキの様子や、明治時代に作られた山手線が、工事を最小限にするために、地形を利用して、台地と低地の間をたくみに走行しているという知識など。
        第5話より、ツラヌキ。
        大宮の鉄道博物館をはじめ、実在の場所が作中に登場するのも楽しいです。巨大怪物体が出現する場所も、「山形県大沢駅付近」や「愛知県・中京工業地域の沿岸部」など毎回リアルです。ロケハンもかなり頻繁に?
        池添 北海道と沖縄以外はほとんど行きましたよね。四国も、瀬戸内海の大鳴門橋に行きましたし。
        下山 僕が物語に登場させる場所を提案させていただいて。
        那須田 遠くても実際に足を運んでいるんです。新幹線がモチーフだから、5分で行ける場所じゃ意味がない(笑)。長距離を一瞬で移動できることに夢がある。それで各地の視聴者が「あ、これ地元の◯◯だ」っていうのが楽しいはずなんです。でもせっかく地元がアニメに出てきたときに、「本物とぜんぜん違う」じゃダメなんですよ。視聴者をワクワクさせるにはリアリティを徹底しないと。
        下山 池添さん、ロケハンはどこが楽しかったですか?
        池添 青森と秋田が楽しかった。第4話でアキタ(声/沼倉愛美)を描いたときですね。作中に阿仁マタギ駅を出したんですけど、あらかじめ決めていたわけじゃなくて。秋田に行ったときに、「ここをアキタの地元にしよう」というアイディアが生まれたんです。
        第4話より、アキタ。

        主人公ハヤトのイメージは、『キャプテン翼』の大空 翼!?

        主人公ハヤトのキャラクター像はどのように考えていったのですか?
        池添 あまりアグレッシブなタイプじゃなく、オタクを描いてみようっていうのが最初だったと思います。でも、内にこもるというよりは協調性もあって……。
        下山 初期に出た、『キャプテン翼』の大空 翼っていうキーワードが大事でしたよね。翼くんはサッカーが大好きでしょうがなくて、ハヤトは新幹線が大好き。嫌味がないのもポイントですし。
        那須田 小学生だから、心の内側の細かな葛藤はまだそんなに広がりがないんですよね。それよりも、お父さんとお母さんはどんな人で、どんな家庭なのかが大事。「4人家族で妹がいる」というフワっとした設定だけじゃなく、ハヤトの家庭環境をちゃんと描こうと。独特なしゃべり方をする妹のハルカ(声/金魚わかな)も、絶妙なキャラクターだよね。
        下山 ハルカは、「倉本 聰のドラマばっかり観ている子にしよう」と思いついたんです。語尾に「〜なわけで」とか「〜と思われ」とついているのは、ぜんぶモノローグ。ハヤトとハルカの会話はお互いに独り言というか、会話を成り立たせようという意思があまりないのに、自然と成り立っちゃってるというか。
        池添 ハルカのセリフが常にモノローグだから、僕は彼女にヘッドホンをつけたんです。
        第17話より、妹の速杉ハルカ。
        第17話より、母親のサクラ、ハルカ、父親のホクト、ハヤト。
        那須田 『シンカリオン』を通して、家族ってどうあるべきなのか、考えていけたらと思って。ホクト(声/杉田智和)やフタバ(声/雨宮 天)のセリフで、これからは大人と子どもが一緒に未来を守っていく時代だって言うでしょう。そうやって、親子でひとつのことを一緒に考えるのが、これからの時代に大事なことだと思うんです。

        それをこのアニメでやってみたことは間違っていなかったし、今の時代にマッチしているのかなって。スタッフのみなさんが、ストーリーやセリフも含めてアニメできちんと伝わるようにしてくれたので、良かったですね。
        下山 第44話で、出水(シンペイ)(声/緑川 光)がゲンブ(声/マックスウェル・パワーズ)に「我々人類から君たち(地底人)に対し、家族とはいかなるものかという明確な回答はできないかもしれない」と言う一連のセリフがあったんです。あれが、那須田さんの問いへの、僕なりの答えです。家族にはいろんな形があるから、家族とは何かは言えないけど、っていう。
        第44話より、出水シンペイ。
        出水のセリフは、「しかしひとつ言える。おいしいものを食べたとき、我々人類はほかの誰かのことを思う。このおいしい物を、自分と違う誰かにも味あわせたいと。おそらく、それを思う相手が家族なんだ」と続きます。
        池添 フタバに対する答えでもあるのかな。
        下山 裏主人公がフタバだっていうのは、ずっと那須田さんから授けられているタスクですよね。大人の目線から見た主人公というか、彼女も子どもたちと一緒に進み続けるようにって。

        那須田さんからのオーダーは、女の子キャラに関することが多いような気がします。
        那須田 TVの前の女の子にも、ぜひ『シンカリオン』を観てほしいんですよ。鉄道やロボットと聞くと男の子のものと思われがちですが、そうじゃない。ハルカやフタバだけじゃなく、アズサ(声/竹達彩奈)や地底人側のスザク(声/渡辺明乃)にも活躍してもらって、女の子にも興味をもってもらいたくて。
        第9話より、三原フタバ。

        敵を絶対悪にしてしまうと、それ以上の物語は生まれない

        ゲンブやスザクの名前が出てきましたが、人類と敵対する存在を「地底人」に設定したのはどういった発想なのでしょうか?
        那須田 敵は、宇宙から来るか、未来から来るか、地底から来るか。だいたいそのあたりの選択肢になるわけですよ。地底にパラレルワールドが存在したかもしれないというのは、昔からよくあるSFの設定のひとつ。ラヴクラフトの小説だとか、クトゥルフ神話とか、そのあたりの発想からスタートしました。
        池添 クトゥルフ神話とおっしゃったとおり、最初は、たとえば深海魚のイメージであったり、モンスターっぽい見た目のキャラを提案していたんです。でも那須田さんからは「敵キャラも、もっとカッコよく」と。ビャッコ(声/細谷佳正)やセイリュウ(声/真堂 圭)のように、クールで存在感があるキャラクターに修正していきました。
        第17話より、ビャッコ(左)、セイリュウ(右)。
        那須田 初期設定を考えるときから、絶対悪にしたくないっていうのはありました。戦って敵を倒すだけなら、ただの悪いヤツを登場させたほうがラクなんですよ。でも、そこにそれ以上のストーリーは生まれない。『ガンダム』におけるシャアのように、カッコいい敵キャラが登場したほうが、世界観が広がるだろうなと。

        それにね、そもそも完全な「悪」も完全な「善」も存在しないわけでしょう? だから絶対悪じゃなくて、敵には敵の事情があるんだっていうふうにしたかったんです。
        池添 敵キャラにもすごく人間味が出てきましたよね。でもせめてゲンブくらいは、ああいう造形にしたかったんです。ゴツゴツしていて怪物っぽい見た目というか、ほかのエージェントのように洗練されていないキャラも登場させたかったので。
        下山 ゲンブは愛されポジションになりましたよね(笑)。
        池添 あえて無骨な感じを意識したのですが、役者さんのお芝居もあいまって、結果的に視聴者から愛されて良かったです(笑)。
        第43話、第44話あたりでゲンブとの対話が描かれましたが、ああいった外見のキャラクターが、あのしゃべり方で「シンカリオン……良いものだ……」とつぶやくと、なんともいえない説得力がありました。
        池添 役者さんご本人はスラスラ話しているつもりらしいのですが、あのしゃべり方がとてもマッチしましたよね。ゲンブの石化までの流れはつらいエピソードになってしまいましたが……。
        下山 敵との対峙をどう表現したらいいのかは、本当に悩ましいところ。戦うのがいいことだとは僕も決して思わないですけど……戦うことから逃げられないバトルアニメ、ロボットアニメを作り続けるうえで永遠のテーマですよね。
        那須田 特撮ヒーローでもウルトラマンでも、作品の土台になる設定がきちんと作られているから、思う存分戦うことができるんじゃないかな。ボクシングだって、ルールがわかっているから、「どちらが勝つか」というハラハラはありつつ、安心して観ることができる。

        アニメにおいては、ちゃんとストーリーを背負わせることだと思うんです。そうすれば、カッコよく美しく戦う『シンカリオン』の姿を楽しんでいただくことができるはずです。
        第44話より、ゲンブ。
        ストーリーを背負わせるということで言えば、敵だった存在をも受け入れようとするハヤトの姿勢がやっぱり特別だと思うのですが、どのくらい先を想定してキャラクターを作っていたのでしょうか。
        下山 第34話あたりから、勝手にハヤトが先に行き始めたのを感じました。キャラクターが僕の考えとは違う方向に動くというか。
        那須田 「好き」と「対話」というキーワード。どこに解決の糸口をもってくるのかは、下山さんがこのふたつに力点を置いてくれたことで、見えてきたんじゃないのかな。
        下山 さっき大空 翼の話をしましたが、ハヤトは「好き」が一番強いキャラクターだっていうのは最初からありましたよね。そんなハヤトが、「ブラックシンカリオンとどう向き合うんだろう」と考えたときに、「ブラックシンカリオンを倒すのは好きじゃないだろうね」って話が出て。ある瞬間に、ハヤトがひとりでに1歩、2歩、踏み出して。

        そこからは、僕の中で「ハヤトはこうは言わないだろうな」、「ハヤトだったらこうするだろうな」っていうのが自然と定まっていった感じです。
        第18話より、ブラックシンカリオン。
        今思えば、1〜4話あたりを構築しているときに那須田さんから授けられた宿題をずっと考え続けていくうちに、たどり着いたような気もします。
        那須田 宿題ということでいえば、今後、シャショット(声/うえだゆうじ)にもいろいろと背負わせていくことになると思います。シャショットは優れたAI(人工知能)ですが、人間とアンドロイドを比較して「じゃあ何が人間たり得ているのか」を問うのはSFの普遍的なテーマ。これだけAIが身近に存在している今だからこそ、改めて考えながら観ていただけたら、と。家族への問いと同じで、きっと答えはないんだけれども。

        この宿題も、きっと下山さんが面白いシナリオにしてくれるはずです。
        下山 僕は那須田さんからの宿題を文字にしながら、内心、「これ、画でどう表現するんだろうな?」といつも思っているんですけど。一番苦労されているのは池添さんですよね?
        池添 ふふふ。頑張ります!
        第17話より、シャショット(左)、ハヤト(右)。

        「シンカリオン」特集一覧

        アニメ作品

        TVアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン』
        TBS系全国28局ネットにて、毎週土曜あさ7時より放送中
        http://www.shinkalion.com/

        ©プロジェクト シンカリオン・JR-HECWK/超進化研究所・TBS

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