年齢を重ねると背負うものも大きくなる。西島秀俊、47歳。役者としての挑戦は続く

西島秀俊は出演作を自分では選ばない。自分の目に見える景色の中だけで好きなものを選んでいたら、自ずと世界が狭まってしまうことを知っているから。だが、そんな西島が、台本や原作小説を読んだうえでオファーを受け入れるのにかなりの覚悟が必要だったと語るのが、映画『人魚の眠る家』である。俳優として、ひとりの父親として、遥か彼方にある希望の光をつかむために、身を捧げた。

撮影/平岩 享 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.
スタイリング/TAKAFUMI KAWASAKI(MILD) ヘアメイク/亀田 雅(The VOICE)

映画には日常を変える力があると思って、ずっとやってきた

30代の頃の西島さんにお話をうかがった際、出演作品の選定にはほぼ関与されないとおっしゃっていました。「やりたいことだけをやっていると、すぐに手詰まりになってしまう」と。それは現在でも変わらず?
はい、変わらないですね。いまも基本、マネージャーを信頼して任せています。
「こういうことをやりたい」といった話し合いは持ちつつ?
コミュニケーションはよく取っています。「この映画が面白かった」とか「この監督が気になる」とか何でもない会話の中で。ある意味、僕よりも僕のことをわかってくれていますね。というか、僕はときどき、自分が見えなくなってしまうので(苦笑)。

よく取材などで「バランスよくいろんな役をやられていますね」と言われることもありますが、自分ではそんなに意識はしていないです(笑)。そういうふうに見えていたなら本当にありがたいですね。
仕事に対するスタンス、俳優という仕事に対する思いなど、40代になって変化してきた部分はありますか?
僕はもともと映画が好きで、映画の現場にいることが楽しくて仕方なくて、この仕事をやってきた人間。それはいまも変わりませんが、年齢を重ねたことで、作品を見てくださる方にいかに楽しんでいただくか?ということをより考えるようになりましたね。

僕自身、仕事がない頃は映画館に通い詰めて、映画に勇気や夢を持たせてもらいました。イヤなことを忘れたり、視点や日常が変わったり、同じ日常を乗り越える力がわいたり…。映画ってそういう力があるとずっと思ってやってきたし、その思いは以前より遥かに強くなっています。

作中の家族が直面することを想像するだけで苦しくなった

そして、今回臨まれたのが東野圭吾さんのベストセラー小説を原作にした本作。事故で意識不明になった娘の回復を信じ、最新の技術を駆使して、その生命の維持に人生を捧げる母親・播磨薫子(篠原涼子)を主人公に、命の在り方を問うミステリーです。
台本から入って、本当に素晴らしくて感動して、読みながら涙が止まりませんでした。そのあと、東野さんの原作小説も読ませていただいたんですが、家庭を持っている身でこの作品に参加するというのは相当な覚悟が…。この家族が直面する事態を想像するだけで苦しくなってしまって。
西島さんが演じられたのは、薫子の夫でIT機器メーカーを経営する播磨和昌です。
家族の一員を演じるということで、やはり自分自身が想像する演技を超えていかないと、この作品は成立しないだろうと。だからこそ「やります」と言うのはすごく覚悟が必要なことでした。
父親でもあるので「ぜひ演じたい」と軽々しく思えるような役柄ではなく、むしろ痛いほど気持ちがわかるからこそ、つらかったのですね…。
それこそ篠原さんは、ご自身の家庭もありながら、そのまま作品と薫子にのめり込んで演技をされていて、段取りの段階からずっと泣いてるんです。涙が枯れちゃうんじゃないか?というくらい。

本当に抑えきれない感情を演技にぶつけられていました。そんなふうに作品に身を捧げる姿に引っ張られて、僕も役にのめり込んでいったと思います。
メガホンを握ったのは『SPEC』や『TRICK』シリーズ、ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)などで知られる堤 幸彦監督です。堤監督の現場はいかがでしたか?
堤さんは、本読みなどの前段階で「ここはこんな状況で、こういうセット、環境です」という状況説明を1シーンずつ、丁寧にしてくださいます。しかも、撮影しながら編集もしているので、朝に現場入りすると、昨日まで撮影したシーンを仮で音楽も入った状態で“映画”として見ることができたんです。
「前回までのあらすじ」のような感じで?
とくに今回は順撮りだったので、その映像を見るだけで感情移入できて、撮影に入りやすかったですね。
演出面ではいかがでしたか?
堤さんは「そこはもうひとつ“間”をあけて」とか「そこは目を伏せず相手を見て」とか具体的な演出をされるんですが、それがすごく繊細。その演出によって、心の中の動きがまったく変わってくるんです。

心の中の話をして心を動かすんじゃなく、全然違う外側の情報を与えてくださることで心の中を動かすという、独特の…こちらからしたら「え? どうやってるの?」という演出で導いてくださいました。

家庭と仕事のバランスを上手くとれるよう、試行錯誤の日々

和昌は自身の浮気が原因で、薫子との離婚が決まっており、始めはやや冷たい男という印象を感じさせるが、物語が進むにつれ、さまざまな表情を見せる。最愛の娘を生き延びさせたいと思う父の顔。会社を繁栄させるため、最新技術の向上に尽くす経営者の顔。そして、最新技術に依存していく薫子に疑問を抱き苦悩する夫の顔――。
本作で和昌は、父、夫、経営者とさまざまな側面を見せます。
きっと男性と女性で、和昌の見え方は違ってくると感じます。女性からすると、(浮気が原因で別居状態の)かなりダメな夫であり父親だと思う(笑)。

でももしかしたら、仕事に打ち込んでいる人間にはまた違って見えるかもしれない。愛情の種類が違うだけで、人生のすべてを捧げるような母親の愛情と、父親なりに社会の中で家族を守ろうとする愛情の違いを感じて和昌に共感してくださる方もいるんじゃないかと。
時に深い愛情を感じさせ、時に苦悩する和昌の姿が印象的ですが、どのように役を作り上げていったんでしょうか?
和昌は家族と社会のあいだを取り持つ――もっと言えば、社会から家族を守ろうとする立場なんですね。一方で薫子は、社会なんてどうでもよくて、とにかく娘の命を救おうとする立場にある。

今回、カリスマである父親が作った会社を継いで、事業を大きく変革させた2代目の社長の方にお話を聞く機会がありまして。若くして入社し、社内には社長である父と、父を支える社員がいる状況。社長である父との関係、新しい事業に舵を切るのに必要なことを聞きました。その話は和昌を演じるうえですごく助けになりましたね。
西島さんもご家庭をお持ちで、お仕事も忙しいかと思いますが、家庭と仕事のバランスはどう考えていらっしゃいますか?
僕が子どもの頃は、父は仕事一筋で家庭を顧みないものだったし、よそのお母さんから叱られたりすることもよくありました。祖父母との関係も強かったし、地域全体で面倒を見ているような感じで。でも、それがいまの時代は難しい。

やはり“父”や“夫”である部分と“仕事”の部分をバランスよくこなすのが必要とされる――そうしないとうまく成り立たないところがあると思います。僕自身、そう思いつつもなかなか難しくて…(苦笑)。みなさんもそうでしょうけど、試行錯誤しながらやっていますね。

40代って落ち着いて周りが見えてくるイメージでしたけど…

西島さんも主演の篠原さんも年齢を重ねて、さらに魅力的に見えます。
篠原さんとはドラマ『溺れる人』(日本テレビ系)、『アンフェア』(関西テレビ系)でご一緒していて。今回は久しぶりだったんですけど、外見がほとんど変わってなくてびっくりしました(笑)。
周りの方も、西島さんに対して同じ思いを抱いている気がしますが…(笑)。
ただ、内面という点では今回は母親役で、篠原さんもご家庭があって一生懸命子育てをされている。その経験を担いで役に飛び込んでいるのが、本当に素晴らしいなと感じました。

そこは僕も、結婚して子どもができて…という部分を含めて、年齢とともに人生を作品に反映させて、深く演じることができていればと思います。
来年の春で48歳。西島さんにとって40代ってどんな時間なのでしょうか。楽しいですか?
楽しい? うーん、そうですね…僕は、若い頃の仕事がない時期も長かったので、もしかしたら順調に仕事をしてきた人が30代で体験してきたかもしれないことを、今になって体験していることも多いと思うんです。かなり遠回りもしてきたし、不器用で歩みも遅いので(苦笑)。

だから、いまになって、仕事のスキルとかをいろいろ上げたいんですけど時間もなくて、その中でとにかくやっていくという感じで…。40代ってもう少し落ち着いていろいろ見えてくる時期ってイメージでしたけど…(苦笑)。
新しい経験ばかりで、“不惑”を過ぎてもなかなか落ち着かない?
全力でこれをやって、そうしたら次が来て、また次が来て、空き時間にこっちを勉強して…といろいろ足りてなくて。まだまだチャレンジしてないことがたくさんあるぞ!という感じで日々が過ぎています(笑)。
そんな中で、まだ気が早いですが、50代に向けての展望は?
それこそ先ほどの篠原さんの話とも通じますが、先輩俳優のみなさんは、すごく大きなものを背負っている役を演じてらっしゃるんですよね。家族であったり、仕事であったり、友人関係であったり、もしかしたら社会だったり。年齢を重ねるって、背負うものが大きくなるということなんだなと。

そういう姿を見ていると、自分もそんな役を演じられるようになりたいなと思います。まだ自分は、“背負う”というよりも、いろんなところにひたすら突き進んでいく!という役柄が多いので(笑)。
西島秀俊(にしじま・ひでとし)
1971年3月29日生まれ。東京都出身。A型。1993年のドラマ『悪魔のKISS』、『あすなろ白書』(ともにフジテレビ系)で注目を浴びる。1999年、主演映画『ニンゲン合格』で、第9回日本映画プロフェッショナル大賞・主演男優賞を受賞。その後も、ドラマでは『チーム・バチスタ』シリーズ、『ストロベリーナイト』(ともにフジテレビ系)、『MOZU』シリーズ(TBS・WOWOW)、大河ドラマ『八重の桜』、NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』などに出演。主な映画出演作に『女が眠る時』、『クリーピー 偽りの隣人』など。2018年はほかに『散り椿』、『オズランド 笑顔の魔法おしえます。』、声優として参加した『ペンギン・ハイウェイ』が公開された。2019年には主演映画『空母いぶき』が公開予定。

    出演作品

    映画『人魚の眠る家』
    2018年11月16日(金)ロードショー
    http://ningyo-movie.jp/

    ©2018「人魚の眠る家」 製作委員会

    サイン入りポラプレゼント

    今回インタビューをさせていただいた、西島秀俊さんのサイン入りポラを抽選で1名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

    応募方法
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    受付期間
    2018年11月12日(月)12:00〜11月18日(日)12:00
    当選者確定フロー
    • 当選者発表日/11月19日(月)
    • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
    • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから11月19日(月)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき11月22日(木)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
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