「アニメなんて子どもが見るもの」と言わないで。北村一輝、『映画プリキュア』を語る

圧倒的な目力、日本人ばなれした彫りの深い顔立ち。個性的なのに変幻自在。二枚目から三枚目、善人から悪人を自在に行き来してきた俳優・北村一輝が次に挑んだのは、意外な組み合わせの『プリキュア』の世界! シリーズの劇場版最新作『映画プリキュアスーパースターズ!』に登場する敵役・ウソバーッカで声優デビューを果たす。「監督に“10”と言われたら、“20”で返したい」と言う北村は、どんな仕事も全力投球。自分を枠にはめず、しなやかに進化し続ける。

撮影/祭貴義道 取材・文/新田理恵 制作/iD inc.

声優の仕事は、「チャレンジしてみたいと思っていた」

男っぽいイメージの強い北村さんが『映画プリキュアスーパースターズ!』に出演すると聞いて驚いた人は多いと思います。声優にも初挑戦となりますが、もともと声のお仕事に興味はあったのでしょうか?
そうですね。子どものときの思い出は、鮮明に残っています。小さい頃から、『ドラえもん』など、いろいろなアニメ作品を見てきていますし、大山のぶ代さん(『ドラえもん』の初代ドラえもん役ほか)や野沢雅子さん(『ドラゴンボール』の孫悟空役ほか)たちの声を聞いて育ってきているので、すごく魅力的な仕事だなと思っていました。
では、北村さんにとって願ってもないチャンスだったのですね。
近年、俳優が声優をすることが増えていたので、最初はそれがいいことなのか、どうなのか…と考えていた部分もありました。ですが、年齢を重ねる度に新しいことに挑戦してみたいと思っていたところで、そういうときにタイミングよくオファーをいただき、すごくラッキーだったと思います。
北村さんが演じたウソバーッカは、世の中をウソばっかりの世界に変えようとする怪物で、ウソばかりついてプリキュアたちを困らせます。「ウッソーン!」など、実写ではまず言わない「ウソ」のバリエーション豊富なセリフがたくさん登場しますが、キャラクターのトーンはすぐにつかめましたか?
考えましたね。ワンパターンにならないように声のトーンを変えたほうがいいのか、むしろ統一してワンパターンにしたほうがいいのか…。そういうことを考えながら家でひとり、「ウッソーン!」「ウソバッカー!」と試してみていたとき、「これ大丈夫かな、誰か聞いてないかな」「窓、開いてる開いてる!」と慌てて閉めに行ったりしていました(笑)。
(笑)。
ただ、考えても監督のご意向や作品のイメージなどありますので、相談させていただくなかである程度、自分が想像して「こういうふうになればいいな」と思っていたものに近い形でできた気がして、すごくよかったなと思います。

『プリキュア』は子どもに大事なことを教えてくれる

今回の出演前に『プリキュア』シリーズをご覧になったことは?
出演が決まってからDVDで何本か見て、動画サイトでもいろいろ見ました。出演が決まる前は、友だちの子どもたちと一緒にチラチラと見ていたぐらいですね。
出演してみて、作品の世界観にどういう印象を持ちましたか?
今回出演してというより、友だちの子どもたちを見ていると、女の子は「プリキュアになりたい」と言ったり、プリキュアごっこも流行っているようですので、その人気に驚いていました。
小さい女の子の夢ですよね。
「プリキュアになりたい」と言われると、「なれるよ」と返していたんですけどね(笑)。男の子にとっても女の子にとっても、ヒーローや憧れの存在はすごく大きかったりするので、こういう作品は必要だと思いますし、この映画もその役割を担っているような、子どもに大事なものを伝え教えている。そういう意味でも、すごくいい作品だと思います。
収録されたときは、おひとりだったのでしょうか?
はい。ひとりでした。ほかの声優さんのアフレコの様子を見たかったという気も(笑)。みなさん、すごく声がかわいいですよね。セリフの言い方とか、いろいろ聞いてみたかったなと思いました。いつか声優さんたちと一緒に録れる機会があればいいなと思います。
これをきっかけに、声優のお仕事もたくさんやっていただきたいです!
(オファーが)来たらいいですけどね!

ハンサムガイから悪役まで…クセの強い役を演じる理由

ウソバーッカも悪役でしたが、北村さんには、どうしても悪役やクセの強い役が多いという印象があります。そういうイメージが強いことに対して、どう思っていらっしゃいますか?
以前から、そういう役のほうが面白みがあると感じています。いろいろな役に挑戦できるうちが役柄も楽しめるような気がします。いい人の印象だけがついてしまうと、そこから悪くしていくのは大変です。イメージだけでキャスティングされ、それを覆すチャンスがないという状況もこの世界ではけっこうありますので、チャレンジさせていただけるのはありがたいです。
2月10日に公開された映画『今夜、ロマンス劇場で』のなかの超三枚目なハンサムガイから、ドラマ『昼顔』(フジテレビ系)のようなセクシーな男性まで、北村さんは振り幅の大きさがスゴいです。イメージが固定されないように何か意識しているのでしょうか?
そういうことは考えてないです。お仕事を受けたら、監督に言われたことをやる。監督に“10”と言われたら、“20”で返したい。監督に「こうしてほしい」と言われたときに、精一杯、力添えができればいい。若い頃からそういうふうにやりすぎていたからこそ、今、キャラクターの違う役をもらえるようになったという気がします。
オファーが来た時点で、役を選ぶということはあまりしないのですか?
そうですね。脚本が面白いかどうかや、こういう人と共演したいといった部分では希望はありますけれど、「こんな役をやりたい」ということはあまり考えていないです。
北村さんのようにキャリアの長い俳優さんだと、役や作品を選んで出演していらっしゃるのかと思っていました…。
「選ぶ」とは、言い方を変えれば、自分のできる範囲でしか物事を決めなくなる、自分の得意分野しかやらなくなるということ。たとえば、「二十歳のときなら、君、どうしたと思う?」と自分に問いかけてみると、仕事がない時期でしたので「どんな役だって一生懸命やっていただろうな」と思う。ただ、それだけですよね。
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