考えすぎず、アホでいることは大事。山崎育三郎の「これでいいのだ」と思える強さ

「これでいいのだ」という『天才バカボン』に登場するバカボンのパパの言葉を、山崎育三郎は常に心のどこかに留めている。舞台で求められるのは継続。だからこそ「これでいい」と己を許し、気持ちをリセットすることが必要になる。思えば20代は、糸が張りつめた状態でガムシャラに走り続けてきた。30代になって周りを見渡し、違う世界に足を踏み入れ、新たな発見と成長を手にした。そして32歳になって「過去最高に大変な挑戦」と思える役柄に出会った。それがドラマ『昭和元禄落語心中』(NHK総合)の有楽亭助六である。

撮影/平岩 享 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.

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山寺宏一さんのような落語の芝居はできないと思った

雲田はるこさんの人気漫画を原作に、落語に身を捧げて昭和の時代を生きる男たちを描いた本作ですが、山崎さんは天才落語家の助六を演じられています。出演が決まったときのお気持ちは?
まず「天才落語家」と聞いただけで不安になりました。どれくらいのレベルで演目をやることになるんだろう?とアニメ版を見せていただいたら、一部をちょこっと話すという次元じゃなくて、数十分にわたって実際に話してて。「え…?」ってなりましたね(苦笑)。

かなり大変な役だとは思ったのですが、役者としてはすごく大きなチャレンジになるなと。20代はずっとミュージカルをやってきて正統派の役が多かったんですが、30代になって少しずつ役の幅が広がってきて。もっと広げたいという気持ちが強くなっている時期だったので、大変さを覚悟したうえでトライしたいなと思いました。
2016年から放送されたTVアニメシリーズで助六を演じられているのは、山寺宏一さんですね。
昨年の実写映画『美女と野獣』(の日本語吹替版)でも、僕が演じた野獣の役をアニメ版(1991年のディズニー映画)では山寺さんが演じられていて、すごく縁を感じました。僕自身、山寺さんの大ファンで。最初に見たアニメが『シンデレラ』で、その次が『アラジン』だったんです。

『アラジン』でお芝居から歌へと導入していくところに惹かれて、ミュージカルが好きになったんですけど、山寺さんが演じたジーニーの歌を何度も繰り返し聞いていました。子どもの頃の僕にとっては神様みたいな存在でした。
今回、山寺さんの演技を参考に助六を作り上げていった部分もあったのでしょうか?
いえ、アニメを見たら「山寺さんのようにはできない」と思ったので、なるべく見ないようにしました。やはり、山寺さんに寄せてしまうと自分らしさが出ないですし、かといって山寺さんのようにはできないので。
原作のマンガをご覧になってどのような印象を抱かれましたか?
展開が毎回クライマックス!という感じで(笑)。こんなにドラマチックな話があるかってくらいドキドキするし、でも落語のシーンになるとホッとする楽しさもあります。僕自身、これまで落語に縁はなかったんですが、落語を知らなかった方が興味を持つきっかけになると思います。

ただ「落語のシーンでホッとする」と言いましたが、やるほうは大変ですよ(苦笑)。お芝居も毎回、ドラマチックでそのうえ落語もあって…。過去最高に大変な挑戦でした。

分厚い落語の台本を前に「これ終わったわ…」と思った

撮影前に3ヶ月ほど、みっちりと落語の稽古をされたそうですね?
5月から8月まで、ちょうど主演舞台の『モーツァルト!』の公演があったんですけど7、8月の大阪と名古屋での公演中は、新幹線で東京に戻って師匠方(落語監修の柳家喬太郎さんをはじめ、落語指導のみなさん)のもとに通って、稽古をつけていただきました。

ただ、演目をしっかり覚えて、自分の身体に入れた状態で師匠のところに行かないと稽古にならないんです。公演中も、終わったらなるべく早くホテルに戻って、ベッドの上に正座してブツブツと言って練習してました。覚える作業は本当に大変でしたね…。
普段のお芝居でもセリフを覚えるのは必要ですが、落語だと違うものですか?
普段は、会話の相手とのやり取りの中で覚えて作っていくものなので、入りやすいんですよね。落語は、状況の説明から女性の役も、おじいちゃんも侍も全部自分ひとりでやらないといけない。

最初に始めたのが『夢金』という演目で、これがまたスゴいページ数なんですよ(苦笑)。大小あわせて全部で8演目をやっているんですけど、ミュージカルの公演中にすべての本が届いたのを目の前にしたときは「あ、これ終わったわ…」って思いましたね(笑)。
10月5日に行われた記者会見で「落語は、自分の言葉で楽しんで演じる必要がある」とおっしゃっていましたが、ミュージカルや舞台での経験が活きた部分はありましたか?
やはり、生の舞台をずっとやってきたからなんでしょうけど、お客さんが入っているときのほうが、気持ちも入ってテンションが上がるんですよね。実際の撮影で、エキストラの方たちで寄席の客席が埋まっているほうが集中できましたから。
エキストラの方たちの反応を見て、スイッチが…。
入りましたね(笑)。普段の舞台でも、お客さんが笑ったり、泣いたりしているのを感じながら芝居をしているので。逆に映像作品に出るようになった頃は、テレビカメラの前で何をやっても静まり返っている状態の中で芝居をすることに、とても違和感があったんですよ。
落語ならではの所作はいかがでしたか?
座布団に座ったり、扇子やてぬぐいを使っての所作も自分のものにしなくてはいけなかったのは難しかったですね。助六はとくに「天才」落語家なので、ただできるだけではなくて所作からも説得力を出さないといけないなと思いました。

“プリンス”のイメージが強いけれど、体育会系です(笑)

型破りで豪放磊落な助六と、物静かで女性的な柔らかさを持った有楽亭八雲(岡田将生)。どちらかといえば山崎さんのパブリックイメージは、八雲に近いのではないかと思いますが。
イメージとしては八雲に近いと思われがちですよね。ミュージカルの世界で「プリンス」と言われてますし(笑)。中性的で柔らかい印象があって“男臭さ”とか“泥臭い”というイメージで見られることは少ないんですけど、自分の中ではむしろ助六に近さを感じるんですよね。

男4人兄弟で育ったのと、ずっと野球をやっていたので体育会系ですし、家の中でも「オラァ!」って感じで、顔中傷だらけで。(頬を見せて)いまだに次男にやられた傷が残ってるし(笑)。これまでの役のイメージが強いんでしょうが、僕の中では助六を演じることの違和感はなかったんですよね。
助六には八雲とはまた違った意味の色気を感じますし、ファンのあいだでは、八雲と助六の関係性にグッとくる方も多いと思います。
(関係性について)自分で意識はしてないんですけど、(八雲が助六に)膝枕をしたり、布団を敷いた部屋でじゃれ合ったりというシーンがあって。そこは男同士の青春というか、スキンシップを取りながら友情を確認する部分ってあるじゃないですか?

彼らなりの純粋さや青春のひとつのスタイル、互いを大事に思う気持ちがそうさせているものとして表現しましたね。
岡田さんとは初めての共演ですね。そういったシーンを一緒に演じて、いかがでしたか?
この作品では、ふたりの関係性がすべてだと思ったので、撮影以外の時間もふたりで過ごすようにしていました。岡田くんが僕の楽屋に来てくれて、一緒にお昼ご飯を食べたり、撮影がないときもふたりで食事をして、何でもない会話をしたり。

ふたりでいるとすごく居心地がよくて、いまでは、何年も友人だったかのような距離感になれたなと思います。だからこそ、芝居にも自然に臨めました。岡田くんの、役に対する純粋でまっすぐな姿勢は本当に尊敬するし、とても大事な存在ですね。
改めて、山崎さんから見て助六の魅力はどんな部分だと思いますか?
やはり魅力は純粋さかな? 落語に対しての向き合い方や愛情は誰より強くて、そこに向かって突っ走る姿はウソがないし、男が見ても惚れる男ですよね。

ただ、天才であるがゆえに繊細な部分もあるし、普通に考えたら「ここはそう言っておけばいいのに…」と考えるところでそれができなかったり…。ある意味、努力で勝ちとったというより、センスと「好き」という気持ちでやってきたことが評価されたからなのか、周りの人間や落語以外のことに対してのスタンスはもったいないよなと思います。
退廃的で破滅的な一面も強く感じさせますが、そういう生き方に対して憧れは?
生き方としてはカッコいいなと思います。でも、もう少し相手に寄り添うことができたら…と思うと惜しいですね。自分だったら、もう少しうまくできたんじゃないかな?とも考えちゃいますけど…(笑)。

舞台も映像もバラエティも、出演するスタンスは変わらない

八雲と助六の姿を見ていると、芸に人間性やその人の生き方がにじみ出てくるのを強く感じます。俳優、歌手という仕事もそこは重なるのでは?
そうですね。やはり年齢を重ねることで深みが出てくるし、経験を通じて、演じる側もいろんなものが見えてくるんです。

師匠方の落語は、すごくシンプルなんです。年齢を重ねると動きが少なくなるんですよね。若い方は、ついあれこれ動いてしまうものなんですけど、師匠方は首を少し動かすくらいで、言葉だけで世界にグッと引き込んでしまう。それは歌や舞台でも同じことだと思います。

僕も、最終的にはいろんなものを削ぎ落として「何もない」「ただそこにいる」という状態を目指したい。ただ、それは若いうちからは難しいんですよね。プライベートを含めて、いろんな経験が人生を太くしていくものだと感じています。
そういう意味で、30代を迎えて少しずつ、人生の幹が太くなってきているのではないでしょうか。やはり20代と比べて意識の変化が出てきますか?
ありますね。20代はミュージカルしかやってこなかったし、「ミュージカルしかやりたくない」と思ってました。「へたくそ! 帰れ!」と稽古場で怒鳴られて、半べそをかきながら、ガムシャラにやってきて。そういう時期があったからこそいま、いろんなことが少しずつできるようにもなってきたと思います。

その考え方が変わったのがすごく大きいし、いまはいろんなことに挑戦したい、役の幅をもっと広げたい。一方で「ミュージカルをもっと多くの人に見てほしい。もっと広めたい」という気持ちもあって、映像の世界にも飛び込んで、徐々にいろんなことが変わってきたと思う。
ご自身も変わったし、ミュージカルを取り巻く環境も変化している?
映像の世界の俳優さんにもミュージカルに興味を持ってもらえるようになったし、テレビの歌番組で歌わせていただいたり、数年前には考えられなかったことが起きています。僕みたいにミュージカル一筋でやってきた人間が、こうやってドラマに出るというのも、いままでは大先輩の市村正親さんや石丸幹二さんなど数えるくらいしかいなかったですし。
演技の仕事だけでなく、バラエティ番組でMCを担当されたりもしていますが、そうした仕事はどういうスタンスで臨んでいますか?
ジャンルごとにアプローチの違いはありますが、歌手も俳優もMCも、バラエティへの出演も、それぞれ別のことをやっているという感覚はないです。落語もそうですが、お客さんや視聴者がいて、相手に何を伝え、どう楽しんでいただけるか?というだけ。いつも考えているのは、この状況に自分がいることでどう楽しんでいただけるかです。
たとえばバラエティ番組では笑いを求められることもあると思います。視聴者や周りのゲストを「こうやって笑わせようか」と準備をされたりはするんでしょうか?
まったくしてなくて、そもそも「笑わせよう」という気持ちがあまりないんです。芸人さんをはじめ、いろんな人たちがいて一緒に楽しむ。自分は一生懸命そこにいて、何を求められているかをキャッチする。

それは劇団やミュージカルのカンパニーといったチームのような感覚なんですね。そこで、瞬発的に何を必要とされているのかを考えています。
こうしてお話をされていても、ひとつひとつの仕事に丁寧に真摯に向き合い、完璧にこなしているさまがうかがえます。山崎さんに弱点はないんでしょうか?
いやいや、何も完璧じゃないですよ!(笑)基本、その日、その瞬間のことしか考えてないんです。先のことをあまり考えられず、この瞬間に自分ができるかどうか?の繰り返しなんですよね。悪く言うと「いいかげんでテキトー」です(苦笑)。

僕はバカボンのパパの「これでいいのだ」という言葉が好きなんですけど、それくらいに思わないとこういう仕事はできないんじゃないかと感じるんです。
と言いますと?
それこそミュージカルで4ヶ月のあいだ、ほぼ毎日2千人の観客が客席で待っている中、精神的にも肉体的にも完璧な状態で3時間出続けるってすごいプレッシャーですよ(苦笑)。そこで、あまり先のことばかり見ていると、行き詰まって苦しくなってきちゃいます。

なるべくフラットないい状態でいるには、いまできることにどれだけ集中できるか?が重要。あまり考えすぎず、アホでいることって大事なんです。だから「これでいいのだ」と思える強さが必要だなと思っています。
山崎育三郎(やまざき・いくさぶろう)
1986年1月18日生まれ。東京都出身。A型。2007年、ミュージカル『レ・ミゼラブル』のマリウス役に抜擢。その後も、ミュージカル『モーツァルト!』、『ミス・サイゴン』、『エリザベート』など数々の作品に出演。2015年のテレビドラマ『下町ロケット』(TBS系)で注目を浴び、その後も『あいの結婚相談所』(テレビ朝日系)、『あなたのことはそれほど』(TBS系)などの映像作品にも出演。2017年公開の実写映画『美女と野獣』の日本語吹替版では野獣役を担当した。歌手として2018年7月にオリジナルアルバム『I LAND』をリリースし、2019年初の全国ツアーを控えている。NHK大河ドラマ『西郷どん』の最後に放送されている『西郷どん紀行』のテーマ曲の作詞と歌唱を7月15日から10月20日まで担当し、現在はNHKみんなのうた『こどもこころ』が放送中。

「2018秋のドラマ」特集一覧

出演作品

ドラマ10『昭和元禄落語心中』
第4話、11月2日(金)放送
毎週金曜22:00〜22:44 NHK総合にて放送
https://www.nhk.or.jp/drama10/rakugo/

サイン入りポラプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、山崎育三郎さんのサイン入りポラを抽選で1名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
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受付期間
2018年11月2日(金)18:00〜11月8日(木)18:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/11月9日(金)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから11月9日(金)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき11月12日(月)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
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