難しく大変な役こそ、前向きに受け止めて挑戦したい。女優・吉岡里帆の新たな旅路
子どもの頃から強く主張するタイプではなかった。「学芸会でコックさんの役をやりたかったけど、目立つ子が『私、やりたい』と言ったら『私も』とは言えなくて…」。だからこそ、一歩が踏み出せないヒロイン・ふうかの心情が痛いほどわかった。その一方、女優の仕事を始めて「年々、メンタルが強くなっている」とも話す。そこにあるのは作品を届けたいという強い思い。それもまた、ふうかと重なる。強くしなやかに、吉岡里帆は歩を進める。
撮影/祭貴義道 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.スタイリング/圓子槙生 ヘアメイク/渡邊良美
セリフの「、」や「。」の入れ方まで、細かく指示を受けた
- 映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』で、吉岡さんが演じるのは、声が小さすぎるストリートミュージシャン・ふうか。禁断の声帯ドーピングによって世界的ロックスターとなったシン(阿部サダヲ)と出会います。出演が決まったときの気持ちはいかがでしたか?
- 三木 聡監督の作品に出られるのがうれしかったですね。三木さんの作品は『転々』に『図鑑に載ってない虫』、『亀は意外と速く泳ぐ』、『インスタント沼』…全部大好きです。
- 出演が決まって、三木監督とはどんなお話を?
- 三木さんは“間”やセリフの意味をすごく大事にされる方で「(台本のセリフを)一言一句、間違えないで言ってほしい」と。実際、台本の中の「、」や「。」の入れ方も、リハーサルでやった通りじゃないといけなくて大変でした。
- かなり厳しい演出をされる監督として知られていますが、怖かったですか?
- みなさん、そうおっしゃっていて、初対面でも三木さんから直接、「俺の現場、若い女優さんには酷かもしれないけど頑張ってついてきて」と言われたんですけど、全然! 三木さんは愛があってすごく優しい方だなと思いました。
あ、でも一度だけ、撮影で待っているあいだに寒すぎてウインドブレーカーを着たら「何でこんなときにウインドブレーカー着てるんだよっ!」って怒られて。「え? 何でダメなんだろう…」と思いましたけど(笑)。
- 演技についてではなく、待ち時間に上着を着て怒られた…?
- 三木さんは「そういうの(=防寒対策)、どうでもよくない?」って感じなんですよ。本人はずっと半そで半ズボンで「寒い!」って言ってるんですけど…(笑)。そのへんの感覚が、普通の人を超えてますね。それが唯一、怒られたことかもしれません。
- 「ウインドブレーカーを着ているなんて、気合が入ってない証拠だ!」と怒っているわけではないんですよね?
- そういうことじゃないんですよね、きっと。何で寒さなんて気にしてんの?という感じなんだと思います。たぶん、三木さんは風に吹かれた前髪を直す人は嫌いなタイプなんじゃないかな(笑)。「よくない? そんなの」って。
白髪+眼帯+白衣。麻生久美子が演じた女医役はズルい!
- 三木作品といえば、奇妙な衣装で個性的なキャラクターが多く登場しますね。ふうかは等身大のヒロインでしたが、他の登場人物を見て、自分もやりたい!と思いませんでしたか?
- すごく思いました! うらやましくて、うらやましくて、「私も面白いの着たいです!」と三木さんに言ったんですけど「いや、ふうかは一番普通でいてほしいからそのままで」って(苦笑)。
- それは残念でしたね。
- “うらやましい!シリーズ”で言うと、1位は小峠(英二/バイきんぐ)さんのモヒカンで、2位は麻生(久美子)さんの女医ですね。白髪に眼帯に白衣ってズルくないですか? 3つもあるって!
あとは、千葉(雄大)さんのスーツの真面目キャラがかわいかったです。頭からピザをかぶったり、ナマズを抱えたり、裸で田中(哲司)さんと共演したり、いろいろ痛い目に遭いすぎていて、キャラとしておいしいなと思いました(笑)。
- そんな濃いキャラたちが入り乱れる、ハイテンションかつコミカルなやりとりの中にも、グサリと心に突き刺さるような力強いセリフがたくさん登場します。吉岡さんの心にもっとも残ったセリフは?
- 女医の「勘違いは大事よ。たいていのことは勘違いから始まるわ」ですかね? みんな、最初から有名じゃないし、スターでもない。私もたいていのことは「自分ならできるんじゃないか?」という勘違いから生まれると思っているので好きです。
作中の関係のように、壁を作らずに阿部サダヲと接した
- 阿部さんと初共演された感想を聞かせてください。
- 阿部さんは“おもしろ”の雰囲気をまとっているところがスゴいですよね。何もしてなくても面白いじゃないですか。この不思議な現象…いるだけでニヤニヤしちゃうってさすがだなぁ…と。
子どもの頃から、「この人の映画はなぜか見たくなる」という俳優さんのひとりで『舞妓Haaaan!!!』も映画館で見たい!と思ったし、『謝罪の王様』もそう。クヨクヨしてても立ち直らせてくれるようなあのエネルギーは唯一無二ですね。 - 普段の阿部さんはとてもシャイな方ですが、撮影現場ではいかがでしたか?
- 顔合わせのときはたしかにシャイで、私も初日からグイグイいけないタイプなので、互いに牽制しつつ…。でも本読みをしてると、変なセリフばかりで笑っちゃうんですよ。何を真面目な顔してこんなセリフ言ってるんだろう?と少しずつ心がほぐれていきました。
そこからは、ふうかはシンに物怖じしないでぶつかっていく子ですし、私もそのままでいられたらと阿部さんに対し壁を作らず、思ったことを発するように心がけていました。「阿部さん、ちゃんとしてください」とか「阿部さん、ふざけすぎですよ」と(笑)。
- ご自身の出演シーンをすべて撮り終わったあとも、吉岡さんはシンのライブシーンのために現場に駆け付けたそうですね?
- そのシーンがメッチャカッコよくて! 私、劇中でシンに一度も「カッコいい」って言ってないんですけど、その日は「阿部さん、普通にカッコいいです」と言いました。そうしたら「いい人ぶってんじゃねーぞ!」って言われました(笑)。
阿部さんのクランクアップの日に現場に行ったのも、すごくお世話になったし、大好きだから行ったのに「お前、アップの日に来たらいいヤツって思われるから来たんだろ?」「いや、ひねくれすぎでしょ!」というやりとりがありました(笑)。
出会いはカラオケ。あいみょんの歌に「サイコー!」と感動
- ふうかは、声が小さすぎるストリートミュージシャンから少しずつ成長していきますね。ミュージシャン役ということで、準備も大変だったのでは?
- ギターも歌も経験がなく、イチから全部歌えるところまで鍛えるのは大変でした。ちょうど連ドラに入っていて、撮影後の深夜から練習する生活が半年くらい続いて、メチャクチャ過酷でしたね。
- シン&ふうかが歌う主題歌『体の芯からまだ燃えているんだ』の作詞作曲は、シンガーソングライターのあいみょんさんですね。以前、吉岡さんはInstagramであいみょんさんのことを「2017年Liveで虜になった女の子❤︎」と紹介されていましたが、出会いのきっかけは今回の映画だったんでしょうか?
- 出会いはこの映画よりもちょっと前で、別の作品のプロデューサーさんが「絶対に気が合うから会わせたい」と言ってくださって、一緒にカラオケに行ったんですよ。そこで初めて生の歌声を聴いて「サイコーだ!」と。以前にPVも見ていて「えらい攻めた曲を歌っている子がいるな」と思ってたんですけど。
そのあと、こうして一緒にお仕事をさせていただけて、縁があるなとびっくりしました。同じ関西出身で、頑張りたいと思って東京に出てきている同士。共感できることも多かったし、この子が書いてくれる歌は絶対にパワーになるという確信がありました。
- ふうかとして主題歌を歌ううえで、あいみょんさんからアドバイスなどはありましたか?
- 直接、話を聞いたわけじゃないんですけど、デモテープをもらって、それこそ体の奥から(感情が)にじみ出るような歌い方だったんです。まさにそれは彼女の最大の魅力で、カッコいい歌い方というより、しゃべるように歌う――そのエッセンスを自分も取り入れればいいんだと、アドバイスをもらったような気がしました。
- 最初は完璧にやりたいと、テンポやピッチ(音の高低)を守ることに固執してたんです。でも、それじゃ届かなくて、じゃあどうすればいいんだ?とデモを聴き返して、歌詞をしゃべるように歌えたらいいなと思い、そこでシフトチェンジできました。
- 歌唱シーンはいかがでしたか? 今後も音楽をやりたいという気持ちが芽生えたり…?
- 私の場合、役としてやるから歌えるって感じだったので…。いざ練習中に、偉い人たちが見に来ると、ものすごく緊張してしまうんです。硬直して「弾けないです」って(苦笑)。
でも作品に入って、自分はふうかなんだと思い込むと自然と力が出てくるというか。エキストラのみなさんも天気が悪い中、「ふうか! ふうか!」と声援をくださって。それを聞いたら楽しくなってきました。今回は、“思い込みの力”をすごく借りましたね(笑)。音楽にはパワーがあるので、またいつか力を借りたいですが、いまはこれを完成させられて満足しています。
毎年イメージカラーが変わるくらい、幅広い役に臨みたい
- ふうかに共感できる部分、ご自身と近いと感じる部分はありましたか?
- わりと自分のペースを守ってるところは共感できますね。家賃は払えないし、歌は売れないし、誰も曲を聴いてくれない。声が小さいって言われるのに歌手を目指しているし、ダメダメなんだけど、どこか飄々としていて平気そうというか。「ま、いっか」という感じはわかる気がします。
- ふうかは、どんな状況でも歌うことをあきらめようとはしませんね。吉岡さんも学生時代に女優を志して以来、あきらめなかったからこそ、いまのご活躍があるのだと思います。そのメンタルの強さはどのように培われたのでしょうか?
- 何でしょうね? 年々強くなっていくんですよね(笑)。自分以上に大切なもの、守らなければいけないものがたくさんある。だから、思い悩んでいることなんて、たいしたことじゃないちっぽけなことだって思えるんでしょうね。
- では、その強さは昔から持っていたというわけではなく…?
- だんだんです。メチャメチャ緊張しいで、気にしいですから(苦笑)。でも、作品に入るごとに演じる役に背中を押されたり、クセの強いセリフに救われたりして。監督の熱いメッセージにも救われるし、共演者のみなさんもまわりのスタッフも応援してくださるので…。
きつい日があっても、次の日になったら「ま、いっか」と思えちゃう(笑)。三木さんも「まあいいや」って口癖のように言うし、三木さんの作品の中でも、いろんな登場人物たちが言うんです。そうやって、どんな大変なことも重く受け止めすぎないところは共通してるのかもしれませんね。 - あきらめない一方で、ふうかは「やらない理由」をあれこれ探しがちです。対照的にシンは、やると決めたらエンジンフル回転で突き進みますね。
- 私はけっこう、両方の気持ちがわかるんですよね。子どもの頃、学芸会でコックさんの役をやりたかったけど、目立つイケイケの子が「私、コックさんがいい」と言ったら、「私も」とは言えなかったし、ピンク色がいいと思っても言えなかったり、一歩引いちゃうタイプで…。
でも、この仕事をするようになって、それじゃ誰も気づいてくれないというのがわかって、逆にみんなが毛嫌いするものや、失敗する可能性があったとしても挑戦するほうがカッコいいと思うようになったんです。
- 他の人があまりやらないことを積極的にやっていこうと?
- 安全パイを狙うのはどうなんだろう?と。リスキーで失敗する可能性があったとしても、常にそのリスクを背負いながら挑戦する人たちと一緒に突き進むほうがきっと楽しい人生なんじゃないかと、価値観が変わったんです。
みんなが「ピンクがいい」と思うなら、そのピンクは他の人に譲りつつ、もっと面白いもの、いいものを探しながら旅に出る――それでいいんじゃないかと。心境の変化がありましたね。 - ドラマ『カルテット』(TBS系)、『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)などで個性的なキャラクターを演じ、強い印象を残す一方で、自身が役のイメージで見られてしまうこともあったかと思います。
- 見ている方に共感されやすいキャラクターばかりやるのではなく、難しい役、大変な役を前向きに受け止めたいし、そういう役だから伝えられることが絶対にあると思ってます。だからこそ、自分本位で決めるのではなく、その作品を作ろうとしている人たちと一緒に面白いものを作るぞ!という気持ちで挑んでいきたいです。
たしかにイジワルな役やめんどくさい役を演じると、そういうイメージで見られがちですが(苦笑)、それは仕方のないことだし、ある意味で役者冥利に尽きると感じています。むしろ、これから10年、20年かけていろんな役をやっていきたいし、その年によってイメージカラーが変わるような仕事ができればいいなと思っています。
- 吉岡里帆(よしおか・りほ)
- 1993年1月15日生まれ。京都府出身。B型。2013年に女優デビュー。NHK連続テレビ小説『あさが来た』、『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)、『メディカルチーム レディ・ダ・ヴィンチの診断』(フジテレビ系)、『カルテット』(TBS系)など話題作に出演し、注目を集める。2018年は1月期のドラマ『きみが心に棲みついた』(TBS系)、7月期の『健康で文化的な最低限度の生活』(フジテレビ系)で主演を務めた。2019年公開の東野圭吾原作の映画『パラレルワールド・ラブストーリー』でヒロインを演じる。
出演作品
- 映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』
- 2018年10月12日(金)ロードショー
- http://onryoagero-tako.com/
©「音量を上げろタコ!」製作委員会
配給・制作:アスミック・エース
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- 応募方法
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— ライブドアニュース (@livedoornews) 2018年10月11日
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- 2018年10月11日(木)12:00〜10月17日(水)12:00
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