吉岡里帆「がむしゃらに、もっと必死にやらないと」ブレイクしてなお変わらぬ姿勢

1月16日からスタートする連続ドラマ『きみが心に棲みついた』(TBS系)で吉岡里帆が演じるのは、自己評価の低さのために挙動不審になってしまう、下着メーカーに勤めるOL、小川今日子(通称・キョドコ)。今をときめく女優である彼女と、キョドコの接点はゼロ……かと思いきや、「自信がない」ことが共通点だという。2017年に大ブレイクを果たしたと、誰もがうなづく活躍ぶりを見せる吉岡。しかし、本人からは「私なんか」「これが最後くらいの気持ち」という、予想外の言葉が飛び出した。

撮影/浦田大作 取材・文/中沢 純
スタイリング/圓子槙生 ヘアメイク/渡邊良美
衣装協力/ビスチェ、スカート(writtenafterwards)、アクセサリー(un by yoshida tomoyo)

ムロツヨシが勇気づけてくれた、今でも忘れられない言葉

連続ドラマ初主演を飾りますが、どんな気持ちで臨まれていますか?
主演が決まったときはすごくプレッシャーを感じました。クランクインするまで、緊張しっぱなしで過ごしていたんです。でも、スタッフさんや共演者の方など、今までお世話になった人たちがたくさん入ってくださっていて。みなさん、顔を合わせるたびに「今回も一緒に頑張ろうね」と声をかけてくださるんです。
現場の雰囲気が緊張感を和らげてくれているんですね。
ファミリー感といいますか、一緒にいい作品を作ろうと背中を押してくださるので頼もしいです。
ほかにはない一体感があると。
そうですね。とくにムロ(ムロツヨシ/スズキ次郎役)さんは、私のセリフが一言しかなかった、映画『幕が上がる』(2015年)のときからお世話になっている先輩で。「初めての主演を吉岡がのびのびとできるようにサポートしたい」と言ってくれて。
それはうれしいですね!
『幕が上がる』のとき、学園ドラマだったんですけど本当に存在感がなくて。「私はどうすればいいんでしょうか?」って、ムロさんに相談したんですよ。そうしたら「現場で努力できることが山ほどある。まずはそこから」って。この話をすると、ムロさんは怒るんですけどね。「俺を陥れるな! 恥ずかしい!」って(笑)。
(笑)。
でも、私にとってはすごくうれしかった言葉で。その日のことは今も忘れていなくて、会うたびにしゃべっちゃうんです。あのとき、「がむしゃらにもっともっと必死にやらないと、いい役、いいセリフはもらえないよ」と言われたことが、今でもすごく身になっています。
今回主役ということで、いい意味での恩返しができましたね。
そうですね。自分が主演の作品で共演させてもらえるのもうれしいですし、ほかの共演者の方…鈴木紗理奈(八木 泉役)さんも「とにかく味方やから大丈夫やで」と言ってくださって。上司役の瀬戸朝香(堀田麻衣子役)さんも「楽しく撮影できるように、そんな上司でいます」と言ってくださったり。撮影初日から、目頭が熱くなりましたね。いい共演者やスタッフさんに恵まれたなと感謝してます。
共演されている俳優さん、女優さんは年上の方が多いですよね。コミュニケーションは率先してご自分から取られているのですか?
けっこう、自分から話しかけていますね。それは撮影に入る前から決めていたことのひとつで。主演するからには、ちゃんと自分からみなさんとコミュニケーションを取ろうって。「この子と芝居をやってよかった」と思ってもらえるように、必死で演じたいなと思っています。

「人のダメなところが魅力だなって、いつも思います」

今作は天堂きりんさんの漫画が原作ですね。原作を読まれた印象は?
私は漫画がすごく好きでたくさん読むんですけど、この話は女性漫画のキラキラした、キュンとする感じの中にじんわりと毒素が入っていて。出てくる登場人物が人間味のある人ばかりなんですね。なかなかいないと思うキョドコすらも、やっぱりちょっと人間くさいところがあって。ちゃんと人に嫉妬して、カッコ悪い部分をしっかり出しているんです。
人間のダメな部分がちゃんと描かれていますよね。
みなさんに好かれるような、キレイでかわいくて天真爛漫な主人公という感じではなくて。根性もひん曲がっていて情けない、ダメな主人公なんですよ。
でも、そういう人間のダメな部分に惹かれる?
私は、人のダメなところが魅力だなといつも思うので。今回はいい原作に恵まれたなと思っているんです。先日、天堂きりんさんと取材で対談させていただいたんですが、自分史上初めてのびのび描いた子なんだとおっしゃっていて。これ以上、誰かに媚びていない主人公はいないと。
世間の声などを気にすることなく、描かれた作品なんですね。
普段は、こういう子のほうが愛されるだろうなとか、支持を集めるだろうなというのを考えながら描くらしいんですけど、今回はそれを考えずにキョドコという人間を描いたとお話されていて。先生に「キョドコを演じて、もし国民のみなさんに嫌われちゃったらごめんね」と言われました(笑)。
嫌われちゃうなんてことはないと思いますよ(笑)。
すごくやりがいがある役だなと思ったし、現場でも、見たこともないようなキャラクターが誕生している感じがありますね。新しいものをみなさんに見ていただけるというのは、作り手としては意識が高まりますし、それは共演者のみなさんも思っていることだと感じてます。

自信がないことが、頑張る原動力になっている

仕事への情熱は人一倍ですが、自己評価が極めて低く、自分にまったく自信が持てないキョドコですが、彼女のどんなところに共感しますか?
自己評価が低いところはすごく共感します。私もやっぱり、ベースは自信がないタイプなので。それを原動力に頑張っているところがありますね。
自信がないことが原動力?
自信を持てた瞬間、私はたぶん、頑張れなくなるんじゃないかと思うくらい。迷惑をかけたくないとか、もっとよくなりたいと常に思っていて。私なんかがこんな大役をもらっているんだから、これが最後くらいの気持ちでやらないと、いいものを出せないなと。追い込みグセみたいなところは、キョドコと似ているなと思います。あとは緊張しぃなところ。本番前でも、バラエティや雑誌の撮影前でも、いつも緊張するので。
ちなみに吉岡さんは緊張したとき、落ち着くためにすることはありますか?
え〜と…本番前に柑橘系のオイルをヘアメイクさんに常備してもらっていて。まず私がしているのは、それを手や首に塗って、ずっと匂いをかいでいます。それが私の精神安定剤になってますね。
キョドコは何事も笑って過ごそうとして、嘘くさい笑顔になってしまいますよね。
自分は笑っているつもりなんですけど、心から笑えていないんだと思います。ドラマ『カルテット』(TBS系)で演じた来杉有朱みたいに、目が笑っていないとは違って。
有朱は魔性すぎて怖かったです(笑)。
キョドコは、有朱みたいに性根が腐っていて、人を小馬鹿にして笑っているのではなくて。本当に楽しいしうれしいんだけど、自己表現のすべを持っていないんですよね。
キョドコのチャームポイントは何だと思いますか?
ストールの中尾巻き(ねじねじ巻き)をしているところ(笑)。常にしていて、初めて見た人は何だろうと感じると思いますけど、ある種、人に縛られているという首輪みたいな意味合いがあって。そういうものを身に着けていないと、普通の生活ができないという、ちょっとこじらせている女の子で。自己評価が極めて低くて、何をやるにも自信がない。そしてちゃんと失敗するんです。
見ている側としては、期待を裏切らない失敗をしますよね(笑)。
そうなんです。仕事に悩んでいたり、恋愛がうまくいかなかったり、いいことがないなと思っている人に、パワーを届けられるキャラクターだなと。そんなダメな人間でも、死ぬ気で仕事に立ち向かっていく。そういうところをちゃんと演じて、見ていただいた人にパワーを送れたらと思います。

それぞれの機微が複雑に絡み合う三角関係が物語のポイント

今回、誠実さがあふれる吉崎幸次郎(桐谷健太)と、キョドコの忘れられない相手で、冷たく残酷な裏の顔を持つ星名 漣(向井 理)という、真逆の性格の男性のあいだで心が揺れ動く役ですが、個人的にはどちらのほうに惹かれますか?
私は断然、吉崎さんのほうがいいですね。本当に好きになってしまったら、最後の最後まで向き合うと思うんですけど、星名さんは人を傷つけていいと考えてる時点で性格が合わないなと思っちゃう(苦笑)。ぶっきらぼうでも、根底に温かさがある吉崎さんのほうが好きです。
星名は一見、素敵に見えますが、じつは冷酷ですもんね…。
言葉の暴力が一番イヤなので。星名さんの言葉は辛辣ですし。私は、ああいう縛られる恋愛はしたくないですね。
演技だとわかっていても、暴力的な言葉を投げかけられるとへこんじゃったりすることも?
自分と仲良く過ごしていた時間があるにもかかわらず、目の前で違う女性に優しく微笑みかけ、私をすんごく冷たい目で見るシーンを撮っているときは、さすがに傷つくなと思いましたね。そんな目で見なくても……みたいな(笑)。
だけど、そういう冷たい男性に惹かれる女性の気持ちもわかりますか?
本当にわからないですね…。これは向井さんとも桐谷さんとも話していたんですけど、なぜキョドコは星名に惹かれるのか? というのは、この物語の肝でもあるので。彼女がそこまで心を奪われた理由が描かれていくことによって、すごく面白くなっていくと思います。そこは注目していただきたいです!
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