自分だけの個性の追求。将棋界の「貴族」がかける勝利への一手。棋士・佐藤天彦 30歳。

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将棋界の間で「貴族」といえば佐藤天彦の名が浮かぶだろう。棋士とは思えぬ独特なファッションを着こなし、取材を受ければ、クラシック音楽や西洋美術などの話題がどんどん飛び出す。棋士について回る“勝負師”という言葉からすると、かなり異色の存在に映る。

そんな佐藤の個性は、将棋に対する姿勢にも現れている。「将棋そのもの」に深く切り込み、回り道も厭わず、様々な手を追求することで、自らの「将棋観」を養っていく。自分だけの信念を持って物事を探究し尽す好奇心こそ、佐藤が持つ最大の武器である。

時代の流れや価値観の変化の波も華麗に乗りこなしつつ、再び"結果"への執着を見せ始めた佐藤。戦乱の将棋界だが、すでに天下統一への道を見通しているのかも知れない。(編集部)

1988年(昭63)1月16日生まれ、福岡市出身の30歳。中田功七段門下。06年10月四段。タイトル戦登場は5回目で、獲得は名人3期。あだ名は「貴族」。こだわりはファッションで、ベルギーのブランド「アン・ドゥムルメステール」がお気に入り。他にクラシック音楽、絵画鑑賞が趣味。血液型A。竜王戦は2組在籍。
―甲冑(かっちゅう)を着用された感想はいかがでしょうか。上杉謙信の甲冑を選ばれましたが、何か思い入れはありますか?
ここまで本格的に着用して撮影するということはなかなかないのですが、思ったほど重くはなくて、撮影も楽しくできました。戦国武将には全然詳しくないので、上杉謙信に特別な思い入れや理由はないんですけど、なんとなく「切れ味が鋭くてカッコいいイメージだったので」ですね。
―王将戦挑戦者決定リーグ戦には昨年に続き2期連続の出場となります。王将リーグに対するイメージなどを教えてください。
王将戦はすごく歴史がある棋戦、というイメージがありますね。時代によっては差し込み制があったりもして。そのリーグ戦に関しては、A級順位戦と同じように厳しいリーグだと思っています。僕自身は二次予選のシード権を得るまで、一次予選も突破できなかったんですけど、なかなか自分にとって手の届かないところにあったな、という印象があります。その厳しい王将リーグに昨年初めて参加して、実際に厳しさを味わったんですが(笑)。今期再挑戦できて、リベンジというわけではないですが、昨期を上回るような良い成績を挙げたいなという気持ちはありますね。
―1年が経ち、またこの舞台に戻られました。今回のメンバーを見てどんな印象を抱かれますか?
“戦国時代”と言われる中で、今までは羽生(善治)世代を中心とした人たちが、どのリーグ戦でもトーナメントの上位を占めていたイメージがありますが、今回はかなり若返ったというか。タイトルホルダー、タイトル経験者がたくさん集まったということで、厳しさとフレッシュさがあるリーグなのかな、という気がします。
―ここ数年を見ると、佐藤天彦先生の名人位獲得というのは「世代交代」という意味でも、大きな出来事のひとつでした。
僕自身にとっては、名人を獲得したときはタイトルへの挑戦が3回目でしたので、結果を出したいという思いが強かったですね。はたから見ると調子良く勝っているように見えても3回連続で挑戦失敗となると、また次いつチャンスが巡ってくるかも分かりませんし、なかなか勝負どころで勝てないイメージも付いてしまうので、早めに結果を出したいという思いがありました。久しぶりの”新名人”で、ずっと羽生さんと森内(俊之)さんが持たれていたタイトルですし、世代交代の象徴的な出来事と捉えられる部分もあったかな、とは思います。
第74期名人戦第5局 佐藤新名人誕生(写真提供:日本将棋連盟)
―名人3期目を迎えられました。1期、2期、3期とそれぞれ変化は感じますか?
求めていたタイトル獲得という結果が出たことによって、もちろん名人を背負う責任感も出ました。反面、自由に将棋を指せるようになったというか、「作戦的な意味でも幅広く捉えられるようになったかな」というのはありますね。

どうしても結果だけを求めるようなアプローチですと狭い方、狭い方に可能性を縮めていくというか、突き詰めていくというか、作戦の幅も狭くなって相手を自分の研究に引き込むような狭い道へ行ってしまう傾向が強くなると思うんです。自分の中から湧き出る興味に従っていろいろな戦法を試してみたりだとか、指したことのなかった作戦をやってみたりだとか、そういうふうに変わってきた部分があるかな、と思いますね。

昨年は初防衛ということで、今までとは別のアプローチで勝利を求めるところから逆算して考えるというよりも、個性を求めるような。例えば振り飛車をやってみたりだとか流行の雁木戦法をやってみたりですとか。ただ、なかなか結果につながらなかったというところも事実です。
―勝率が落ちた中からでも、得られることが多かったということでしょうか。
今までは大きな結果を出さなければいけない立場で、そういうアプローチができなかったんですね。でも防衛することができたので、そろそろ自分にそういうアプローチを許しても良いかな、という気持ちでやってみたというところがありました。タイトルを獲得してからの自由さというのを、昨年の防衛でさらに広げたというか、勝ちだけを求めるのではなく序盤から自分の持っている個性を出す、探るということを追い求めるようになっていましたね。

昨年そういう感じでいろいろやってみて、一定の満足感を得られたというのもあります。プロとしてやっていく中で、結果を出した上でそういうアプローチを試せるというのは、そうそう出来ることではないと思いますので。そういった意味では、今年に入って再び、勝利から逆算するようなアプローチに戻ったところはあるかなと思います。

あとは名人戦の第1局で羽生さんと対局した将棋で、自分自身の良い将棋が指せたという実感と、ファンの方々にも楽しめたという評価や反響が一致して、良い棋譜を残せたというのが大きなモチベーションになりました

純粋に自分が好きな絵画を見たときに得られる感動を、作り手の立場で自分自身がファンに届けられたのではないかという感動を得られたので、「そうか。こういうアプローチで良いのか」というのがありました。対局は負けたんですけどね(笑)。棋譜という作品を共同作業で作り上げていく中で、自分が取るアプローチの方向性が見えたというか。それが今も続いている感じです。
―昨年1年間で引き出しの数を増やしたことが今年の対局に活かされているんですね。
そうですね。1年でそういうことをやったことで、元来自分が持っていたアプローチに戻したとしても、ずっと結果を求めてやっていた時の状態とは違うような気がしますね。1回いろいろ広げたことによって新しい認識が増えたというか。例えば自分が振り飛車を本気で取り組んで指すことによって、振り飛車をやる側の気持ちが分かってきたり。「こういうところで悩んでいたんだ」とか「ここでこういう指し方を採用されていたのはこういう理由があったからなのか」とか、自分の中の振り飛車対策に活かされているというか。そういう意味で、アプローチを元に戻したときに初めて、1年間の中で消化したことが活きるというふうに言えるんだなと思いますね。
―今の話を久保(利明)王将が聞かれたら思うところがあるかもしれませんね(笑)。
久保さんは振り飛車の第一人者、スペシャリストなので。自分が振り飛車を勉強する中で改めて久保さんのすごさを感じたところもありました。「魅せる将棋を指しながら勝つ」という。振り飛車1本でやって勝っていくすごさとかも、前に比べるとより想像が付き易くなりました。

棋士として戦ってはいる訳ですけども、自分の中にはいち将棋ファン的な部分も持っているわけで、棋士を見る目や理解が深まったというか、振り飛車党の個性やすごさを改めて理解することにつながりました。「この人の将棋は見ていて興味深いな」とか、内から湧き出てくるものがあればあるほど、自分が将棋に取り組むモチベーションも上がると思います。

「勝たなきゃいけない、結果を出さなきゃいけない」だけだと自分を追い詰めて苦しくなってしまうと思うので、将棋界の中で、人の将棋を見る中で楽しめる要素が自分の中で増えたというのは、長いスパンでやっていく上で良いことだったのかなとは思います。
―羽生竜王との名人戦第1局は見ている側もワクワクしました。「激しい中でも終盤まで均衡が取れている、トッププロでしかお見せできない将棋」というイメージなのでしょうか。
2日制の重厚な戦いで、持ち時間があったからこそあの将棋ができたと思いますし、対局者の組み合わせと持ち時間との組み合わせと、名人戦という舞台との組み合わせですとか、いろんな要素が集約されてああいう将棋ができたのかなと思います。だからこそ価値があるものなのかな、とも思いますね。

将棋の内容的にも、プロにしか指せないものっていうのもあるかもしれませんし、条件(が整った状態)でしか指せないというのもあるかもしれません。そういうところから結実して良い将棋が指せたっていうのがうれしかったです。
第76期名人戦第1局 佐藤名人と羽生竜王の感想戦(写真提供:日本将棋連盟)
―1年前では見えなかった手が見えるようになったというような感覚もあったのでしょうか?
ここまで来ると1年でものすごく強くなるというのも難しいので。その第1局に関しても羽生さんが選ばれた手に対して、こちらが時間を使って考えることで新たな側面を引き出してもらったなとは思いますね。羽生さんとの読みはそこまで乖離(かいり)することがないというか、かみ合うタイプだとは思うんですが、その中でも「あ、ここでその判断でやってくるのか」とか、意表を突かれることもありましたし、自分自身の知らない面を引き出してもらった気がしますね。
―名人戦後、連勝が続いている要因も、やり方を変えたところにあるのでしょうか。
やり方を変えて、名人戦第1局でなんとなく方向性がつかめてきて、名人戦で結果を出せたことで手応えが結果につながって、いいリズムができているのかなというのはあります。充実した中で将棋が指せてまた結果が出て…という繰り返しで連勝が続いているのかな、と思います。
―研究の中でソフトが占める割合はどのくらいですか?
かなり使っていますね。ただ全部取り入れてしまうと実際に勝負をするときに、ソフトと同じような読みができるわけではないので、勝てなかったりすることもあります。逆に全く取り入れないとソフト研究をしている人たちに付いていけなかったりするので、その辺のバランスがこなれてきた感じはあります。

例えばこの手は有力そうだけど実戦で指したら、そのあと指し続けていけないかもしれないとか、この手はコンピューターの示す手より評価が高いし実際指しこなせそうだとか、そう思えば取り入れますし。研究でもひとつひとつの判断が必要なので、その精度がちょっとずつ上がってきた気はするんですよね。

序盤の割合が大きくなると思いますが、中盤終盤でも今まで見たことがないような技術をコンピューターが示すこともあるので。同じ局面が出るわけじゃないのですが、蓄積しながらやっているつもりではあります。
―そこまで研究していないとトップクラスでは戦えない時代なのでしょうか?
その人自身のアプローチによると思います。研究の下地がないと指すのが難しい戦型があるんですよね、例えば角換わりとかは序盤は毎局同じような形に収束していくので、研究量の差が出てくるというか。そういう限られた戦型の中においては事前研究の重要性というのは変わらずあるのかなと思います。ディテールの変化に合わせてソフトを取り入れて、研究するという新しい勉強法も、ある程度取り入れなきゃいけない戦型はあると思います。

研究はひとりでやることが多いですが、人とも指していますね。研究会や「VS」も、月に全部で4つか5つはあると思います。そこでバランスを取りながらソフト研究に偏るのではなく、人間の感覚というのも大事にしつつやっていきたいなというスタンスではあります。棋士によってスタンスが分かれるところではあると思うのですが、その辺の違いもファンの方に楽しんでいただけているところなのかなと思います。

やっぱり最終的には人間対人間ですし、そこで有効でなければいけないので。いくらソフトが示す最善手だったとしても最終的に勝負に勝つことが大事なので、うまくかみ合わせていくことが大事かなと思います。「ソフトの候補手だからそのままやろう」ではなく自分の中で咀嚼(そしゃく)して、これは自分の中で取り入れられるのか、使えるのか、というところをひとつひとつ判断していかないといけない、と思いますね。
―ソフトによって将棋界は大きな変化期を迎えたと思いますが、どの辺りが変わったと感じますか?
ソフトによって、人間が今まで信じていた価値観が覆された部分が結構あるんですよね。例えばバランス型の雁木戦法とかは昭和の最初の頃は指されていたわけですけどもだんだん、王様を固めた方が実戦的に勝ちやすいんじゃないかとか、そういうふうに前の時代の価値観を塗り替えてきた歴史があるんです。

我々の世代というのは、「バランス型の玉型よりは固い方が勝ちやすい」「飛車先の歩交換は受けた方が良い」「矢倉でがっぷり四つで戦った方がいい」というセオリーを学んできています。でも改めてコンピューターによって「いや、実はバランス型もあるんだよ」「矢倉でしっかり囲い合うだけじゃないんだよ」「飛車先の歩交換を許して良いときもあるんだよ」とか、学んできたセオリーを逆行するような価値観を示されている状態なんですよね。

それによって20年やってきた将棋のセオリーが「実は違ったのかもしれないじゃん」という感じで、価値観を入れ替えないといけなくなってきているんです。ただ、面白いことに昔指されていた将棋と表面上の型だけ見ると似通っていたり、温故知新のような、コンピューターの示す価値観が昔のセオリーに似ていたりする点もあって面白いなと思いますね。

そういう新しい視点をコンピューターが提供してくれたことによって視野が広がって、新たな将棋の可能性を人間が探っていけることにつながっていると思います。相乗効果が大きいように感じますね。
―最近のタイトル戦では先手番の勝率が高いように感じます。何か要因はあるのでしょうか?
それは人によって感じ方が違うみたいですね。例えば渡辺(明)棋王はもともと”先手番有利論者”なんですよ(笑)。「先手の得が大きいし、ソフトが出てきたことによってさらに広がった」という論を展開している気がします。

それに対して僕は先後の差をあまり気にしないタイプなんですね。「う〜ん、そこまでかなあ?」みたいなところがあるんですよ。ただ、確かに先手ばっかり勝つ時期ってありますよね。ソフトが出る以前にも羽生・森内の名人戦とかも先手番ばかり勝ったりして。今がまたその周期なのかもしれないですね。ソフトがどれだけ関わっているかというのは難しいところですが、確かに影響はあると思います。

例えば、今期の王位戦(菅井王位vs豊島棋聖)ですが、本来は振り飛車党と居飛車党の戦いでは先後の差が出ることはあまりなかったと思うんです。居飛車党の定跡型を多様する人同士の戦いにおいては先後の差が出るということはあったと思うんですが、居飛車対振り飛車の対抗型においてこんなに先後の差が出るのは珍しいことなので。

ソフトが評価しづらい振り飛車を主力としている人にとっては大変な時期かもしれないですし、横歩取りという戦法においてもソフトが研究を進めていく中で後手番は苦しいとされてきたりとか、そういう影響はあるかもしれませんね。
―今の将棋界の戦国時代について、名人の立場としてどのような印象をもたれていますか?
羽生世代からだんだん若い世代にタイトルが移り変わっている過渡期かなと思いますね。私たちと同じくらいの世代が本格的にタイトルを獲り始めたと同時に、有望な20代の世代がいて、しかも藤井(聡太)君という存在が出てきて。将棋界の歴史の中でも珍しい時代なのかなと思いますね。上は40代、下は10代中盤ということで、それだけの人たちが群雄割拠する時代というのは珍しい現象なのかな、という気はしますね。
―そんな激動の時代で勝ち続けるために、どんなところに意識を向けていますか?
長く戦えるような価値観や力を身に付ける必要があるのかなと思います。具体的に言うと、自分が50代、60代とかだったらソフトの影響などの価値観を取り入れずに最後まで走りきればいいという選択肢もあると思うんです。

でも私は30歳ですし、20年、30年という長いスパンで戦うことを想定しないといけないと思うんですよね。そういった中で、このまま自分の学んできた価値観のまま走り切るというより、ハードルは高くても新しく出てきた価値観から学び取ったり、自分より年下の若手から吸収したり、藤井さんのような存在からも学ばなければいけないでしょうし。そういうふうに新しく取り入れる部分や、ものによっては全く価値観を入れ替えるというか、より受け入れていかないといけないのかなとは思っています。長い時代に通用するような考え方に挑戦するというのが大事になっていくと思いますね。

勝ち方に関しては、棋士の個性が最終的に出てくる部分があると思うんですけど、そこにだけ誘導しようとするアプローチだけだと幅が狭過ぎるかもしれないですね。ある程度は自分が最も得意とする戦法じゃなくても、勝っていける実力を付ける必要があったり、自分の土俵でなくても組み合えるような柔軟性を持っていないと、長い期間、戦い抜くことは難しい、というのはありますね。やっぱり時代によって戦法の流行というのも移り変わっていきますし、価値観の固定化というのはなるべく避けた方が良いのかな、というのはあります。

「この戦法だけでやっていくんだ」と決めてしまうとその他の戦法に対する知見が減ってしまったり、後からだとどうしても追い付けない部分も出てきてしまって、流行期にしっかり学んでおかないと認識として捉えられない細かい変化というものもあるので。仮に得意分野でなくても最低限学んでいかないといけないと思いますし、そこを地道に押さえていくのも大事なんだろうと思いますね。
―藤井七段を初めとする若手棋士の方はソフトと共に育った世代でもあります。名人世代とは考え方に違いがあると感じられますか?
彼らもソフトをうまく取り入れていると思いますが、結局のところはソフトに影響された将棋というよりもその人自身の個性が出ているということになると思います。藤井さんにしてもそうですし、ソフトの技術や価値観、考え方は取り入れているんでしょうけど、最後のところは彼自身の個性で勝っているところが大きいように思えます。その上の世代の佐々木勇気さん、菅井(竜也)さん、永瀬(拓矢)さんもそうですし、ソフトの影響を受けつつも結局のところは自分の個性が色濃く出てる気がするんですよね。ソフトを使った学問的な研究というよりも、現場でのやり取りに収斂してくことは今までの世代と変わらないという気はしますね。
―人間同士ですので、例えば昼食休憩で相手が何を食べたのか、とか気になるものなのでしょうか(笑)。
僕は全然チェックしないです(笑)。むしろたまに対局相手と同じで驚くこともあるんです。タイトル戦だと自室での昼食なので、後でファンの方から「同じでしたね」と言われたり。気を遣う方は「大先輩より高いものは頼みづらい」とかいう人もいるんですが、僕は気にせず鰻重とかいっちゃったり(笑)。そういうところで”棋風”が出たりもしますよね。

本当にファンの方たちはよく見られていますね。今回の王将リーグもライブ中継が入ると思いますけど、内容だけでなく、棋士のキャラクターとか対局中の所作とか、何を食べるとかチェックされていて、今までの棋士がアピールしている部分とまた別の部分も自然に楽しんでいただいているなというのは感じますね。
―名人戦での佐藤名人の姿勢もネットで話題を集めていました。
姿勢やポーズもいろいろ言われますね(笑)。そういうのもライブ中継があるからこそですよね。ずっと体勢が変わらない森内先生や谷川(浩司)先生のようなタイプもいらっしゃいますし。僕は長考する時は前傾姿勢で考えたりとか、シチュエーションによって考える姿勢が違ったりもします。

動画中継が始まるようになっていろいろと見られるようになったと思うんですけど、棋士の側からすると盤面以外のところをアピールするという頭は全くなかったわけで(笑)。予想外に盛り上がるというのも面白いですよね。今期の名人戦第6局2日目に和服を着替えたことも「(ネット上で)何か言われてるんだろうな」とは思ったんですけど、自分の暑い寒いに従おうと(笑)。そういうことを思いつつも、「自分の好きにする」というのを大事にしていますね。

あとは対局中、おやつを食べるときは見られているんだと意識するようになって。イチゴを落としたりしたら「うわ〜盛り上がってるんだろうな〜」とか思ったりして(笑)。思考しているときは見られていることを忘れているんですけど。
―佐藤名人といえば”貴族”キャラが定着されていますが、本当はどういうキャラなのでしょうか?
おおらかな性格なのかな、とは思いますね。貴族っていう部分に関しては、こんなふうに見られるようになるとは思っていなかったんですけど(笑)。でも実際に西洋の貴族文化やヨーロッパの文化が好きだというのは事実ではあるので、楽しんでもらえるならいいかなとは思っています。

振り返ってみると中学生のときにクラシック音楽に熱中するようになって、高校2年くらいから服装に気を付けるようになって、凝り性が発動してコレクション雑誌とか見るようになって。近世のヨーロッパ風の貴族的な部分を取り入れたブランドが好きになったり、絵画や美術、建築に興味が出てきたときも中近世の文化に引かれてたり。大人になった今、そこに戻って定着しつつある気がしています。
―将棋ファンの方に名人オススメのクラシック音楽や美術を紹介するとしたらどのあたりでしょうか。
候補が多くて選べないですね…。作曲家ですとグスタフ・マーラーとかアントン・ブルックナーとか、1曲に1時間くらいかけるような交響曲があるんですが、そういうのは聴き応えがあると思いますね。

美術だと、僕が好きなのは優美な作風を持った画家で例えば、ルネッサンス期だとサンドロ・ボッティチェリとか。「ヴィーナスの誕生」や「プリマヴェーラ」など、華やかで優美な作風の画家ですね。あとは、18世紀のロココと呼ばれる時代の文化も好きなので、フランスの画家であるフランソワ・ブーシェなども。美術史的にはロココの時代は取り上げられることが少ないと思うんですが、装飾文化の一環というか派手な彫刻を彫ってその上から金で装飾したりする豪華絢爛(けんらん)なんですけど軽快さも持っていたり。現代人から見ると一見豪華なだけの装飾なんですが、建築様式にぴったり合うように計算されていて、絵そのものというよりも構造物と一体化している部分が魅力というか。ベルサイユ宮殿にあるからこそすごく映えるとか。そういう様式の一環として好み、というのがあります。
―アートなどの芸術の魅力は自分の中にしか答えがないものに感じますが、そこに引かれるのはなぜだと考えますか?
自分が興味がある方向に収束されていくというか、どんな分野でもそこに向かっていくのが面白いと思いますね。遺伝的なものもあるのかもしれませんね(笑)。
―英会話教室にも通われていると伺いました。
まだまだ習い始めなので全く会話できません(笑)。5年後とかにもう少ししゃべれるようになったらいいなとは思いますね。国際将棋フォーラムに出演したとき、少しでも英語でコミュニケーションが取れたら楽しいだろうし、将棋の普及にも役立つだろうなと思っています。
―今年で30代に突入にしました。ご自身の中で何か変わった部分はありますか?
そんなにはない気がしますね。今は若手がすごい勢いで出てきている時代なので、中堅に見られる世代になってきたと思うんですけど、自分の中では若手の感覚を持っているつもりというか。自分で言うと恥ずかしいんですけど(笑)。今のところはやり方を大きく変えたところはないですね。あるとすると、昨年のアプローチの変化の方が大きかったと思いますし、年齢に関する変化はないと思いますね。
―藤井七段とも対戦されました。どんなところが彼の強さだと感じられますか?
棋士が指す将棋には人柄が出ると思うんです。藤井さんもその通りで、将棋に関しても藤井さんご自身に関しても年に似合わない老成された感じがあると思うんですよね。序中盤が若者らしからぬ技術の高さ、老成された感じ、負けにくい形を作る技術に長けているというか。そういうところが普段の受け答えだったり、大人っぽいところに通じる部分があると思います。

あのくらいの年齢ですと、歴史上有望とされた人たちも「終盤は強い、ただ序中盤はまだ荒削り」というのが共通項としてあったと思うんです。けど、藤井さんの場合は終盤の切れ味は持ちつつも序中盤が非常に老成されているというのが今までの人たちとの一番大きな違いだと思いますね。

序盤から終盤までどこも強い(笑)。プロ棋士全員と比較しても、序中盤がうまい棋士だなと思いますね。良い時期に、良い部分だけコンピューターから取り入れているからかもしれません。でもどの部分を取り入れるかというのも含めてその人の裁量や実力が出る部分なので。
第11回朝日杯準々決勝 佐藤名人-藤井(聡)戦(写真提供:日本将棋連盟)
―最後にこの1年の目標をお願いします。
名人3連覇を達成した現在、名人戦以外での活躍を期待されていると思うことが多くなりました。なので、各棋戦での上位進出、理想を言えばタイトル獲得や棋戦優勝とか、結果をひとつでも多く増やしていくことが自分に求められていることなのかな、とも思います。またそれは自分自身も素直に求めている部分でもありますので、結果を追い求めて頑張っていきたいです。

その過程で良い将棋を指していきたいというのもありますし、結局は1局1局を大事にして頑張るというところから始まるるものだと思います。これからも見ているファンの方にとって、面白い将棋を指していきたいですね。

インタビュー=我満晴朗(スポニチ)
写真=浦田大作
衣装協力=甲冑工房丸武
デザイン=桜庭侑紀、野間志保
ディレクション=金泳樹、伊藤靖子(スポニチ)
企画・プロデュース=森 和文
第一弾「20代の逆襲」

読者プレゼント

今回インタビューをさせていただいた、佐藤天彦さんが揮毫(きごう)した色紙と、第68期王将戦挑戦者決定リーグに出場する7人と久保王将のサイン入り扇子を1名様にセットでプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
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受付期間
2018年10月4日(木)18:00〜10月10日(水)18:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/10月11日(木)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから10月11日(木)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき10月14日(日)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
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