多才でありうっかり者であり。その人間らしさに僕らは惹かれる。棋士・糸谷哲郎 29歳。
昨日行われた王位戦第7局、豊島将之が菅井竜也を下し棋聖戦に続き二冠を達成。8人が8つのタイトルを争う均衡状態を破り、一歩リードした。これによって「豊島時代の到来」と断言するにはまだまだ時期尚早だ。それほどまでに今の将棋界は、トップ棋士のレベルが拮抗しており、タイトルホルダーでも一年後どうなるかは分からないといった状態だ。
そんな戦乱の世を棋士たちはどのように生き抜くのか。「20代の逆襲」に続く、第二回のテーマは「戦国」。王将戦の主催者であるスポニチの協力で、まもなく始まる挑決リーグに出場する7人と、タイトルホルダーの久保に、将棋界の「現在」について話を聞いた。さらに今回は、「戦国」というテーマにちなんで、各棋士に好きな武将の甲冑を着て頂いた。
第一回はダニーの愛称で知られる糸谷哲郎。棋士としては、大学院修士課程を修了するなど、異色な経歴を持つ。DJ、スイーツレポート、カードゲーム…何をやらせてもこなせてしまうまさに天才だ。哲学を勉強してきたからか、糸谷の話は論理的でとても理解しやすい。それでいてユーモアもたっぷり。時には情熱的な一面もあり、そんな彼の人間っぽさにファンは惹かれるのかもしれない。選んだ甲冑は真田幸村。糸谷が将棋界で文字通り「日ノ本一の兵(つわもの)」になる日を、ファンはきっと待っている。(編集部)
本当に厳しくて、維持するだけでも最難関のリーグと言えると思うんですよね。半分(7人中3人)が落ちるので非常に恐ろしいリーグです。まだタイトルへの挑戦ができていないんですけど、陥落せずに粘れてはいるので「最近相性の良い棋戦なのかな」とも思っています。今回も対局相手の方も当然、精鋭中の精鋭、といっていい方々ばかりなので、一戦一戦、緊張感を持って挑ませていただいています。
今期はこれまであまり調子が上がっていないので、どうにかリーグ戦までには整えられるように頑張りたいと思います。
手がちょっと拘束される以外は動けるんですけど、今回のは軽量版ということで。重量版だったらちょっとどうなっていたんでしょうね。さすがに重みでつぶれる体型ではないと思うんですけど(笑)。
内政がすごく楽しいゲームで、開始してからずっと引きこもって内政しているんですけど、そのうち敵が攻めてくるから鉄砲で撃って倒すという。雑賀衆は場所が和歌山山岳地帯ということもあって、四方から挟み撃ちにされることはないので、地形的にこもりやすいんですよね。それに鈴木家の家紋である八咫烏(やたがらす)がかっこいい。
真田昌幸に関しては、「寡兵(少数の兵)で大軍を破る。でも報われない」という戦国武将としての美しさが象徴的ではありますよね。楠木正成とかもそうなんですが。やはり歴史において一番ロマンのある戦いは「いかにして寡兵で大軍を破るか」だと思うので。
「信長の野望」では、基本的に内政を極めて、そろそろ織田あたりが天下統一をしそうだなってところから外に出ていきますね。真田で十勇士が出てくるまで外に出ないっていう縛りプレイをやってたんですが、だいぶきつかったです(笑)。
逆に将棋では城があんまり役に立たないので、包囲されるとまずいんですよね。なのでやっぱり散開するように意識します。
ソフトの発展などにもよって各棋士がお互いのレベルを序盤で上げられるようになった、というのが大きいと思うんです。先手の有利が以前に比べてどんどんどんどん増していて。上のクラスに行けば行くほどその傾向が強くなっているようなところもありますね。そういった意味では技術の向上というのもあったのではないのでしょうか。
とにかくうっかりが多いんですよね。読み抜けとか、軽挙妄動とかいろいろありますけども。基本的に思考に行動が追い付いていないというか、なかなか改善が難しいんですよね。どうしたら直るんですかね(笑)。
よく指摘される持ち時間の使い方は、意識的な早指しと良くなってからの長考などだいぶ改善してきてはいます。ただ時間を多く使っても、うっかりはそう簡単になくならないんですよね。なので、時間じゃないんですよね。人間はどれだけ準備をしても、どこかで見落としているところはあるなと。
プロ棋士というのは、頭の中で全部の手を検索するわけではなく、いくつかの手をピックアップするので、そもそも手が見えていないときもあるんです。野球でいうと、「ここでまさか三番バッターがスクイズをしてくるとは…」みたいなことが起こります。
正解は多いかもしれないですけど、守ってる方が致命的なミスにはなりにくい。ただそうはいっても戦形次第なんで、迷ったら攻めたほうがいいとは思っています。
そういった意味で今ブームになっているのはありがたいことですが、「不断の努力」というか、常に皆さんに楽しんでいただけるような努力をし続けなければいけないのかなと思っています。
これまであった軸自体を変えることはあっても捨てることなく、いろいろと新しい試みも続けていければいいなと思ってます。その時代時代に合わせて、形を変えていくことが必要なんじゃないかと思います。
将棋というのは時間もかかるし非常に難しいゲームです。始めてすぐは、弱いコンピュータには勝てるんですけど、対人戦だとなかなか勝てないんです。ゲームの初心者というのは、成功体験がないと続ける気力ってなかなか湧きにくいと思うんです。そういったところをどうにかしていけたらいいなと思っています。
観て楽しんでいただけるだけでも非常にうれしいんですけど、棋士が何を考えているのかは実際に指していただけたほうが、より深く分かっていただけるのかなとも思います。ただ例えばフィギュアスケートや野球などのように、プレーヤーじゃなくても観て楽しめるってことの方が重要かもしれないという気持ちも理解しています。
哲学というのは暫定的に答えを出していくみたいな感じの学問です。科学と似たようなプロセスだと思います。とりあえず暫定的に仮説を立てて、説明して、それがそぐわなくなったらまた違う仮説に変えてみて…みたいな。扱っている領域が違うだけで同じだと思っています。
人間というのは、普段している思考から導かれやすい結論に飛びつきやすい性質があるんですよね。本当にそれはどうなのか、と疑ってみる目線も必要です。人間は先入観から完全に逃れることはできないんです。せめて複数の価値観を持っていた方が物事を分析しやすくなるんじゃないかな、と思いますね。
将棋とつながっているかどうか分かりませんけども、多角的な視点を持つことについて考えるというのは、結構最近の傾向では使えますよね。居飛車と振り飛車では局面が違うというケースも多いので、どっちの面も持っていれば有利だとは思いますね。
広島だとカープファンになるのは、大阪の人がタイガースファンになるくらい自然なことで、学校の先生はカープの勝ち負けで小テストをやるかどうか決めていたくらいです。中学生の時は私も昔はラジオでカープの試合中継を聴きながら宿題をやっていました。その当時が(カープが)一番の暗黒期だったんですけども(笑)。
王座戦予選では、こっちが自爆状態だったのであんまり参考にならないですが、終盤とかきっちり読んでますね。丁寧に読んでいて。集中を切らさないのはすごいなと思いました。
現代は序盤に関しての研究材料がそろっているので、そういった意味で序盤に関してミスしにくくなってるんですよね。過去にデビューした先生と今デビューする人を比べることにあまり意味はないと思います。環境が違い過ぎますから。
自分もタイトルをもう一丁獲ろうと思っています。もう一丁とは言わず何度でも。 (了)
読者プレゼント
今回インタビューをさせていただいた、糸谷哲郎さんが揮毫(きごう)した色紙と、第68期王将戦挑戦者決定リーグに出場する7人と久保王将のサイン入り扇子を1名様にセットでプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。
- 応募方法
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\「創造」/#糸谷哲郎 八段のサイン入り色紙(揮毫)、王将リーグに出場する7人と久保王将のサイン入り扇子をセットで1名様にプレゼント!
— ライブドアニュース (@livedoornews) 2018年9月28日
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- 2018年9月28日(金)18:00〜10月4日(木)18:00
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