新米パパインタビュー/第2回:森 渉「家族の笑顔を守るためなら、まわりに何を言われてもいい」
「うちは特殊なので、僕の話は参考にならないかもしれません」。森 渉は笑いながらそう言った。特殊、なのかもしれない。森の妻は、特徴的な声と持ち前の天然キャラでお茶の間をにぎわせている声優の金田朋子だ。2013年に結婚し、2017年6月20日、千笑(ちえ)ちゃんが誕生した。
当初、取材は森ひとりの予定だったが、千笑ちゃんのお世話をしていた金田も同伴し、にぎやかな現場となった。「千笑」の名に込めた願いと同じように、森にとって何より大事なのは、家族が笑顔でいること。家族の笑顔を守るためなら、まわりから何を言われようと構わない。「常識を考えてたら金田朋子と結婚していないです(笑)」――冗談めかしながらも愛おしそうに見つめる先には、最愛の家族がいる。
デザイン/前原香織
家族3人の生活は予期せぬハプニングの連続だった
- 千笑ちゃんが生まれて1年が過ぎましたが、森さんにとってどのような1年でしたか?
- 森:短いようで長かったですね。ひとつずつ振り返れば、大変なことがいっぱいあったので。娘に対して大変だったというわけではなく、大変だったのは(金田さんのほうを見ながら)あの子です(笑)。赤ちゃんは大人と同じようにできなくて当たり前だから苦じゃないんですが、それよりも「あなた、母親でしょう」ということがあまりにも多すぎて……。
- たとえばどういうところですか?
- 森:最初は抱っこもできなかったんです。まだ首が据わってない時期、ベッドから抱きかかえるときの力加減がわからないから「怖い」と。だから、おっぱいの時間になると、僕が胸元まで赤ちゃんを運んでおっぱいを吸わせてました。朋ちゃんはおっぱいを出すだけ。「ウォーターサーバーか」と(笑)。
- (笑)。
- 森:今ではちゃんと抱っこできるようになりました。あと、朋ちゃんはいつでもどこでも寝られるうえに、一度寝ると熟睡しちゃって簡単に起きないんですよ。夜泣きも気づかないですし。
- 最初の数ヶ月、何時間かおきにおっぱいをあげなきゃいけないときは……?
- 森:あのときは僕が朋ちゃんを起こしてましたね。
- 金田:本当に起きないんです、私。
- 森:朋ちゃんがこんな感じなのは知っていたし、僕も彼女と結婚した時点で覚悟はしていたんですけどね……。今は安心してひとりでも任せられますけど、最初の頃は朋ちゃんに預けて大丈夫かな?って、仕事中も気が気じゃなかったです(笑)。仕事中に、朋ちゃんから何度も電話がかかってくることもあったし。
- 金田:あの、私の中で接着剤って最強なんですよ。モノとモノが一瞬でくっつくってスゴくないですか? ヤバい成分が入ってると思うくらい、効き目がスゴいじゃないですか。だから接着剤が手についたとき、皮膚に浸透して、お腹の子どもにも影響を及ぼすんじゃないか、と心配になって……。
- 森:妊娠中の話ね。電話の着信が何十件と入ってて、あわてて折り返したら「どうしよう、どうしよう、あのさ、接着剤が手についちゃったんだけどさ、赤ちゃん大丈夫かな?」って。「大丈夫です!」と言って電話を切りました(笑)。
- (笑)。そういうやりとりから、大喧嘩に発展することもありますか?
- 金田:しょっちゅうですよ。
- どうやって仲直りするんですか?
- 金田:それは私が謝ります。よくわからないけど、私が悪いんだろうなと思って、ごめんなさいって謝る。
- 森:よくわからないけど、って……。僕はそもそも喧嘩だと思ってないんですよ。喧嘩だと思われたら逆にシャクですね(笑)。自分としては諭しているイメージです。
- 金田:私、本当によく怒られるんです。いちいち落ち込んでたら切りがないくらい怒られてるので、さぁーせん!みたいな(笑)。でもすぐ忘れちゃうから、また同じことで怒られるんです。
- 森:もう、一緒に成長してくれればいいなぁって思ってます(笑)。このあいだ朋ちゃんのお母さんと話したんですけど、けっこう早いうちに孫の成長が朋ちゃんの成長を追い抜きそうだって。3歳くらいで追い抜くんじゃないかって(笑)。
- 母親としてちゃんとしてよ!って怒るときもあると思うんですが、尊敬しているところもありますよね。
- 森:尊敬?
- 金田:1個くらいあるでしょ!
- 森:スゴいなって思うのは、おっぱいが出ること。うらやましいなって思いますね。僕もおっぱいが出ればって何度も思いましたもん。
- 金田:(不満そうな表情)
- 森:あー……。本当にゆっくりなんですけど、本当にゆっくりすぎて目に見えてわからないくらいのスピードなんですけど、ちょっとずつ成長しているなぁと思います。
- 金田:愛情だけは自信があるよ!
- 森:愛情はすごくあるんです。ただ、その愛情の伝え方が過剰すぎるときがあるんですよね。朋ちゃんはいつも全力だから(笑)。
自然妊娠の確率の低さ、流産のリスク。高齢出産の“壁”
- おふたりが結婚したのは金田さんが40歳、森さんが30歳のときでした。結婚当初は、子どもはまだ先でいいと思っていたそうですね。
- 森:僕のわがままだったんですけど、僕には夢があって、その夢を叶えていない状態で子どもを作ってしまうと、夢が叶わなかったときに、頭の片隅で子どものせいにしちゃうんじゃないかと……。朋ちゃんの年齢を考えると、早く作るべきだよなと思ったこともあったんですけど。
- 女性には出産のリミットがある。
- 森:そうなんですよね。流産したときに病院で先生から説明を受けて、そこで初めて、40歳を過ぎると自然妊娠できる確率が低いことや、流産のリスクが高いことなど、具体的な数字を知ったんです。
- 僕のわがままで朋ちゃんを待たせていたことが本当に申し訳なくて。朋ちゃんが寝ている横で、神様にお祈りしていました。それから何ヶ月かして妊娠できたときは、本当にうれしかったです。
- 金田:あのときは、なんで流産したんだろう?ってすごく落ち込みましたけど、今となってはすべてが、この子が生まれるまでの準備期間だったのかなって思っています。「性別はどっちがいいの?」って聞かれても「どっちでもいいよ!」って。元気に生まれてきてくれれば、それでいいって本当に思っていました。千笑ちゃんには感謝しかないです。
- 子どもが生まれたらこういう家庭を築きたい、という理想は描いてましたか?
- 森:僕の理想は、娘の名前にこめた思いと同じですね。朋ちゃんと出会ったとき、僕はほとんど仕事がありませんでした。人より努力してる自信はあったけど、仕事が全然ないっていう。朋ちゃんは、僕から見るに努力を一切していない。それなのに毎日仕事があってお金を稼いでいて。
- 努力を一切してない、と言い切るのは……。
- 森:いや、本当にそうなんですよ。「毎日きちんと歯を磨く」ことが、あの人にとっての努力なので……(笑)。で、僕と彼女の差は何なんだろう?と興味があって、隣で見てたんですよね。そしたら、すごくよく笑うんです。しかも人を引きつける笑い方というか、魅力があって、ああ、これなのかと。
- 金田さんの笑顔って、まわりをハッピーにする力がありますよね。
- 森:ですよね。よく「笑う門には福来る」っていうじゃないですか。だからよく笑うことって大事なんだなと思って。自分に振り返ってみると、たしかに努力はしてきたけど、歯を食いしばってるばかりでそんなに笑ってなかったような気がしたんです。それが朋ちゃんと一緒にいてよく笑うようになってから、仕事もうまくいくようになりました。
- だから人生において「笑う」ってすごく大事なんだなって考えるようになって、じゃあ、娘の名前に「笑」の文字を入れようねって夫婦で話して、「千笑」にしたんです。
常識を考えてたら金田朋子と結婚していません(笑)
- 先ほどからお話を伺っていると、森さんは最初からスムーズに子育てをされている印象をうけましたが。
- 森:もちろん僕も父親になったのは初めてなので、最初はできないこともありましたけど、子どもが生まれる前からネットで検索したり、育児書を読んで勉強しました。朋ちゃんは心配性だから、「不安なことは俺が事前に調べておくから、ネットとかは見なくていいよ。朋ちゃんはいつも笑っていてくれればいいんだから」って言ってましたね(笑)。
- 心強いです!
- 森:家を守るのが僕の仕事ですから。家のことをやるぶん、好きなことをやらせてもらってるし。僕は役者としてデビューしているので、本来なら役者の仕事をやらなければいけないんでしょうけど、今はいちばんやりたかったスポーツ番組に出させていただいていて。でも、それだけで食べていくって相当難しい。それでもいいって言ってもらえるように、家のことはしっかりやろうと思っているんです。バランスとしては稼ぐのが嫁で、家のことをやるのが僕です。
- 以前に、森さんが ブログに仕事と育児の両立について投稿されていたのを読みました。「僕が朋ちゃんに代わって育児をしてるって言うと、“男なんだからお前が働けよ”って思う方もいるでしょう。でも僕はそのプライドを守るよりも、家族の笑顔を守る事を優先させました」という内容でした。
- 森:ネット社会なので、いろいろ言われやすいじゃないですか。だから気になっちゃう部分もあるんですけど、僕にとっていちばん大事なのは、家族が笑っていること。僕ら夫婦のバランスが普通と違ったとしても、まわりが何を言おうとも、気にしなくていい。世間の常識みたいなものも、とくに意識していません。そもそも、常識を考えてたら金田朋子と結婚していないですよ(笑)。
- (笑)。
- 森:朋ちゃんと結婚した時点で、普通の家庭にはならないと思ってましたから。世間の声に振りまわされず、大事なこと以外は気にしないという考えです。たとえば、僕の仕事が忙しくなって、そのせいで家庭がめちゃくちゃになったら何の意味もないんです。それが僕らの家のバランスなんですよね。
「ぽぽちゃん、冷たくなった!」金田朋子から見た“夫”
- 「女性の愛情曲線」ってご存知ですか? 世間では、奥さんの旦那さんへの愛情は結婚のときがピークで、子どもが生まれた時点から下がっていくんだそうです。
- 金田:あ、わかる! 子どもが生まれてから、ぽぽちゃん(森さんのあだ名)にすごく怒られるようになったんです。まさにこの「愛情曲線」と一緒。うちの場合は逆なんですね。私が夫なんだ。
- 森:(妻に対して)愛情がなくなることはないんですけどね。
- 金田:怒られることが多くて、愛情が伝わってこない! 「この子はひとりでは生きていけないけど、あなたは大人なんだからひとりで生きろ」って言われたこともあるんですよ。ぽぽちゃん、冷たくなった!
- 森:俺はこの子を見なきゃいけないんだから。あなたは40歳を過ぎてるんだから。
- (笑)。妻にそういったことを言われて、疎外感を味わう夫も多いみたいですね。
- 金田:うちの場合は、産んだのは私で娘に対する愛情もあるから、世の男性が落ち込むほど疎外感はないですね。あー、でも本当に怒られることが多くなった! 昔よりも言い方がキツくなった感じもするし! でもわかりました、子どもが生まれたことで愛情曲線が下がったんですね。腑に落ちました。
- 森:僕はママの感覚と近いので、男性側にメッセージを送るとすれば、「子育てを手伝ってあげて」というよりは、「ストレスを1%でもいいから減らしてあげて」と。ママたちは自分のやりたいことを我慢して、日々育児を頑張っていると思うので。自分のことは自分でやる、というだけでもだいぶ違ってくるんじゃないかな。
- 金田:自分のことは自分でやる……。
- 森:ちょっとでも理解してもらえれば、ママも楽になると思うんですけどね。
- すごく共感します。理解してほしいんですよね。
- 森:そうなんですよね。労いの言葉があるだけで違いますし。
- 金田:それは私がいつもぽぽちゃんに言われていることだから、気をつけるけど……。でも、ぽぽちゃんだってちゃんと言ってくれないと。子どもが生まれてから当たりが強くなったし、私のこと嫌いになったのかと思ったよ!
- と、おっしゃっていますが?
- 森:朋ちゃんが好きなもの、たとえばグラタンとか作って用意したり。それで感謝の気持ちを伝えてるつもりなんですけど。
- 言葉じゃなくて行動で示している、と。
- 金田:それがダメなんだと思う。私はまわりくどくされたら伝わらない。直球じゃないとわからないから。まぁ、グラタンをいっぱい食べれたのはよかったですけど!(笑)
- 「疲れたー」って仕事から帰ってきて、ぽぽちゃんが作ってくれたごはんを食べながら、ふたりが遊んでる姿を見る時間が最高に幸せなんですよ。でもそうすると、今度は「食べてばっかりだ」って怒られるんです。
- 森:だって、寝るまでずっと食べてるじゃん。
- 金田:それが唯一の楽しみなんだもん! やっぱり私は世の中のパパの気持ちに近いんですね。はい。
“この人との子どもが欲しい”と思えるかどうかが大切
- 子どもを産んで育てるには、お金もかかるし、自分の好きなようにお金も時間も使えなくなる。それでも「子どもっていいよ」と思いますか?
- 森:人生を色にたとえると、一色だった人生が、子どもが生まれてから何色にも増えていくんですよね。彩りにあふれた人生はいいなと思います。子どもを作るかどうかはもちろん、その夫婦の価値観を尊重すればいいと思いますけど……僕はせっかくこの世に生まれてきたのだから、人が経験する楽しいことはすべて経験したいので、子育ても楽しみたいし、自分の目標も叶えたいし、やれることは全部やりたいです。
- 金田:私は……、
- 森:君はよく入ってくるね(笑)。
- 金田:いいじゃん(笑)。私は子どもができて本当によかったなと思っています。本当に可愛いですもん。もう、千笑ちゃんがいない生活は考えられない。ぽぽちゃんが冷たくなっても、千笑ちゃんがいるから大丈夫(笑)。毎日とっても楽しいです。
- 森:でも結局は、この人との子どもが欲しいっていう人に出会えるかどうかがいちばん大事だと思います。娘が生まれるずっと前、一緒に住み始めた頃から、朋ちゃんが赤ちゃんと遊んでる姿を見たいなぁと思っていたので、今こうしてふたりの姿を見ているときがやっぱり幸せです。
- では最後に、フルマラソンや、野球、キックボクシングなど、さまざまなスポーツに挑戦中の森さん。千笑ちゃんにもスポーツをやってほしいとお考えですか?
- 森:スポーツはやってほしいですけど、全日本やオリンピックに出てほしいということではないんです。
- 僕がスポーツをやってほしい理由は、ピンチの乗り越え方を学んでほしいから。スポーツをやっている人には、負けた経験がない人っていないんですよね。その悔しい経験は、次に勝つための意欲を生む。人生、生きていたら絶対にピンチは訪れるから、じゃあそのときにどうすれば乗り越えられるのか? ピンチに立ち向かう心をスポーツで育てたいなと思うんです。
- なるほど。
- 森:「一番になってほしい」とか、そういうことじゃないんです。僕自身、優勝したことよりも負けたことのほうが多かったけど、負けまくったからこそ今の自分があると思っています。娘も小さい頃から悔しい思いをいっぱいして、なんで勝てなかったのか、なんで思うようにいかなかったのか考える力を身につけてほしい。
- あとはチームワークですね。バレーボールでも野球でも団体でやるスポーツは、そこで自分が何をすべきか学べるんですよ。ポジションがあって自分の役割があって……。社会も同じようにできてるんだよということを、スポーツを通して教えたいなって思ってます。
- 森 渉(もり・わたる)
- 1983年2月25日、神奈川県出身。A型。幼少の頃から器械体操や野球に取り組み、大学ではトライアスロン部に所属。2003年、オーディションをきっかけに芸能界入りし、2005年に俳優デビュー。映画、舞台で活躍する一方、数々のスポーツバラエティに出演。プライベートでは、2013年10月、声優の金田朋子と結婚。2017年6月、第一子となる女児が誕生した。
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