新米パパインタビュー/第1回:太田博久(ジャングルポケット)「子どもが教えてくれた、はじめての感情」

2017年5月4日、太田博久と妻でモデルの近藤千尋とのあいだに、第1子となる十愛(とあ)ちゃんが誕生。それから1年以上が経つが、娘への愛は深まるばかりーー「可愛さがエグイ。完璧に親バカです」。スマホの待ち受け画面にしている娘の写真を眺めながらニヤニヤと笑う。

起きている娘に会いたくて、飲み会を断り帰宅する毎日だと話す、今の太田からは想像ができないが、娘が生まれるまでは、子どもにまったく興味がなかったという。「街中を歩いてる子どもを見ても、“ちっちゃい人間がいる”くらいにしか思ってなかった。それが今では、世の中の赤ちゃんみんなが可愛い」。父親になってはじめて生まれた感情に、本人がいちばん驚いているようだ。

撮影/すずき大すけ 取材・文/花村扶美
デザイン/前原香織

「新米パパ」特集一覧

つねに家族優先。自分の人生が第一じゃなくなりました

十愛ちゃんが生まれてからの1年を振り返ってみていかがですか? 早かったように感じますか?
早かったんだか遅かったんだか、よくわからないんですよね。首が据わったとか、自分で座れるようになったとか、細かく思い返していくと長かったなぁっていう気もするんですけど。生活はガラッと変わりましたね。でも、僕より奥さんのほうが大変だったと思います。僕は自分にできることをやっていただけなので。
産前と産後で、千尋さんは変わりましたか?
どうだろうなぁ。僕って財布や携帯、スーツとかとにかく忘れものが多いんですよ。前までは「しっかりしてよね」って軽めの注意だったのが、子どもができてからは「父親なんだからしっかりして!」というニュアンスで叱られることが増えました。あとは間違いなく、母のたくましさをズシンっと感じますね。
どういうときに感じますか?
もともと決断が速いほうなんですけど、迷いがないというか。最近、家を買ったんです。僕は「まだそういうタイミングじゃなくない?」って言ってたんですけど、奥さんが買おうよって。家賃のぶんをローンで返済していけば、娘に資産として残してあげられるから、とか。しっかりしてますよね。
うちは共働きで、仕事しながら娘のごはんを作って家事もやってくれているので、スゴいなって思います。もともとしっかりしてたけど、こんなにちゃんとできる人なんだ、と。たまには、投げ出すようなことを僕の前だけでもしてくれていいのにって思うんですけど。
太田さん自身の変化というと?
飲みに行かなくなりました。娘が生まれるまでは毎日飲みに行ってたけど、今は月2回程度。奥さんから「もっと行ってきなよ」って言われるくらい(笑)。僕としては、娘が起きているうちに帰りたい。僕が「ただいま」って帰ったときの娘の顔を見たいんです。めっちゃ喜んでくれるんですよ。
僕が仕事に出ていこうとすると寄ってきて、僕の足に顔をうずめてくることも。もう何回遅刻したことか(笑)。あれはたまらないですね。
仕事上での変化というと……僕らのコントはバイオレンスなネタが多いんですけど、心から悪態をつけなくなりました。
子どものおかげで心が浄化された?
よくないですよね、まだ売り切れてもないのに。奥さんは奥さんで収入があるから、お金で極端に困っているわけでもないという、この状態が居心地よすぎちゃって。ハングリー精神に欠けているのかもしれないです(笑)。
でもやっぱり、仕事との向き合い方は変わりましたね。一旗揚げたいというよりは、この子が自分の足で人生を歩いていけるまで、稼げるように頑張ろうって思うようになりました。
家族を守るという責任感が生まれたんですね。
自分がっていうより、家族がっていう考えになりましたね。今ここで仕事がゼロになっちゃったら、昔なら「もともと芸人なんて水物だから」って言ってたかもしれない。でも、自分の人生が第一じゃなくなりましたから。
もちろん売れたいし、おもしろいことをやるのが前提ですけど、テレビの露出とかに関係なく、ちゃんと売り上げが出せるものを作るとか、長く続けられるものを作らなきゃっていう気持ちに変わってきましたよね。

自分をイクメンだと思わない。育児を夫婦でするのは当然

お子さんが生まれるまで家事はしていましたか?
結婚したときからなんとなく、洗いものは僕がやるって決まってたんですが、奥さんが妊娠してからは、家事も全部やるようになりました。つわりも酷かったし、切迫早産で動けない状況もあったので。
素晴らしいですね。
いや、子どもが0〜2歳のときの貢献度で家の中の旦那の立ち位置が決まるって聞いたんでね(笑)。奥さんが僕より先に気づいてやってくれちゃうパターンも多いんですけど、でも僕もやるようにしてます。
たとえば、月齢が小さい頃、お腹が空いて夜中に泣くことがあるんですけど、寝ているときに子どもが泣いても、男は気づかない。女の人は“母親のセンサー”があるから聞こえる、という説があるらしいんです。でも僕は、そんなことは絶対にない、男への偏見だろって。だから夜中、娘が泣いたら奥さんよりも早く起きてミルクをあげてました。
そういう積み重ねで、千尋さんからも信頼されていくわけですね。
信頼は勝ち取らなきゃダメですから。
育児に協力的な男性を“イクメン”と呼びますが、自分もそうだと思いますか?
全然思ってないです。うちはすべてのパワーバランスがフィフティフィフティというか。僕も奥さんも働いてるし、たまたまそれがお父さんとお母さんになっただけなので、ふたりでできることはすべて平等にふたりでやっていこうという考えなんです。だから僕が子育てを手伝ってるという感覚もない。ふたりで育ててるという感覚ですね。
こうしてお話を伺っていると、家事も育児もソツなくこなされている印象ですが、十愛ちゃんが生まれてくるまで、子育てに関して不安に思うことはありませんでしたか?
かなりビビってました。夜泣きで寝られないんだろうなとか、子どもが生まれたら奥さんは変わるんだろうな、この家で俺だけ居場所がなくなったりして……とか、ネガティブなことばかり考えてました。そのおかげで、子育てのハードルが上がりすぎて、覚悟ができたのがよかったのかも。
実際はどうでしたか?
うちは大きな病気にかかることもなく、熱が出たことも数回あるかどうか。夜泣きもなかったんです。離乳食を食べてくれない、という悩みも聞きますけど、うちはよく食べてくれるというか、食べすぎるくらいだし(笑)。
だから、子育てでツラかったことって思いつかないんですけど……あ、マックスぐずりになって、僕じゃどうにもならないときはツラいですね。『おかあさんといっしょ』(NHK)を見せてもダメ。なのに、ママが抱っこしたら一発で機嫌が直っちゃう。父親は母親には一生勝てないんだなっていう敗北感。あれはツラいです。

「手伝うよ」は禁句。困ったときはミニコントにすればいい

太田夫妻は結婚当初と変わらず、仲良しなイメージがあります。夫婦ふたりの時間を大事にしているからなのでしょうか?
ふたりだけの時間は極端に少なくなりましたけど、夜、テレビ見ながら番組について好き勝手言ったりするのは昔から一緒ですね。でも、娘がこんなことできるようになったとか、保育園をどうするかとか、話題が娘に関連することも多いかもしれません。
「女性の愛情曲線」ってご存知ですか? 世間では、奥さんの旦那さんへの愛情は結婚のときがピークで、子どもが生まれた時点から下がっていくんだそうです。太田夫妻はいかがですか?
娘が生まれてすぐのときは、余裕がないという意味で僕とコミュニケーションを取る時間が少なくなったことがあって。そのときは、僕への愛情が減った?って一瞬思ったけど、今はまったく感じないですね。
……いや、でもわからない! 本当は愛情が娘に向かってるけど、俺がスネるから、奥さんは無理してくれてるのかもしれない(笑)。
千尋さんの著書『ちぴ本2』(主婦の友社)によると、奥さまのトリセツとして「“手伝うよ”の言葉は厳禁」、「家事をするのは嫁が見ていないときに」、「嫁の好物を常にストック」、この3つを挙げられていました。
娘が生まれる前、とにかくあらゆる本を読みました。そこに、夫の「手伝うよ」っていう言葉に世の奥さんたちは非常にイラっとすると書かれてたんです。「なに手伝うって? 子育てや家事は私の仕事なの?」って。「手伝うよ」じゃなくて、当たり前のようにやると本に書いてあったので、それは絶対にやらなきゃって。まぁ、本に書いてあったからじゃなくて、そういう感覚は素直にありましたけど。
「家事をするのは嫁が見ていないときに」の真意は?
普段からやってることでも、妊娠中はできないこともあるじゃないですか。ホルモンバランスが乱れる時期は、自分ができないことに自分自身イラついちゃうときもある。そんなときに僕が奥さんの目の前で家事っぽいことをすると、「私への当てつけ?」って思うこともあったみたいで。
たとえば、食べ終わったカップラーメンが目の前に置いてあって、どうしても片づけたいけど、これを片づけたら奥さんがイラっとするかなって思うと、「臭いがきつめで部屋に充満する系なんで、これだけ片づけていいですか?」って確認をしたり。そういうのはやってましたね。
「嫁の好物を常にストック」というのは?
これは単純で、奥さんは好きなものを食べると機嫌がよくなるから(笑)。
喧嘩することもありますか?
厳密に言うと、喧嘩はなくて。僕が奥さんにわーって言うことは絶対にないんですよ。僕が怒られることはあるんですけど、僕が怒る理由はない。
“俺、また怒られてるな”って思ったときは、LINEで「陳謝申し上げます」「お詫びいたします」とか難しい言葉で謝りまくります。すると「どういう意味? バカにしてんの?」って返ってくるんですけど、5ターンくらいしてると「もういいからやめて!」って。あとは、なんでもミニコントにしちゃう。むこうもイライラしてても笑ってくれるから。

ベビーカーで電車に乗ったら、想像以上に周囲が冷たくて……

認可保育所に入れない「待機児童」の問題。ニュースではよく耳にしていたけれど、まさか自分が――不承諾通知が届いたとき、太田もそう感じたのだとか。「待機児童」だけじゃない。電車内での赤ちゃんの泣き声は「騒音」、ベビーカーは「邪魔」だと、厳しい目を向けられることも。「自分が当事者になってはじめて気づくことがあった」という。
おふたりが仕事のとき、十愛ちゃんはどこかに預けているんですか?
基本的に奥さんが仕事場に連れて行ってます。でも最近は、奥さんの知り合いの紹介で、認可外の英語保育のプレスクールに通い始めました。そこに夕方まで預けることも。あとは、岡山県から義母が来て面倒を見てくれてます。思いっきり甘えてる子育てになってますね。
認可保育所には入れなかったんですね。
そうなんです、落ちちゃって。「待機児童」ってよく耳にはしていたけど、こういうことなんだって。身をもって知ったという感じです。
自分が当事者になってはじめて気づくことってありますよね。
ありますね。ベビーカーで移動するときも、エスカレーターやエレベーターがある出口とか、わかりやすくしてほしいなと思ったり。そもそもベビーカーで電車にはそんなに乗らないんですけどね。想像以上にまわりの目が冷たくて。こっちの気遣いはもちろん大切ですけど、「なんでそんな目をするの?」って思いましたよ。近場だったらタクシーを使っちゃいますね……。
周囲の目という意味では、子どもが生まれる前から気にしますよね。太田さんはマタニティマークの存在、知ってましたか?
はい、知ってました。マタニティマークをつけてても、座席を譲ってもらえないという話を聞いたこともあります。僕も実際に、妊婦さんに席を譲らない人を電車の中で何度も見ました。本当に妊婦に対してやさしくないですよね、この国は。
妊婦だからって席を譲らなくてもいいだろう、と思う男性もいるんじゃないですか。自分の奥さんがお腹が大きくなって、歩くのも立つのもしんどかったり、つわりで苦しんだりしている姿を見てはじめて気づく人は多いかもしれないですよね。僕自身、子どもができてからはじめて気づいたことがたくさんありますから。

子どもがいる幸せな感覚って、子ども以外に替えがきかない

娘さんが可愛すぎて、つい赤ちゃん言葉になったりしませんか?
赤ちゃん言葉は使ってないと思いますけど、とにかく触りたくて、抱っこしても顔にぐーって近づけたり、首の匂いをふんふんって嗅いだりしちゃいますね。できることなら強めに噛んでしまいたい(笑)。
コミュニケーション過多のお父さんの家は、子どもがお父さんのことを嫌いになるケースが多いらしいんですよ。だから僕も我慢しなきゃと思うんですけど、止められないんです!この溢れる感情をどこにぶつけたらいいんだ!っていう気持ちになるんですよ。
食べちゃいたいくらい可愛いんですね(笑)。自分がそんなふうになると思ってましたか?
一切、思わなかったです。子どもにはまったく興味がなかったので。子どもができるまでは、街中を歩いてる子どもを見ても、「ちっちゃい人間がいるな」くらいにしか思ってなかったし。
それが今では、もちろん娘がいちばんですけど、世の中の赤ちゃんみんなが可愛く見えて。営業先で、赤ちゃんを連れてるお客さんが「写真撮ってください」って僕のところに来たら、すぐ抱っこしますね。いや、自分の子どもが生まれると、本当に変わりますね。
実際に子どもを産んで育てるには、お金もかかるし、自分の好きなようにお金も時間も使えなくなる。それでも「子どもっていいよ」と思いますか?
子どもがいる幸せな感覚って、子ども以外に替えがきかないと思います。今まで味わったことのない独特の感情っていうんですかね。
テレビでモンスターペアレントとか見て、気持ち悪いって思ってたんです。でも、僕も娘をスクールに連れて行ってそこから仕事に向かうんですけど、どうしても娘の様子が気になって引き返したくなっちゃって。それを奥さんに話したら、「それさ、モンスターペアレントの始まりだからね」って。
(笑)。
今まで心配するという感覚ってあんまりなかったんです。でも、娘が遊んでるときに、ほかの子とおもちゃを奪い合いになってるのを見て、娘が嫌われるんじゃないかって心配になったり、そのせいで娘がほかの子たちにハブられたらどうしようとか考えてるうちに、6時間くらい収録したときの頭の疲れ方というか、考えすぎて気持ち悪くなってきちゃって、知恵熱まで出て……。
俺、こんな人間だったんだ、と。自分でも驚いてるんです。
娘さんが成長したらもっともっと大変になりそうですね。
もうどうなっちゃうんだろう。自分が怖いです。モンスターペアレントの卵ですもん。将来、学校に苦情を言いに行く自分が余裕で想像できますもん!
(笑)。これからも悩みは尽きないと思いますが、太田さんの話を聞いて、子育てって楽しそうだなと思いました。
子どもが欲しくてもできなかったり、とてもセンシティブな問題だから気軽に「子ども作りなよ」なんて言わないですけど、「子どもっていいですよ」っていうのはみんなに伝えていきたいですね。子どもができてから、はじめての感情の繰り返し。本当に可愛いですし、幸せだなって思うから。子どもっていいですよ。
太田博久(おおた・ひろひさ)
1983年12月10日、愛知県出身。AB型。2006年、お笑いトリオ・ジャングルポケット結成。「キングオブコント2015〜2017」決勝進出。今年1月に行われた「第17回全日本マスターズレスリング選手権大会」58キロ級に出場し、2017年に続く連覇を達成している。プライベートでは、2015年9月、2年の交際を経て、モデルの近藤千尋と結婚。2017年5月、第1子となる女児が誕生した。

「新米パパ」特集一覧

ライブドアニュースのインタビュー特集では、役者・アーティスト・声優・YouTuberなど、さまざまなジャンルで活躍されている方々を取り上げています。記事への感想・ご意見、お問い合わせなどはこちらまでご連絡ください。