ダンスのワールドカップに人生を懸けた男・カリスマカンタローの熱意にやけどする

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バックダンサー、振付師、インストラクター、プレーヤー…。
ひとくちに「ダンサー」といってもさまざまなタイプがいる。中には起業し、経営者となるダンサーも。ストリート育ちの経営者とは一体どういう人なのだろうか。

「ダンサーが生きる道〜CEO編〜」第1回は、一度聞いたら忘れられない名前、カリスマカンタロー。その名の通り、日本発、世界最大規模のソロダンスバトルDANCE ALIVE HERO’Sを主催し、株式会社アノマリーのトップでありながら、現在は株式会社LDH JAPAN(以下、LDH)の執行役員に就任するなど、ダンサーにとってカリスマ的な動向を見せる彼を、ダンサーは常に注目している。インタビュー中、彼の口からは何度も「世界一」というワードが出てきた。彼は誰よりも一歩、二歩、三歩も先を行っているのだ。

■何がなんでも“世界一”にこだわる理由

――起業したきっかけを教えてください。
「自分たちが一番になるためにはどうしたらいいのか」を考えていて、大学生時代にダンスチーム・Xyonのメンバーと起業してから15年目になります。
――「自分たちが一番」というのはダンサーとして?
ダンサー、クルーとして。元々の考えでは、日本一の大会をプロデュースして、そこの大トリで踊れば「自分らが1番有名じゃん!」というシンプルな考えですね。まぁ、大前提として、俺自身が「世界一になりたい」という夢が軸としてありますが(笑)。
――何の「世界一」ですか?
“何か”の世界一。俺は「何かの世界一になって死ぬ」と決めています。その中で、上京した頃はプロサッカー選手、ダンサー、役者の三足のわらじを履いて活躍すれば世界一の男に近づけるかもしれないと思っていたんです。
――つまり、最終的にダンスだけが残ったんですね。
実際にドラマなどに出演したこともあったけど役者は待ち時間が長いし、自分にはハマらなかった。サッカーは希望していた大学のサッカー部に行けなかったので潔くやめました。残ったダンスで、とりあえず世界一を目指すためにJAPAN DANCE DELIGHTなどのコンテストに出たら上には上がいるんですよね。ダンサーとして世界一を目指すなら、相当ダンスに集中しなくちゃダメだと思いました。その時から “世界一”という軸はずらさないで、自分の夢を世界一のオーガナイザー、世界一のプロデューサー、ダンスが踊れる社長になる、と夢を切り替えていったんです。
――なぜ、そんなに“世界一”にこだわるんですか?
シンプルに世界一モテたいから! 性別問わず人からモテたい。どこの世界へ行っても「カンタローだ! いぇ〜い!」ってなりたい!(笑)。でも今は、みんなと常に笑える環境を作ってハッピーになりたいと強く思っています。
――起業した前後で変わったことはありますか?
自分の時間をコントロールできるようになりました。これが最大の強みであり、すごく良いことかもしれない。あとは、我慢することもあるけど基本的にはやりたいことをやれる。それに、どんなに小さい会社でも経営者にもなるとやっぱり有効活用できますね。会う人も変わりました。
――ダンスシーンの見え方は変わりましたか?
めちゃくちゃ変わった気がします。プレイヤーだけの意見とは別で、その周りを支えているもの、その人たちがどういう考え方を持っているのか…今まで2Dで見えていた世界が3D化できた感じ。構造が見えると納得することができて、会社を経営していく上でやっちゃいけないこととやっていいことが学べていますね。最初の頃はいきおいいしかなかったから先輩に呼ばれては怒られ…の繰り返し。でも、それを真摯(しんし)に受け止めて、謝り倒して改善していったから今も生き残れていると思う。

■トップであり、中間の立場だからこそ学べる環境

――株式会社expgの取締役、LDHの執行役員に就任した時、アノマリーの社員の反応はどうでしたか?
「目指してる道は(LDHも)一緒ですね」って。俺自身は変わっていないし、やってることも特に変わってないですしね。
――LDHに入ってから変わったことは?
これまで以上に忙しくなりました。
――そうですよね。プラスになったことは?
いきなり何百人も上司、先輩、仲間が増えたことで、中間のポジションについて学べています。上司に進言する時の場面も学べるので、自分の会社で部下が自分に話を持って来る時も、どういうことを言おうとしているのか読み解けるようになってきました。
――もうダンスは踊っていないんですか?
いや、意外と踊っています。よく一緒にショーをするSHUHO(House of Ninja/Tokyo Footworkz)とイベントに呼ばれた時はちょこちょこ踊っているし、ゼロではない。今、全力で踊れって言われたら、ソロは3分、チームは5分までは踊れるんじゃないかな。さすがに20分踊ったり、バトルに出たりは体力的な問題でちょっと厳しいですけど。

4月22日に開催されたDANCE ALIVE HERO’S FINAL(写真:Dews提供)

――今年4月22日に開催したDANCE ALIVE HERO’Sから、E-girlsやGENERATIONS from EXILE TRIBEなどのアーティストが多く出演し、ガラッとカラーを変えましたね。反響はどうでしたか?
もちろん賛否あると思いますが、基本的にはポジティブな意見の方が多かった。DANCE ALIVE HERO’Sに初めて来たLDHのファンは、もしかしたらライブ後にすぐ帰るかもしれないと思っていたら決勝まで見て楽しんでくれていましたね。いつも来てくれているDANCE ALIVEのファンは、「これはカンタローさんが思い描いている先につながる」と信じてくれている人の方が多いと感じています。

あとは、純粋にミーハー心で楽しんだ人も多かった。「『Y.M.C.A』が意外と楽しかったです」とか「E-girlsかわいい!」っていう話も聞きますね。
――私は行けなかったので、Twitterでどうだったのか調べたら結構ネガティブな意見の方が多かった印象があります。
そうですね。まず、元々のDANCE ALIVEファンやダンサーからのネガティブなツイートの内容については納得しています。特に出場者にはちゃんとケアをしなくちゃいけないと思ったし、後日きちんと謝罪をした方もいます。

また、DANCE ALIVEに初めて来た方々と長年来てくれている方々との差によるイベントマナーについてのネガティブな意見に関して、双方に不快な思いをさせてしまったことは、サービスを提供する側の問題になるのできちんと反省会をしました。

もちろん、今回のように振り切ったことをして全員が賛成するとは思っていません。ただ、一方で俺は筋が通っていることをやっている自信がある。ネガティブな意見をしている人は、実は一方で筋が違う話をしているんですよ。でも、そう言う人たちの気持ちも分かるから言いたいことは言っていいと思っています。

根底に“ダンスが好き”という部分は共通していると思うので、共存できる場を作っていこうと思います。
――大幅に振り切ったこと全てを理解して受け入れてもらうのは難しいですよね。
これがきっかけでファンが増えたり、自分たちがやりたいことを貫けるポジションになっていったりしたらいいと思っています。EXILE HIROさん(以下、HIRO)は「カンタローとかみんながやっていることが、よりフックアップされて大きくなって、下の世代のダンサーが喜んでくれたら楽しいよね」って考えであって、今あるダンスシーンがもっと盛り上がったらいいな、と思っていますね。
――そういう思いがあって今回の形になったんですね。
HIROさんも何か仕掛けようと思っていたそうです。そこでBOBBYさん(J.S.B Underground)がHIROさんを昨年のDANCE ALIVE HERO’Sに連れてきてくれて、「俺がやりたいのはこれだ!」と思ってくれたので一緒にやることになりました。
――DANCE ALIVE HERO’Sの派手さとHIROさん…バッチリ合ってますね(笑)。HIROさんは、それまでカンタローさんの存在は知らなかったんですか?
「カリスマカンタロー」という名前は知っていたけど、そんなふざけた名前の人とは絶対に仕事をすることはないだろうと思っていたそうです(笑)。いざ会ってみたら「こんな大きなイベントをやっていて、アツくて…。ヤバイね!!」と言ってくださって、そこから仲良くさせていただいています。さらに、BOBBYさんが勧めてくれたこともあって「間違いない」と思ってくれたそうです。

■ダンスのワールドカップを実現させるために全てを懸けるワケ

――今までやってきた仕事で印象に残っていることはありますか?
2013年にシンガポール、2014年に台湾で挑戦したDANCE@LIVE WORLD CUP。何の力もなく無知で、ただいきおいだけで開催して5000万円と4000万円の赤字。さらに会社でやっていたダンス番組の1億2000万円×2年や他にもあって約4億円を失いました。自分で稼いだ金ではなく借りた金でやっていたこともあって、自分の力が未熟だということに気付かされましたね。この2年は本当に地獄。ただのいきおいでいけたのは、経営者としてではなくて、プロデューサーとしての能力でしかなかったんです。ぶっちゃけ金さえあれば誰でもできることをただやっていたに過ぎなかった…。自分の脳力を履き違えていましたね。
――自身の力不足に気付いて、まず何をしましたか?
経営の勉強や数字をいろいろな人から学び、多くのさまざまな経営者に会うことを繰り返しました。まずは自分の勘違いを猛反省して、会社を良くしていくためには自分が変わらないといけない、だから経営者としてレベルを上げなくてはいけないと思ったんです。特に2016年は本当に勉強しましたね。徐々に数字に強くなってきたおかげで、2016年まで下がっていた業績が2017年でV字回復。このまま行くと2018年はもっと伸びると思います。会社を始めて15年でようやく経営者らしくなってこられたと感じています。

同じことをつい繰り返してしまうのは人間の癖でもあって気をつけていますが、決しておごらず、以前の失敗を糧にして今も勉強し続けています。とはいえ、勢いは消したくないのでバランスですよね。
――8/3にDANCE ALIVE WORLD CUP 2018を開催しますね。これは、カンタローさんが世界一になるためですか?
もちろんそうですが、今となっては自分個人の「世界一」というよりもこのDANCE ALIVEという大会が「世界一」になることが大切です。その「世界一」になるための手段のひとつとして、前身のソロバトルイベントDANCE@LIVEがあり、これを世界一に持っていくには世界大会にするしかないんです。世界中の人が見て熱狂しているもので一番に思い浮かぶものは?
――最近だとサッカーのワールドカップですかね。
いろいろな世界の大会があるけど、熱狂ぶり、メディアも騒いで、スーパースターも生まれることを考えると、サッカーのワールドカップが一番大きいと思うんですよ。その世界感、スケールをダンスのカルチャーに持っていきたい。自分の人生を懸けてダンスのワールドカップを作り上げることは、俺が生きた証しのひとつになるし、使命だと勝手に思っています。俺は全ての力、時間、命を燃やしてダンスのワールドカップを開催しようと、これに集中しているので、誰に何を言われようが俺がやることだから心が折れることはありません。
――今回のDANCE ALIVE WORLD CUP 2018は、第0回目としていますね。
いきなり1回目として全世界で予選をやることは難しいので、ローンチ的なイベントにしました。賞金1000万円というインパクトを与えつつ、欧州やアジアというふうにエリア分けを意識して招待しています。可能であれば、2019年からは各国予選を行い、2年に一度開催。開催国が増えてくれば4年に一度にしていこうと思っています。2025年に50カ国にするために逆算し、2019年には20カ国でやっておいた方がいい…みたいな。2020年には30カ国、40カ国って増やしていかないといけないんです
――最近ではSNSでアツく語ることも多いですし、ダンサーが話す内容じゃなくなってきましたね。
そうですね。自分が経営者として経営を学んで構造が分かれば分かるほど、ダンス界に対してアツく語っても、正直な話、それを理解してくれているダンサーがほとんどいないと感じています。
――ダンサーからしたら、カンタローさんのアツい投稿はスッと内容が頭に入ってこないかも。
先日、経営者会議のG1 サミットに参加した時に、株式会社コルクの佐渡島庸平さんが、「人にモノを伝える時に論理で話す人には論理で話さないといけないし、感情で話す人には感情で話さないと伝わらない」とおっしゃっていて、すごく納得しましたね。

経営者やシーンを作っている各界のトップの人たちと会えば会うほど高度なレベルの話をして来るから、自分もその言語レベルを合わせないといけなくて必死に勉強しながらついていくと、必然的にレベルが上がっているわけで。でも、だからといってダンサーの場合は感情に訴える方が通じることが多いので、論理ではなく感情で話さないといけなかったんです。
最近は、ダンサーに対してずっと論理ばかりで話してるなって思ったんですよね。

だから、なぜ俺が第0回目としてLDHとDANCE ALIVE WORLD CUP 2018をやるのか、ほとんどのダンサーの人には伝わっていないと思っています。「もっと分かりやすく説明しないとみんな理解できないんじゃないかな?」とTAKUYAくん(SYMBOL-ISM)にも言われて、俺も絶対にそうだなって素直に思ったんですよね。
――では、ここでどうぞ!(笑)。
元々は自分が世界一になりたいという個人の妄想から始まったんですけど(笑)、 ダンサーの子たちが「ダンスだけで食べていく世界を作る」ということが、今の自分の立場で考えたダンスビジネスのゴールなんです。それはインストラクターじゃなくてダンスだけ。ソロでスターが生まれれば、その人が所属しているチームが有名になるだろうし、360度展開することができる。つまり、ひとりのスターを生みさえすればこの世界は変わると思っています。

そのかけがえのない“場所”として、DANCE ALIVEが当たり前にある世界を作りたいと思っています。そのためには、まず広く世間に認知され、影響力を持たなければなりません。その“場所”を作れるかもしれない、というところまではこの15年で到達できた気がします。その“場所”を作るためにブーストさせるきっかけがこのワールドカップだと信じています。

まずは、誰もが知るひとりのスーパースターが生まれる“場所”。それがDANCE ALIVEの存在意義です。

4月22日に開催されたDANCE ALIVE HERO’S FINAL(写真:Dews提供)

――ソロバトルにこだわる理由はそれだったんですね。
日本では最高額である賞金100万円を出しているのも、100万円をもらえる価値があるから。立ち上げた当初の計画通りでは、10年後に賞金が1000万円、2000万円、3000万円と増えていくようにして、ダンスだけで年収が1000万円以上になることを目指したけど、自分の力不足もあり、それはかないませんでした。
――それはなぜ?
ダンスシーンの大きさの割に全くお金が回っていない市場だからです。他の企業が入りたくても入ってこられない、すごく狭い視野角のコミュニティーだから、もっと広く興味を持たれるようにするしかない。でも、一方でダンサーやダンス出身の人が作るコミュニティや、ビジネスよりも、Tik TokやMusical.ly、MixChannel、YouTubeなど、ダンスを違う角度で取り上げたくなるような、遊びで使うサービスの方がはやってしまっていて。また、それらの会社のサービスはビジネスの構造がとても上手なんです。
――言われてみれば確かにそうですね。
だから、まずはみんなが集まって見たくなるシンプルな構図を考えた結果がDANCE ALIVE HERO’S。これをワールドカップ化して、賞金を1000万円にすればダンサーよりもメディアが飛び付くと思っています。その時に、今の現存するスーパーダンサーがとんでもないダンスを見せたら何かしら心が動いてくれるんじゃないか、という期待もしているんです。まだまだ考えなければいけないことがたくさんありますけども。
――だからこそLDHと一緒に開催する意味がある、と。
LDHはダンス界出身者が多いから本気になってくれるし、強力な味方ですよね。日本から発信して世界へと広がっていった時、そこで結果を残したダンサーだけでなく、出場したダンサーに対しても、今のサッカーみたいにみんなが応援するようになってほしい。自分たちが応援したら、それが本人に跳ね返ってくる構造になれば、俺はダンスだけで世界が救えるし、変えられると思っています。でも、それに対して、カルチャーがスポーツ化するなどといった意見が出てきていますが、それすらも超越、理解した上で俺は振り切っています。いや、振り切らなければならないタイミングがある、という感じです。
――カルチャーを推す人たちはそのままでいい、と。
俺が連絡を取っていたダンサーで例えると「今さらYOSHIO(S.A.S)がやっていることや、METHさん(XXX-LARGE)たちの方には行けないから、そっちは任せたよ」って元々宣言していて。だからこうやってメジャーに広げる方向に振り切っています。それに昔から言っている「世界一」という目的からはずっとズレていないんです。ただ、時間がたつとみんな忘れちゃうと思うんですよね。俺の言うことをいちいち覚えてるはずがない(笑)。それぞれに役割があって、自分たちのことを見てひたすらやればいいと思う。
――「世界一」という目標に期限は設けていますか?
誰もが見ることのできる世界一の大会を45歳までに作らなくちゃいけないと思っています。今年12月で39歳になるので、あと6年しかない。そうなると、みんなの意見やカルチャーの視点を、かなり細かいところまではさすがに聞いていられないんです。それぞれがやっていることを貫けばいい。
――それぞれが頑張っていれば、相乗効果で良くなっていくと思います。
まさに今回、HIROさんは自分たちがメジャーでやっていて、俺がアンダーグラウンドで大会をやっていたからバッと一緒になれた。きっとこれからどんどん同じことが起きていくと思います。その時に、みんな自分たちのカラーを守ることにさえ集中していれば、わざわざ相手をディスる必要もないんじゃないかな。

例えば、お互いにディスりあって上げていくというHIPHOPの世界もあるじゃないですか。そういうのが意図的にあればいいけど、何もなく俺に向かって石を投げられるのは嫌ですね。やっぱり寂しくなりますけど、石を投げてくる人は軸がズレてることが多いんです。顔見知りならわざわざネットで言う必要もない。言いたいことがあるなら直接会って一緒にメシを食べればいい。
ま、何を言われても俺が突き進むことに変わりはありませんが…。
――そもそもフィールドが違いますよね。
そう。フィールドが違うと思えばいいんです! 自分のテリトリーを侵されていないんだったら、それをどう拡大するのかは経営者やビジネスとかに限らず、みんなそれぞれで考えた方がいいと思いますね。
――カンタローさんが突き進んだ道をうまく利用すればいいということですよね。でも、それをいちいち説明していられないし、説明したところでイメージも湧かない、と。
だから、それが現場に通訳できていないのが一番つらいですね。そういう人にこそ今回のインタビューを届けたいんだけど読んでくれないんですよね。
――いや、そこは読んでもらいましょうよ!
そうですね。そういう人たちって、俺のことをわざわざディスってる暇はないんじゃないかなって思う。それぞれやらなくちゃいけないことがあるはずなんですよ!

■本当に「ダンスはお金のためじゃない」?
4月22日に開催されたDANCE ALIVE HERO’S FINAL(写真:Dews提供)

――DANCE ALIVE HERO’Sでは優勝賞金が100万円に対し、DANCE ALIVE World Cupでは1000万円とかなり増額しましたね。
俺は、一番大切なのはお金の使い方だと思っています。お金の使い方のセンスで全てが変わってきますね。例えば、賞金をどこかに寄付してもいいし、みんなとご飯を食べに行くのもいい。散財したってそれもHIPHOPだからいい。他にも例えば、その賞金を元にアフリカ大陸のどこかにダンススタジオが作れたらすごくすてきじゃないですか。俺はみんなが勉強するため、いろいろな社会勉強をするためにも高額な賞金を用意しています。受け取った人がどういうふうにクリエイティブなことをしてくれるかを期待しているんです。
ただ「賞金ハンパね〜だろ!」だけでは意味がないんですね。
――「お金のためにダンスをやっていない」と言う人もいますが…。
もちろん金のためじゃなくて全然いいし、それは人それぞれの考え方。でも俺は、そう言っている人がダンスで食っているのは「?」だと思いますね。普通の仕事で生活費を稼いで、ダンスを楽しむならいい。でもダンスのレッスンやダンスで何かしらの金をもらっていて「ダンスはお金のためじゃない」って言っているのはちょっと軸がズレてる感覚はあります。よくTAKUYAくんとお茶してる時にもこういう話になりますね。ダンスを楽しみたい場合って、ダンスで稼いでいない方が楽しめるって。
――確かに矛盾してる…。
そう、筋が違う。TAKUYAくんが「本当にダンサーのためを思うんだったら、社会人になって、そのお金をダンサーとして使った方がいい」「ダンスを純粋に楽しむなら、ダンスを仕事にしない方がいい」と言っていたんです。
――そうじゃないと、ダンス界の中でただお金がぐるぐる回っているだけですね。
「お金じゃない!」と強く思っている自分もいるので、自分が今踊る時は全く金のことは気にしていませんし、だからこそ楽しい。その日のギャラなんて気にしなくていい。俺は、踊りたいから踊らせてもらっているだけで、ショーケースで踊る時にギャラなんて全く気にしない。そうしたかったんです。だから、お金やギャラ、賞金について何か言っている人にも違った角度でダンスを見てほしいと思います。
――つまり、DANCE ALIVEにはいろいろな裏テーマがあるんですね。
ある! でもそこまで深く説明できないし、きっとみんな読んでくれない(笑)。「サングラス野郎がまた何か言ってる!」くらいなはずです(笑)。
――カンタローさんがブレずに続けていけば、いつかは皆さんに分かってもらえるのでは?
俺はダンスで金を稼いでいると思われているかもしれないけど、基本的にダンス事業は今も赤字です。他事業で稼いだものをダンス界に投資しています。最終的にはダンスで死ぬほど稼ぎたいけど、まだそこまで至っていないのが現実。悔しいですよね…。

だから、もうここで終止符を打たなければならないんです。ダンスを事業化している会社が利益を取れるようにならないと経済を回せませんから。

また、僕の場合は一見いい生活をしているように思われがちだけど、それは全部、みんなが寝ている時、練習している時にその分、仕事をしているだけなんですよ。めちゃくちゃ働くんです(笑)。ただそれだけ。
――カンタローさんの場合、そういう一面がなかなか伝わらないのが損! だからといって変にアピールするのもダサい。
そう。だから、イベントがもうかると思っていざやってみると、もうからないという人が多い。DANCE ALIVE HERO’Sみたいに両国国技館であのステージを作って、何カ月も前からスタッフとミーティングをして…。やってみてほしいですね。やらなければ分からないことが世の中にはたくさんありますからね。
――だからこそ、イベントに来てほしいですね。
ワールドカップは夢の一歩目。「いよいよ来るぞ、ダンス界の祭りが!」って集結してほしい。「みんなで大きくしていこう」ってなったら俺も助かるんだけど、「DANCE ALIVEどうなるの?」ってなって来るとちょっと風上が変わるじゃないですか。そうなってほしくないんです。
――時代がどんどん変わっているから、いい意味でそれに乗っかっていけばいい、と。
意外と下の世代は冷静みたいですけどね。若い世代から相談されることもありますよ。先輩について世界を回ったところで生活ができるわけでもないし、SNSのフォロワーが増えたわけでもない、と苦しんでいる子が案外山ほど出てきています。
――そういう相談を受けた時、どうアドバイスするんですか?
自分がそれで良ければ全然いいとは思いますが、実際にそれで悩んでいるので「それって自分の選択の結果なんだよね!」ってところから話をします。
あとは、何がしたいのか、本当にダンスが好きでやっているのか、ダンサーになりたいのかを自分で考えた方がいい、と言いますね。

■ダンサーは人気商売であることを自覚すべき

――カンタローさんのライバルは誰ですか?
いつも勝手に意識しているのは、世界的な起業家イーロン・マスク。何で俺がライバル視しているかというと、全部がケタ違いだから。
――イーロン・マスクと比べると、カンタローさんがやっていることって…?
もうね、鼻くそ!(笑)。ミジンコのレベル! だから、彼がやっていることと比べたら、それほどに小さい。だから「ダンスの世界を変える!」っていうのは簡単なことだと思えるんですよね。彼のケタ違いの行動力にいつも勇気付けられてもいます。

あとは、ライバルというわけではないけど、いつかHIROさんを超える男になりたい。身近になって余計にそう思うようになりました。人間としての器の大きさがすごいんです。持ってる魅力とかいろいろなものがケタ違いで、俺もそうならないといけないと思っています。近い将来、仲間や後輩の誰かが何かをやりたい時に自由に資金を出せたり、強力な仲間を紹介したりして全面的にサポートができる…そんな男になりたいですね。
――今のダンスシーンについて思うことはありますか?
ダンスイベントをやっている人は、自分のカラーのバトルをでっかくしていきたいのか、その日のギャラでちょっと飲みたいのか、生活のためにやっているのか、自分のHIPHOPを表現するためにやっているのか…何のためにやっているのかをもう一回掘り下げた方がいいと思います。
――もっと目的を明確にした方がいい?
自分で認識した方がいいですよね。イベントをやることは良いことだから、それをどういうふうにしていくのか、3年、5年、10年って続いていった時にどうしたいのかまで考えてほしいですね。
――長く続いているイベントもありますけど、中には変化なくただ続けているようなイベントもありますね。
長く続けているのなら、その先をちゃんと設計してほしい。もちろん、このままでもいいんだけど、その先に違う設計をしていないと10年後は厳しいですよね。ただ続けているのは結局、生活のためなんじゃないかな。大義が見えないイベントが多いです。
――そこがカンタローさんと違うところですね。
自分のやりたいことを掘り下げられていないし、楽しいダンスというところに逃げていると思う。さっきの話に戻る部分もありますが、ダンスで無理くり食べていこうと思うからキツイことも多いんじゃないですかね。
――そもそもダンスシーン自体にそんなにお金がないですよね。
そう。ダンスで食っていくんだったら真剣に考えてないと疲弊していきますよ。今のダンサーは人気商売と同じ。それも認識しておいた方がいいです。年齢が上がれば上がるほど維持することがキツくなって来るし、若い子もどんどん出てくるからファンの数(生徒数)も変動して来るでしょうね。
――どんどん若い子は上がってきますしね。
でも、受け入れられないでいることもあるだろうし、気付いた頃には難しい局面もあります。

■DANCE ALIVE HERO’Sで見るバトルは「正直うらやましい」

――もし今、経営者ではなく、ダンサーとして活動していて、DANCE ALIVE HERO’Sのようなシーンがあったらどう関わりますか?
やっぱり出る側だと思う。俺は自分が出たいイベントを作っているつもりなので。自分が目立ちたいんです! どういう演出をしたら目立つのかをいつも考えています。
――今はオーガナイザーとして目立っていますよね。
たくさんの人に見られながらバトルして、決勝で戦っている姿を見ると正直うらやましいですね。
――今回のワールドカップはジャンル別ではありませんが、何か意図があるんですか?
若い世代に圧倒的な支持者がいる米津玄師さんのMVを見た時に、踊っていてビックリしたんです。コンテンポラリーのような踊りで、その表現力がすごく刺さって、今は自分で何でもできる人が上がってこられる時代なんだと思いましたね。これはダンサーに通じるものがあるし、最強の参考例。ダンサーも自分たちで踊りたい曲を作って、強烈な匂いと熱とカラーで発信していけばいいんじゃないかな、と。
ジャンルって何だろう、と強く思っていた頃に他にも同じような現象を多く見たんです。
――それがジャンル分けしていない理由ですか?
つまり、ダンサー以外の人たちが自由な表現で踊っていて、しかも評価を受ける時代になってきている。だから、今回のワールドカップを無差別にしたんです。ジャンル関係なく、審査員の心、観客の心を打った者が1000万円を取れる価値があるんじゃないかな。なおさら、誰が勝つか分かりません。

■“カリスマ”初の首相もあり得る…?

――以前、個人的にやりとりをしていた時に「まだカリスマの域は超えていない」と言っていたことがありましたが、超えるために必要なものは?
俺が救いたい人を全員救えるようになったら“カリスマ”カンタローなんじゃないかな? って思います
――そこは世界一とは違うんですね!
世界一になっていたらカリスマだろうけど、じゃあ世界一になった時に困った人を助けられるのかな、と。きっと、世界一になってもカリスマ像というものをずっと追っている気がします。
――世界一になったら、今度はさらにその上を目指す?
ダンスの世界一がとれたら、今度は別の世界一。カリスマ初の首相もありでしょ(笑)。俺は48歳くらいまででダンスビジネスを終えようと思っています。45歳で世界一をとって、そこから3年間はそれを純粋に楽しもうかな、と。48歳にはダンスビジネスを後輩に譲りながら違う世界に行かないといけないと思っています。例えば80歳で死ぬと考えた時に、後半の30年は違う世界を知りたいんですよね。
――ダンスには固執しないんですね。
世界一になったら世界一信頼できる仲間がたくさんいるから、その人たちが見ている世界を見に行きたいかも。とにかく、俺の中ではダンスビジネスはあと10年って決めてます。
――ダンサーはどうしていけばいいと思いますか?
何で自分はダンスが楽しいのかを考えてほしい。踊ること自体が楽しいのか、バトルで勝つことが楽しいのか、ダンスを使って有名になっていくことが楽しいのか。もし踊ることが楽しいなら、別にバトルにもコンテストにも出なくていいんです。

自分のダンスは、何をベースに自分のライフスタイルの中に入っているのかを知った上で、純粋にダンスを楽しみたいと思える人が増えていく環境をどうやって増やしていけるのか、これを若い子にも考えてもらいたいですね。キッズダンサーだったKAZANE(LUCIFER)がもう22歳でしょ? 俺はその年でもう起業していましたから何でもできますよね! もうみんなも刺激的で個性的な情報発信をしてもいいし、新しいことはどんどんやるべき。あとは、ダンス界以外の世界をたくさん見た方がいいと思います。ダンスとは違う業種の人と会ってみるとかね。ダンスで旅行もいいけど、ダンス関係なく海外を知ってほしい。世の中は面白いものですよ。
でも、なかなかこういうことを言う人が身近にいないかもですよね。
――いるじゃないですか、ここに!
だから今言ってる!(笑)。あとは、あくまで個人的な意見ですが、30歳を超えたらプロデュースする側に回った方がいいですね。で、ダンスとしてではなくカルチャーとしての自分のHIPHOPを貫くための生き方をどう設計していくのかを考える。それで、最後までHIPHOPを貫く生き方をしてほしい。俺はHOUSEダンサーだけど、生き方はHIPHOPだと思っています。

そして、最後はダンサーみんなとご飯を食べながら、最高に楽しくいつも笑ってたいですね。実のところ、みんな嫌いな人っていないんじゃないかなって思います。ただ寂しいだけなんじゃないかなって。俺も寂しいのが嫌で走り続けてます。だから、最後は嫌いだった人も巻き込んで楽しくなりたいです!

カリスマカンタロー/神田勘太朗
HOUSEダンスチーム「Xyon」のメンバーであり、株式会社アノマリー代表取締役。主にイベントプロデュース、広告代理、映像制作を事業とし、日本発、世界最大規模のストリートダンスバトルイベント「DANCE ALIVE HERO'S」を主催している。2017年より株式会社expgの取締役に就任、翌2018年4月には株式会社LDH JAPANの執行役員に就任し、ダンサーの中では特異な存在感を放っている。

企画・インタビュー・文=msk
写真=TMFM