下積み時代の悔しさを、僕は一生忘れない。崎山つばさの今を支える、“あの頃”の話。
ミュージカル『刀剣乱舞』の石切丸役で注目を集め、2.5次元作品を中心に活躍中の俳優、崎山つばさ。 “演じる”のではなく、役に“なる”ことを意識しているという彼に、今回の撮影テーマが「カフェデートを楽しむシチュエーション」だと説明すると、表情をクルクルと変えながら、瞬く間に妄想デートの世界を作り上げていく。撮影の合間、トレイを持って「懐かしいな」とつぶやく姿も。アルバイトをしながらオーディションを受け、結果が出せずに悩んでいた時代もあったそう。「だから今があるんです」と、崎山は笑顔で語ってくれた。
撮影/西村 康 取材・文/花村扶美ヘアメイク/胡桃澤 和久(Three PEACE)
「僕には才能がないのかな……」眠れない夜もあった
- 大学卒業後、23歳で事務所に所属し俳優デビュー。今や2.5次元作品を中心に活躍し人気者となったが、じつは下積み時代があった苦労人でもある。アルバイトをしながらオーディションを受けるも、ひたすら落ちる日々が続いた。仕事をする上で、「向上心」「感謝」「謙虚さ」を忘れてはいけないと崎山は言う。何事にもつねに真摯に向き合う姿勢は、このときに培われたのだろう。
- 10代半ばでデビューする方たちが多い中、俳優としてのスタートは遅いのかもしれません。そのぶん、崎山さんは、夢を叶えるために人並みならぬ努力をされてきたのだろうと思います。
- 僕としては、努力することが当然といえば当然というか、自分では努力しているとは思っていないんです。映画に出たいとか、レッドカーペットを歩きたいとか、目標を達成するためにやるべきことをやっているだけ。こういう業界にいるからには、戦っていかないといけないし、つねにそう、自分にも言い聞かせているところはあります。
- お仕事がなかなか決まらなかった時期は、くじけそうになったりしませんでしたか?
- オーディションで結果が残せなかったりすると、(俳優の仕事は)本当にやりたいことだけど、自分には才能がないのかなと悩むこともありました。リアルなことを言うと、バイトをしながらだったので「今月はあといくらしかない……」と眠れなくなることもありました(笑)。
- 崎山さんにもそんな時期があったんですね。
- でも、そこで諦めないことが大事なんですよね。諦めたらその時点で終わりだし、もしそこで諦めていたら今ここにはいなかったですから。今思えば、そういう時期があったのは僕の中では大事なことだったなと思います。
- でも渦中にいるときは、なかなか気づけないものだと思います。どうやって気持ちを奮い立たせたんですか?
- 映画をよく見てましたね。お芝居の勉強のために見てたけど、自分がやりたいことなんだと改めて気づくことができました。落ち込んでふさぎ込むよりも、取り入れることで乗り越えてました。自分を鼓舞するじゃないですけど、追い込むこととは別として、いろんなものを見たり聴いたりしてましたね。
- もともと負けず嫌いな性格なんですか?
- そうですね。その性格にも助けられたのかもしれないです。
- その当時、出演者のセリフや歌などを覚えて、いつでもアンダー(代役)として出られるよう準備をしていたという話も聞きました。「何で俺じゃないんだ?」といった悔しい気持ちをバネに……?
- それは確実にありますね。嫉妬心よりも反骨心のほうが強かったな。そのときは、いつかここにいる全員を越えてやるという思いでした。今でもその気持ちはありますし、一生持ち続けるんだろうなと思います。
- お仕事が軌道に乗るまでバイトもたくさんされたと思うんですけど、どんなバイトをしていたんですか?
- カフェ&バー、塾の講師、工場、廃品回収……オーディションがいつ入ってくるかわからないので、シフトで迷惑をかけないように短期のバイトばかりでした。
- どのバイトが楽しかったですか?
- カフェですかね。今も料理をするのが好きですけど、作って提供するということがすごく楽しくて。お客さんがおいしいと言ってくださったり、キレイに食べたお皿を見たりするのがうれしかったですね。カフェではラテアートを勉強したり、もちろん料理も作ってましたよ。
- お料理がプロ級なのは、そのときの経験が活かされているんですね。
- 全然プロ級ではないです! ひとり暮らしを始めてから自分で作っていたので、料理はある程度はできるんですけど……Foodie(カメラアプリ)で撮ってるから、そう見えるんだと思います(笑)。
自信を持つのは大事。だけど、自分に満足したら終わり
- 仕事が決まり出し、どんどん忙しくなるにつれて「環境の変化に追いつけなくて、ちょっと自分が見えなくなってしまったときがあった」と、過去のインタビューで語っているのを読みました。
- 自分的には何も変わってないというか、そんなつもりはなかったんですけど、昔の僕を知ってる人から見たら、今までしないようなことをしていたらしくて……。振る舞いとか言動ですよね。「昔と変わったな」と言われて。
- 周りが見えなくなっていた……?
- そういうこともあったかもしれないですね。天狗になりたくないとか、謙虚でいたいという気持ちはあったのに自分が見えなくなっていたということが、すごく怖いなと思いました。指摘してくれる人がいて、とてもありがたかったですね。
- 指摘してくれた方というのは……?
- 秘密です(笑)。デビューからずっと見てくださっている人。これからもずっと見守っていただきたいですね。
- 当時と比べて、俳優としての成長を感じますか?
- 成長を感じるというよりも、今は表現の引き出しを増やしているという感覚です。まだまだ足りないなと思うし、もっとやるべきことはたくさんあるなとも思うし。……僕が今ここにいられるのは「縁」だと思っているんですよね。自分には全然、実力があると思ってないし。
- え!? 今もですか?
- 今もです。自分に満足したら、その先はないんじゃないかと思っています。ひとつひとつ目標を達成して、階段を一段ずつ上がっていく感覚を持つようにしています。
こういうふうに考えるようになったのも、一度自分を見失ったことがきっかけになっていて。たぶんその時期って「あ、自分、できるようになったかも」みたいなことを思っていたんでしょうね。自信を持つことは大事ではあるけど、自分の中だけにとどめておけばいいことなんだと、今はそう思います。 - 仕事の現場には後輩もたくさんいますよね。先輩としてどう接していますか?
- 後輩だとしても、この業界で活躍しているということは、その人に魅力があるからだと思うんですね。だから、この人の魅力って何だろうなって探ったりもします。
- そこにも謙虚な姿勢が。
- 学ぶべきことは後輩からでも、いくらでもあると思ってます。もし礼儀がなってない後輩がいたら……? ありがたいことに、今までそういう人に会ってこなかったからなぁ(笑)。もともとそんなに厳しい性格でもないから、後輩に呼び捨てされても全然大丈夫ですよ。