鈴木拡樹、10年の俳優生活が作り上げた、後輩たちから憧れられる姿。

多くのファンが、緑色の髪に紅い羽織姿のビジュアルにハートを撃ち抜かれたことだろう。正直、鈴木拡樹が舞台「煉獄に笑う」で石田佐吉を演じることに「ちょっとイメージと違うかも…」という思いを抱いた人もいたかもしれないが、その不安は、こんな期待で上書きされたはずだ。「史上最高の鈴木拡樹が見られるんじゃないか?」――。 取材の時点で24日の本番まで約2週間。当人は、周囲の思いを知ってか知らでか、優しい笑みを浮かべて語る。「いまね、すごく楽しいときなんです」と。

撮影/祭貴義道 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.

ファンタジーに絡めて歴史を描くことの面白さを感じて

『煉獄に笑う』(マッグガーデン)は唐々煙さんの人気漫画で、同じく舞台化もされた人気作『曇天に笑う』の約300年前を舞台に展開する作品です。のちの石田三成である佐吉が、羽柴秀吉(村田洋二郎)の命を受け、大蛇(おおおろち)の絶大なる力を手に入れるヒントとなる髑髏鬼灯(どくろほおずき)の謎に挑む歴史エンターテインメントですね。
『曇天に笑う』のことは、舞台版に共演したことのある役者が出ていたこともあって、知っていました。その新作で、300年前を描いた作品と聞いて、さっそくどんな漫画かと読んでみたのですが、考え抜かれた構成で描かれていて、すごくスラスラと読めました。唐々煙さんって、どんな人なんだ!? と興味を持ちましたね。
歴史を題材にした作品は過去にもたくさん出演されていますし、最近では教科書には載らないような歴史を伝える『もっと歴史を深く知りたくなるシリーズ』のライブ版『歴タメLive〜歴史好きのエンターテイナー大集合〜』にも出演されるなど、すっかり歴史作品に多く出ている俳優に…。
そうなんですよ! じつはそんなに詳しいほうじゃないのに…(苦笑)。でも、歴史は知れば知るほど面白いんですよね。演出の西田大輔さんと初めてご一緒した舞台『Sin of Sleeping Snow』も歴史作品でした。個人的には最近、関ヶ原の合戦にまつわる作品をやらせていただくことが多くて、自分の中で注目ポイントのひとつだったんです。
今回、演じる石田佐吉は、のちに石田三成として関ヶ原の合戦を画策し、西軍の中心人物となる男です。まさにド真ん中ですね。
今回の物語は関ヶ原よりもずっと前の、まだ佐吉と名乗っていた時代ですが、この佐吉時代を扱った物語は、決して多くはないんですよね。そこをファンタジーと絡めて描いているので、歴史に詳しい方にも、面白く感じていただけるんじゃないかと思っています。
実在の登場人物、歴史上の出来事をベースにしつつ、豊かな解釈とファンタジーの要素が絶妙なバランスで絡み合っていますね。
個人的にすごく好きなのが、原作でも描かれる、なぜ佐吉が三成と名乗るようになったかというところ。原作の表現が、実際の歴史でそうだったのかはわからないけど、もしかしたら、そうだったらいいな、と思わせてくれる素敵な話なんですよね。
その佐吉ですが、近年では再評価され、脚光を浴びていますね。しかし、基本的には秀吉の政権下で、優秀な官僚として働くも、頭が固く神経質で、誰かれ構わずズケズケとものを言うことで、同僚からも嫌われがちな男というイメージです。
へいくわい者(※無遠慮で無礼な者の意)と言われますね。
本作ではそこが、単に嫌な男としてだけでなく、不器用な男として描かれていますね。
僕は、三成本人もまさに不器用なタイプだったんじゃないかと思います。厳しい人って周囲に毛嫌いされるかもしれないけど、まっすぐで忠義心が強くて、だからこそ自らの意見をしっかりと言えるんだろうって。
自分にも周囲にも厳しい、ある意味で公平な男ですが…。
周りにはそれが「おい!」って思われるんでしょうね。いまの時代よりも地位や立場というのがもっと厳格で、自分の意見を言いづらいかもしれないけど、そこでグイグイと押していける。その心の強さがスゴいですよね。

“へいくわい者”の掘り下げに楽しさを見出す日々

非常に魅力的な役柄であると感じる一方で、いま目の前にいる、やさしく柔らかい雰囲気をまとった鈴木さんと、へいくわい者の佐吉のイメージは正直、重なりません。多くのファンがキャスト発表の時点で、「ちょっと違うかも…」と思ったかと。
でもね、ちょうどいま、すごく楽しいんですよ(笑)。佐吉に対して、どういうアプローチをしていこうかと考えることが。いろいろ試しつつ、いまのところ自分の中で正解を出していないんですよね。
現時点で、軸になっている部分や、ヒントは…?
佐吉の持つ“まっすぐさ”の出し方ですかね。原作を読むと、まっすぐな佐吉が、いろんな人と会うことで、かき混ぜられていくような気持ちよさがあるんですよ。それを感じるためにもしっかりと佐吉を構築しないといけない。これがすごく楽しいんです。その感覚を取り入れるために、“本人”として稽古場に立ってみたりすることもあって…。
本人? 役の佐吉としてではなく、鈴木拡樹として稽古場に立ってみるということですか?
そう。そこで周りの人たちと一緒にいたり、向き合ってみると、どんなふうに揺さぶられるのかって。
たしかに、敵味方に限らず、個性的な登場人物たちに佐吉は翻弄されていきますね。
それが面白くて。性格的な部分に関しては、こういう男だと頭では理解できるんですが、それを舞台で体現するために、いろんな材料をかき集めています。普段の自分の性格とクロスしないからこそ、これだけ楽しめているという気もしますね。
性格的に、佐吉とご自身は重ならないという自覚はお持ちなんですね?(笑)
いや、そう思ってたんですけど、いろいろと調べていくうちに、もしかしたら近いところもあるのかなとも感じてきて(笑)。
たとえばどんなところが?
“へいくわい者”の意味の通り、遠慮しないで、空気を読まずにズケズケとものを言うところとか、じつは自分にも当てはまるかもしれないなって。普通、そこは言わないだろうってところでバーンと言っちゃって、変な空気にしちゃうこともあって…。
そんなこと、あるんですか!?
なくはないです。そのあとで「あぁ、そうだよね。普通に考えて、そこまで言わないでしょってことを言っちゃったよね…」と(苦笑)。悪気はないけど、ズバッと言っちゃって。
しかも、自分がもたらした結果に対して自覚的で、反省と後悔まであるんですね!(笑)
佐吉本人はどうだったんでしょうね? 周りの反応をじつは気にしていたんでしょうかね?
まったく気づかないで生きられるほうが幸せですよね、きっと。
「知るかそんなの!」なのか、自分の部屋に帰ってから、ウジウジ気にしていたのか…?(笑) そういうことを考えるのが面白いんです。
鈴木さんは、あとになって気にするタイプですよね?(笑)
家で悩むタイプですね。というか、その場の空気で感じて「あ、違ったなぁ」って(苦笑)。
そんな佐吉の内面の表現も気になりますが、現時点で何より、緑色の髪に紅い羽織姿の佐吉のビジュアルが最高にカッコよくて、ヤバいです!!
ありがとうございます。衣装さん、メイクさんからいろんなこだわりについてお話をうかがった部分もあり、それはぜひ本番でも活かすことができたらと思っています。僕自身、あのビジュアルを見て、ホッとしているところがあるんです。
原作のビジュアルに近づけたという安堵ですか?
三成になる以前の佐吉の時代ということで、設定のうえでは10代なんですよね。フレッシュさが必要だと思いつつ、いやいや、それは無理だろうって思いもあって…。
なるほど。
そこで、“若さ”は出ないながらも、“まっすぐさ”で佐吉を表現しないといけないのか…と思っていたところに、衣装さんやメイクさんの力で最高のパスをいただけたなと。グッと佐吉に近づけてくださって、あのビジュアルで演じることで、さらにマジックがかかっていくんじゃないかと感じているんです。
次のページ