新しい世界に踏み出すため、コミケ参加を決断

2017年12月、「お姉ちゃんと少佐」というサークル名で、井上喜久子とともに「コミックマーケット93」に参加。多くのアニメファンを驚かせた挑戦の背景には、声優朗読プロジェクト「文芸あねもねR」をたくさんの人に知ってもらいたい、という思いがあった。この活動は、東日本大震災の復興支援のためにつくられたチャリティ書籍『文芸あねもね』(新潮社)の趣旨に、田中と井上が賛同してはじめたものだ。朗読CDやイベントの売上は、復興支援として寄付されている。
田中さんと井上さんが声をかけたことで、「文芸あねもねR」には『攻殻』シリーズで共演した大塚さん、山寺さん、小山力也さん(クゼ・ヒデオ役)をはじめとする、多くの声優の方々が参加していますね。この活動を広めるために、コミケという場所を選んだ理由は何ですか?
この活動も6、7年が経ちましたが、去年、初めてイベントとかではなく旅行で、被災地の気仙沼や陸前高田、南三陸に行ってきたんです。でも、復興と呼べるところまではいってないんですよね。地元の方は「前よりだいぶ良くなった。かさ上げが進んだだけでも進歩だ」っておっしゃるんですけど、私はまだまだなんじゃないかと思って。(2020年の東京)オリンピックがあるから、建築業や土木業の方々はみんな東京に引き上げてしまったんですって。
私たちの朗読チャリティ活動も、思うように進まないことがたくさんありました。去年はイベントも新たな収録もできないまま、1年を過ごすことになってしまいそうで。そんなときに井上喜久子さんが、「叶姉妹さんが夏コミに出たらしいの。あっちゃん、私たちもコミケっていうものに参加してみるのはどう?」と声をかけてくれたんです。
叶姉妹さんのコミケ参加がキッカケだったんですね!
イベントを開催したりCDを売ったりするだけでは、なかなか新しいお客さまに広がっていかなくて…。ちょっと違う世界に打って出るというか、視点を変えるっていうことが必要なんじゃないかって(井上さんが)言ってくれて、それで申し込みました。
長蛇の列ができるほどの反響でしたが、実際に参加されてどうでしたか?
皆さんのおかげで、被災地に寄付を送ることができました。(頒布した)冊子には私たちのチャリティ活動をルポ漫画にしたものが載っているので、こういうかたちで被災地支援ができるのか、というのを知っていただけたことがとても嬉しかったです。でも、話には聞いていたけれど、本当にコミケって大変なんだなって。
それは準備ですか、当日ですか?
準備も当日も! 申し込んだのは9月くらいだったんですが、当落がわかるのが11月の中旬で。
なかなか直前ですね。
そうなんですよ。「当選したら、そこからがもう地獄のようだよ」という噂は聞いていたけれど、本当に大変で。1ヶ月くらいで撮影したり漫画を作ったり、当日も朝早くから準備したり…。
「コミケ」という場所については、どんな感想を持たれましたか?
楽しかったし大変だったけれど、この歳にして、本当にいろんなことを学べたなあって。お客さまやスタッフさん、手伝ってくれた方々とコミュニケーションをとることもそうだし、「最後尾」の札を作ることもそうだし。こういう世界があるということを知って、人生に新たな1ページが加わった気持ちがしました。

何でもOKしすぎて、井上喜久子さんに心配される!?(笑)

素子が公安9課の男性たちに鋭く指示を飛ばすシーンは、見ているこちらまで背筋を伸ばしてしまいそうになるほど迫力がある。他の役を思い浮かべても、田中敦子が演じるのは凛とした行動力のある女性というイメージが強い。きっと、私生活でもチャレンジングな日々を送っているのだろう…。そう思って話を聞くと、思わぬ一面が見えてきた。
コミケに参加するって、けっこう勇気がいるのでは?と思うんですが、普段からやりたいことにはどんどん挑戦していくタイプなんですか?
いや、私は本当に…。石橋を叩きすぎて、引き返す…。
渡らないんですね(笑)。
そう、やっぱりやめとこうって(笑)。だんだん年を重ねるごとに、頭で考えすぎるようになってしまって。今回も井上さんが誘ってくれなかったら、絶対にやってないと思う。彼女はアグレッシブにいろんなことを考えていて、発想がスゴいんですよね。その発想をサポートしてくれるスタッフさんも周りにいるから、「彼女の言うことなら間違いない!」って思えるんです。普通、ちょっと逆な感じに見えるじゃないですか(笑)。
正直、田中さんから提案したんだと思っていました。
私がいろいろやって、井上さんがついてくる――イメージ的にはそうだと思うんですけど、じつは、彼女のほうが常に投げかけてくれるタイプなんですよね。頒布した冊子にはルポ漫画だけじゃなく、グラビアもついてるんですけれど…。
とっても素敵でした!
このグラビアも、「せっかくコスプレをやるんだから、やるところまでやろうよ!」って井上さんが(笑)。彼女が言ってくれなかったら、やっていないですね。
田中さんは「コスプレはちょっと…」という気持ちはなかった?
彼女と一緒に活動する以上は、楽しんで何でもやっちゃったほうがお得な感じがして(笑)。
チャイナドレスは自分のものだけれど、他のドレスは全部井上さんから借りてるんです。井上さんが「あっちゃん、これ着てみたらどう?」って提案してくれたら、私は「いいよー」って答える。何でも受け入れすぎて、彼女が心配するくらいでした。「あっちゃんはいつも『猫耳つけて』って言うと『いいよー』、『これかぶって』って言うと『いいよー』って引き受けてくれるけど、それで大丈夫?」って(笑)。
でも、そこで断ったりするのは、逆に私のポリシーとしては違うんです。井上さんと一緒じゃなかったら、ドレスを着たりミニスカートを履いてグラビアを撮ったりとか、絶対しないので(笑)。
井上さんのおかげで、こういう写真が見られるんですね。
そうそう(笑)。
Twitterに投稿されていたオフショット写真も拝見しましたが、本当にスタイルが良くて見とれてしまいました…! 普段はどんなトレーニングをしているんでしょうか? ジムにも通われているんですよね。
ここ1、2年たくさん言われるんですが、返事に困っていて…(苦笑)。(「何もしてない」と答えると)嫌な感じになっちゃうじゃないですか。「そう言うけど、陰では絶対に血のにじむような努力をしてるんでしょ、やってないなんて嘘でしょ」って返されるのがオチというか…。
とてもストイックな生活を送られているのでは、と想像していました。では、ジムに通う理由は、スタイルをキープするためではなく…。
やっぱり健康が一番だと思うので。ボイストレーニングをしているのも、広背筋とか腹筋とか、鍛えたものが衰えないようにしたいっていうのが正直なところなんです。
そうだったんですね。食べるものにも気を遣っていらっしゃるのかなと思っていました。
今はお肉とご飯とか、エネルギーになるものを食べています。日々、少しでもエネルギーを蓄えていきたい!
田中敦子(たなか・あつこ)
11月14日生まれ、群馬県出身。O型。アメリカのテレビドラマ『ENG』の吹替で声優デビュー。代表作に『機動戦士Vガンダム』(ユカ・マイラス)、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』、『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズ(草薙素子)、『Fate/stay night』(キャスター)、ゲーム『ベヨネッタ』シリーズ(ベヨネッタ)など。4月8日から放送開始のアニメ『Cutie Honey Universe』ではシスタージル役、6月15日公開の映画『ニンジャバットマン』ではポイズン・アイビー役を務める。アニメ作品にとどまらず、ニコール・キッドマンやジュリア・ロバーツなどハリウッド女優の吹替も担当しており、数多くの洋画作品でも活躍している。

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