成田 凌「ブレイクはまだまだ」自分のペースで俳優街道を歩む

こちらが投げかけた“ブレイク”という言葉を、成田 凌は「いや、全然してないですよ」と即座に否定した。それは、現状に満足していない気持ちと向上心、ここで立ち止まってはいけないという危機感の表れなのかもしれない。月9に朝ドラと、猛スピードで階段を駆け上がっていく24歳が、その俳優としてのすさまじいポテンシャル、無軌道な爆発力をまざまざと見せつけているのが、赤髪モヒカン&全身タトゥーで挑んだ衝撃の映画『ニワトリ★スター』である。

撮影/祭貴義道 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.
スタイリスト/伊藤省吾(stior) ヘアメイク/宮本 愛
衣装協力/シャツ ¥7,800(ヴィンテージ/ツナギ△ジャパン tel. 03-6427-0717)、メガネ ¥21,000(エーディーエスアール/シック tel. 03-5464-9321)、その他(スタイリスト私物)

井浦 新との共同生活を通して見えてきたもの

大麻の密売で生活を送る雨屋草太(井浦 新)と、成田さんが演じる星野楽人らくとの自堕落な共同生活を描く本作。冒頭での、ある女性との体当たりな演技に始まり、大麻の密売、シングルマザーとの恋など、天真爛漫で自由気ままな楽人を熱演されていましたね。オーディションで「(楽人を演じられるのは)僕しかいません」「この役のために俳優になった」とまでおっしゃったそうですが、この役にそこまで惹かれた理由は何でしょうか?
脚本がすごく面白くて、作品の力を感じました。その中でも楽人という男の子は、すべての感情が出てきて、それをわかりやすく大きく出す人なんですよね。こんな役はなかなかないので、やりがいを感じました。
ここ最近、ドラマで見かける姿では黒髪を下ろしていらっしゃったので、赤髪のモヒカン、そして両腕と首に彫られたタトゥーも印象的でした。準備にはけっこう時間がかかったんでしょうか?
いや、メイクは15秒くらいですね(笑)。ひげもそらないし、ファンデーションも塗らないし。タトゥーはシールですけど、1時間くらいかな? 朝はとにかくゆっくり寝たいので、撮影が終わっても「このままで帰ります」って。お風呂でも腕はあまり強く洗わないようにして。
そういうスタイルも含めて、楽人らしいように感じます。外見が変わったことで、役へのスイッチが入る部分もありましたか?
どうでしょうね…? 学生時代はわりとこんな感じでしたし、「戻ったな」というくらいでしたね。美容系の専門学校の学生だったので、髪も赤色に染めたし、(学生時代は)基本、白っぽい髪色で、そこにいろんな色を足していくような感じでした。
楽人の兄貴分と言える草太役の井浦さんとは、役作りのために撮影前に共同生活を送ったそうですね。それは、かなたおおかみ監督の指示で?
(経緯は)もう忘れちゃいましたけど、おそらくは監督が言い出したんだと思います。いまとなっては、そうすることが当たり前だったかのような感覚ですね。僕も新さんも「いいんですか?」って感じで。
実際、共同生活ではどんなことを?
いや、ただ一緒に住んだだけですね。それが意味のあることだったし、すごく贅沢なことでした。この仕事をしていると、本当に時間がないですから。あえて(草太と楽人の自堕落な生活のように)時間を大切にせず、過ごすような感じでした。
そこで意識してやっていたことなどはありますか?
互いを役の名前で呼び合うこと、敬語を使わないこと。新さんは関西弁でしゃべるようにしていました。舞台が大阪というわけではないんですが、空気感を味わうためにふたりでいろんなところに行きました。
なるほど。そうやって日常生活を送りつつ、草太と楽人の関係を自然と作り上げていったんですね?
「日常を」と言っても、結局は嘘の共同生活ですから多少、無理やりに作っていった部分もあると思います。ただ、寝るとか飯を食べるとか、(役ではなく井浦さん、成田さんとして)いつも通りにやることもあるわけで、そのへんの役と自分との境目が徐々にわからなくなっていく感覚はありました。
井浦さんに対する印象は、共同生活と撮影を経て、それ以前と変わりましたか?
撮影が終わってから、ものすごい距離を感じてしまいましたね。それまで兄弟のようなとても近い距離にいさせていただいたので、いざ役を離れて成田 凌と井浦 新になったとき、かなり距離があって…。
ちょっと寂しいなと?
寂しいってわけではないけど、共演者として普通の距離感にいて、だからこそ、いままでの共演者の中で一番難しいですね。何て言うのかな…? 親に勘当されたような感覚ですね(苦笑)。いまでも連絡は取るし、会うこともありますけど。
改めて、井浦さんはどんな人ですか?
優しい人ですよ。でも、僕があまり言うのも…新さんのことは、新さんに聞いてください(笑)。

作品にのめり込んだからこそ、撮影の記憶はない?

暴力、セックス、ドラッグといった描写も含め、これまでの出演作にない独特の世界観、役柄だったと思います。ご自身でこの作品、役柄に対して、どんな部分に特別なものを感じていますか?
やはり、これだけ時間を存分に使って、少ない人数のスタッフ、キャスト全員でひとつのものを作っているという感覚がすごくありましたね。あとは、実際にこの映画に出資してくださった方々と直接お会いして、話をさせていただく機会をもらえたんです。この映画を作ることへの責任を感じるタイミングが多かったですね。
メインキャストとして、作品を背負う覚悟を持って撮影に臨んだ?
でも、撮っている最中は、新さんと一緒に住んでいた生活の延長線上で、草太と楽人として、そのまま生かしてもらっただけですね。ちゃらんぽらんで、責任感とかどうでもいいって感じで(笑)。いまこういう(プロモーションの)タイミングで責任を感じます。チラシとかでは僕と新さんのふたりが表に大きく出ているので、それしか見ない方もいるでしょうし。
“ちゃらんぽらん”とおっしゃいましたが、実際、撮影期間中のカメラが回っていない時間の精神状態はいかがでしたか? かなり精神状態の上がり下がりがある役でしたが、役が抜けなくなったりは…?
撮影中は抜く必要もなかったですしね。ただ、東京の友達とは会わないようにしていました。大阪で撮影して、別の仕事で東京に来ても家に帰らなかったし、大阪にいるあの人たちと過ごさないと、それこそ役が抜けちゃう恐怖感がありました。ちょっとでも隙があってはいけないなと。
できる限り、作品の世界観に近い空気の中で生活し、楽人として生きようとしていた?
どうだったかな? あんまり、撮影中のことを覚えてないんですよ。すごくよかったからなのか? イヤだったからなのか?(笑) 恥ずかしいというか、僕の人生とは“別”のものにしたいというか…。
成田 凌ではなく、あくまでも楽人の人生であると?
そう信じたいのかな? いや、単純に1年半も前のことだから、忘れちゃったのかも(笑)。すごく(説明が)難しいんですけどね。お芝居するって恥ずかしい仕事じゃないですか? どう考えても恥ずかしいでしょ?(笑)
それはある種の照れというか、作りものの世界の中で違う人間になって真剣に演技して…ということが? ふと我に返って冷静になって見ると、ちょっと滑稽だなと?
そうですね。もとをたどれば、他人の前で役を演じてしゃべったりするって…。
演技に対して慣れは…?
いまだに慣れないですよ。リハーサルで「いまの10倍くらい、テンション上げてください」と言われて、ちょっと恥ずかしいって思う自分がいます(笑)。「最初からテンション上げてやってみて」と言われて「はい」と言いつつ…。
たしかに、演技に限らず、いい意味でいい歳の大人たちが集まって、虚構の世界のセットを作って、その中で演技をして物語を作り上げていくというのは…。
「スゴいなぁ…」っていまだに感じてます。
そういう照れや恥ずかしさがあるからこそ、役の人生はあくまでも役のものであって、自分自身とは別のものなんだと?
恥ずかしいんですけど、でも「できたぞ!」ということを“点”として(俳優人生の道の上に)ひとつずつ置いていって、その先にいまがあるんですよね。ひとつの作品をやるごとに、その役を生きて、それがちゃんとできたからこそ、のめり込んでいて「(撮影中のことを)覚えてません」と言いたいのかな。
なるほど。
恥ずかしいから忘れたいってことじゃなく、ちゃんとのめり込んで、入っちゃったんだということを信じたいんだと思います。
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