メイクから衣裳、声の作り方まで。佐々木喜英が追求する“美”へのこだわり

佐々木喜英は「今年30歳なんですけど、年相応に見られないらしくて…」と笑う。昨今、彼が2.5次元作品で演じる役は、作品のなかでも見目麗しい容姿をした華やかなタイプが多い。毎回、年齢を感じさせない美しい立ち居振る舞いで演じて見せるのだから、「年相応に見られない」という言葉にも納得してしまう。佐々木がそう思われる理由を探ると、美しい役だからこそ、という原作をリスペクトした彼の並々ならぬこだわりがあった。

撮影/川野結李歌 取材・文/渡邉千智 制作/iD inc.
ヘアメイク/齊藤沙織

良知真次は「信頼した存在」再共演に喜びを抱く

東京をはじめ、中国の上海、北京、深センで上演される、ミュージカル「陰陽師」〜平安絵巻〜。原作は、中国の大手ゲーム会社が制作したソーシャルゲーム、本格幻想RPG「陰陽師」です。妖がうごめく美しき日本の平安時代を舞台に、プレイヤーは陰陽師となり、さまざまな式神と共に謎を解き明かしていく物語ですね。作品に触れた印象はいかがでしたか?
絵も妖艶で、すごく幻想的だなと思いました。とても美しい世界観のなかに自分が入れるんだなと思うと今から楽しみです。
本作で佐々木さんが演じるのは、原作ゲームでもボス的な立ち位置にいる謎の存在、黒晴明ですね。
良知(真次)さんが演じる、陰陽師・晴明の悪の姿です。良知さんとは別作品でずっとご一緒させてもらって付き合いが長いので、良知さんが演じる役の悪の姿を担当することができてすごくうれしいです。
取材時は12月下旬なので、ちょうど最近まで超歌劇『幕末Rock』絶叫!熱狂!雷舞で一緒に舞台に立たれていましたね(笑)。
そうなんですよ(笑)。超歌劇『幕末Rock』シリーズは、僕が2.5次元舞台に出演するなかで、初演からラストまで代替わりすることなく出演した作品で。初演から良知さんといろんなことを悩みながら一緒に作ったこともあって、良知さんのことはすごく信頼しています。
素敵ですね。信頼している存在だからこそ、再びの共演を知ったときは…。
すごくうれしかったです。お芝居もやりやすいですし。良知さんは、ほかの役者をすごく気遣ってくれる方なんです。
共演されて、気遣いを感じたのですか?
芝居のことはもちろん、ライブをする作品だったので音の環境や、キーの調整とか…ほかの人のことまで気にしてくださって。さすが座長だなと思いました。
今作でも良知さんが座長ですし、新しい座組でそういった気遣いがまた見られるかもしれませんね。ほかのキャストの方はいかがですか?
矢田悠祐くん(大天狗役)とは、ミュージカル「黒執事」で共演があって、内海啓貴くん(白無常役)はちょうど今、ミュージカル「黒執事」-Tango on the Campania-の稽古を一緒にしています。平田裕一郎くん(黒無常役)とはミュージカル『テニスの王子様』で一緒だったから…けっこう前からの仲ですね(笑)。

中国の作品を日本の方に知ってもらいたい気持ち

3月9日から東京公演がはじまりますが、こちらはプレビュー公演で、来春からの中国公演が本公演という位置づけなんですよね。
はい。もともと中国で生まれた作品で。僕が日本の作品で海外に行かせていただくときは、その作品を海外に広めたい思いで行くのですが、今回は逆に、中国の作品を日本のみなさんに知ってもらいたい思いです。もちろん、現地の方にも中国の作品を僕らが演じることで楽しんでもらいたいです。
中国原作のものを日本で活躍されているみなさんが現地で演じるというのは、2.5次元作品が海外でも注目されている今だからこそできる、新しいことだと思いました。
2.5次元作品は日本ならではのものだと思いますし、昨今の舞台の多さや熱狂ぶりには、僕も勢いを感じています。公演のクオリティも相当高く、日本から海外に自信を持って出せる文化だと思っています。
海外公演と日本公演とで、違いなどを感じることはありましたか?
ミュージカル「黒執事」で行ったときは…重めのストーリーのなかで、僕が演じた役が突然、華やかに現れるシーンで歓声が上がったのは新鮮に感じました。すごくライブ感はありましたね。公演中に歓声が上がったり、拍手が沸き起こったり、涙を流してくださったり…。僕ら役者にとってもテンションが上がりますし、うれしいです。
お客様が感じた反応が、すぐ返ってくることが多いのですね。
あとは、セリフをしゃべったあとに字幕が出るので、お客様からの反応がちょっと遅れて来るんです。笑いを誘うシーンでも、時差があるというか。
字幕でセリフを見て、笑いが起こるまでに少し“間”がある、と。
そうなんです。「あ、笑いが遅れて来た」というのは海外公演ならではだと思います(笑)。
海外公演の際は、キャストのみなさんで現地を観光されることもあるのでしょうか?
ミュージカル「黒執事」のときに、上海、北京、深センの3都市を回ったのですが、3都市とも週末にかけての公演で。移動するまでの時間もけっこうあったので、キャストのみんなで買いものに行ったり、おいしいものを食べに行ったりしました。今回もみんなでできたらいいなと思います。

役のメイクはすべて自分で。「黒晴明は大変そう」

佐々木さん演じる黒晴明をはじめ、登場キャラクターは艶やかな和装姿が印象的ですね。ビジュアル撮影はいかがでしたか?
僕の衣裳はすごく重みがあって、「動きにくそうだな…」というのが第一印象(笑)。2.5次元作品の衣裳は装飾品が多いイメージですが、黒晴明はそのなかでも「こんなにいっぱい!?」というくらい多くて。
その衣裳で、自身に負担をかけることなく、綺麗に見せることができるかが重要ですね。
自分が動きやすいように工夫したり、相談をしたりしてよく見せられるようにしたいです。
こういった和装、丈のある衣裳だからこそ、見せ方に難しさなどはありますか?
原作通りの長さでいくか、舞台上での自分のベストの長さでいくか、というのは考えるところです。もちろん原作を大事にしたいのですが、その通りの長さのままだと武器などに引っかかってしまうこともあって。それはダメだと思うので、どうしたら綺麗に見せられるか考えています。
舞台上に立つのは生身の人間ですから、ベストな状態で衣裳を見せられるようにするのも、舞台ならではですね。
僕は殺陣でも手元にアレンジを加えたり、ダンスでも自分で振りを考えたりすることがあるんです。「考えてみて」と言われることがよくあって。そういうときは、自分が考えた動きに対して衣裳がどうあったらふさわしいのか、よく話し合いますね。
黒晴明は、メイクもインパクトがあります。
舞台のとき、だいたい自分でメイクをするのですが…。今回の黒晴明のメイクは大変そうだな…と。
役のメイクを、毎回ご自身でやっているのですか!?
そうなんです。全部自分でやっています。作品によってはメイクさんがやってくださいますが、「僕は自分でやります」とお話して。
それは、佐々木さんのこだわりなんでしょうか?
以前、舞台で草刈民代さんと共演したときに響いた言葉があるんです。草刈さんはご自身でメイクをされて「自分の顔を一番知っているのは、メイクさんじゃなくて自分。だから自分に一番ふさわしいメイクができてあたり前でしょ」とおっしゃっていて。その言葉を聞いてから、自分でやるようになりました。
たしかに、自分の顔を一番知っているのは自分だから、自分をより美しく見せることができるメイクができる、ということですね。とはいえ、キャラクターに近づけないといけない2.5次元作品だと、とくにメイクは大変そうです。
そうですね。でも、僕も自分の顔を一番よく知っているのはやっぱり自分だと思うので。普段僕らはメイクをする機会が多くて、メイクの仕方も自然と覚えられたのでよかったです。毎回、どうしたらよりキャラクターに近づくことができるかを研究しながらやっています。
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