岡田将生「自意識過剰じゃない人なんているのか」超モンスター級“痛男”との共通点

20代後半にして、なお無垢な雰囲気を漂わせる。だからこそ悪い男の役がよく似合う。イケメンの王子様も、ちょっと頼りないけれど憎めない役ももちろん魅力的だが、この端正な顔に残虐で悪意に満ちた笑みが広がる瞬間、ゾクゾクするファンも多いはず! 映画『伊藤くん A to E』で演じたのはまさに、女性の共感も好感度も無視したサイテーな男。「そういう役ほど楽しい」――。岡田将生は映画の中とは正反対の優しい笑みを浮かべうなずく。

撮影/祭貴義道 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc

伊藤の姿は、誰でも共感できる「あるある」の象徴?

直木賞候補になった柚木麻子さんの同名小説を映画化した本作は、自意識過剰で口先だけの超モンスター級の痛男・伊藤誠二郎と、彼に振り回される5人の女性たちを描いた異色のラブストーリーです。映画を見た人からは、伊藤に対して「サイテー」「クズ」などの厳しい反応が多いですが、岡田さん自身は彼を肯定的に捉えているとか?
そうですね。まず最初に脚本を読んだ段階では、女性を振り回す自己中な男だし、こんなヤツがなんでモテるんだ? ホント、クズだなと思いました。でも彼には彼の世界があるんですよね。演じるうえで、彼を中心にして世界を見てみると、あれ? こういう生き方ってある意味でスゴいんじゃない? と(笑)。
「スゴい」とは?
たとえば彼は「僕は傷つきたくない。だから、リングに上がらない」って言えちゃう。そんな考え方があるのか! と。リングに上がるって社会に出るということですよね。社会にすら出ないと言ってるわけで、もちろんひとつひとつの言動とかは最低なんですけど、関わりさえしなければ無害なんですよね。
「社会に出ない」と言っても、何もせずに引きこもってるわけではなく、脚本家を目指したり、アクティブにあれこれ動き回ったり、意識高い系ではあるけど、能力が低いわけではないですよね。
むしろコミュニケーション能力は高いし、自分の意見をしっかり持っていて、それをハッキリ言うこともできる。日本人はなかなか自分で手を挙げて意見を主張しないって言われるけど、それがちゃんとできるし、ちょっと憧れてます(笑)。こんな生き方もあるんだなぁ…って、だんだん肯定的に見えてきました。
ひとつひとつの行動や言葉はたしかにひどいんですけど、自分が傷つかないためのちょっとしたズルさや、相手より優位に立とうとする心理は誰にでもあるのかなと。自意識過剰という言葉自体、ものすごく強くて攻撃的に響きますけど…。
きっと、みんな、自意識過剰ですよね?(笑) そうじゃない人なんていますか。
最初は「いるいる、こういうクズ男!」と思いながら伊藤を見てましたが、だんだん、自分も含めて誰にでも「あるある」なんだなと。
そうなんです。でも、今回のプロモーションを通じて面白いなと思うのは、インタビュアーさんが男性か女性かによって、感想や指摘が正反対なんですよね(笑)。
女性の反応は厳しい?
「(伊藤に対して)サイテー」と容赦ないですね(苦笑)。いまの感じで肯定的なことを言うと「え…?」という感じで。もっと言うと、原作者の柚木先生にまで「岡田くん、そんなこと言っちゃダメ!」ってたしなめられました(笑)。
ある意味、はしごを外されたような(笑)。
いや、現に柚木先生の知り合いの体験をもとに書いていて、モデルになった人がいるのに!(笑) というか、伊藤も一生懸命、生きてるんですけど…。
目指すところが正しいかどうかはともかく、一生懸命なのは事実です。そのための行動もマメですよね。
しかもけっこう純粋で素直です。「僕はこう思う」とか「行きたくない」とかハッキリ言うし。ダメなヤツだとは思うけど(笑)、たとえば大学にこういうヤツがいたら、普通に友達として付き合うぶんには全然、仲良くなれる気がします。

撮影中も原作小説を手元に置き、伊藤の細部まで追求

そんな伊藤にA(佐々木 希)、B(志田未来)、C(池田エライザ)、D(夏帆)、E(木村文乃)と5人の女性たちが惹かれたり、振り回されたりして、ヤキモキさせられますが、伊藤がなぜモテるのか理解できますか?
そこはホントにわからないですね。でもさっきの話で言うと、女性のインタビュアーさんたちは「わかる気がする」って言うんですよ(笑)。今回ほど男性と女性で思考が正反対なんだって感じたことはないですね。
たしかに、男性側から見て「え? なんで?」と理解できない女性の生態も出てくるかと。
5人の女性の本性だったり、ダメな部分を見て、少なからず女性のそういう部分に幻滅を覚えたりするかもしれない(笑)。見終わって、異性と感想を話し合うと絶対に面白いなと思いますね。
女性陣があれほど伊藤に振り回され、運命を狂わされるわりに、それぞれ意外とすっきりした表情で新たな一歩を踏み出していくのも印象的です。
みんな、なんだかんだ成長していくんですよね(笑)。
同じ状況だったら、男性のほうはもうちょっと引きずりそうな気がします(苦笑)。
女性のほうがこういうとき、強いんだなというのを感じさせられますね(笑)。
佐々木 希さんに本作でインタビューした際も話題に上がったんですが、男女の恋愛観について「女性は上書き保存。男性は別名で保存」という法則がよく聞かれますが…。
それが見事に生きている作品だと思います!(笑)
伊藤のような役柄は、なかなか巡ってこないタイプの役だと思いますが、演じてみていかがですか?
なかなか巡ってこないからこそ楽しいですね。廣木(隆一)監督と話したのは、こういう個性の強い役の演じ方は無限大にあって、やろうと思えば何でもできちゃうけど、抑え気味にできるだけ自然に…ということ。と言ってもなかなか自然に見せるのは難しいですが(苦笑)、できる限りオーバーに見せないように演じました。
大げさにキャラクターを立たせるのではなく?
たとえば、ラスト近くの木村さん演じる矢崎莉桜との長いシーンも抑えてやっていこうと。今回は、原作を現場にずっと持って行ったんです。原作には心情の揺れや目線についてまですごく細かい描写があったので、それを台本では数行の部分に照らし合わせつつ、“気持ち悪さ”を目指しました。
廣木監督とは映画『雷桜』でもお仕事をされていますね。現場でカメラの前に立ち、相手と向き合ったときの感情を大切にされる監督だとうかがっています。一方で伊藤はたしかにキャラクター性の強さが魅力でもあり、自然な佇まいとのバランスが難しい役ですね。
そこは、廣木監督を信頼してついていきました。やはり、どうしてもキャラクターっぽさが出てしまうので、それを消す作業をしつつ、たまに「もうちょっと出してみよう」という部分もあったり。毎回、ここはどうしようかってじっくり話しながら作っていくのは楽しかったですね。
ひとつの映画でありながら、5人の女性ひとりひとりとの物語が展開しますしね。
そうなんです。毎回、相手が違って午前中はAの女、午後はB、夜はCという感じでずっと(笑)。
ファンからすると、ちょうど10年前に公開された映画『天然コケッコー』で共演された夏帆さんとの再共演が印象的で感慨深いです。10年前はおふたりとも10代で、役柄は中学生だったのに、今回は超モンスター級の痛男とヘビー級の処女という関係性で…。
(10年前と)全然違いますね(笑)。まさかこんな役をやることになるなんて、お互い10年前は思っていなかったです。グルっとひと回りしてこういう役が巡ってきたんだなぁ…という感じですね。
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