
石川界人、“最高のステージ”のために、プロデューサー役の自分ができること

フォーマルなジャケットに清潔感のある白いシャツ、サスペンダー。この日の石川界人の姿は、TVアニメ『アイドルマスター SideM』で自身が演じる“プロデューサー”の姿と重なる。本作でアイドルたちを陰ながらサポートする役どころに臨む石川。これまで彼が演じてきた役とは、またひと味違うプロデューサーという役をどう咀嚼したのか。12月30日には最終話の放送が控えるこのタイミングで、理由(ワケ)あって石川界人に話を聞いた。
撮影/祭貴義道 取材・文/渡邉千智 制作/iD inc.ヘアメイク/fringe

アイドルとプロデューサーは“成人した子と母”のような関係
- 『アイドルマスター SideM』は、『アイドルマスター』シリーズ初の男性アイドルをメインとした作品。さまざまな前職を持った男性たちが理由(ワケ)あってアイドルに転身し、トップアイドルを目指すという物語です。10月から放送されているTVアニメで石川さんが演じているのは、アイドルたちを支えるプロデューサー。ゲームにおいてはプレイヤーという立場で、TVアニメではじめて声がつきました。
- ゲーム『アイドルマスター SideM』で見られるマンガのなかでも、プロデューサーの姿や表情は明確に出ておらず、男性か女性かわからない中性的なルックスで描かれていました。だからこそ、オーディションでプロデューサーの絵を見たときはどう演じるべきか考えました。
- どう演じるべきか、ですか?
- 僕は声が高いほうではないし、中性的な声をしているわけでもない。だからこそ、どう演じたらいいんだろうというのは考えていました。

- それから実際にオーディションで、プロデューサー役に選ばれて…。
- 選んでいただいて、まずは自分がキャスティングされた意図は何だろう? と考えました。これまでの『アイドルマスター』は女性アイドルと男性プロデューサーの関係でしたし、『アイドルマスター SideM』をプレイしている“プロデューサー”は女性も多いと思いますし…。
- たしかに…。男性アイドルをプロデュースする作品なので、女性ユーザーも多いですよね。
- でも、今回はそこに異性感がない。同性であるからこその距離感もあるんじゃないかと思いました。だからこそ、決まってからは「これは僕が作る男性」、TVアニメのプロデューサーはあくまでTVアニメのプロデューサー、という気持ちに切り替えていきました。
- 石川さんがプロデューサー役を演じることは第1話が放送されるまで秘密になっていたので、誰が声を務めるのか全国の視聴者たちはとても気になっていたと思います。ゲームではプレイヤーですし、そういう役を演じるプレッシャーも大きかったのかと。
- 「これは僕が作るプロデューサー」という気持ちでも、やっぱりどこかに不安はありましたが、吹っ切れたのは第1話のニコ生放送を、全国の“同僚”のみなさんのコメントを読みながら見ていたときで。

- 第1話放送直後に、放送を記念した特別ニコ生が配信され、石川さんはシークレットゲストで登場されましたね。
- みなさんのコメントを見て、僕がプロデューサーを演じるうえでの気持ちと同じだと思ったんです。ここまでゲームやイベントなどでアイドルたちをプロデュースしてきたのは、あくまで“同僚”のみなさん。僕はTVアニメでプロデューサーを演じさせていただいていますが、プロデューサーは変わらずにみなさんですよ、という気持ちで臨もうと、ここで心に決めました。
- 石川さんがプロデューサーを演じるうえで考えたこととは?
- これまでの『アイドルマスター』シリーズと違ってアイドルたちは男性ですし、人生の経験値もある。そういう意味でも、プロデューサーが道を示すのではなくて、ある程度方向性を提示して、選択はアイドルたちに任せるという、一歩引いたところで見守るポジションなんだなと思いました。
- これまでの『アイドルマスター』シリーズのTVアニメでは、どちらかと言うとプロデューサーとともに成長していくイメージが強かったですが…。
- 一歩引いたところでアイドルたちを見ている、「成人した子と母」という関係性に近いのかなと思ったので、声は男性なんですけど、気持ちは女性の感覚で演じています。
- アイドルが成人した子だとしたら、プロデューサーは母、ということでしょうか?
- はい。“お母さん”みたいな気持ちで。僕の声はどうしても男性的ですし、お芝居やニュアンスで女性らしさを表現するしかなくて。一番身近にいて見守ってくれて、なおかつ何でも打ち明けられる女性と考えたら「母」だったんです。

マネージャーへの聞き込みで、サポート側の気持ちを研究
- プロデューサーは、これまで石川さんが演じてきたキャラクターとはまた違うタイプですね。
- そうなんです。こういった一歩引いたところで見ているというのは、僕がこれまで演じてきた役としてもまた新しいなと思いましたし、役者ってやっぱり前に出たがるものなので…。
- 自己表現をするうえで自分を主張したいのは当たり前ですよね。
- はい。パフォーマンスを見せて、たくさんの人の心を動かしたいって思っている人が多いと思います。でも、今回はそうではないので、サポートする気持ちというのは研究した部分です。
- どんな研究をされたのですか?
- いろんなマネージャーさんに「自分が面倒を見た役者が売れたらどういう気持ちですか?」、「どういう気持ちで役者と接しているんですか?」などを聞いて、タレントをサポートする側の心情を研究しました。
- 実際、どんな答えが返ってきたのでしょう?
- 役者と一緒に頑張っていきたいという方もいれば、売れる役者を輩出するために燃えている方もいるし、役者が幸せなのが一番、という神のような考えの方もいました。話を聞いて、フォローする人たちにもいろんな気持ちがあるんだと感じました。

- そうやっていろんな意見を聞いて、取り入れたうえで落ちついたのが、先ほどもおっしゃっていた一歩引いて見守っているというポジションですね。
- プロデューサーは、アイドルたちがステージ上で輝いている姿、楽しそうにしている姿が…もちろんステージから降りた姿もですが、何より好きなんだろうなと思います。アイドルたちに「最高のステージだったよ。どうだった?」って聞かれるのがとてもうれしいんだろうなって…。ただ、このプロデューサーは、アイドルたちがどんなステージに立っても(プロデューサーの声色で)「最高のステージでしたよ」って答えると思うんですけどね(笑)。
- プロデューサーを演じるにあたり、音響監督の濱野(高年)さんとお話されたことはありましたか?
- めちゃめちゃありました。アフレコを進めていくにつれて、やっぱり「これでいいのかな?」と不安になってきて。僕からご飯に誘って、一緒にご飯を食べながら今後の物語の展開やそれにともなうプロデューサーの心情のヒントをもらいました。
- お話したことで、見えてきたものはありました?
- もちろんです。濱野さんはゲームの音声収録から携わっていて、アイドルたちのことを一番知っている方。だからこそ、僕も「このアイドルと接するときにこういう言い方をすると、どんなふうに返ってくるんでしょうか?」と詳しく聞けます。とても助けていただいています。
- 質問には明確な答えを返してくれるんですか?
- 僕の考えにイエスもノーも言わないですけど、「このアイドルはこうだよ」って。ヒントを教えていただけて考えるきっかけにつながります。アイドルひとりひとりのことを把握されていて、なおかつプロデューサーのこともわかっているからスゴいですよね!! 本人は「いやぁ、俺は何も考えてないから」とか言うので、「またまた〜」って思うんですけど(笑)。

つらいときでも、走り続ければ見える景色があると知った
- もともと、『アイドルマスター』シリーズがお好きだったとうかがいました。
- 出会いは小学、中学生の頃で、友人がゲームセンターでアーケード版の『アイドルマスター』をプレイしていたのをよく見ていました。僕は、アーケード版はそんなにプレイしていなかったのですが、Xboxの移植版を買って。
- 2005年にアーケード版の稼働がはじまり、2007年にはXbox 360で家庭用版がリリースされました。
- その頃、僕はいわゆる“萌え文化”に片足を突っ込んでいた時期だったので、「おっ、ギャルゲーだ」と思って買ったら、女の子たちと恋愛をするのではなくて、アイドルたちをプロデュースしていくというゲーム性にびっくりしました。
- ゲームもプレイされていたとのことですが、『アイドルマスター』シリーズに一番火がついたきっかけは、2011年に放送されたTVアニメ『アイドルマスター』なんですよね。
- 声優になってあまり仕事がなく、オーディションにも全然呼ばれなくて「声優は向いていないのかもな」、「大学の学部も真剣に考えないとな」、「資格でも取ろうかな」と考えていた時期にやっていたのがTVアニメ『アイドルマスター』でした。

- いろいろ考えていた時期にTVアニメをご覧になって…。
- 天海春香(声/中村繪里子)が一生懸命に頑張っている姿にすごく勇気をもらえたんです。新人アイドルとしてスタートして、活動がなかなかうまくいかないときでも、同じ事務所のアイドルたちと心が離れていってしまっているときでも、春香は目標に向かって笑顔で前向きに走り続けていく。そんな姿に感化されました。
- どん底にいるときでも、ひたむきに頑張る春香の姿に励まされたのですね。
- 「自分もこんなところでくすぶっていてはダメだ」と思いましたし、声優とはいえ、同じタレント性を持っている職業なので、どんなときでも前向きに笑顔でいることの大切さ、つらいときでも走り続ければ見える景色があるんだ、ということを学びました。
- 単に可愛い女の子たちが並んでいるわけではなく、アイドルとして活躍するなかでの苦難や葛藤、それを経た輝きが描かれていて、とても勇気をもらえる作品だと感じます。
- 今の僕の人生があるのは、本当に『アイドルマスター』のおかげと言っても過言ではないくらい。それだけ影響を与えてもらった作品です。TVアニメをきっかけに劇場版『THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!』も見ましたし、TVアニメ『アイドルマスター シンデレラガールズ』も見ました。『アイドルマスター SideM』も、僕のように、にっちもさっちもいかない状況にある方に元気を与えられる作品になったらいいなと思います。

「インプットの時間が持てた」2017年を振り返る
- 話を掘り返すようで申し訳ありませんが、TVアニメ『アイドルマスター』を見ていた頃は、声優としてのお仕事に悩まれていたのですか?
- お芝居はもともとやりたかったので、それを職業にするか、趣味にするかの瀬戸際でした。趣味にするなら何を職業にするか見つけないといけなくて、経営学部に行こうかとか、教育学部に行って教員免許を取ろうかとか、考えていました。
- 大学に進学されたのち、声優を“職業”とされ、ここまでやってこられました。声優を職業にすると心に決めたきっかけは何かあったのでしょうか?
- 『翠星のガルガンティア』でTVアニメ初主演が決まったときですね。
- 2013年に放送されたアニメですね。
- それが大学1年の頃で、やってみたらアニメって楽しいと強く思いました。

- インタビューの配信が年末ということもあり、1年を振り返ってみて、今年はどんな年だったと感じますか?
- インプットの時間をもらえた1年でした。声優として5年近く突っ走ってきて…どうしてもこの業界は人が多いので、そのなかで埋もれないように自分ができるパフォーマンスって何だろうと考えることが多かったです。
- その答えは見つかりましたか?
- 徐々に育んでいけばいいのかなっていう、ひよった答えにたどりつきました(笑)。でも、その考えにつくまでは大変でした。芝居のいろんなことに挑戦もしました。とにかく、何か踏み出したい、埋もれないようにしたいという気持ちが強くて。僕、今年の9月から11月にかけて、パーソナルジムに通ってめちゃくちゃ減量したんです。
- それも、はじめてみたら何か変わるかなと思ったから?
- そうなんです。実際にやってみて、体調も精神面も安定したなと思いますね。僕は体が弱くて、いろんなところで迷惑をかけることも多くて。
- そうだったんですか。
- ガタイはいいんですけど、体がめちゃ弱いんです(笑)。この数年もマネージャーが頑張って心と体を休める時間を作ってくれていたのですが、精神的なキャパシティの狭さと体力的な弱さがあって。それを今年、ジムに通って安定して心に余裕を持てるようになったのは大きいなと感じます。この1年でインプットしたものを、次の芝居にアウトプットできるように練り上げていきたいです。
- インプットの時間の大切さを感じますね。
- 人間、アウトプットだけだと“出がらし”になるんです。
- “出がらし”。興味深い表現です。
- 仕事をこなすだけになって…僕が一番イヤだなと思ったのは、芝居をやっていて「楽しくない」って思った瞬間があったこと。そこでインプットができていれば、「もっとこうしてみようかな」、「ああやってみようかな」という考えに行きつくんですけど、インプットができていないとその考えにもたどりつかないんです。