「好き」という気持ちを伝えたい! 小関裕太はワクワクを求めて変わり続ける

180cmの体の中に、外の世界に興味を持ち始めたばかりの子どもが入っているような…。小関裕太を見ているとそんな印象を受ける。決してハイテンションというわけでもなく、口調はむしろマイルドで落ち着いている。なのに、あらゆることへの好奇心、あふれ出しそうになっているワクワクが伝わってくる。取材時でさえこうなのだから、撮影中などはどうなっているのか…? 映画『覆面系ノイズ』で演じたのは、高校生にして天才ミュージシャン。さぞや感性が刺激されたことだろう。

撮影/祭貴義道 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc

“天才音楽プロデューサー”の説得力を持たせるために

映画『覆面系ノイズ』は、福山リョウコさんの人気漫画を原作に、ヒロインの有栖川 仁乃(通称:ニノ/中条あやみ)、彼女の声に魅了され、曲を書き続ける杠 花奏(通称:ユズ/志尊 淳)と彼が率いるバンド、そしてニノの幼なじみで、小関さんが演じた榊 桃(通称:モモ)を中心につづられる青春ラブストーリーです。最初にモモ役でのオファーが届いたときの心境は?
もともと『覆面系ノイズ』という大人気漫画の存在は認識してたんです。そんな強い影響力のある漫画原作をやるのか! と。しかも、その中でも人気のあるモモという役で、ワクワクするような思いと覚悟がわきあがってきましたね。
モモは高校生にしてカリスマ的人気を誇る音楽プロデューサーです。離ればなれになった幼なじみのニノが、歌姫として目の前に現れますが、なぜかモモは彼女を執拗に拒否します…。モモという役柄を演じるうえでどのような役作りを?
まず、一番大きかったのは天才音楽プロデューサーということ。しかもまだ高校生で! その部分にどう説得力を持たせられるかを考えました。
以前、お話をうかがった際、高橋 優さんや舞台で共演されたナオト・インティライミさんと、プライベートでも交流があるとおっしゃっていました。そうした身近にいる音楽の世界の方々を参考にされたりもしたんでしょうか?
ミュージシャン、アーティストの“匂い”を知るという意味で、参考にさせていただいた部分もありますね。それこそ、ミュージシャンの方と飲みに行ったり、服やアクセサリーの着こなしを見たり。レコーディングの様子を拝見する機会もあったので、役を念頭に置きながら観察させていただきました。
実際に“俳優”と“ミュージシャン”では、まとっている空気や行動に大きな違いがあるんですか?
確実にあると思います。共通しているのは、ハートで動くということを大事にされている人が多いところでしょうか。一方で違いは…まず生活リズムかな? 役者は朝の4時入りとか普通ですけど、アーティストの方は夜型の人が圧倒的に多い印象ですね。深夜12時を越えて、夜中に作業して、僕らが起きてる時間に眠ってるような。
モモの性格、内面的な部分はどのように作っていったんでしょうか?
いろいろ考えはしたんですが、理論的に作り込まないほうがいいなと。ひとつだけ大事にしたのは、音楽だけが拠りどころで、音楽には心を開いている。それ以外のバックグラウンド……親が離婚し、その後も母親とうまくいかず…といった部分は、ハッキリと理論づけて表現するというより、イメージして向き合うという感じでした。
過去をしっかりと念頭に置いたうえで、それを見せるのではなく…。
悲しいこと、楽しいこと、悔しいこと、怒ったこと…すべてを経て、いまのモモがある。それを念頭に置いて、普段の生活からモモになれるようにと意識して作っていきました。
ビジュアル面での変化はいかがでしたか? 原作のイメージをすごく大事にされた印象で、正直、スクリーンに映るモモを見ていて、しばらくそれが小関さんだと気づかなかったのですが…。
それ、よく言われます! この作品のアフレコ部分の収録に行ったら、(アフレコ収録時は衣装ではなく普段の姿のままなので)監督から「誰?」って(笑)。映画を見たいろんな人から「いままでのイメージと違う」と言ってもらえて、すごくうれしいです。
作品ごとに毎回、いろんな姿を見せてらっしゃいますが、その中でも今回はとくに大きな“変身”だなぁと。
そうなんです。見た目は今回、自分でもすごく大事にした部分でした。とくに髪と私服の感じですね。先ほども言いましたが、普段からモモになりきるようにと、私生活でも衣装を着てましたし、撮影前から精神を“矯正”していくような感覚でした。

“小関裕太”の存在は、友達がいてこそ認識できる

現場に入ってからはいかがでしたか? ニノやユズは、バンドメンバーら仲間とのシーンが多いですが、モモは孤高の存在ですよね。原作のようにすべてが説明されるわけでもない中で、モモを表現するのはかなり難しい作業だったのでは?
そうですね。自分の中で「無」の意識でいる時間が多かった気がしますね。
「無」ですか?
いろんな思いを抱えながらも「俺には関係ない」と切り捨てていかざるをえない。難しさはありましたが、僕自身、10代の頃はひとりの時間が好きで、思いを内に閉じ込めるようなところもわりとあったので、似ているとも思いましたね。
もちろん、モモがニノを拒絶するのは、彼なりの理由があり、それも少しずつ明らかになっていきますが…。
その理由を抱えたうえで、彼にとっては必要最小限のもの以外を「切り捨てる」というのが日常になっている。モモでいるときは、普段からあまりしゃべらず、何も考えずにいました。しゃべらないのであれば、考える意味もないだろうって。
そうやって普段から、演じている役柄に私生活も影響されていくことは多いんですか?
よく影響を受けちゃいますね。なかなか切り替えられず、次の作品の撮影に入って、しばらくしてようやく、前の役が抜けていくということもあります。
そうなると、作品と作品のあいだの時間は? 素の小関さんの存在は…?
僕自身、役になっているほうが楽なので、普段の生活から役でいちゃうんですよね。じゃあ、素の小関裕太はどこにいるかというと、友達の存在を通じて確認してます。
友達の存在を通じて自分を確認する…?
大きな作品が終わると、必ず会う友達が何人かいるんですけど、彼らの表情や反応を通して、自分の変化、いまの小関裕太がわかってくるんです。
なるほど。
そういう意味で、彼らのほうが僕よりも小関裕太がどういう人間なのかを知ってると思います。そういう友達がいるから、素の自分をどこかに保てて、自分を見失わないでいられる…その状態がここ数年、いや、もう子どもの頃からずっと続いてるんですね。

22歳のいま、見据えるのは素敵な30代…?

モモと同じく高校生で、人気バンドの“イノハリ”こと、in NO hurry to shout;を率いるユズとのシーン、互いの素性を知らないままに不思議と惹かれ合い、セッションするシーンが印象的でした。志尊さんとは10代半ばで共演され、互いをよくご存じですが、あのシーンはいかがでしたか?
これまで、お芝居に関して自分なりにいろんなチャレンジをしてきました。たとえば反発し合う、ライバル関係を演じるときは、あえてその人と現場でも会話をしないようにしたり。でも、最終的に感じるのは、信頼関係がないと演じられない関係性の役が多いということ。
たとえ反発し合う関係性の役であっても?
だからこそなんだなと最近になって思いました。まあ、今回のモモとユズは、互いを知らないまま音楽を通じて交わったら、じつはライバルだったという流れなので、あまり意識する必要はなかったんですが。ただ、志尊ちゃんとはゼロから信頼関係を築く必要がなかったので、それはものすごくやりやすかったし、安心して臨めました。
“志尊ちゃん”と呼ばれるんですね!(笑) 久々に共演されてみての印象は?
やっぱり、ここ数年でものすごく変わりましたよね。中3(小関)と高1(志尊)で共演し

た当時と、いま、ふたりとも20代になってでは関係性も違うし。
「変わった」のは志尊さんだけでなく、小関さんもだと思います。
そうなんでしょうね。今回の作品の取材を通じて、志尊ちゃんがそう言ってくれるのを聞いて、あぁ、お互いになんだなって思います。僕から見ると、志尊ちゃんはすごく落ち着いていて、芯を持っている存在です。やっぱり、現場の雰囲気って中心にいる役者によるところが大きい。その意味で今回、すごく落ち着いて現場にいられました。
志尊さんだけでなく、同世代の俳優が今回のような人気漫画原作の大作や若者を熱狂させるラブストーリーなどで、メインキャストとして中心を担う存在になってきていますね。
うれしいことですし、それぞれ、同じステージに立っているようで、じつは全然違う個性の持ち主なんだってことを共演するたびに感じますね。
ついつい「若い世代」とひとくくりにしてしまいがちですが…。
いろんな作品、役を経験する中でみんな、いろんな出会いがあり、多様な価値観に向き合い、好きなものを選択したり、逃げられないものに真正面からぶち当たったり、悔しい思いや楽しさを味わったり…。当たり前ですけど、それを続けていくことで、似たように見えるかもしれないけど、全然違う30代になっていくんだな…とワクワクします。
早くも30代のお話ですか?
同世代の俳優と30代になって共演したり、バチバチする関係になったり…想像するとすごく楽しいです。僕も負けられないし、素敵な30代になるために、ひとつの経験も逃さないようにしたいですね。
同世代がいるからこそ、年齢を重ねるのが楽しいというのは素敵ですね。
すごく面白いです。世代にかかわらずですが、共演するってすごく大きなことで、そこで受け取るものってその人によって全然違う。19歳で共演するか、20代半ばなのかでも違う。個性もバラバラだし、目の奥がどんどんキラキラしていく人もいれば、光が失われていく人もいる。最近、元ボクサーの俳優さんとご一緒する機会があったんです。
子役として子どもの頃から芸能界で育ってきた小関さんとは、まったく異なる経歴の持ち主ですね。
もうエネルギーの“色”が全然違うんですよ。ハングリー精神も半端ないし! タイプは違うかもしれないけど、自分もいつかそういう強いエネルギーを秘めた存在になれたらって思いました。
次のページ