「考えて、考えて、変わり続けていきたい!」――俳優・小関裕太、自己探求の旅は続く。
「変化し続けたい」「新しい自分を見つけたい」と語る俳優は多いが、この男のような形でそれを“実践”しようとする者はなかなか珍しい。「一時期、夜なのにサングラスをかけて、ダランとした格好で、街行く人々をにらむような感じで歩いてたんですよ…(笑)」。小関裕太はいたずらっ子のような笑みを浮かべて語る。念のために言っておくと、次作で演じるのがそういう役だったわけではない。彼自身の言葉で言うところの「自分を砕くため」。役作りではなく“自分作り”。そんな彼が「答えやヒントに出会えるかもしれない」と開幕を待ちわびているのがミュージカル『わたしは真悟』である。

撮影/平岩 享 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.



楳図かずおの原作漫画がミュージカルに!



――『わたしは真悟』は、『漂流教室』(小学館)や『まことちゃん』(小学館)といった作品、そして赤と白のボーダーの独特のファッションでも知られる漫画家・楳図かずおさんの人気作品を原作にしたミュージカルですね。

楳図先生のこの作品が舞台表現でどうなるのか? どう見せるのか? すごく興味深いですし、話をいただいて驚きがありました。

――しかも演出・振付を担当するのはフランス人のフィリップ・ドゥクフレさん。演出協力に白井 晃さんを迎えており、どのような世界観が構築されるのか、正直、想像ができません。

最初、顔合わせのような形でオーディションがあって、そこにフランス人のアーティスティックディレクター、エリック・マルタンさんや、白井さんもいらしてたんです。そこでのお話がすごく面白くて。

――どんな話を?

「楳図さんの描く人物の独特の表情や、ちょっと怖い世界観をどう表現するか? 私たちも模索中なんです。小関くんも一緒に考えてください」と。原作の登場人物たちの怪しい感じや独特の表情、頬がこけた感じとか、どうやって表現したらいいんだろうって(笑)。

――楳図作品を高畑充希さん&門脇 麦さんのW主演、そして小関さん、大原櫻子さん、成河さんらを迎えてミュージカル化するということで、まさに漫画独特の表情をどう表現するのか? 多くの人が気になっている点だと思いますが、キッチリやるつもりなんですね!

最終的にどうなるのか? もちろんまだわかりませんが、楳図さんの世界観はすごく大切にして作り上げていっています。いま、稽古が始まって1週間くらいが過ぎましたが(※取材は10月中旬)、役柄、セリフ回し、独特の雰囲気…どれも模索中です。



――小学生の真鈴(まりん/高畑充希)と悟(さとる/門脇 麦)の純愛、そしてふたりの遊び相手のロボットで、彼らを両親と認識して自意識に目覚める真悟(成河)を軸に、ストーリーが展開していきますね。

すごく哲学的な物語だなと思います。言葉にできない感覚的な部分で、なんとなくですが、「いいね」と思える言葉やものの見方が散りばめられていて、すごくワクワクします。原作にもある「四角から三角になり、三角から丸になる」って言葉が出てくるんですけど…。

――どう解釈したらいいのか…(苦笑)。

そう、よくわからないんですけど(笑)、なんとなくわかる気もする自分もいて…。四角って僕の中では硬くて青くて、物怖じしない感じのイメージなんですよ。それが三角になって鋭く研ぎ澄まされて、でも鋭いだけじゃダメでそれが丸い地球になっていく――ってよくわからないですよね?(笑) でも、僕はそこに哲学的な興奮を覚えたんです!

――小関さんが演じられるのは、真鈴が両親とともに移り住むロンドンで出会う男・ロビン。真鈴の「子どもを終わらせる」「大人のスイッチを押す」存在とも言われますね。

物語はあくまで、真鈴と悟、真悟が軸なので、ロビンは決して中心にいる存在ではないんですが、だからこそ僕は、そこに意味を持たせたいと思ってます。よくロビンは「暗い」「悪い」「闇」といった言葉で表されるんですが(苦笑)、考えれば考えるほど、いろんな要素が見えてくるので、それをしっかりと表現したいです。



稽古場で奮闘中…フランス語でやり取りも?



――先ほど、「模索中」というお話もありましたが、稽古場の様子はいかがですか? フランス語が飛び交っている?

僕も少しずつ、フランス語を覚えてます! いや、覚える必要はないんですけどね(笑)。「どう? 大丈夫?」って意味の「ça va(サヴァ)?」とか、逆にこっちが「大丈夫! 了解!」って伝えるときの「D'accord(ダコー).」とか。英語でも会話するんですが、どうせならフランス語でやりとりしてみたいし、耳になじませている最中です。

――外国人の演出家という点で、普段との違いは感じてらっしゃいますか?

すごく大きいですね。たとえば警官という役が出てくるんですが、僕らに「日本の警官はどうふるまう?」と聞いてくる。その問い自体が新鮮なんですよね。ところどころで「日本ではこういうときは…」という話になるけど、そのやり取りが視点を変えてくれるところがあるんです。

――いい意味でワンクッションが入る?

そうなんです。逆説的ですが、普段はあまり感じることのない、日本人が出ているからこそ日本らしい作品ができあがっているという感覚を味わっていて、すごく興味深いです。

――ご自身のブログで「主観と客観の距離感が難しい中で探っている」という意味のことを書かれてましたね?

ロビンって、漫画を読んだ人によって、印象がかなり異なるんですよね。そういう人物を演じるって、すごくハードルが高いです。余白をどう表現すべきか? という“客観性”と、僕自身がロビンをどう捉えるか? どこまで陶酔し、なりきっていいのか? という“主観性”がぶつかり合ってます。



――なるほど。

客席からどう見えるか? 自覚的にどう演じるか? その間に…言葉では言い表せない、“いいもの”を探し当てられるんじゃないかと思いながらやってます。大変ですけど、すごく面白い作業です。

――ミュージカルで表現するという点はいかがですか?

実際、稽古場でも“音”に助けてもらっている部分がすごく大きいんですよ。今回、トクマルシューゴさんと阿部海太郎さんが合作という形で音楽を担当されてるんですが、物語の流れ、感情の動き、世界観が音楽できちんと表されるんです。それこそ“子どもが終わる”音もあります!

――どんな音なのか、楽しみです!

悲しくなっちゃいますけどね(苦笑)。子どもであることが終わる切なさ…しかも、気づかないままに終わってしまうんです。普通のいわゆる“ミュージカル”とは違うかもしれませんが、音楽で表現される部分もすごく魅力的です。




憧れの地・ロンドンで感じた特別な空気



――つい最近、ロンドンに行かれたとTwitterに投稿されていましたが、ロビンにとってなじみの深い街ですね。別のお仕事で偶然行かれたんですか?


いや、仕事ではなく個人的に行きました。作品と作品の間に1週間ほど空くタイミングがあったので、「ここだ!」と思って先にチケットを買って、マネージャーさんには「すいません、もうチケット買っちゃったんで…」と事後報告で(笑)。強行スケジュールで行ってきました。

――ということは、今回の作品のために?

そうですね。もちろん、ロンドンに行かなくてもロビンを演じることはできるけど、自分の中で、それはすごく大事なことでした。あの街の空気を吸ったことが、パワーになると思います。

――実際、行かれてみていかがでした?

行ってよかったです! 僕は、父から教わってある程度、英語は話せるんですが、普段のアメリカ英語とは全然違うイギリス英語に触れることができたのも、すごく大きな経験になりました。

――以前から『ハリー・ポッター』シリーズが大好きと公言されていますね。もともと、イギリス文化に憧れが?

はい! 『ハリー・ポッター』だけでなく、『メリー・ポピンズ』や『チキ・チキ・バン・バン』など、なぜか昔から好きになるのはイギリスの作品が多かったんです。個人的に、勝手な縁というか、不思議なつながりを感じてまして…。



――不思議なつながり?

小学生のときの授業で、好きな国について調べるという課題があって、僕はイギリスを担当したんです。そこで、ある古城を調べているうちに、そんなはずないのに、そこに行ったことがあるような気がしてきて…(笑)。

――デジャヴですね。

深層心理で何かあるんじゃないか? 前世で何かあったのか? とかいろいろ考えたり(笑)。だから、イギリスに行けば何かわかるんじゃないかって気もしてて、以前から行ってみたかったんですよ。

――どこか、本作や楳図さんの作品にも通じる体験ですね。

だからこそ、いま、この作品に出会えて最高ですね! もし、この作品への出演が30代のときだったり、すでに何度もイギリスに行ったことがある中でいただいたお話だったら、全然違ったと思うんです。初めてイギリスを体感して、見えてきた世界、いまだから表現できるものがあるんじゃないかと思ってます。

――先ほどから、哲学であったり、心理学であったり、いろんな思考に関するお話がありましたが、そうやって、あれこれ考えるのを楽しんでらっしゃるように見えます。

大好きです!(笑) 中学2年のときにある先生に出会ったことがキッカケなんですけど。



――詳しく教えてください!

歴史の勉強について、その先生は、当時の人々の心理とかから読み解いていくことを教えてくれたんです。たとえば1853年の黒船来航から、日米和親条約の締結までについて「当時の人々はどんな心情だったのか? アメリカの威圧にとにかく驚いて…」と説明し、「君たちならどうする?」って。その教え方がすごく面白いし、覚えやすくて。それまで社会科が大嫌いだったのが、大好きに変わったんです。

――素敵な先生ですね。

それから、歴史だけでなく、なんでもそうやってあれこれ、ものごとの裏や人々の心理を考えるようになったんですよね。

――俳優としての役柄へのアプローチにも、役に立ちそうですね。

つながってますね。表面的なことだけでなく、思考を深めるってこと自体がすごく楽しいです。たとえば、今回の作品で言うと、楳図さんは、人工知能についてどんな考えを持っているのか? とか。それを表現するセリフも描写もないけど、僕がそれを考えた上で演じたら、そこで何か伝わるものがあるんじゃないか? 何かを受け取ってくれる人もいるんじゃないか? って。考えただけでワクワクします!