賀来賢人がコメディの現場で見つけた自分の居場所――笑いへのプライドと覚悟!

終始、口調はクール。なのに不思議と、この男が感じている楽しさが全身から伝わってくる。とくに、コメディについて語り出すと止まらない。ドラマ『スーパーサラリーマン左江内氏』(日本テレビ系)で、ようやく“コメディ俳優”としての存在が認知されたかもしれないが、この男、世間の想定の内にとどまらず、斜め上を行く! ミュージカル『ヤングフランケンシュタイン』でも、存分にそのポテンシャルを発揮してくれそうだ。すでに、誰よりも大暴れすると腹を決めている。

撮影/川野結李歌 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.
スタイリング/荒木大輔 ヘアメイク/新宮利彦
衣装協力/ブルゾン¥38,000、スラックス¥36,000…ともにAURALEE(CLIP CLOP)、その他スタイリスト私物
企画/ライブドアニュース編集部

「どうやって表現してやろう」変人役で物語をかき乱す

本作は1974年公開の映画を原作としたミュージカルコメディですね。怪物を生み出したヴィクター・フォン・フランケンシュタイン博士(宮川 浩)の孫のフレデリック(小栗 旬)が、祖父の実験を引き継ぎ、再び怪物を生み出してしまうという物語で、賀来さんが演じるのはフレデリックの助手のアイゴールですが…。
相当、変わり者で、すべての状況をメチャクチャにしてしまうという役どころです。正直、そんな役を小栗さんとのタッグで、福田(雄一)さんの演出でやれるなんて、自分の役者人生の中で想像もしていなかったことで、これは面白そうだなと。
喜劇の天才と言われたメル・ブルックスによる映画版『ヤング・フランケンシュタイン』では、実験の際、アイゴールが持ってきた死体の脳のせいで怪物が生まれてしまうという。ある意味で“元凶”とも言える役どころです。
今回の脚本がまだできあがってないので、どんな感じになるのかわかりませんが…まあ、相当、変な男になるでしょ?(笑) 福田さんが作るからには。
物語についてはどんな印象をお持ちですか?
以前、福田さんと舞台『モンティ・パイソンのスパマロット』という作品をやりましたが、あれはイギリスの笑いで、今回はアメリカですよね。物語だったり、表情だったり、わかりやすいけど、また違った笑いの要素なんですよね。
確実に、日本のコメディとは違うタイプの笑いですね。
それを福田さんがどう日本人の笑いに変えていくのか、そんなことを考えながら映画を観ましたが、絶対に面白いものになるだろうなって。なかでも僕の役は、ものすごく気持ち悪い!(笑) どうやって表現してやろうかと…。
賀来さんの役はトラブルの元となる変わり者ですから、やろうと思えばいくらでもかき乱して、大暴れできそうですね?
そうなんですよ!

「笑いができる俳優なんだ」って知ってもらえた

福田さんとは、今年に入って放送されたドラマ『スーパーサラリーマン左江内氏』(日本テレビ系)など、映像作品で数多く一緒に仕事されてきました。今回は舞台ということで、映像とは違う楽しみが?
映像での自由度が10だとすると、舞台でのそれは750くらいになるんじゃないかと(笑)。前回の『モンティ・パイソンのスパマロット』でも相当、鍛えられました。福田作品って毎回、いい意味で試練なんですよ。
福田作品というと、堤 真一さんや山田孝之さんが複数の作品で主演を務めてます。また、ムロツヨシさんや佐藤二朗さんの面白さを世に知らしめたという印象も強いですが、じつは賀来さんも常連と言えるほど、多くの作品に出演されてるんですよね。
そもそもは、僕が福田さんのファンで、それをお伝えして、福田さんの作品に出させてもらったんです。
2008年に福田さん脚本の映画『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』に出演し、2011年には福田さんの代表作のひとつであるドラマ『勇者ヨシヒコと魔王の城』(テレビ東京系)、そして、その翌年が舞台『モンティ・パイソンのスパマロット』。2013年には映画『俺はまだ本気出してないだけ』があり…。
そこから何度かお声がけしていただいたんですが、スケジュールが合わずに悔しい思いをしたんです。で、ようやく昨年、『宇宙の仕事』(Amazon プライム・ビデオにて配信)というドラマのお話をいただいて。
福田さんが脚本・演出を手掛ける劇団、ブラボーカンパニーが2007年に上演した舞台を原案にした作品ですね。
そこで「福田さんに俺を思い出させてやる!」ってくらいの気持ちで(笑)。他の人の見せ場なんてどうでもいいってくらいの覚悟で、ふざけたんですよ。そうしたら、面白がってくれた。
そこから『スーパーサラリーマン左江内氏』、そして本作と立て続けに! 『宇宙の仕事』はご自身でも手応えはありましたか?
しばらく福田さんと会っていないあいだに、劇団☆新感線(『五右衛門vs轟天』)や松尾スズキさんの芝居(『悪霊 −下女の恋−』)で、コメディの経験を積んだ自負は少なからずありました。僕的には、ムロさん、二朗さんと一緒に自分の名前が来るくらいにならなきゃって思ってます(笑)。
実際、福田作品への出演を通じて、俳優として役の幅は確実に広がっていると思いますし、世間のイメージの変化という部分でもかなり大きいかと…。
そういう意味で『スーパーサラリーマン左江内氏』の出演はすごく大きくて。それまでの5、6年で、舞台でずっとコメディはやらせていただいているんですけど、TVで見てもらって初めて「賀来賢人ってコメディやる人なんだ?」「笑いができる俳優なんだ?」って知ってもらえたんだなって…。
良くも悪くもTVというメディアの影響力ですね…。
舞台ではあれ以上のスゴいことをやってるんですけど(笑)。でも、機会を与えてくださった福田さんにとても感謝してますし、今後も福田さんに呼ばれたら、1シーンだけでも絶対に出たいって思ってます。

どうやってふざけるか…真剣に話し合う現場が楽しい

コメディに限らず、ここ数年、映画、TV、舞台でさまざまな印象的な役を演じられています。20代前半と比べて、変化は感じますか?
たとえばある役をやってみて、自分の中でなかなかしっくりこない部分もありつつ、でもその経験があるからこそ、その次の現場に行くと芝居がほんの少しだけ、難しくなくなっている。そんなちょっとずつ変わってるなという感覚はあります。少しずつ、自分が分厚くなってるんだろうけど、変化がゆっくりだから、なかなか自覚が持てない(苦笑)。
俳優・賀来賢人に対する世間のイメージをどんなふうに捉えていますか?
どうですかね? まだパブリックイメージって言えるほどのものさえ、ないんじゃないですか? 『スーパーサラリーマン左江内氏』で「変なヤツだなぁ…」って思われたくらいで…(笑)。
20代前半の、学園ものなどに出演していた頃の“若手イケメン”というイメージからは、解き放たれているかと…。
ありがとうございます(笑)。ちょっとずつ、幅が広がってきたってことなんですかね…?
近年、映画や舞台で演じられている役柄を見ると、演じることを楽しんでいるのが伝わってきます。
楽しいですよ、苦しいですけどね(笑)。
いま、俳優という仕事の面白さを一番感じるのはどういう瞬間ですか?
周囲の評価とかではなく、純粋に作品を作っている工程が一番好きです。たとえば福田さんの現場で言うと、みんなが大マジメに、どうやってふざけるかを話し合ってる。どんな表情で? コンマ何秒空けるか? どうやってツッコミを入れるか? って真剣に話すのが楽しいですね。
いい現場ですね。
こないだのドラマでも、堤さんが真剣にそういう会話に耳を傾けて、本気で向き合ってくださって…。キャリアとか年齢は関係なく、本気の俳優さんとご一緒できるのがうれしいし、そこで対等に接してもらえる喜びも感じました。
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