「役者という職人であり続けたい」――窪田正孝が見据える未来と勝負のとき
「称賛よりも、苦い忠告を大切にしたい」――。話題作への出演が続こうが、“ブレイク”と持ち上げられようが、窪田正孝は自らに吹く“風”なんてものを信じてはいない。いや、いつか逆風が吹き荒れる日が来るのを、楽しみにさえしているかのようだ。その姿は『THE LAST COP/ラストコップ』シリーズでバディを組んだ、唐沢寿明演じる主人公・京極浩介とも重なる。28歳のこの男は、周囲の喧騒をよそに、静かに進むべき道を見つめている。
撮影/川野結李歌 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.企画/ライブドアニュース編集部
『ラストコップ』だからできた! 最終回生放送で“暴発”
- 昏睡状態から30年ぶりに目覚めた昭和の熱血刑事・京極浩介(唐沢)とゆとり世代の若手刑事・望月亮太(窪田)がバディを組んで、凶悪犯罪に立ち向かっていく『THE LAST COP/ラストコップ』。メインキャストとして約2年にわたり、関わってきました。
- そうですね。新しい出会いがたくさんありました。以前にしっかりと共演したことがあったのは和久井映見さんと黒川智花ちゃんくらいかな? 唐沢さんも含め、ほとんどのみなさんが初めてで、そこからみなさんと一緒に作っていけたのは大きかったですね。
- 2015年6月にスペシャルドラマ(日本テレビ系)としてEpisode1が放送。その後、HuluにてEpisode2以降、全7話が配信。2016年10月からは前作から1年後を描く全10話の連続ドラマが放送され、さらにその後、再びHuluで3話のオリジナルストーリーが配信。最後に今回の劇場版です。
- それだけ長く携わることで、役がどんどん膨らんでいくんです。亮太として生きていて、最大の強みはいつも京極さんのそばにいられたこと。もらえるものが本当に大きかったです。一度、劇中で亮太が記憶喪失になって、バディの入れ替えがあったんですけど、本気で「え? 嘘だろ!」って思いました(笑)。
- それは亮太として京極を見て? それとも窪田さんとして唐沢さんを見て?
- どっちもですね。役柄的には記憶を失ってるので、京極さんに対しても特別な意識はないはずなんですけど(笑)、(そのあいだ、京極とバディを組んだ若山省吾役の)竹内涼真くんに嫉妬してましたね。あぁ、そう言うと(京極に代わり、亮太と組んだ松浦 聡を演じた)藤木直人さんに申し訳ないなぁ…(笑)。
- 本番中は、かなりのアドリブ合戦だったと伺っています。
- 本当に台本通りにやっていたら起きるはずのない、“事件”や“爆発”がいろんなところでありました。起こりすぎてハチャメチャなんですけど…(苦笑)。全員が、この作品で何かを「残そう!」って気持ちがあったからこそだと思うし、それには技術も伴わなくてはいけない。そういう意味で、いろんな経験を積ませていただけました。
- その最たるものが、連続ドラマ版の最終話の一部生放送、視聴者投票で京極の生死を決めるという試みですね。
- あれは…やっちゃダメなやつですね(苦笑)。
- 面白かったです(笑)。ネットでは「放送事故」という言葉がポジティブな意味で使われていました(笑)。反響も大きかったと思いますが…。
- うーん……。あれはあれで“成功”なんでしょうかね?
- 大成功じゃないですか? もちろん、生放送だけど、みなさんがミスなく完璧にやり遂げていたとしたら、それはそれで素晴らしいですけど、視聴者が期待しているのはそこじゃないと思いますし、あの“グダグダ感”は、決してこの作品の魅力を損なっていないと思います。
- そうなんですよねぇ(笑)。もしも、『NHK紅白歌合戦』であんなことがあれば大事件ですけど。そういう意味で、『THE LAST COP/ラストコップ』という看板だからこそ、ああいうことができたんだなぁって思います。
- 『THE LAST COP/ラストコップ』なら、そして唐沢寿明主演ドラマなら、そんなことも起こりうるだろうという、妙な免疫がいつの間にか視聴者にも…。
- 演じながらみんな、心の底で誰かが失敗するのを願ってましたね(笑)。そうするとラクになるから。いや、小日向文世さんとか藤木さんは口に出してたし。「誰か失敗しないかなぁ」って(笑)。結局、僕らが“暴発”しちゃいましたが…。
- 他作品のパロディあり、佐々木 希さん演じる鈴木結衣へ、亮太の公開プロポーズあり、その佐々木さんが思わず「唐沢さん!」と口走ってしまったり…。窪田さんの口からも「帰りてぇ…」という言葉が漏れて…(笑)。
- 思わず出ちゃいましたね(笑)。いまの時代のエンターテインメントのひとつの形なのかな…。まあ、あれは唐沢さんが全部悪いんですけど(笑)。
昭和的な“熱さ” に接して芽生えた意識「戦わなきゃ!」
- 京極のキャラクター自体が、そのまま作品のテイストでもあると思います。いまの時代にはなかなかない、挑戦的で、見る者に対してガンガンと自己主張してくるような昭和的な“熱さ”が作品そのものにも感じられました。
- 昭和の刑事とゆとり世代がバディを組んだらどんな化学変化が生まれるか? というところから始まっているんですけど、「ありえない!」って思いつつ「昔はこれが当たり前だったよ」と言われると妙に説得力があって(笑)。
- たしかに(笑)。
- 自分たちの世代で、同じようなことをやろうとしても、こうはならないだろうなって思うし、すごく勝負してる作品だということは、参加しながらいつも感じていました。
- さまざまな世代が集結しているのが本作の大きな特徴ですが、やはり中心を担っているのは、唐沢さんですね。ずっとご一緒されて、ご自身の世代との違いをどんなところに感じられましたか?
- この作品に限らず、「爪痕を残す」というスタンスはスゴいですよね。上の世代のみなさんは、ヤンチャな部分もありつつ(笑)、そうやって自己主張されてきたんだと思うし、それが若い世代になるにしたがって、“とげ”のような部分がなくなってきているんだろうというのは感じます。
- 時代が“ヤンチャであること”を許さなくなったことも大きいかと思います。
- だからこそ「勝負したい」「逆らいたい」という気持ちもあります。とくに上の世代の方たちとご一緒して、いろんなお話を聞くと「戦わなきゃ!」って思います。教科書に載ってないことをやるって、ひとつの“武器”になると思います。
- 一番近くで唐沢さんを見ていて、闘志に火がついた?
- 近くで見ていて感じたこと、得たことは多いですね。芝居へのアプローチや監督とのセッション、周囲のいいところの引き出し方――今後、自分が主演という立場をやらせていただくうえで、もちろん、同じようにはできないだろうけど、いろんなことを勉強させていただきました。
- 多くの俳優さんが、現場全体を引っ張る唐沢さんのリーダーシップを称賛されています。窪田さんも、これまでも主演として現場に立つことは多々あったかと思いますが、理想のリーダー像というのはお持ちですか?
- 主役という立場であるほど、我慢しないといけない部分も、じつは多いと思います。軸としてぶれてはいけないし、自由に遊べないところもある。でもそれが、主役のあるべき姿なのであれば、そこに従いたい。でも、周りが自由に遊べる環境は作りたいなって思います。ある意味で、“縁の下の力持ち”であることが理想です。
- 唐沢さんのように「行くぞ!」と引っ張るのではなく?
- 僕がいま、それをやったら「おまえ、大丈夫か?」「無理するなよ」って周りが心配すると思います(笑)。そんなタイプじゃないし、誰もそれを望んでない。もう少し、年齢を重ねて、どっしりと構えられるようになったら、そうなれればいいですね。