百名ヒロキ「早くお客さんの前に立ちたかった」芝居漬けの日々を求める裏に“焦燥感”

人気マンガ『GANTZ』(集英社)を原作とした、舞台「GANTZ:L ACT&ACTION STAGE」で初主演を務める百名ヒロキ。彼が舞台の世界に足を踏み入れたのは、昨年7月に上演されたミュージカル「ボクが死んだ日はハレ」のときだ。「早くお客さんの前に立ちたかった」と語る百名。多くのオーディションを受けていた日々から、今では1日にふたつの作品の稽古へ通うほど、芝居漬けの生活を送っている。舞台経験の少なさに焦りを感じるときはある。それでも、芝居と向き合う喜びを噛みしめている――今の彼はそんなふうに見えた。

撮影/川野結李歌 取材・文/渡邉千智 制作/iD inc.

物語のなかで変化していく玄野の成長過程を見せたい

1月26日から上演される舞台「GANTZ:L」。過去に実写映画化、劇場アニメ化、TVアニメ化とさまざまなメディアミックスがされた、奥 浩哉さんによる人気マンガ『GANTZ』が原作です。
マンガも実写映画も知っていました。原作を読んで感じたのは、登場人物たちが突拍子もないことばかりやっているように見えて、そのなかに強いメッセージ性が込められているということ。いろんなことを考えさせられる部分が魅力的だと思いました。
もともとご存知だった作品に、初主演として出演が決まったときの気持ちはいかがでしたか?
まず舞台化にびっくりしたのに、主役の玄野 計役ということにさらに驚きましたし…焦りました。なかなか友人にも言えずにいましたね。
プレッシャーで、周囲にも決まったことがなかなか言えなかった…?
いや、これからキャストが変わるんじゃないかな、という心配があって…。それくらい信じられなくて。ウソかもしれないと思っていました。
紛れもなくウソではなかったわけですが…(笑)。それからご友人には伝えられましたか?
公演のビジュアルが発表されたときに、友人たちにすぐにニュース記事を拡散しました(笑)。みんな喜んでくれてうれしかったです。
百名さんが本作で演じる主人公の玄野 計は、厄介なことには首を突っ込まずに生きていた平凡な高校生。同級生の加藤 勝(高橋健介)と電車に轢かれて死亡したことによって、謎の球体「ガンツ」から下される、星人を倒すミッションに参加することになります。稽古を進められて、台本から感じた玄野のイメージと変わってきた部分はありますか?
変わりましたね。台本の文字だけを見ていると、舞台版の玄野はより普通の人間っぽいなと思ったのですが、稽古を進めてみて原作に近いイメージだったんだなと。ほかの登場人物たちとの会話を通して、台本で感じたときよりもっと“ちゃらんぽらん”な人間なんだなと感じました。
演出・脚本の鈴木勝秀さんから、玄野について「こう演じてほしい」という要望はありましたか?
「もっとダサい感じを出していいよ」とは言われました。でもスズカツさんは、好きなように、自由に表現してみてねというスタンスの方で。稽古中の指示はあまりないんです。だから、僕も毎回自分なりにいろんな表現に挑戦しています。すごく面白いし、いい経験をさせていただいているなと思います。
百名さんのなかで玄野をどう表現するか、定まってきましたか?
ちょっとずつ見つかってきましたが、ちゃんと定まるのはこれからかなと思っています(※取材が行われたのは1月初旬)。物語のなかで玄野が一番変化していくキャラクターなので、その成長過程を見せたいですし、無慈悲さに翻弄される玄野を楽しみたいです。原作の内容すべてを舞台で表現することはできないけれど、全30巻で描かれる玄野の変化や成長を踏まえて演じるのでは、見え方が違うと思うのでそこは意識しているところです。

1回3時間で終わらせる集中型…濃密な稽古の裏側

稽古はどのように進められていますか?
スズカツさんの稽古は集中型で、稽古時間が3時間と決まっていたら、3時間で本番のように1回やって終わらせるという感じなんです。すごい集中力を使いますが、そのぶんモチベーションも上がって…とてもいい現場です。
1回で集中してやる…濃密な稽古なのですね。
玄野は舞台に出っぱなしですし、「ああ、芝居をやっているな」と感じて、充実感のある日々を送っています。
アクションシーンも気になるところですが、こちらはいかがですか?
僕も最初はどうなるのかな? と気になっていました。はじめてアクションに挑戦するのも新鮮で、稽古をしてみてアクションも芝居なんだと感じました。ひとつひとつの動きにも動機づけがあって、それを意識するかしないかで見え方がまったく違う。そういうことをアクション指導の30-DELUXさんに教えてもらいました。
アクションは、はじめての経験なのですね。
はい。殺陣はやったことはあるのですが…。振付ではないので。芝居としてやる難しさもありますし、もう毎日筋肉痛です(笑)。
(笑)。やってみて、大変さを感じている?
殴ったり蹴ったりで、全身を使うのでかなりハード(笑)。それに、アクションに慣れていないからムダに力んでいるんですよね。Xガン(※星人を倒すため、ガンツから支給される銃)も使いますが、思っている以上に肉弾戦が多くて。よりアツいバトルシーンになっているので、お客さんにもそのパワーが伝わると思います。
そういった肉弾戦やバトルシーンは、生の舞台だとよりリアルに見えますよね。
そうですよね。見た方にも「おおっ!」って感じてもらえると思います。殴られ続ける、ねぎ星人は大変ですが…(笑)。
加藤役の高橋健介さんにもインタビューさせていただいていますが、高橋さんが「ねぎ星人のアクションがスゴい」と話していました。
ねぎ星人役の竹之内(景樹)さんと、川口(莉奈)さんはすごくマジメな方なので、練習をしながら「ここは百名さんにこうやってもらったほうが、玄野らしいアクションに見えると思います」と話し合うこともあります。この前、メイクをした姿を見たのですが、超、“ねぎ星人”でした(笑)。原作ファンの方はそこも楽しみにしていてほしいです。

高橋健介から座長の在り方を教えてもらっています(笑)

キャストのみなさんとは、どのようにコミュニケーションを取られていますか?
休憩なく集中して稽古をしているので、プライベートの話をすることはあまりなくて。稽古がはじまる前に「今日はこういう表現をしてみようかな」とか、終わったあとに「ここはよかったね、明日はこうしてみよう」という芝居のことを話しながら、距離を縮めている感じです。
高橋さんへのインタビューの際に百名さんのことをうかがったら、「百名さんとは仲良くなれそう!」とおっしゃっていましたが、高橋さんとは…?
ふたりの対談インタビューのときに、はじめて会って話をしました。年も近いですし、玄野として加藤は一番接点があるキャラクターなので、稽古場で話すことは多いです。健ちゃんは人見知りしないタイプらしくて、そのおかげで僕も気軽に接することができていますね。
高橋さんのことを、「健ちゃん」と呼んでいるんですね。
あ…はい。対談インタビューのときに決まりました(笑)。健ちゃんからは…「ヒロキくん」って呼ばれているかな?
はじめてお会いした際、「人見知りしない」という高橋さんから話しかけられたのでしょうか?
そうなんです。人見知りしないってスゴいですよね。健ちゃんからは、「みんなでご飯に行く計画を立てたらいいよ」とか「グループLINEを作ったらいいよ」と、座長の在り方みたいなものを教えてもらっています(笑)。座長という立場がはじめてなので、僕も「あ、俺がご飯の計画を立てるんだ!」って気づかされて。その作戦会議をするために、このあいだふたりで餃子を食べに行きました。
高橋さんのツイッターに、ふたりで餃子屋に行かれたことが書かれていましたね(笑)。
あっ、見ましたか?(笑) そのとき、僕は700円しか持っていなくて、700円で食べられるものが、餃子だったんです。
(笑)。おふたりの距離が縮まっている様子が垣間見えますね。百名さんは初対面の方が多い現場で、自分から率先して話しかけられるタイプですか?
やろうと思えばできるんですけど…自分のなかで頑張らないとできなくて。その点、今回の現場は話しかけてくださる方ばかりで、「僕からしゃべりかけなきゃ!」というプレッシャーはなかったです。
それはありがたいですね。プライベートのお話をされる時間はあまりないとのことでしたが、ほかの方との印象的なエピソードはありますか?
(藤田)玲さん(矢野 誠役)がすごく面白い方で、毎回、いろんな演技プランを持って役に臨んでいるんです。「ああ、役者ってこうあるべきなんだ」と勉強になっています。毎回違う玲さんの芝居を受けて自分の芝居を変えることもあるので、とても素敵な方と共演できたなと感じています。
藤田さんが演じる矢野は、裏社会に生きる冷酷な男。舞台のオリジナルキャラクターで、玄野とどう関わるのかも楽しみですね。本作には舞台で活躍されている方が多いので、稽古中にその背中を見て学ぶことも多そうです。
多いです。まだみなさんとご飯などに行けていないぶん、今は、稽古姿を見て勉強させてもらって、僕のなかで勝手に絆を深めています(笑)。
では改めて、舞台「GANTZ:L」の見どころをお願いします。
休憩なしで物語が続くので、『GANTZ』の世界に引き込まれると思います。作品を知らない方にも、ぜひそのエネルギーを感じていただきたいです。原作をリスペクトしつつ、舞台にしか出せないものを表現したいと思っているので、僕は…玄野としっかり向き合って頑張るだけです。
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