21歳へ向かって――高杉真宙をトップへと押し上げる“絶対的な劣等感”

早朝、渋谷、スクランブル交差点。徹夜で遊んで帰路につこうかと駅に向かう人たちと、始発で到着し、会社に向かうスーツ姿の人々がぱらぱらと行き交う中、高杉真宙は静かに立ち止まった。カメラのシャッター音が“いま”を閉じ込めていく。春の優しい朝の光がスポットライトのように横顔を照らす。「ちょっとずつ、大人になっているんですかねぇ…?」――。少しはにかみながら、あと1カ月ほどで21歳になる青年は、20歳という特別なこの1年を振り返った。

撮影/平岩 享 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.
スタイリング/石橋修一 ヘアメイク/堤 紗也香
衣装協力/ブルゾン、スニーカー(シセ/VAL:tel.03-6277-2147)、ニット(ラッピンノット/HEMT PR:tel.03-6721-0882)、パンツ(ロット ホロン/wjk base:tel.03-6418-6314)、ネックレス(アンプ ジャパン :tel.03-5766-8570)
企画/ライブドアニュース編集部

理想の20歳に追いつけてない! 心の内のもどかしさ

早朝からの撮影、おつかれさまでした。人影がまばらな渋谷に来る機会も、あまりないかと思いますが。
とにかく人が多いってイメージなので、人がいない風景がすごく不思議な感じでした。最初は徹夜明けで駅に向かう人が多くて、撮影が進むにつれて、少しずつ変わってきて、スーツ姿の人が徐々に増えてくるのも面白かったですね。
普段、朝まで飲んで…というのは?
さすがにまだないですね(笑)。打ち上げで深夜までというのはありますけど。楽しそうですね。撮影が早いときは、始発電車に乗ることもあるんですが、徹夜で遊んでいまから家に帰って寝るのかなって人を見かけて、うらやましく思ったり(笑)。
普段、移動で電車を使うことはあるんですか? ラッシュにぶつかったりすることは?
電車は普通に使ってます。ただ、ものすごく早いか、ゆっくりかのどちらかが多いので、ラッシュの時間と重なることはあまりないですね。でも、学生の頃は電車通学だったので、混んでました。乗れなくて何本か見送ったりすることもありましたし。東京は電車に乗れないことがあるのかって、ビックリしましたね。
高杉さんに登場していただくのは3回目です。1回目が2016年2月で、2回目はそれから8カ月後の2016年10月。それからまだ半年ちょっとですので、ご自身で実感している変化は少ないかもしれませんが、昨年後半からこの春まで、振り返っていかがですか?
次々と出演映画が公開されていく状況で、不安や緊張がありましたね。撮影はずいぶん前に終わってるから、もう演技に関してできることは何もない状況なんですけど…。自分がやったことを見られる気恥ずかしさや不安、自分はどこまでできたのか? それは撮影時には、なかなか実感できないことなので。
映画が完成した時点で改めて自分の演技を見て、いろいろ感じることもありますか?
どうしても「もっとできたんじゃないか?」って感じることが多いですね。それはどうにもならないことだし、この先もずっと、そういう思いと付き合っていくことになるんでしょうけど。
前回、お話をうかがったときは、20歳を迎えて少し経った時期でした。もう少しで20歳が終わってしまいますね。
1年前、半年前は、いまの自分よりもっと先を走っていてほしいって思いがあったので、いまの状況にむずがゆさ、もどかしさを感じてるところはあるかな…? いろんな部分でまだ足りてないですね。自分の中で以前から抱えていた20歳の理想があって、そこにまだ追いつけてないなという。
具体的に言葉にするなら?
難しいですけど、余裕のある大人になっていたかったというか…。それは、仕事はもちろん、生活面も含めてですが。

「お久しぶり」と挨拶できることがうれしい

自己採点は厳しめですが、1年前より半年前、半年前よりいまのほうが、人気も知名度も、演技に対する評価も確実に上がっていると思います。
こうして取材をしていただいたり、いろんな方とお話しする中で、自分が出ている作品を「見ましたよ」と言っていただく機会が多くなって、それはすごくうれしいですね。多くの人が見てくださる作品に出られているというのは幸せです。あ、わかりました。一番大きな変化!
何ですか?
昔よりも、人見知りがマシになったと思います!(笑) 以前よりも、人と話すようになりましたね。
なるほど(笑)。芸能人であることには慣れましたか?
いやいや、そこは全然! 自分が“芸能人”とか“俳優”なんだって考えると、なんだか気恥ずかしくて…(苦笑)。
前回、新たな監督や作品との出会いの大きさについて語っていただきましたが、その後、『ReLIFE リライフ』、『散歩する侵略者』、『逆光の頃』、『プリンシパル〜恋する私はヒロインですか?〜』など次々と新たな出演作も発表され、そこでもさまざまな出会いがあったかと思います。
新たな出会いもありましたし、加えて最近、現場でふと気づいたのが「お久しぶりです」と挨拶できることが増えたということ。
以前、現場で一緒になった方々と再会することが増えた?
それが一番うれしいです。もともと、この仕事を始めた頃から、一度、一緒にお仕事させていただいた方々と、違う現場でご一緒するというのを自分の中で大きな目標として頑張ってきたし、その気持ちはいまもあります。「はじめまして」よりも「お久しぶりです」が増えてきたのがありがたいですね。
今年の公開作で言うと『逆光の頃』の小林啓一監督とは、2014年公開の『ぼんとリンちゃん』以来ですね。
そうなんです! 撮影は公開よりも2年近く前だったので、当時はまだ16歳くらいだったと思います。あの頃は、一緒に食事に行ってもお酒を飲めなかったんですけど、今回は一緒に「乾杯!」ってできて、うれしかったし、不思議な感じでした。そう考えると、20歳になるってすごい変化ですね(笑)。
『PとJK』、『トリガール!』など、いわゆる青春映画への出演が続きますね。これも、まさにいまの時期ならではの経験かと思います。
同世代の人たちが見に来る映画に出られるって、うれしいですね。いましかできないっていうのももちろんですし、青春映画というひとつのジャンル、世界を築いてきたものがあるわけで、そこに携われるのは幸せです。偏りたくないという思いがあるんですが、そういう意味でもタイプがバラバラの青春映画に参加できてうれしいです。

“いくえみ男子”を演じるプレッシャーに「ド緊張」

3月まで、映画『プリンシパル〜恋する私はヒロインですか?〜』の撮影で北海道に行かれていたとうかがいました。撮影はすべて終わったんですか?
いえ、冬の北海道のパートは終わったんですけど、まだ6月に夏のパートが残ってまして。じつはいま、それが一番の不安なんですよね(苦笑)。
ひとつの作品、役柄でここまであいだを空けて撮影するのは…。
初めての経験で、これは絶対に忘れそうだなと(笑)。
原作は『潔く柔く』やTBSで連続ドラマが放送中の『あなたのことはそれほど』などで知られる人気漫画家・いくえみ綾さんの同名漫画。北海道を舞台に、幼なじみの舘林 弦、高杉さん演じる桜井和央と、近所に引っ越してきた住友糸真の3人を中心にした青春恋愛映画ですね。
弦役の小瀧 望(ジャニーズWEST)くん、糸真役の黒島結菜さんとは同い年なんです。同い年の3人で同級生の役をやれるって、実際にはめったにないことで、すごく感慨深いですし、演じていくうちにどんどん、同級生っぽくなっていくのを感じてます。
“いくえみ男子”(※いくえみ綾の作品に出てくる登場する男性キャラクターのこと。女性読者をキュンキュンさせるセリフを口にすることが多い)を演じることについては…。
そこは緊張しかないです!(苦笑)
とはいえ、キャスト発表の段階でも、高杉さんの和央役について「ぴったり!」「まさに、いくえみ男子!」という声が多く聞かれました。
そう言っていただけるのはうれしいんですが…ド緊張です!
和央のフワッと柔らかい雰囲気だけれど、意外と芯の強さを持っているところなどは高杉さんと近いんじゃないかと思います。
どうなんでしょう…?(笑) そうだといいんですけど。ただ、この作品も含めて、去年くらいから、漫画の実写化の登場人物を演じる難しさを改めて感じてまして。
たしかに人気漫画が原作の作品が続きますね。これもいまの年齢だからこそ、向かい合うべき“試練”なのかもしれません。
自分が漫画が大好きだから、ファンが「違う!」って言いたくなる気持ちもすごくよくわかるんです。容姿に関してはとくに、できる限り近づけていきたいって思いますが、“似せる”といっても、顔の形を変えるわけにもいかないですし…。悩みながら、役を作っていってます。
高杉さん演じる和央の恋愛模様も、楽しみなポイントですね!
ここまでガッチリ、恋愛にどっぷりというのは、これまでの作品ではあまりなかったですね。ただ、和央の恋愛って、ちょっと入り組んでるというか、決して単純なものじゃないんですよね。だからこそ、やりやすい部分もあって…。
むしろ、シンプルな恋愛シチュエーションのほうが…。
難しいんだろうなと思います。それはこの先、また違う作品で向き合うことになるかもしれませんが…(笑)。

年下の共演者が増えたことで生じた、現場での変化

先ほど、同い年の共演者と同級生役を演じたという話がありました。たとえば『ReLIFE リライフ』で共演した中川大志さん、平 祐奈さんなど、同級生役だけど実際は年下という現場も少しずつ増えてきたかと思います。
最近、年下の10代の子たちがいるのが当たり前になってきたのが不思議な感覚で、それも変化のひとつですね。改めて、自分が「もう20歳なんだ」と感じるというか(笑)。そういうところで、徐々に大人になっていくのかなって思います。
現場でのふるまい方などは、変わってきましたか?
年下の子がいると、自分から積極的に話しかけようって思いますね。
もともと、長男ですよね? そういう意味で、決して年下の人間とのコミュニケーションが苦手なわけでもなく。
全然、苦手ではないです。ただ、年下といってもあんまり歳が近いと、なかなか難しいんですけど…(苦笑)。
年上の俳優さんたちとのコミュニケーションは?
こちらから積極的にお話をさせていただくってことは、まずないですね(苦笑)。というか、同い年でもないですね、それは。年下限定です。
わりと多くの若い俳優さんが自分のことを「人見知り」と言いますけど、それはけっこうガチですね(笑)。
いや、でもだいぶ治ってきたんですよ、本当に!(笑)
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