オフィシャル誌編集長のミラン便り(4)

 リーグ戦第22節。2月1日に行なわれたホームでのトリノ戦は苦い思いだけを残した。今シーズン初の三連勝達成でミラン復活を強くアピールしようとしたが、結果は引き分け。試みは失敗に終わり、同時に本田圭佑の名前にも傷が付き始めてしまった。

 ここまでミラニスタたちは、この新しい背番号10がミランに力を与え、チームを立て直す原動力になると期待していた。しかしこの日の本田は期待に応えられるような出来ではなかった。イタリアのマスコミはこぞって彼をこき下ろし、チーム内で最低の評価をつけ、「周囲の選手とは別の惑星から来たかのように理解し合えていない」とコメントをつけた。

 しかし本田にも言い分はあるだろう。ミランにやってきて1ヵ月。マルペンサ空港に到着したその瞬間から、即戦力になるべく彼はハードワークを強いられてきた。試合も3日に一度のペース。多分自分で納得ができるような練習も十分できなかったのではないだろうか。

 本田は決してこれで終わらないと思う。彼は何をなすべきかよくわかっているし、監督のクラレンス・セードルフも、ミランの選手であるにはどうしたらいいかを助言してくれるだろう。持ち上げておいて急に手のひらを返したように酷評するのは、イタリアのマスコミの常套手段だ。あまり気にしないほうがいい。

 さて、先週のコラム(1月28日配信「決勝点アシストの後、本田圭佑が抱きついたのは誰だ?」)で、本田は練習場ミラネッロで働く人々の心をつかみ始めていると書いたが、本田自身もミラネッロのスタッフの温かさに感激しているようだ。いや、本田だけではない。一度でもロッソネロのユニホームを着たことがある選手ならば、ミラネッロが大好きになるはずだ。

 実際、先日監督としてミラネッロに戻ってきたセードルフは「長い間留守にしていた我が家に帰ってきたようだ」と言った。カカも以前、ここを離れる時にはスタッフ全員と抱擁を交わし、戻ってきた時は子供のようにはしゃいでいた。

 ミラネッロは昨年の11月に50周年を迎えた。60年代、当時のリッツォーリ会長が威信をかけて建設した、世界中のどんなチームも羨むような練習場だ。広さは16平方キロメートル、自然の森に囲まれ選手は落ち着いた雰囲気の中で練習することができる。グラウンドは6面あり、4面は天然芝、1面は人工芝、もう一つは雨天でも練習できるよう、かまぼこ型のドームで覆われている。その他にガッビア(檻)と呼ばれる周囲を高い壁で囲まれたコートが有り、ノンストップのハードなミニゲームが行なわれる。

 練習場の中央にはロッカールームがあり、トレーニングジム、リハビリ用のプールが併設されている。ジムのマシンは個々の選手に合ったトレーニングができるようコンピュータで管理されている。メインのクラブハウスには二階に選手の個室と会議室、一階には記者室、会見ルーム、ビリヤードルーム、"暖炉の間"と呼ばれる応接室、バール、レストランがある。

 また地下には最新鋭のスポーツ科学を応用したメディカルセンター"ミランラボ"があり、各分野の専門家が揃って選手をサポートしている。フィジカル面だけではなく、メンタル面のケアもできるようになっており、世界中のチーム関係者がひっきりなしに見学に訪れている。こうした設備の揃ったミラネッロはサッカー選手にとってはパラダイスだ。

 前回、ベルルスコーニ(オーナー)専属シェフの話をしたが、ミラネッロのレストランで提供される食事も本田はお気に入りのようだ。ここでは毎日チームドクターによって計算された食事が出される。カロリーの高い普通のイタリア料理に比べヘルシーだが、味は素晴らしい。特に砂糖を使っていないジェラートはここミラネッロの名物で、一度食べたらたちまち魅了されてしまう。私もこのジェラートの大ファンだ。

ステーファノ・メレガリ(『Forza Milan!』編集長)●文 text by Stefano Melegari
利根川 晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko