ウエストハムを2−0で破ったアーセナルの試合をNHKBSで見た。解説は原博実さんが務めていた。何を隠そう、僕は彼の解説が決して嫌いではない。サッカー好きであることが、言葉の端々からひしひしと伝わってくるし、なにより、彼は各地のサッカーをよく見ている。現地にもよく出向いている。いわゆる解説者の中では、サッカーに対して誰よりもより好奇心旺盛。少なくとも僕にはそう見える。

だが彼には、日本サッカー協会技術委員長というもう一つの顔がある。というか、本職はこちらだ。解説はアルバイト。そんな印象を受ける。昨年の2月に技術委員長の座に就くまでは、テレビの解説は、基本的に監督をお休みしている間にこなしていたが、いまは両方。二足のワラジを履いている。

言い換えれば、かつては、しがらみのないフリーの立場で解説をこなしていた。気兼ねなく喋ることができていた。いまも、その喋りに大きな変化は見られないが、かつての方が、断然スッキリしていた。日本サッカー協会技術委員長という立場上、言ってはいけないことを数多く抱えながら解説に臨んでいることは想像に容易い。日本のサッカーへの評論は、極力慎んでいる様子だ。

海外と日本の間に垣根を設け、一方の話しかしていない感じだ。プレミアの話だけ、ヨーロッパの話だけ。画面の中で起きた出来事の話だけ。そこに僕は不満を覚える。申し訳ないが、嘘臭さを感じてしまう。

「サッカー」には本来、国内も国外もない。サッカーは一つだ。「サッカーゲームの進め方」は、流動的だ。絶えず国境を越えて影響し合っている。そこから学ぶことは多々ある。海外と国内に線を引くことはこの時代、ナンセンスきわまりない愚行だ。画面に映っているチームと対戦する可能性もある。野球の大リーグ中継とは、その点で大きな違いがある。

「来るW杯では、ベントナーには細心の注意が必要です」と、アナウンサーが言えば、具体的な対策を述べるのが解説者の仕事だ。代表監督になったつもりで、アーだコーだ言うのが、解説者の本分だ。しかし、原博実技術委員長は、それについては多くを語ろうとしない。立場上、出しゃばるわけにはいかないのだ。

惜しい気がしてならない。原サンは言ってみれば、テレビ局側が「それでも」出てくれと言いたくなる、日本で最も人気のある解説者だ。喋りもイケてるし、笑いも誘える。サッカーの魅力を伝えることができる数少ない人物だ。できれば解説者一本で、通して欲しい人である。

いま日本サッカー界に必要なのは、名解説者だ。その昔「三菱ダイヤモンドサッカー」が、人気の長寿番組だったのも、岡野俊一郎(元サッカー協会会長)さんという名解説者の存在抜きには語れない。氏は、日本と海外の違いについて、その文化的な背景を含め積極的に喋っていた。僕などはそれに感化されたクチで、あの番組に触れていなければ、いまこの職業についてはいなかったと思う。

で、原サンは、一方で、技術委員長としては、残念ながらあまり輝いているように見えない。言いたいことが言えているようにはとても思えない。岡田ジャパンのサッカーについて「コンセプトは間違っていない」と、曖昧な発言をしたり、例のベスト4発言についても「可能性はゼロではない」とか「短期決戦だからチャンスはある」とか、可能性を絞り出すような無理矢理感漂う発言をしたり、どうにも歯切れが悪い。いずれにおいても、原サンの本領が発揮されているとは思えないのだ。

二足のわらじは履かない方が良い。協会内でモジモジ(?)しているのなら、解説者一本に絞った方が、サッカー界のためになる。名解説者不在の世の中を鑑みると、僕にはそう思えて仕方がない。

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