[画像] インタビュー:たむらぱん「止まってしまっていることが一番良くない」

 世界最大のSNS「MySpace」を拠点に作詞・作曲・編曲からアートワークまでもを自ら手掛け、今年4月に発売したデビューアルバム「ブタベスト」が各方面で絶賛されたマルチアーティスト、たむらぱん。11月12日には、“脳内麻薬(エンドルフィン)体感アニメーション”「Genius Party Beyond」(ジーニアス・パーティ・ビヨンド)のエンディングテーマとしてセカンドシングル「ゼロ」を発売。ピアノとストリングスに乗せて彼女の歌声が美しく響く同曲はすでにライブでも披露され、ファンから音源化を望む声が多く寄せられていた待望の作品となる。

――10月に大阪のアメリカ村で「たむらぱん」は「田村歩美」展をされましたが、以前から個展を開いてみたかったのですか?

たむらぱん:そうですね。東京で何年か前に1回、似た雰囲気のはやったことがあったんですけど、こんなにたくさんの量は初めてでした。音楽のアルバムのジャケットという形での作品とかが分かりやすいのかもしれないけど、絵も独立した所で発表したかったので、今回はいい切っ掛けだったと思っているんです。音楽のというより、もっと絵だけの展示に偏ってやりたいと思っているぐらいなんですけど。

――なぜ、「たむらぱん」は「田村歩美」展、というタイトルにしたのですか?

たむらぱん:何かを制作する時は、曲の方でも作詞・作曲は「田村歩美」という本名の名義でやっているんですけど。そういう意味で、制作をする人が「田村歩美」で、もちろんそれは「たむらぱん」だけど、って分けている感じをちょっと出したいなと思って。でも、ブログを書く時とか、自分でも混乱したりしたんだけど(笑)。一応、そういう意図が気持ちの中ではあったんですよね。今回は、「たむらぱん」も「田村歩美」という人がやっています。どちらかというと、「田村歩美」という人が「たむらぱん」を操作している感じですね。

――人格的に、プライベートの自分とアーティストの自分とを使い分けているわけでもなく。

たむらぱん:意図的に使い分けているつもりはないですけど、都合のいい時に都合のいい様に「田村歩美だから」とか「たむらぱんだから」って使えるといいなとは思っていますね。挑戦とか、ちょっと気持ち的にもう一段階高く助走をつけて飛び上がらなきゃいけないとか、踏み出しにくいことをやるとか、振り切る感じのこととかは、割と理由をつけてやると勢いよく飛べる、みたいな感じかなとは思っているんですけど。

――未だに言われません? 「なんで“たむらぱん”なんですか?」って。

たむらぱん:言われますね。でも、例えば家族と外の友達といる時とでは呼ばれ方が違うみたいに、時と場合によって同じ人でも違う呼ばれ方をするのって、普通にあると思うんですよ。そういうのに近いかもですね。TPOじゃないですけど、いる場所によっての自分、みたいな感じじゃないですかね。

――「たむらぱん」というアーティストは、どんなイメージを持たれていると思いますか?

たむらぱん:多分、よく分からないと思われていることの方が多いとは思いますね(笑)。別に言い訳がましいわけじゃないんですけど、それは私がたまたま今、みんなの前で何かを聴いてもらったり、みんなが自分について何か思ってくれたりする立場に置かせてもらっているから、「“たむらぱん”という人はどういう人だろう?」みたいな質問をしてもらえたり、考えるきっかけになっているんだと思うんです。それは日常でも普通に「バイトで知り合ったこの人はどうだろう?」というのの、ちょっと大きくなった版なのかな?という。でもその分、知ってもらうためには時間や労力が掛かったりすると思うんですけど、デビューアルバムを出した頃に比べたら、ちょっとずつ普通な…「普通」って言うと変ですけど、別に特別なことをやろうとしているのではないって伝わっているんじゃないかな?とか期待はしているんですけど(笑)。

――実際に、どんな人だと言われることが多いですか?

たむらぱん:初めての人には基本的に「人当たりがいい」とは言われますね(笑)。最初はとてもフレンドリーに接しようとする。Shing02さんのライブに参加した日、対バンで色んなバンドが出ていて、何個か知り合いの人もいたんですよ。それで最後まで観ていて、その後みんなでお話しした時に、Shing02さんが「すごく色んな人とコミュニケーションをとっているんですね」と言ってくれたので、「“薄く広い”んです」と言ったら、「それは“広く浅く”の間違いじゃないですか?」って(笑)。しかも、お好み焼きを焼いていたので、イメージで「薄く広い」と言っていたんですけど(笑)。そういう感じはあるかもしれないですね。

――“狭く深く”というよりは。

たむらぱん:というよりは、割と広い。でも、やっぱり仲がいい所はすごく大事に…もちろん全部大事なんですけど。その代わり、無理はしないように。色々な人達とたくさん関わって吸収して、刺激をもらったり、その逆もあったり。

――今回の「ゼロ」は、すでにライブでも披露されているそうですが、制作自体はいつ頃からしていたんですか?

たむらぱん:出来たのは、ちょうど「ブタベスト」でデビューが決まりそうだ、でも決まらないかもしれないとか、そういう時でしたね。

――その当時の心境も歌詞に込められていたりしますか?

たむらぱん:そうですね。自分にとってすごく大きな選択をしなきゃいけないと察知している感じもありましたし、自分が今までやってきた色々なことを無駄にはしたくないからこそ、選ぶのが恐いと思っていた時でしたね。歌詞の内容には、そういう時の気持ちがかなり反映されているなと思います。

――アルバムに収録しなかったのは、なぜですか?

たむらぱん:アルバムの中の1個というより、その曲として独立させて聴いてもらう機会までは、というのもありましたし。デビューすることが決まって、最初の切っ掛けとしてどういう曲を聴いてもらうか?という時に、「ゼロ」みたいな曲は自分の根本の曲の雰囲気だなとは思っていたんですけど、どんなジャンルや曲調とか、自分がどういう形で音楽をやりたいか?とか、これから色んな曲調をやるために今みんなに聴いてもらうものはこういう感じの方がいいんじゃないか?とか、色んなことも考えた上で「ゼロ」はアルバムに入れなかったんです。あと、もう一つの理由として、丸々の素な自分すぎる所もあったので、ようやく今そこを出しても大丈夫かな?という時期になれたのもあるんですよね。もちろん、今までの曲が全部嘘なわけでは絶対にないんですけど。色んな表現の仕方があって、自分の核となる所があって。いつもの表現をくっ付けない、そのままの核の部分がこの曲かなと思っていて。今までの感じの曲を出してきたから今、出せる感じですね。

――受け取る側にしても、あまりその人の自己主張が強すぎる曲は共感しにくいというか、たまに見せる一面にドキッとしたり。

たむらぱん:自分が誰かに会いに行く時に、ニコニコして笑いながら握手するか、すごく深刻な顔で「初めまして」って言うか、どっちか?という感じなんですけど。どちらかと言うと、軽い感じで入って来られた方が、手を握りやすいかな?という所ですよね(笑)。

――前にも言いましたが、「アミリオン」みたいなシリアスな二の線の曲もありつつ、三の線と言うか、ちょっとふざけた雰囲気の曲もあるじゃないですか。それは自分自身にもそういう二面性があるんですか?

たむらぱん:極端な所は結構あって。すごくシリアスなはずなのに、「そういうノリ?」みたいなことをしちゃうこともあるんですけど、自分はそれが真剣だったりするんですよ。「あ、ちょっと空気読めてなかったな」って、後で気付くんですよね。一瞬の間で色んな感情を使うから、その二の線、三の線ってくくられているんじゃなくて、こういう作業というか動作というか、感情表現というものでくくられている感じがするんですよね。

――2曲目の「テレパシー」もそうですが、ピアノとストリングスのアレンジは自分でやったんですか?

たむらぱん:これまでは本当に独学オンリーだったのが、「テレパシー」とかは、斎藤ネコさんというおじいちゃんにストリングスを頼んだんです。聞いたら色々と教えて頂いたり、すごく心が広いというか、超越している感じで(笑)。私が知らないこととか、無鉄砲にやったこととかも、すごく楽しんで「これやるのか?やってみるか!」と言ってくれたり。でも、全部「チャレンジ精神は大事だ!」みたいな感じでやっちゃいそうだったので、本当にヤバイものだけは「ナシ」と言って下さい、「絶対に危ない」「これは本当に後で後悔する」みたいなことは直してもらったり(笑)。でも、そういう作業をさせてもらって、今回はシングルと言えど、かなり自分が成長した過程も含んでいるというか、色んな新しい経験がすごく詰まっていて。「ゼロ」という曲の内容じゃないですけど、色んな新しいことに挑戦する、みたいなのもちょっと関わっているような感じがして面白いなと思ったんです。

――初回限定盤のDVDには3バージョンのPVが収録されますが、映像と合わさるともっとイメージが膨らみますよね。STUDIO 4℃の森本監督とはどんな話をしたんですか?

たむらぱん:original ver.は、自分がそのストーリーに沿った形で結構、歌詞というか内容が伝わりやすいものに作ってもらったんですけど、morimoto×tamura Remix ver.はSTUDIO 4℃の森本さんが“ちゃんとした”って言ってたけど(笑)、もしoriginal ver.が無かったら、曲の内容が分かるものにしなきゃと思ったけど、“ちゃんとした”のがあるからいっか?と思って好きにやった、とは言っていましたね。

――morimoto×tamura Remix ver.では、ブタとかのイラストを描かれたようで。何か監督からのリクエストはあったんですか?

たむらぱん:はいはい!森本さんが全体の構成を作っていて、その中で田村さんに何か描いて欲しいものみたいな感じで、止めの静止画と、パラパラアニメみたいな動画を1個ずつと、仏像を1体。止めの静止画で、何でもいいから100キャラ以上みたいな感じで、キャラの指定は無かったんですけど。植物を描いても、動物を描いても、人を描いても、何を描いてもいいんだけど、その中に仏像だけは描いてくれと言われて。それは何か1個のシーンで登場する用だったんですよ。パラパラアニメのストーリーは、「頑張ったら何かいいことがあった」みたいなストーリーにはして欲しいというのはあったんですけど、自分で考えていいと言われたので、ブタが何かを運んでいるストーリーを。動画をパラパラ作っていくのは初めてだったから、「自分が教えるし、そんなに上手くやらなくていいよ」とか言ってくれてたけど、すげぇ厳しかった(笑)。段々熱くなっていって、すげぇ細かい!でも、それはそれで、すごく面白かったですけどね。最後とか、どんどん仮で観ながら、私と森本さんとで「こうした方がいいね」とか言っていて、STUDIO 4℃のスタッフの人が「もうそれ以上、新しいことを思いつかないでくれ!」みたいな感じでしたけどね(笑)。

――以前、たむらぱんの曲はジブリ映画とマッチしそうな世界観だと話しましたが、やっぱりアニメとの相性は良かったなと。

たむらぱん:でも、私は今までそういうアニメという“観るもの”と、自分の曲とが繋がるのは、あまりイメージできなかったので、すごく嬉しかったですね。ああいうバイクみたいなものが走っている後ろで、ただ流れているだけでも、お話になっている感じが良くて。これは森本さんも言ってくれていたことなんですけど、「田村さんの曲は結構、怖い童話チックなんだ。普通に聴いた感じとか観た感じとか、曲調とかも楽しいんだけど、裏を返すとすごく真っ暗闇みたいなものが含まれていたり」って。でも、私は自分が曲とかを作る中で、結構そういうグリム童話とか、アンデルセン童話とかみたいな表現方法がしたいなと思っていたので、「流石だな」と思って(笑)。森本さんに「流石だな」って言うのも失礼なんですけど。

――森本さんの言う「怖い」と合っているかは分からないですけど、歌詞を見ていて、たまにドキッとするような核心を突いている一言を目にすることがあるので、痛いなと思う時は「ゼロ」の中にもありましたね。

たむらぱん:そうですか?(笑)。私さっき「爪楊枝を取ってくれ」と言われて。ハサミを人に渡す時、刃の方を自分が持って、持つ方を相手に渡すじゃないですか。それで、爪楊枝を取った時に、相手が持ちやすい持つ方を渡すと、自分が口に入れる方を触るから、どっちがいいんだろう?と思って。そういう所が多分、曲とか作る、色んなきっかけになっているのかな?と思って。

――そうなんですか?(笑)。

たむらぱん:相手を思いやるか、現実的な衛生面を考えなきゃいけないのか、という葛藤。それで中途半端に真ん中の辺を持って、この中途半端が良くないのかもな?とか一瞬、色々と考えたんですよね(笑)。

――次のシングルや、その先のアルバムに向けて、新曲作りはしていますか?

たむらぱん:一応アルバムに向けて、もう楽器はほとんど録音しちゃって、あと歌入れするぐらいなんですけど。

――どんな内容になりそうですか?

たむらぱん:延長というか、もう自分のできる範囲のジャンルはやったなと言うと変ですけど、いつも自分が思いつく雰囲気のものは制限なく全部やっている感じなので、そういうものがまた入るのは変わってないと思います。あと、すごく真面目なものを真面目なまま表現したり、真面目なものを滑稽にしたりということももちろんやってますし。聴いている人にリアルに分かってくれとかではないんですけど、ストリングス・アレンジだったり技術の面とか、世の中的に知っておいた方がプラスになるような理屈っぽい知識とか、そういう進歩が自分なりに感じられる所もたくさんありますし。あと、ツーバス系。メタルをいつかやるために。

――前に言ってた、北欧メタルを。

たむらぱん:そうそう(笑)。そのツーバス系の曲とかも強引に、何曲か間奏とかにやってもらいました(笑)。そういう含んでいる所とかを見付けて欲しいなと思いますね。

――その前に、年内はライブですね。

たむらぱん:ワンマンが年末にあるので。「おさらいヴ」というタイトルの元に、今年度のたむらぱんを振り返るじゃないですけど、4月にデビューしてから出してきた曲を一通りやれたらなと計画しているんですよね。年が明けてアルバムを出せたら、今度は色んな場所に行ってライブをしたいなと思いますし。今までインディーズの頃も、ライブをして、リリースが無くてもずっと曲を制作してきたので、そんなに変わることもなくやってきているんですけど。やっぱりプラスアルファのことは、大変なことも、すごく嬉しいことも増えてきたので。来年とか一番苦手な「要領良くやる」ということをやんなきゃなと思いますね(笑)。

――時間が足りなくなってきた感じですか?

たむらぱん:そうなんですよねぇー。やっぱり1個のことに集中し過ぎるのは駄目だなと思いますし。

――嬉しい悲鳴なのかもしれませんね。

たむらぱん:それはでも、すごく思います!本当にShing02さんとか、森本さんとか、ネコさんとかとコミュニケーションを取って、ものを作る機会に恵まれたのも、自分には今までよりたくさんの人が聴いてくれたことと同じくらいに嬉しいことで。たくさんの人に聴いてもらうのもすごく大きな目的だし、色んな職業のプロの人と関わりたいというのも自分の中の目標なんですよね。それがちょっとずつできそうな予感が、前は予感さえも無かったので(笑)。できそうな予感がしてきたというのは、ちょっとした自分の中の変化かなと思っているんですけど。

――「ゼロ」を書いた当時に比べると。

たむらぱん:そうですね。「ゼロ」みたいな自分の状況があって、自分に書いていたのもあるんですけど。私がその曲ですごく大事にしていることは結局、「止まってしまわないためにどうするか?」ということなんですよね。そこで私はどれかを選んで扉を開いたからここにいられるわけで、「止まってしまっていることが一番良くない」というのは、自分が言えることだなと思いますね。

――この曲でドキッとさせられのは、まさにそこでした。

たむらぱん:(笑)。

たむらぱん2008年おさらいヴ
日程:12月15日(月)
会場:渋谷O-WEST
開場/開演:19:00/19:30
発売:11月15日(土)
問い合わせ:キョードー東京 03-3498-9999


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