3月のペルー戦、中村は自身のコンディションやチームメイトとの連携不足を考慮して、できるだけボールを持ちすぎず、簡単なプレーを心がけた。しかし、オシムは試合後、中村のプレーに対して、「ボールを持ちすぎる」と感想を口にしている。中村が監督の発言を気にするのも理解できる。

 以前、トルシエ代表監督も報道陣が中村の名を口にするたび、辛らつな言葉で中村を攻撃した。今では笑い話で当時のことを語る中村だが、トルシエの言葉に悩まされたのも事実だ。オシム監督の言動から、そんな過去の記憶が、思い出される。世界中どのクラブ、どの代表でもメディアはスターと作りたがる。過去の実績などから自然のそういう存在の選手が生まれる。そんな選手が思い違いをし、チームにとって害を及ぼすこともある。オシム監督がスター選手を嫌う理由はそこにあるのだろう。

 が、中村は、メディアに祭り上げられて、サッカーが変わるような選手ではない。それは過去の彼の歴史が証明している。「マリノスのジュニアユース時代、レギュラーになって、僕は勘違いしてしまった。いい気になり、周囲のサッカーの変化にも気がつかず、自分のプレーばかりしていた」その結果、レギュラーを外され、ユース昇格もできなかった。スコットランドで数多くの栄光を手にした現在でも、中村は当時の苦い経験を忘れていはいない。「これでいいと思ったら、そこで終る。それはジュニアユース時代に経験したから」

 オシム監督の真意はわからない。中村が代表チームには必要ないと考えているのかもしれないし、信頼しているからこそ、彼を試す意味で、を揶揄するような発言を繰り返しているのかもしれない。

 「1ボランチができる選手を探している」というオシム監督の言葉を記者から伝え聞いた稲本潤一は「まあ、(監督は)言っていることとやっていることが違う時があるので、あまりそのへんは信じないです(笑)。騙されたくはない(笑)」と一蹴している。当然中村とて、稲本同様の感覚も持っているだろうが、新しいチームに合流し、新しいチームメイト、サッカーの中に自分の居場所を作ろうと健闘している中村の現状を考えると、サッカーに集中させたいと思わずにはいられない。

 しかし、オシムジャパンでの“試練”が、また中村を伸ばすきっかけになることは間違いないのだが。

●text by Noriko TERANO

<サムライ通信>
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