日本のエース高原直泰<br>【photo by Kiminori SAWADA】

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 オシム監督は合宿初日の練習中、高原直泰を呼び、話をしている。「FWが引いたとき、相手のDFの裏にスペースができる。そこに中盤の選手が飛び出すよう、指示を出すように言われた」指揮官からの言葉は、高原への信頼度の高さを示してもいた。

 高校時代から両足を使えるだけでなく、ヘディングも強くキープ力も高い高原は、器用なFWとして評価を受けてきた。ジュビロ磐田で始まったプロ生活では、先輩の中山雅史の背中を見ながら、その守備や運動量、動きの質に磨きをかけた。アルゼンチンへの移籍を経て、Jリーグ得点王にも輝いたが、血管に血栓ができる持病もあり、02年のワールドカップやアテネ五輪を断念せざるを無い不幸も乗り越えてきた。そしてドイツ・ハンブルガーでは試合出場機会もなく苦しい日々が続いた。

 ドイツワールドカップメンバーに選ばれ、起死回生を願った。大会前のドイツ代表戦ではゴールを決めて好調をアピールしたものの、本大会では負傷もあり、結果が残せず、失意のまま終わったドイツワールドカップ。

 大会終了後、ハンブルガーからフランクフルトへと所属チームを変えた。若い選手も多いフランクフルトはシーズンを通して中位から下位で戦っていたが、高原はハンブルガー以上に重要な立場となっていた。
 先発出場し、ゴールを重ねるだけでなく、前線でクサビのパスを受けてはさばき、ゲームのリズムの中心となる。FWのポジションでありながら、まるでゲームメーカーのようにチームを支えてきた。フランクフルトを愛し、そのチームをなんとか残留させたいと戦った。自身のゴールで残留を決めて、06−07年シーズンが終了。安堵とともに新しい自信が高原の中に宿った。

 5月29日、静岡産業大学との練習試合。1本目のゲームでは自ら得点を決めて、メンバーが半分変わった2本目では山岸のゴールの起点となるパスを出している。
 リーグ真っ最中というコンディションの問題か、コンビネーションの問題なのか、試合開始からミスが目立ち、大学生相手というのに、日本代表はリズムの悪いゲームを続けていた。

「僕も含めてミスの多い試合だった。あんなに簡単なミスをしていれば、飛び出す動きもできない。内容の悪い試合だったけど、僕自身はコンディションを上げるという意味では大事な時間だった。選手の中には初めて一緒にプレーする選手もいる。短い時間でも共にプレーすることで徐々に分かり合える。お互いのプレーを知ることも大事なことだから。自分のコンディションが上がっていけば、いろんな選手と絡んでいける自信もある」

 オシム監督のサッカーについては「ボールを奪ってから時間をかけずに攻めるには、タイミングやスピードが大事。ボールを受けた選手が余裕を持ってプレーすることが重要になってくる」と話す。そして、「自分が引いたあとに誰かが飛び出していくとか、そういう連動的な動きが、オートマチックにできるようになれば、いろいろと面白いことになっていくと思う。僕も引いているだけじゃなくて、そういう中で相手のイヤなところに顔を出していきたい」とも話した。

 どちらかといえば、人見知りで自分から輪に飛び込んでいくというタイプではなかった高原だが、今合宿では、練習中から、若い選手たちの中で積極的に声を出し、指示をしている姿も目についた。プレーだけでなく、その姿勢でチームをひっぱっていくという覚悟が伝わってくる。それは彼が見た中山の姿であっただろうし、彼が今季フランクフルトで見せた姿でもあった。

「代表で地元静岡で試合をするのは初めてなんで、楽しみですね。コンディションを上げて、自分のプレーを出せるようにいい準備をしたい」苦手な記者対応にも積極的に対応する姿からも、チームリーダーとしての自覚の強さがわかる。
 経験値、テクニック、運動量、精神的な充実度、すべてにおいて、高いレベルを維持している。27歳最後の試合、6月1日のセルビア・モンテネグロ戦が楽しみだ。

●text by Noriko TERANO

<サムライ通信>
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