この記事をまとめると

■バスやトラックの運転手不足の解決策のひとつとして中・大型免許にもAT限定免許が導入される

■新車の大型車にはATが増えているが、実際に街なかを走っている大型車はMT車が多い

■AT限定免許の導入だけでなく新車購入費用の一部を負担するなどの有効な手段も必要だ

中型・大型の免許にもAT限定免許が登場する

 4月18日、警察庁がいままで普通免許に設定されていたAT(オートマチックトランスミッション)限定免許について、中・大型トラック&バスにも設定することを公表した。

 報道によると、トラックやバスなどの商用車でも自動変速化が進んで2ペダル仕様が増えており、バスやトラック運転士の不足に対しても効果があると判断され、今回の公表に至ったと報じるメディアもあった。

 4月19日から、中・大型トラック&バスへのAT限定免許の拡大設定についての道路交通法施行規則改正案についてのパブリックコメントが募集されており、2024年度内には法改正を実施。2026年4月に中型、準中型、中型2種に、2027年4月に大型一種と大型二種に、それぞれAT限定免許が新設されるとも報じていた。

 確かに、新車として販売されている現行モデルについてはATが用意され、選択比率はかなり高まっている。筆者が利用する範囲内のバス事業者が導入した、新車の路線バスはいずれもATばかりである。すでに新車レベルではATが多数派を占めているようだ。しかし、それはあくまでも新車レベルでの話であって、実際に街なかを走っているトラックやバスは、MT(マニュアルトランスミッション)車が多数派といってもいい様子が続いている。

 これは、大型車の場合、一度新車に入れ換えると次の入れ換えまで使用する年数が長いからだ。また、路線バスを例とすれば、地方の事業者は、車両入れ換えについても費用負担の面から新車に入れ換えることがなかなかできない。

地方ではまだまだMTの大型車が多い

 一方で都市部の大手事業者は、余裕があるとまではいわないが、それでも新車での車両入れ換えが可能だ。都市部の大手事業者が新車のバスを導入して限界まで使い切る(乗り潰す)ことなく、やや余裕をもたせて車両入れ換えを行い、都市部の大手事業者が放出した車両を中古車として地方の事業者が購入して車両の入れ換えを行うというケースが多い(地方の事業者でも新車での車両入れ換えを行うケースもある)。

 そのため、仮に東京都内の事業者の全車2ペダル化が完了したとしても、地方の事業者が保有台数のかなりの割合をAT化するにはタイムラグが生まれるのである。

 何をいいたいかというと、AT限定免許を設けて運転士不足解消に役立てようとしても、事業者によっては保有車両内でAT車が少なく、限定免許の運転士を有効活用できないということも十分想定できるのである。

 それでも、何もしないよりはいいのでは? との声もあるだろうが、それならばAT車のバスへの車両入れ換えを促進する政策もセットで進めるべきだと思う。いまでも車両購入に関する補助金制度は存在するが、限定免許所持者対策としてさらに手厚い補助金制度の創設があってはじめて限定免許創設が生きてくるように思える。

 より運転士不足の目立つ地方部は、MTかATかという前に、中扉ではなく「後ろ扉」を採用する古いバスがまだまだ現役で走っている地域も珍しくない。そのようなバスはシフトレバーが床から生えているロングストロークタイプとなり、同じMTでも直近のMTとはまた次元の違うMT車というものも存在している。

 2026年から2027年にかけて、中・大型トラック&バスにもAT限定免許が創設されるとのことなので、このタイムラグの間にAT車への入れ換えがいま以上に進むという読みもあるのかもしれないが、まだまだMT車が幅を利かしていることは容易に察しがつく。

 二種免許の実技検定試験の免除、つまり普通免許のように教習所でいわゆる「卒検(卒業検定試験)」が受けられるようになって久しいが、トラック、バスそしてタクシー運転士不足は深刻になる一方であり、特効薬にはなっていない。

 確かに今回のAT限定免許の創設もやらないよりは何かやったほうが道が開けることもあるので、それ自体は否定しない。ただ、せっかく新しいことを行うのであれば、より有効な手段となるように、省庁横断的にバックアップすればいいのだが、それがなかなかできないのが日本であり、さまざまな試みの実効性を下げてしまっているのはなんとも残念なことである。