「アポなし」で撮影許可の交渉もタレント任せ…

路線バスやローカル線を乗り継いだり途中下車しながら、目的地に▲時まで到着しなければならない。最寄りの名産をゲット(食べたり買ったり)しなければならない。使える予算は●円まで。チェックポイントで写真を撮らないといけない……。

気づけばこのような“ミッション”を課すスタイルが、国内旅番組・街歩き番組のひとつの主流として定着した感がある。そのミッションのもと、出演者であるタレントや俳優、お笑い芸人などが「アポなし」で撮影許可の交渉をすることも多いが、これもすっかりおなじみの光景だ。

従来の観光名所の絶景や建築、グルメ、温泉などを紹介する旅番組の内容に、目の前で目的の列車が発車してしまい次の列車まで相当待たなければならない(設定時刻に間に合わない可能性が出てくる)とか、お店が無事見つかるのかとか、サイコロやカードなどによるお助けアイテムの投入といった追加ミッションとか、ハラハラドキドキ感を生むゲーム性が加わったようなかたちといっていいだろうか。

その源流は定かではないが、太川陽介・蛭子能収の『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』シリーズ(テレ東系:’07年スタート)や、徳光和夫・田中律子の『路線バスで寄り道の旅』シリーズ(テレ朝系:’15年スタート)の人気によって少しずつミッションクリアの要素を加えて派生していった流れはひとつあるように思われる。

“予定不調和”が求められる時代

これらミッションクリア型の旅番組の人気について、

「一番は、“予定不調和”というところにあると思います」

民放の人気バラエティなどを手がける、ある放送作家はこう解説する。

「かつては取材先、訪問先があらかじめ決まっていて、出演のタレントさんや俳優さんは、そこに行って、見たり食べたりして『景色が綺麗』とか『美味しい』とか、だいたい予想した通りのこと、ある種の予定調和を楽しむものでした」(前出放送作家:以下同) 

なぜ予定不調和の流れが好まれるようになったのか?

「なんでも正直に見せる、これがここ10年ほどの時代としての流れですね。 

予定調和は嘘ではないですけれども、段取り通りにやるがゆえにリアルさが薄くなり、コメントも決まったものになりがちで面白みがない。 

いっぽうで、撮ったものをそのまま流すことでリアリティが生まれるYouTube番組などが人気を得るようになってきたこともあり、テレビでも『なんでもそのままを見たい』という時代、予定調和の範囲内の一般的な情報はネットでいくらでも分かりますし、視聴者が触れたいものがどんどんリアル寄りになってきた流れはあります」

ミッションクリア型の旅ロケ番組では番組側が投げたミッションをどうクリアしていくかは多くの部分は出演者に委ねる。その匙加減が予定不調和を生み出すことになる。

予定不調和ゆえに、ミッションは時に失敗することだってある。ゴール設定時刻に間に合わなかったり条件に合うお店を見つけられず、「ごほうび」がもらえなかったりすることもある。

「以前は何かのミッションがあっても、『大成功!』となって終わらないといけないようなところはありましたが、今はどっちに転んでも面白ければいいと見られる時代です。 

ガチ感は大事ですが、無理な押し付けや上下関係などでやらされている感が強いものはパワハラと思われることもある。 

ルールをガチガチに固めて制限するよりも、お金がこれだけしか使えませんぐらいのシンプルでゆるい縛りの中で気ままに行ってもらう。ルールを増やすことである程度ルートが決まってしまうこともあります。余白があるほうが、今の時代に合った作りです」

事前シミュレーションやアポ無し交渉はどうやっている?

気になるのは、たとえば電車やバスを1本乗り遅れたり、手頃な飲食店が見つからないなどある程度のアクシデントや不具合も想定したシミュレーションを事前にしているのかどうかだ。

「おおまかな時間の把握ぐらいはすると思いますが、ロケハンなどの際に、ここに何時何分、このお店に入って食事を注文して、滞在は何分以内、みたいな緻密なことまでは設定しないことが多いのではないでしょうか。 

やっぱり、むしろそこからはみ出すことをしてもらったほうがいい。 

お店が閉店時間になってたり、絶景が見られなくても、そういう『予定調和』は別撮り映像で出演者が直接触れていなくても満足してもらえますし、なんなら視聴者がそれぞれネットで確認することもできたりしますので、そこはそれほど重視するポイントではなくなってきました。 

準備をしなくてもいいわけではありませんが、準備をし過ぎてつまらなくなってしまうこともあるので、状況によって次の展開を変えていく幅をもたせたものにするというのが今の作り方だと思います」

交通機関や商店街など、訪問エリア内で訪れる可能性があるなかで撮影許可が必要なところは言うまでもなく事前申請する。

キャスティングについては、予定不調和、どうなるか予測できないハラハラ感がより映えることから考えられることも多いという。

「本音で物を言うような人、行動や発想が自由な人をキャスティングすることが多いです。進行役がしっかりしたタイプで、ゲストにそういう自由なタイプを置いてやりとりのギャップを効果的に見せるパターンもあります」

「自由なタイプ」は、突然路地に入ったりするなど、制作サイドの想定を超えた動きをすることもあるが、

「それはもう全然OK、というよりも、むしろそのほうがいい、好きにやってほしいという部分もあります。 

ただそれを、こちら側から『自由にやってください』と言うと逆に面白くならないことも多々あるので、想定から外れることもあるということそのものを想定し、起こったことに現場で対応していくというわけです」 

もうひとつ気になること。アポ無しでの飛び込み交渉は、トラブルなどにつながらないのだろうか。

「事前のリサーチ段階で、『もしかしたらロケで行くかもしれません』と連絡をしていることもあります。 

『いついつ行きます』ではなく『撮影で伺うことがあっても大丈夫ですか?』というニュアンスですね。保険の意味もかねて“うっすらアポを取っている状態”にしておくことはあります。 

こういった直接交渉のスタイルが、お店側にも定着してきたことや、YouTubeなどで撮影され流されることも増え、撮影という行為へのアレルギーみたいなものは薄くなっていると思います」

予定不調和を楽しむ。この流れはまだまだ続きそうである。

取材・文:太田サトル
ライター・編集・インタビュアー。学生時代よりライター活動を開始、現在はウェブや雑誌などで主にエンタメ系記事やインタビューなどを執筆。