ブーイングの嵐

 大谷翔平が結婚発表をしたが、何かとメディア・ネットで大きな話題となるのが一流男性アスリートの結婚相手である。大谷は会見では相手が日本人であることを明かしただけだったが、和田アキ子を含めた事情通がその当人が特定できるような発言をし、「そっとしておいてやれ」などと批判された。

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 大谷の結婚については「女子アナは絶対にやめてほしい」「アスリートと結婚して超優秀なアスリート2世を育ててほしい」といったネットの書き込みが多かった。……いや、余計なお世話だよ。配偶者は大谷が自身の判断で決めるんだよ。なんで自身の願望をそこまで大谷に押し付けようとするんだ。

大谷翔平(ドジャースの公式Xより)

 というのはさておき、本稿では「好かれる男性アスリートの妻」「嫌われる男性アスリートの妻」について書いてみる。長年ネット炎上を見ている筆者(中川淳一郎)としては、実に顕著に表れる興味深いテーマなので、大谷結婚を機に考えてみたい。

 まずは嫌われる男性アスリートの妻について見てみるが、代表格は紗栄子である。2007年8月、ダルビッシュ有との婚約と妊娠6ヶ月であることを発表。11月に結婚をしたが、この夫妻は2ちゃんねる(現5ちゃんねる)でブーイングの嵐だった。

許せない人々があまりにも多かった

 この段階でプロ3年目だったダルビッシュはすでに日本屈指の投手となっていた。そんな中、世間一般では「誰それ?」的な扱いをされていた紗栄子という女優と結婚したのである。紗栄子はブログ界では人気者ではあったが、映画やTVの世界ではそこまでの存在感を誇る女優ではなかった。

 そんなことから超一流アスリートであるダルビッシュをかどわかし、妊娠をして結婚への道を作ったとネット民は勝手に評価したのである。結婚をするということは愛し合っていたわけだろうが、ネットの意見としては紗栄子を悪女とする意見一色だった。

 2人へのバッシングはあまりに激しく、ハワイへ旅行に行った時、紗栄子がブログに息子の写真を公開しなかったことから「息子を置いてハワイで遊びまくったバカ夫婦」的な扱いをされた。いや、実際息子は連れて行っていたのである。ただ、息子のプライバシーを考えてブログに写真を公開していなかっただけなのだ。とにかくダルビッシュと結婚したことが許せない人々があまりに多かったというだけの話である。

「承認欲求」

 そして、最近のネット上では元フジテレビアナウンサーの久慈暁子の評判が悪い。NBA・メンフィス グリズリーズの渡邊雄太は2022年に久慈と結婚したが、久慈はインスタグラムで自身の写真を多数公開しており、「自己顕示欲が強い」と何かと批判されがちだ。いや、人気商売なんだから普通の行為だろうよ、と思うものの、大金持ちである渡邊の妻ということもあり、批判が絶えない。

 渡邊はフェニックス・サンズからグリズリーズにトレードされたが、そのことを報じる記事に対するYahoo!ニュースのコメント欄がなかなか酷い。渡邊が凋落したからトレードされた、といった前提に立ち久慈を叩いているのである。

 2月29日にスポーツ報知がYahoo!に配信した「元フジテレビアナウンサー久慈暁子、米メンフィスへの引っ越しを報告 優雅に街を楽しむ姿」という記事のコメントを見てみよう。

「そんなに刺激的な毎日の割にはこの人のインスタ投稿ってワンパターンで面白みにかけるよね。伝える力が低いからなんだろうけど」
「メンフィスは、ニューヨークに比べて街巡りする場所も少ないし、治安も良くない。」
「大谷翔平さんの奥さんでなくてよかった」
「素敵な町並み(ただし、見てほしいのは私)」
「私、綺麗だし、海外生活、セレブの仲間入りしちゃったかな?」
「報知に取り上げられてる時点でマイナススタート、お気の毒に」
「大谷さんが一番嫌いそうなタイプだね〜」
「承認欲求」
「こっちは、NBA嫁からの引っ越し自慢???」

「大人」な扱い

 このように辛辣な言葉が並ぶのだ。そして、渡邊がフェニックス(アリゾナ州)からメンフィス(テネシー州)に移籍したことを都落ちかのように扱いたい人間もいるようである。確かにフェニックス・サンズでは平均得点3.4点となかなか厳しい成績で来季NBAでプレイできるかどうかは微妙な面もあるが、ユーティリティプレイヤーとしては渡邊と契約するチームもあるだろう。だが、久慈叩きをしたい人々は渡邊の凋落をも願っているのである。

 しかしながら、「好かれるアスリート妻」も存在する。ここで挙げるのは里田まいと山本聖子だ。田中将大の妻である里田は栄養学を学び、「アスリートフードマイスター」の資格を獲得。田中がニューヨークヤンキースに移籍した時に一緒に海を渡り、田中の食事を支えた。芸能活動は控えめにし、田中の大活躍に貢献したと賞賛された。

 そして、ダルビッシュの妻・山本聖子である。女子レスリングで世界選手権を4回制覇した超実力者で、ダルビッシュより6歳年上。1児がいたうえでダルビッシュと再婚し、以後4人の子供を産んだ。ダルビッシュは元々やんちゃイメージがあったが、山本との結婚後、侍JAPANの精神的支柱のような「大人」な扱いをされ、多くの若手選手が彼を慕っている様が多数報道された。

夫に献身的であるか

 そんなダルビッシュを支えるのが山本と人々は感じている。ダルビッシュが本気で「姉さん女房」にホレていると感じられるのに加え、大きいのが彼女自身も超一流アスリートだったということだろう。

 女子アナは男を使ってステップアップしたい打算的な人物扱いされがちだが、一流アスリート同士であれば、打算ではなく真実の愛情的なイメージを持たれる。そういった意味で山本はダルビッシュにとってはパーフェクトな妻だし、今後子供達が一流アスリートに育った場合はさらに賞賛されることだろう。

 一方、約100日で離婚した羽生結弦の妻だったバイオリニスト女性は気の毒だ。目立とうとしなかったにもかかわらず、羽生のファンが正体暴きに励んだり、プロフィールが分かった後も叩きまくった。

 一流アスリートの妻や恋人はかくも人々のこころをザワつかせるのだ。今後そうしたアスリートと交際・結婚する女性は、インスタでステキライフを明かさず、そして夫に献身的であるか、ということをアピールすることが処世術になるかもしれない。なんのこっちゃない、ただの男尊女卑である。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部