産後の女性の身体には、身体的・精神的変化があらわれるといわれています。

ママが「産後うつ」から救われたと思う言葉4選

特にメンタルの不調は多いといわれており、個人差はありますが、産後の身体が元の状態に戻るまでの約6〜8週間の期間「産褥期」まで継続するケースも。

産後に起きるメンタル不調には、マタニティーブルーといったちょっとした不調、産後うつ病などさまざまな状態や度合いがあります。

そこで今回は、女性メンタルヘルス外来を担う精神科医と、漢方に詳しい薬剤師に、産後のメンタル不調のセルフチェック方法や対策を教えていただきました。

産後ママに起こりやすい「産後うつ病」とは

産後に起きる心の病気には、どのようなものがあるのでしょうか?

代々木の森診療所の女性メンタルヘルス外来を担当し、産後ママの心身の状態も診ている織戸宜子先生にうかがいました。

織戸宜子先生(以下、織戸)「産後に生じる精神疾患というと、産後うつ病や産後そううつ病、産後精神障害、産後不安障害等があります。その中では、産後うつ病が最も多いです。

また、産後、誰にでも起こりやすく、自然治っていく状態としてはマタニティーブルーがあります」

こうした産後の心の病気は、どのような原因があるのでしょうか。

織戸「産後の心の病気は、さまざまな要因が関係しています。

妊娠中は性腺ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)が非常に増加しますが、出産後は急激に減少します。

性腺ホルモンは気分を調節する脳内神経伝導物質(セロトニン等)に作用を及ぼすので、ホルモンの増減に敏感な女性、例えば生理前に気分変動ある女性等が、産後の心の病気になりやすいともいわれています。

また、自身に健康問題がある場合や、家族のサポートが少ない方、幼いときに母親に甘えた経験がなく、育児のイメージがわかずに戸惑っている方、仕事が充実してきたときの突然の妊娠で、仕事を中断せざるをえなくなった方、頑張りすぎる完璧主義傾向の方などさまざまな要因があります」

産後うつ病の症状は?

織戸「産後うつ病は、出産女性の10〜13%に起こり、産後3ヶ月頃までに抑うつ症状が表れ、2週間以上持続します。産後うつ病にかかると大変つらく、育児も困難な状態になっていきます。

症状には次のようなものがあります」

■産後うつ病のよくある症状

いつも疲れているような感じがする(強い疲労感)あまり眠れない(不眠)何かに対して不安な気持ちになる(不安感)イライラする将来に対する希望が持てない集中できない、物忘れが多い自分を責める食欲がなくなる赤ちゃんのことが心配でたまらない、または無関心になる取り越し苦労をするうまく対処することができないパニック発作がある(手や足のしびれ感、過呼吸、胸の痛み、動悸など)

織戸「もし上記のような症状があれば、周りに協力していただき、頑張りすぎずに、時にはちょっとした休憩をとりましょう。

マタニティーブルーや産後の疲労は自然に治ることも多いのですが、産後うつ病はとても見逃されやすく、夫にも言えずに一人で悩まれたり、自分でも何が原因かわからず困られています。

放っておくと、母子関係や子どもの情緒面の発達に障害をもたらすことがありますので、我慢せず、症状が持続する場合は保健師さんや、専門医師に相談してくださればと思います。

症状が重くない場合は、夫の育児参加や夫からの言葉かけもでも、ママは元気になると思います」

産後のイライラや不安感などのちょっとしたメンタル不調について

ところで、産後うつ病などまでいかず、病院にかかるまでもない、産後のちょっとしたメンタル不調に苦しむ人も多くいます。

クラシエが、2021年2月に全国の20代〜50代の出産経験のある女性を対象に行ったアンケート調査では、64.3%の人が、産後に「イライラ」や「不安感」といった産前にはなかったメンタルの不調を経験したと回答しています。

この病院にかかるまでもない、このような産後のメンタル不調について、クラシエ薬品株式会社 ヘルスケア学術部 主任で、薬剤師資格を持つ宮内ちひろさんは、先日開催された産後のメンタル不調と漢方に関するセミナーで、次のように解説しました。

宮内ちひろさん(以下、宮内)「産後の病院にかかるまでもないメンタル不調の症状としては、不安を感じやすくなった、なかなかやる気が起きない、憂うつだと感じることがあるといったことが挙げられます。

このような産後のメンタル不調の原因はわかっていませんが、一説には、感情をコントロールする脳の神経伝達物質や遺伝、女性ホルモンの急激な変動、妊娠期からの不安、ストレスとなるできごとが重なる、周囲のサポート不足などの外部環境が関連しているといわれています」

病院にかかるまでもない産後のメンタル不調の対処法

こうした産後のメンタル不調は、薬を使わない対処法として、

・家族や周りの人の力を借りる
・自分の気持ちを素直に伝える
・一人でがんばりすぎない
・完璧を目指さない
・こまめにストレスを発散する
・周囲の人とコミュニケーションをとるよう心がける

などの方法があるといいます。

そして、漢方から対処することもできると宮内さんは話します。

宮内「産後の身体は、漢方の考え方では『気(き)』や『血(けつ)』が不足している状態にあるといわれています」

「気」の不足

宮内「気は、栄養物質を届けたり、手足や内蔵を動かしたりするエネルギーを表します。

気が不足することで、産後に起こりやすい症状としては、疲れやすい、体力の低下、やる気が起きないなど活力の低下があります」

「血」の不足

宮内「血は、栄養物質を届けたり、精神活動を支えたりするものです。血が不足することで、産後に起こりやすい症状としては、貧血・めまい、抜け毛、耳鳴り、乳汁分泌不良、神経症(不安感・憂うつ感など)などがあります。

また、血の不足による一般的な症状としては、顔色が青白い、肌の乾燥感、髪がパサつくなども考えられます」

症状によって、気と血どちらが不足しているか、おおよそ予想をつけることができますが、セルフチェックをするときにはポイントがあるそうです。

宮内「『気』の不足による症状では、主観的な側面が大きいですが、からだ全体を作る栄養物質である『血』の不足の場合は、肌や髪の乾燥感、貧血、顔色の悪さ、抜け毛など客観的な症状が多くなる傾向があります。

そのため、『血の不足による症状』の有無で、気だけ不足しているタイプなのか、気も血も不足しているタイプなのかでタイプ分けされるとわかりやすいかと思います。気と血の不足の状況によって、適した漢方薬を利用することも一つの方法です」

とはいえ、症状のセルフチェックを行う場合には、注意が必要です。

宮内「産後のメンタル不調は、産後うつやマタニティーブルーなど医師による治療が必要な疾患との明確な線引きはむずかしいです。

そのため、必ずしもご自身だけで解決できるとは思わず、かかりつけの産婦人科や、薬局・ドラッグストアの薬剤師など、身近な医療関係者に相談してみると良いかと思います」

今回は、さまざまな対処法が紹介されましたが、人によって不調の症状や度合いは異なります。もし少しでも不安を感じたら、自己判断せず、専門家に相談してみるのをおすすめします。

【取材協力】織戸 宜子さん(精神科保健指定医 精神科専門医 内科医)

内科医師として神戸大学病院にて研修。その後お産の多い(当時約1200人出産/年間)パルモア病院で勤務時に、母性内科・女性心療内科を立ち上げる。そこで、妊娠合併糖尿病・甲状腺疾患等の内科合併妊娠、女性特有のメンタルヘルスと心身両面よりの診療に力を入れる。その後神戸海星病院、慈恵医大病院等の勤務を経て、2018年から東京の代々木の森診療所にて女性メンタルヘルス外来で勤務。