「自分で一生懸命作った曲だし、やはりフミヤ君がテレビで歌ってくれるとうれしいですよ」

こう穏やかに語るのは、作曲家で音楽プロデューサーの芹澤廣明さん(73)だ。3月27日に、特別番組『激レア! 藤井フミヤ ギザギザハートからTRUE LOVE!』(NHK BSプレミアム)が、放送された。

番組中で藤井フミヤ(58)はリードボーカルを務めていたチェッカーズ時代から現在までの代表曲を熱唱。なかでも、これまで29年間テレビ番組では歌うことがなかった“幻のデビュー曲”『ギザギザハートの子守唄』を披露することが、放送前から注目を集めていた。

’80年代を中心に、大ヒットを連発していたチェッカーズだが、惜しまれながらも’92年の『第43回NHK紅白歌合戦』を最後にメンバー間の“方向性の違い”で解散した。だがメンバー間の亀裂は音楽業界の多くの人間が知るところだったと音楽関係者は語る。

「藤井さんと、サイドボーカルを務めていた高杢禎彦さん(58)との間に確執がありました。もともと、幼なじみで仲がよかったのですが、次第に人気や収入の格差が生まれ、2人は対立するようになったのです。高杢さんは’03年に出版した著書『チェッカーズ』で、《(藤井は)金のためなら恩も売る。これがチェッカーズの本質だったのか!》などと痛烈に批判しています」

藤井と関係が悪化していたのは、高杢だけではなかった。

「中森明菜の『少女A』、岩崎良美の『タッチ』など数々の名曲を生み出した作曲家の芹澤廣明さんです。芹澤さんは『ギザギザハートの子守唄』『涙のリクエスト』などチェッカーズの曲を36曲も手がけたいわば大恩人。フミヤさんにとっても恩師にあたり、頻繁に食事をともにしていました。

しかし、’86年に突如として絶縁します。その理由について高杢さんが著書で、金銭問題だと指摘しています」(前出・音楽関係者)

■フミヤが恩師に突き付けた“絶縁状”「もう歌いたくない」

作曲は藤井の弟・藤井尚之(56)ら、そして作詞は藤井が担当することになり、藤井には印税も入るようになったというのだ。

’03年、芹澤さんは週刊誌の取材に対し、藤井への怒りを込めて次のように答えている。

「『芹澤さんの歌は、もう歌いたくない』、フミヤがそうはっきり言ったというんです。ぼくにしたら、仕事を頼まれただけでそんなことを言われる筋合いはない」

この時点で絶縁は17年にも及んでいた。芹澤さんはさらに、こんな言葉も漏らしていた。

「フミヤには、“謝ればいいんだよ”って言いたい。チェッカーズはおまえのものでもあるけど、それを支えた大勢のファンのものでもあるんだよ」

“芹澤さんの歌は、もう歌いたくない”と、言い放った手前もあったのか、チェッカーズ解散以降、藤井は『ギザギザ〜』を封印し続けた。彼が恩師の“謝罪すべき”という言葉についに従ったのは、絶縁から34年後のことだった。

芹澤さんは本誌にこう明かす。

「去年の9月ごろ、フミヤ君から突然、電話が来たんですよ。初めは驚きましたね。なんで俺の番号知っているんだって(笑)。最後に会ったのが34年前ですからねえ。後で聞いたら、共通の知人に聞いたみたいですよ。その後、少ししてから2人で食事をしました」

まさに2人にとって“涙の和解”だったようだ。

「直接的な謝罪の言葉はありませんでしたが、会ってメシ食おうって言ってきた時点で、もう私たちの間にわだかまりはないですよ。そしたら『NHKの特別番組があるのですが、出ませんか』と言うんです。『じゃあ、一緒に出てみようか』と承諾しました。その後も2人きりで2度食事をして、いろいろな話をしました」

■チェッカーズ再結成を事務所に聞くと…

なぜ藤井は“謝罪電話”に踏み切ったのだろうか。音楽評論家で尚美学園大学副学長の富澤一誠さんは、こう分析する。

「ここ最近は’80年代のポップスが注目を集めています。今回の『ギザギザハートの子守唄』のテレビ解禁はそんなニーズがあったからだと思います。藤井さんとしては、ずっとついてきてくれているファンのことを思い、過去の確執から、曲を歌わないのもおかしいと考えるようになったのではないでしょうか。聴きたい人がいるなら、歌うべきだという判断を下したのでしょう」

実際に藤井は、3月26日放送のテレビ番組『BSコンシェルジュ』(NHK総合)で『ギザギザハートの子守唄』を歌った理由についてこう語っている。

「(昨年ネットで曲を流して)すごく評判ていうか(喜ばれて)それで、もう『歌うか!』と思って」

チェッカーズ時代の曲を歌う姿を見て、“再結成”への期待も膨らんだファンもいることだろう。藤井の所属事務所に問い合わせると、

「メンバーが1人亡くなっているため(※’04年に徳永善也さんが死去)、再結成はありません」

そう担当者は答えた。しかし、“恩師”の芹澤さんは期待を込めてこう語る。

「個人的にはチェッカーズを再結成してほしいと思っていますよ。本人たちのスタンスはわかりませんが、またみんなで歌う姿が見られたらいいな、と思っています」

34年ぶりに恩師との関係を修復し、『ギザギザハートの子守唄』を歌った藤井。チェッカーズの再結成へ踏み出す日も遠くないかもしれない。

「女性自身」2021年4月13日号 掲載