多くの就活生は「企業の見方」を間違っている (写真:KY / PIXTA)

人の成長は「経験7:人からの影響2:勉強1」という法則がある。人の成長に関わる要素を、経験、人からの影響、勉強の3つに分けると、最も大きな成長要因は経験であり、7割を占める。同僚や上司、先生などとの出会いは2割、セミナーや読書などによる勉強は1割とする法則だ。

この法則を学生に当てはめると、ほとんどの学生が“経験”する就職活動で、大きく成長することになる。学生は就活経験を通じて何を学び、成長したのか? これから今の大学3年生を対象にした就活は本格化する。HR総研が昨年の先輩(2018年卒生)を対象にアンケートを行っており、その中で、「就活の経験を通して企業の見方がどう変わったか」ということを聞いている。就活の起点として参考にしてもらいたい。

就活戦略としてむしろ有利なB to B


学生が就活で初めて出会う言葉に、「B to B」や「B to C」がある。就活の準備に取りかかる頃の学生の企業知識は真っ白な状態で、単に自分が知っている企業を志望先として考える。学生が知っている企業とは、一般消費者向けの製品やサービスを販売・提供している、「B to C(Business to Consumer)」企業である。

もうひとつの「B to B(Business to Business)」は、企業向けのビジネスを展開する企業であり、学生に対する知名度はそれほど高くない。B to Bを知らない就活初期段階で学生が志望することもあまりない。

ただし、就職の競争率で見ると、B to C企業だけに絞るのは、得策ではない。膨大な学生が押しかけるので、競争率が極めて高いからだ。知名度の割に採用数がそんなに多くない企業では、競争倍率が数百倍〜数千倍になることもある。一方、B to B企業を志望する学生は多くないので競争率が低くなり、もともとB to C企業に比べて圧倒的に数が多いので、選択肢も増える。就活戦略としてはB to B企業を早くから狙うのが有利だ。

学生も就活を進めるうちに、B to BとB to Cに対する認識を深め、「知名度」という呪縛から解き放たれると、考え方もだいぶ変わってくる。先輩たちもそうした経験をコメントに残している。

・「知名度は低くても、B to Bビジネスの優良企業がたくさんあると知った」(大阪大学・文系)
・「面白い事業をしているB to Bの会社が多いと感じた」(熊本大学・文系)
・「B to Bの企業についての見識が多少ではあるが広まった。知名度だけが指標にならないと実感した」(早稲田大学・文系)
・「B to Bの企業など、今まで知らなかった企業でも、多くの優良企業があることを知った」(県立広島大学・文系)
・「B to Bであったり、子会社であったりがゆえに、有名でない企業でもいいところは多かった。有名な企業でも社員の態度がよくないところもあり、いろんな企業があるなと思った」(首都大学東京・理系)
・「普段目に付かない、いわゆるB to Bの企業を知ることができ、反対に、誰でも知っている有名企業のメリットやデメリットを知ることができた」(芝浦工業大学・理系)​

​小さい会社で自分を大きくした方がかっこいい

「大企業」「大手」という言葉も、アンケートに頻出している。就活を通じて、企業規模に対する考え方も変わる。「大企業=優良企業とは限らないと思った」(県立広島大学・文系)という意見は多い。

・「大手が必ずしもいいという訳ではない。また、みんながいいと思う企業と自分がいいと思う企業は、異なるということ」(関西学院大学・文系)
・「最初は大手の方がかっこいいと思っていたが、途中から考え方が変わり、小さい会社に入って自分で大きくした方がかっこいいと思うようになった」(同志社大学・理系)
・「大企業だと1つのことしかできなかったりすると感じた」(静岡県立大学・理系)
・「大企業=いい、というのは、完全に崩壊している気がする」(東京農工大学・理系)
・「大きい会社だからといって安定しているわけではなかったり、小さい会社でもシェアが高い会社があったりすると知った。会社の中身まで見ようという気持ちになった」(明治大学・文系)

​就活初期の中小企業に対するイメージはあまりよくないが、次第に認識は変わってくる。当たり前のことだが、「大企業だからいい」「中小企業だから悪い」という、一律な考え方の間違いに気づいてくる。

・「大きい企業だけがいい会社というわけではないと思った。中小企業でもいい会社はたくさんあり、自分が納得できればそれでいいと思った」(金沢大学・文系)
・「会社それぞれに個性があることを知り、大企業だからいいとか、中小企業だからダメだといった、決めつけがなくなった。同じ業界でも事業内容だけでなく、社風や出資先、取引先を調べてみることで、自分の中で推したいと思える企業を探すようになった」(京都産業大学・文系)
・「名前の知らない中小企業は、おっさんや古いビジネスで生き残るのに必死のイメージだったが、説明会や企業情報を見てみると、意外としっかりしていることが多く、肩書きで判断するものではないと感じた」(千葉工業大学・理系)
・「中小企業でも大企業より福利厚生が充実している企業はいくらでもあるということ」(千葉大学・理系)
・「中小企業は自分のやりたいことができるのかなと思った。対して、かかる責任も大きい、と感じた」(奈良先端科学技術大学院大学・理系)

​多くの学生は、思い込みから解き放たれ、視野や選択肢を広げていく。人間がそれぞれ異なった顔を持っているのと同じように、企業にもそれぞれの文化や個性があるのに、「大企業だから福利厚生がいい」や「中小企業だから仕事がきつい」と決めつける愚かさに気づくのだ。

ただ「やはり大企業がいい」と考える学生もいる。

・「中小企業でもやりたい仕事はできるが、福利厚生や残業時間などの面で大企業よりも劣っている、と感じることが多かった。この先ずっと働きたいからこそ、その2つは大事」(京都女子大学・文系)
・「なんだかんだ言っても、やっぱり大企業に行った方がいい、と思うようになった」(名古屋工業大学・理系)

​こうした判断もあっていいだろう。また「中小の方が学歴フィルターがあるように感じた」(ノートルダム清心女子大学・理系)と書いた学生がおり、地域に立地する中小企業は特定大学を優遇することもある。

学生は就活経験によって、大きく成長するが、まだ働いてはいない。だからまだ思い込みが残っている。「ブラック」や「残業」を嫌悪する学生は多いものの、「絶対悪」とする意見は少なく、必要性を徐々に理解していくようだ。

・「学生と同じくらい企業も必死に採用活動をしているのだと感じた。残業が少ない企業は給料が少ない、給料が多い企業は忙しいなど、大体の事情には裏がある。逆に裏を見せずにいい条件ばかり並べる企業はあやしい」(法政大学・文系)
・「どこもブラックだと思いました。残業のない会社なんてそうそうないし、つらくても自分が好きで頑張れる企業であればいいんだな、と気づきました」(宮城大学・理系)
・「残業ばっかり、やりたくないことを仕方なくやっているというような社会人像は、確実に変わった」(学習院女子大学・文系)

​ブラックや残業を「絶対悪」とする声は少ない​​​​​​​​


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2018年卒就活生のコメントを見ると、就活初期の学生は「B to B か B to C」、「大企業 か中小企業」という決めつけで志望企業を探していた。しかし、就活が進むにつれ、このような二項対立的な価値判断の不毛さに気づいていく。

「ブラック」や「残業」についても、「残業があるからブラック」「いやいや残業をさせられている」という、単純な判断が間違いであることを理解していく。もちろん、不誠実な採用活動をする企業もあり、建前と乖離した企業の振る舞いを糾弾する学生はかなりいる。

・「嘘ばかりつく。信用できない。金融機関であっても、ルールを守らない」(國學院大学・文系)
・「企業理念を真に受けないことが大切である」(早稲田大学・文系)
・「華やかな舞台の裏にはかなりドロドロとした裏側が存在し、大人たちは仮面を被って生きているということ」(関西大学・文系)
・「建前と本音を使い分けていること、企業のいいところしか見せてくれない」(大阪大学・文系)

​このように、企業の採用活動を批判することもできるだろうが、別の判断をする学生も多い。就活初期の判断軸の前提には、この世には「いい企業」というものが存在していた。その「いい企業」を見つけて内定を取れば、いい就職ができるという考えがある。

ところが、次第に誰にとっても「いい企業」というものが無いことにも、また気づく。なぜなら相性というものがあるからだ。その相性を知るための企業探しが就活である。下記のような意見もある。

・「残業が多くても生き生きと働いている会社はある。大切なのは、今どれだけ完成しているかよりも、これから柔軟に変化していける体質かどうか、だと感じる」(大阪府立大学・文系)
・「イメージだけで好き嫌いを判断してはいけない。インターンなどで直接話を聴いて仕事内容を聞かなければ、よさ悪さ、向き不向きはわからない」(福井県立大学・文系)
・「福利厚生も大事だが、人や会社の雰囲気が大事。自分と合っているかは、かなり重要だと気づいた」(北九州市立大学・文系)
・「ブランドや知名度、イメージにとらわれずに、自分に合う企業を探して選ぶことが大事だと思うようになった」(早稲田大学・文系)

​ブランドや規模だけで思考停止していては、視野を狭くする。ここに挙げた先輩たちの声を参考に、就活の軸を「自分に合うかどうか」にも置き、ぜひとも成功に結びつけてほしい。​