劇場版「鬼滅の刃」特集/第1回:今から知っても遅くない!『鬼滅の刃』の魅力

2016年2月から2020年5月まで、『週刊少年ジャンプ』で連載された漫画『鬼滅の刃』(作/吾峠呼世晴)。「鬼」が存在する大正時代を舞台に、主人公・竈門炭治郎が鬼と化してしまった妹・禰󠄀豆子を人間に戻すため、運命を切り開く物語だ。

人と鬼が織りなす切ないストーリーは話題を呼び、2019年4月からはTVアニメの放送も開始した。豪華キャスト陣の熱演、ufotableが生み出した美麗かつ迫力あるアニメーション、LiSAが歌うOPテーマ『紅蓮華』――、あらゆる要素に魅了される人々が続出し、『鬼滅の刃』は幅広い世代から人気を博した。

そして、10月16日(金)には満を持して劇場版「鬼滅の刃」無限列車編が公開。炎柱・煉󠄁獄杏寿郎が登場する、作中の名エピソードがついにアニメ化される。

ライブドアニュースでは、劇場版の公開を記念して、スタッフやキャストのインタビューを総力特集していく。

今回は、インタビューをお届けする前に、なぜ『鬼滅の刃』がここまで人々を虜にするのか、その魅力をライブドアニュースが分析して、おさらいする。

文/SYO

「劇場版「鬼滅の刃」」特集一覧

いまや、老若男女から注目されるコンテンツに成長した『鬼滅の刃』。コミックスの累計発行部数は、2020年10月時点で1億部を突破。連載からわずか4年での達成となる。

2016年2月から連載され、順調に発行部数を重ねてきた『鬼滅の刃』は、2019年4月からTVアニメの放送が開始されると、さらに人気が拡大。関連ワードがTwitterのトレンド入りを果たし、ビジネス誌やワイドショーなどでも特集が組まれるようになり、小学生から大人までというファン層の幅広さも、話題を集めた。

人気を加速させる『鬼滅の刃』だが、ここで気になるのは、「なぜここまで支持を得たのか?」というところ。答えは一にも二にも「面白いから」に尽きるのだが、では何が「それほどまでに面白い」のか?

本記事では『鬼滅の刃』の基本情報をなぞりつつ、いくつかのポイントでその魅力をご紹介したい。

『鬼滅の刃』とは、人間の「逆境」を描く物語だ

まずは、『鬼滅の刃』がどういう物語なのか、改めて振り返ろう。本作は、人を喰う“鬼”が存在する架空の日本を舞台にしたバトルファンタジーだ。時代設定は大正時代頃となっており、着物等の日本文化に、ガス灯をはじめとする西洋文化がミックスされた「和洋折衷」な大正風の世界観や衣装が描かれている。

炭売りをする一家の長男として生まれた竈門炭治郎(かまど・たんじろう)は、真面目で心優しい少年。山村で家族と慎ましくも平和な生活を送っていたが、ある日、鬼によって家族が惨殺され、唯一生き残った妹の禰󠄀豆子(ねずこ)は、襲撃された際にその“血”が傷口に入ってしまった影響で“鬼化”してしまう。

炭治郎は、禰󠄀豆子を人間に戻すため、そして自分のような被害者を増やさぬために修業を積み、古来より鬼と戦い続ける組織「鬼殺隊」に入隊。鬼たちとの壮絶な死闘に身を投じていく――。
▲上から竈門炭治郎、竈門禰󠄀豆子
以上が、ざっくりとした『鬼滅の刃』の設定だ。ちなみに、鬼殺隊の戦闘手段は刀。彼らはそれぞれに特殊な「呼吸」という、独自の剣術を使う。組織内には「柱」と呼ばれる戦力の中核をなす剣士たちもいるが、あくまで人間だ。

対する鬼たちは人を喰って永らえ、驚異的な再生能力と膂力(りょりょく)を誇る。数百年生き続ける鬼もおり、中には「血鬼術」という特殊能力を有し、地面に潜る・特定の空間を操る等々、奇ッ怪な技で隊士を苦しめる個体も。彼らを倒すには、太陽光を浴びせるか、特別な刀で頸(くび)を斬るしかない。

以上からわかる通り、『鬼滅の刃』は基本的に“逆境の物語”だ。戦闘力も生命力も経験値も圧倒的に不利な人間が、異形の怪物を相手に、命を燃やして戦う――。この根本にある通念が、「人々を引きつける共感性」や「心震わすドラマ」を作り出す土壌となっているのだと感じる。
▲TVアニメに登場した「手鬼」

人々の心を掴む、“王道”と“異端”の絶妙な掛け合わせ

多くの人々が「面白い!」と感じる作品には、“普遍性”と“斬新性”の両方が備わっているもの。物語に入り込めて、キャラクターに共感でき、かつ設定や描写、セリフなどに「これは新しい……他の作品にはない」と感じられたら、自然と愛が深まり、周囲に推したくなるのではないか。

『鬼滅の刃』は、前述した「逆境の物語」の部分もそうだが、こうした“王道”と“異端”の掛け合わせが絶妙だ。

まずは、キャッチーな要素である“異端”について。本作は、物語の出発点が「妹以外の家族を殺される」とかなりシリアスだ。なにせ、第1話のタイトルが『残酷』で、最初のコマは、血まみれになった禰󠄀豆子を背負った炭治郎のカット。書かれているセリフは「なんでこんなことになったんだ」である。衝撃の幕開けなのだ。

その後も、『鬼滅の刃』にはシリアスなシーンも多くある。鬼は簡単に人々の命を奪う。いわゆる予定調和的な展開がないため、悲愴さと緊張感が増し、読者を引き込む要因になっているのではないだろうか。

余談だが、近年の漫画は、ダークな要素をはらんだバトルファンタジーが人気を博しており、時代のトレンドでもあると分析する。

そして、『鬼滅の刃』の魅力は、こうした「容赦のなさ」がドラマを生んでいること。しかも、悲劇性を主人公サイドだけでなく、敵サイドにも振り分けているところが新しい。味方だけでなく、敵側の哀しい過去までも描かれるのだ。

鬼たちは皆、もとは人間で、鬼の始祖である鬼舞辻󠄀無惨(きぶつじ・むざん)に血を与えられることにより、鬼として第二の生を受けた。つまりそれぞれに人間としての前世があり、その記憶もかなり壮絶。こうした敵のバックボーンをきっちりと描くことで、単純明快な善悪二元論に終わらない“深み”を生み出している。
▲鬼舞辻󠄀無惨
炭治郎が「神様 どうかこの人が今度生まれてくる時は 鬼になんてなりませんように」と倒した鬼を看取る姿も斬新で、当時の担当編集者を驚かせたとか。画的に派手にするため過激な描写を行うのではなく、命の重さや儚さ、尊さに真摯に向き合った結果の表現というのも、グッとくる部分だ。

つまり、『鬼滅の刃』は、ただの爽快なバトルアクションとは一線を画した、ドラマ重視の作品。だからこそ、読み込むほどに味わいが増し、多くの読者がついてきたのだろう。

もちろん、少年ジャンプの三大原則といわれる「友情・努力・勝利」もきっちりとカバー。たとえば「主人公がいきなり強くなることはなく、とにかく必死に鍛錬する」という修業シーンや、戦闘中に心が折れそうになった炭治郎が「頑張れ 炭治郎 頑張れ!!」と自らを鼓舞する名シーンなどは、「努力」を明確に表した例といえる。

「友情」に関しては、鬼殺隊の同期である我妻善逸(あがつま・ぜんいつ)や嘴平伊之助(はしびら・いのすけ)の存在が大きい。炭治郎がふたりと切磋琢磨しながら強敵に立ち向かっていく展開や、3人の掛け合いがギャグパートも担っており、シリアス一辺倒に陥らない。
▲左から炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助
同期以外にも、炭治郎の兄弟子である冨岡義勇(とみおか・ぎゆう)との絆も重要なキーになっており、“横”の関係(仲間)だけではなく“縦”の関係(師弟)も描いているのがミソ。魅力的なキャラクター造形はもちろんだが、ドラマを熱くさせる縦と横、両軸の人間関係も掘り下げられているのだ。

そして、興味深いのは、「家族」である禰󠄀豆子との共闘も描かれるということ。「同期」&「先輩」とのタッグバトルはアクション漫画の華だが、そこに「家族」までも加えることで、戦闘シーンに多彩さをもたらしていることも、付け加えておきたい。
▲冨岡義勇

圧倒的なスケールのアニメ映像に、“エモさ”を感じる

これらの『鬼滅の刃』の魅力を踏まえ、さらに“エモさ”を感じさせたのが、2019年4月に放送開始したアニメ版だ。『Fate/stay night』シリーズなどで知られるアニメーション制作スタジオ・ufotableが手掛け、ドライブ感のある迫力のカメラワークや、視聴者から圧倒的に支持された高密度の美麗な映像等、畳み掛けるような映像で度肝を抜いた。

とくに印象強いのが、戦闘描写。『鬼滅の刃』はもともと、高速で繰り出す剣術や、複数の技を連続して叩き出す斬撃の応酬が、バトルシーンの魅力だ。これがアニメという表現形態、さらにufotableによって、魅力的に描かれている。

「神回」と話題を集めたアニメ版第19話では、かつてない強敵に刀を折られ、絶体絶命の窮地に陥った炭治郎が、禰󠄀豆子と力を合わせて鬼に一太刀を浴びせる姿が、圧倒的な熱量で描かれた。炭治郎役の花江夏樹や禰󠄀豆子役の鬼頭明里といった声優陣の熱演も相まって、盛り上がりは最高潮に。
勢いそのままに、10月16日(金)には劇場版「鬼滅の刃」無限列車編の公開を迎える。こちらはアニメ版の続きを描く新作となり、作品を追っていくうえでも、鑑賞必須の物語だ。ちなみに、来場者特典として新作読み切り漫画が収録された冊子が限定配布されるそうで、ファンならば是が非でも手に入れておきたいところ。

もともとアニメ版『鬼滅の刃』は、テレビ放送に先駆けて映画館で特別上映されるなど、一般的なアニメ作品とはやや異なる動きをとっていた作品。劇場版「鬼滅の刃」無限列車編もこれまで同様、新たな驚きを与えてくれるに違いない。

作品情報

劇場版「鬼滅の刃」無限列車編
2020年10月16日(金)公開
TVアニメ『鬼滅の刃』
TVアニメBlu-ray&DVD第1巻〜第11巻発売中

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

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