こんな時期だからこそエンタメで笑ってほしい。前野智昭の“楽しさ”を忘れない生き方

人間の体内にある“細胞”という、誰にとっても身近でありながらもどこかファンタジックな存在を擬人化したコミック『はたらく細胞』。2018年に放送されたアニメ第1期も注目を集め、2021年1月からは第2期の放送もスタートする。

そんな第2期のエピソードが、9月5日より『「はたらく細胞!!」最強の敵、再び。体の中は“腸”大騒ぎ!』と題して先行上映されている。

同作のアフレコは「理想的な座組だ」と、白血球(好中球)を演じる前野智昭は語る。新型コロナウイルスの影響で収録をとりまく環境も刻一刻と変わっていく中で、第2期と特別上映版は、タイミング的にギリギリ掛け合い形式でアフレコができた貴重な作品なのだとか。

ひとつのターニングポイントを迎えようとしている声優業界を前に、キャストを含む関係者の心労や負担は決して少なくないだろう。しかし、そんな難しい状況でも「自分にできることをがんばるだけ」と語る前野。

こんなときだからこそ地に足をつけて楽しいことを見つけていきたい――今までまっすぐ仕事に向き合ってきた彼だからこそ、その言葉には並々ならぬ説得力があふれていた。

撮影/アライテツヤ 取材・文/原常樹
スタイリング/MASAYA(addictcase) ヘアメイク/横手寿里

アニメ第2期の収録だと思ったら、まさかの特別上映版!?

ついに9月5日より、劇場にて特別上映版『はたらく細胞!!』が公開となりました。首を長くして待っていたファンも多いかと思います。
いつか僕らの声やお芝居で、前作の続きを表現できる日が来ればいいなぁ…とは思っていたんですけど、まさかこういう形になるとは(笑)。
前野さんもビックリだった。
驚きましたよ! アニメの第2期をやると聞いてアフレコ現場に行ったら、(アニプレックスの)高橋祐馬プロデューサーから「じつは特別上映版という形でこういう展開を考えています」とご説明があって。

今回描かれるエピソードも、第1期のときから「あのエピソードはどこかでやりたいね」という話が出ていましたし、それを特別上映版という形でみなさんにお届けできるとは…。「なんておもしろい試みをするんだ!」と思いました。

現在は新型コロナウイルスの影響で、アニメの収録は別録りが一般的なんですけど、この特別上映版の内容を含むアニメの第2期は、その前にアフレコが済んでいるので、みんなで顔を合わせてお芝居をすることができたのも大きかったです。
細胞たちのにぎやかな掛け合いは『はたらく細胞』の魅力のひとつですし、アフレコでも生で掛け合うことで熱が入りそうですよね。
そうなんですよ! 生で掛け合うからこそ味が出るというか、やっぱり相手の方のお芝居の温度感を肌で感じながらやっているところもあるので…。みんなで掛け合いながら録り終えることができたのはよかったと思います。

アニメのアフレコ自体は第1期から2年ぐらい空いてしまったんですけど、さまざまなコンテンツで白血球(好中球)を演じる機会をいただいていたので、僕自身はすんなりと『はたらく細胞』の世界に戻れた感じでした。

第1期のときも最高のチームワークで気持ちよくアフレコできていたので、今回も楽しかった思い出しかありません。それこそ赤血球役の花澤香菜さんなんて、オーディションから掛け合ってますし(笑)。
現場の絆を感じます(笑)。
このメンバーでイベントにも出させていただきましたし、この前は体操もやらせていただいて(笑)。アフレコ以外でもいろいろな経験をさせてもらってきましたから、またいろいろなことができそうだというワクワク感が強かったです。
今回の特別上映版では、これまでモブ要素が強かった一般細胞(CV:小林裕介)がフォーカスされる展開もユニークでした。
彼目線でお話が進むので、むしろ主人公と言ってもいいぐらいで。もしかしたら、そのためにずっと小林くんがキャスティングされていたのかなとも思ってしまいます(笑)。

免疫系だけじゃなくて一般細胞もがんばっているというのが伝わる内容なのは、なんだかグッと来ますよね。地味にコピーをしているだけに思えるけど、本当はこんなことを成し遂げているのかもしれない…みたいな。

あとは、やっぱり再び登場したがん細胞(CV:石田彰)と、乳酸菌(CV:吉田有里、高橋李依、藤原夏海、久保ユリカ)の活躍ですね。がん細胞の脅威は第1期のときよりも増していますし、(石田さんの)声も強い(笑)。しかも、とある細胞ががん細胞側についてしまうという、劇場版っぽさ全開の展開も待っているので、見どころは満載だと思います。

さらに重要なキャラクターである乳酸菌たちも非常にかわいくて、きっと老若男女問わずに癒やされるはず…。
僕も試写会に参加させていただきましたが、ヨーグルトを買って帰りました(笑)。
メチャクチャわかります(笑)。なんとなく「乳酸菌は身体にいい」みたいな漠然としたイメージを持っている方も多いと思うんですけど、特別上映版では具体的にどんなにスゴいことをしているのかも描かれていて。少なくとも僕の知識を超える活躍だったので、積極的に摂ろうという気持ちにもなりました。

こうやって細胞や菌の役割をかわいらしく、カッコよく描いてもらえると自然と愛着も湧きますし…。それこそ乳酸菌や血小板ちゃん(CV:長縄まりあ)たちの活躍を見たら、これはもっと摂らなきゃとか、助けてあげなきゃとか思っちゃいますよね。
小さいお子さんの教育にもよさそうな。
いや、もう本当にそうです! ファミリー全体で楽しみながら勉強できるといいますか。

医療従事者の方から「ここまでわかりやすく描かれているなら病院でも(映像を)流したいです」みたいなご意見も多くいただいているようですし、そういった部分をテレビの情報番組でもフォーカスしていただいたようで…とてもありがたいです。

性別や年齢に関係なく、自分の身体の中でこんなことが実際に起きているんだと知れるのは『はたらく細胞』だからこその強みですから、そこを評価していただけるのはうれしいですね…。
アニメ第2期の展開も楽しみです。
ぜひ楽しみにしていただきたいです! 特別上映版ではそれほど活躍シーンがなかった細胞たちも、のちのちフォーカスされますので、ぜひとも合わせて楽しんでください。

両隣に誰もいない今の映画館は、メチャクチャ快適でした

前野さんは以前からジムに通うなど、「健康面にはだいぶ気をつけている」とお話をされていましたが、今もその姿勢は変わりませんか?
そうですね。衛生面に気をつけながら、今でもジムに通うようにはしています。

さらに今年に入ってからは手洗いやうがいを今まで以上に徹底したり、顔を不用意に触らないように気をつけたり、何か触ったらすぐに消毒するようにしています。
声優業界にいらっしゃる方はもともと衛生面に気を遣っていた印象が強いのですが、それでも体調を崩される方は出ていますよね…。
そうですね。どれだけ徹底しても完全に防ぐことはできません。

かといって、こんな状況だからと飲食店をまったく利用しなかったら経済も回せませんし…。自分にできる範囲で最大限まで気をつけながら活動をしていくしかないのかなと。

そんな中で、僕にできることといえば、おもしろいことや楽しいことを率先してやること。笑うだけでも免疫力が向上するといいますし、こういう時期だからこそエンタメの力を活用していくのがいいんじゃないかなと…。そう思いながら、日々楽しそうなことを探しています。
楽しいことって大事ですよね! 逆にストレスをため込むとよくないというか…特別上映版でも、身体がピンチになったりしていましたし。
そうそう(笑)。エンタメでストレスを適度に発散させることは本当に大切なんだと思います。

そのひとつとして挙げるなら、やっぱり映画。僕も先日、とある作品を観るために映画館に足を運んだんですけど、前後左右1席ずつ空けて座るという決まりのおかげでメチャクチャ快適だったということはお伝えしたいです!(笑)鑑賞中に隣で動かれると気が散るタイプなので、両隣に誰もいない今の環境は作品に入り込めるというか(笑)。

しかも劇場の換気能力はものスゴいので、ウイルスへの感染リスクもあまり高くないと言われていますし。お客さんの数が半分になってしまうのは劇場側からしたら断腸の想いでしょうけど、それが観る側にとってはいい方向に作用しているということも、ぜひ知っていただきたいです。

可能な範囲でエンタメのパワーを活用してみていただけたらと思います。
エンタメといえば、前野さんもYouTubeチャンネルを開設されましたよね。
以前からそういう話は出ていましたが、自粛期間中にいろいろと考えることもあって…。せっかく発信できる立場にいるんだから、何かしらエンタメの力を使って、みなさんにお伝えできるものがあればいいなと。

それで「SNSの延長で動画を楽しんでいただくというのもアリなのかな」という心境に至ったのがひとつの理由です。僕に限らず、続々とSNSや動画配信を始められている役者さんもたくさんいて、「ああ、みんな同じ気持ちなんだな〜」とも思いました。

決して万人受けしなくてもいいから、ひとりでも楽しんでくださる方がいるなら、やる意味はあるだろうと思っています(笑)。もちろん、「こういうことをやってほしい」という意見もたくさんいただいていて、そちらも前向きには検討していますが、とりあえずは自分が好きなところから始めていこうと!

お客さんの歓声のありがたみをひしひしと感じています

なかなか大変な世の中ですが、前野さんが日常の中で“楽しさ”を見つけるために心がけていることはありますか?
これは今に限ったお話ではありませんけど、アンテナを張り巡らせることですね。そのうえで最近は、楽しいと感じたときには「なぜ楽しかったんだろう?」というところに意識を向けるようになりました。

たとえば、今流行りのゲーム『Ghost of Tsushima(ゴースト・オブ・ツシマ)』を遊んだときには、「なんでこんなに楽しいんだろう。…ああ、描写が繊細で、所作も丁寧で、そういうのが楽しみにつながっているのか」みたいな。
時代劇のお約束を踏襲した、美しいアクションを追求しているとか?
そうそう!(笑)こういうところに目を向けるようになったのは、YouTubeチャンネルを開設したこともあるかもしれませんが、以前に比べて“楽しさの過程”に注目するようになったというか。こうやって考えるだけでも、いざというときに言葉で表現しやすくなりますし。それこそ、こういったインタビューとかでも(笑)。
なるほど(笑)。お仕事でも活かせる部分と、楽しさを結びつけている感じでしょうか。
そうだと思います。プロ野球の試合なんかは、以前から“何が楽しいのか”を考えつつ、言語化してきていますけど(笑)。映画なんかではそこまで意識的にやってきていなかったので、ゆくゆくはもっと劇場に足を運んで“何が楽しいのか”を積極的に見つけていきたいです。そのうえで、役者としても成長できたら理想的ですね。
刻一刻と変化していく状況の中でも、研鑽は欠かさないわけですね。
自分にできることは最大限やっていきたいです…。先ほども話題に出ましたが、今はアフレコもみんなで掛け合いをしながら録ることができません。それまで当たり前のようにできていたものが、いかに恵まれた状況だったのかということを思い知らされました。とくに自粛期間の最中は、1つひとつのお仕事がいかにありがたかったのかを噛みしめながら、日々生きていましたし。

イベントやライブに関しては、まだしばらくは開催自体が難しい状況でしょうけど、だからこそ、今までお客さんの歓声に大きく支えられていたんだなとも強く感じています。
さびしいですよね…。
さびしいですよ! たとえば、イベントでも今はお客さんは歓声を上げられませんし、できたとしても拍手だけ。セリフのあとに一拍遅れて「パチパチパチ」と拍手だけが響くような感じになると、なかなか心理的にもやりづらいなという話をみんなでしていました(笑)。
歓声に救われる部分も少なくないわけですね…。
僕は今回は出演しないんですが、鈴村(健一)さんが総合プロデュースを務める『AD-LIVE 2020』も配信という形になったようで。あの舞台なんかは、まさにお客さんの反応でステージが大きく変化していくので、いかにそれがかけがえのないものなのかということを痛感しています。

掛け合いでのアフレコならではの“よさ”もあるんです!

先日、音響監督の長崎行男さんも「技術の継承に欠かせない場であった飲み会もなくなった」という旨をツイートしていらっしゃいました。若手の声優さんにとっては、なかなか厳しい情勢なのかなと思いますが、前野さんもそう感じる部分は?
ひしひしと感じますね…。それに、長崎さんとは別のスタッフさんは、“ほぼほぼ抜き録りの環境”についても憂慮していました。もちろん、新人であってもプロである以上、抜き録りでも形にはできてしまうんですけど、掛け合いでしか出せないよさというのもあるので。

さらに抜き録りだと自分の拘束時間も短く、「出番にだけ集中すればいい」みたいな心境に陥りがちです。それがプラスに働くこともありますが、新人の子たちが「なんだ、全部それ(抜き録り)でいいじゃん!」と錯覚してしまうのは非常に怖いなと…。そういう話をしていました。
たしかに、そのリスクはありますよね。
僕らはアフレコに5時間、6時間かけるのが当たり前という意識ですけど、これからの世代の子たちにそういう意識がなくなってきてしまうとしたら、本当にもったいないことだと思います。それにかつての僕がそうだったように、このお仕事では先輩の芝居や表情を見るだけでも、非常に勉強になるので!

今の状況は気の毒だと思いますし、そういう意味でも業界内でひとつのターニングポイントを迎えている気がします。どういうふうに作用していくのかは、もう少し状況を見ないとなんとも言えません。
前野さんは新人の役者さんから相談を受けたりは?
あまりないんですけど、「どうしたらいいですか?」と言われたときは答えるようにはしています。実際、「この子はこうしたらもっとよくなりそう…」みたいに感じることもあるんですけど、それを僕のほうから投げかけるのはなんか違うんじゃないかなって。

自分で気づいて、もがいて、苦しんで、そうやって成長していくものなんじゃないかなと。こちらから言ってあげることで、その子の成長を妨げる可能性があると考えると、あんまり安易にアドバイスはできません。

でも、しっかり過程を経たうえで先輩からアドバイスが欲しいというのであれば、僕の中にあるものは全部教えたいと思っています。まぁ、僕自身もあんまり先輩にガツガツ教えを乞うことができないタイプの人間でしたし、ずっともがき苦しんできた経験があるから、そう思っているだけなのかもしれませんけど(笑)。

それにこんな話をしておいてなんですが、今の若い子たちは僕らが新人だったときよりも、はるかにステータスが高くて感性も研ぎ澄まされていると思うので、そこは普通にうらやましいぐらいです(笑)。
また以前のように、当たり前に掛け合いができる状況に戻れたらいいですよね。
本当にそう思います!『はたらく細胞!!』の特別上映版はみんなでアフレコができましたし、これまで声優業界を紡いできたやり方をそのまま出せた“ターニングポイントを迎える前の最後の作品”のひとつ。メンバーがみんな「アドリブや掛け合いで作品をよくしよう!」とハッスルしたことで、こんな楽しい作品になりました。

『はたらく細胞』ではとくに細菌役の方々が、作品に沿いながらもいかに爪痕を残そうかとインパクトのあるお芝居をされているのが特徴で、今回もその姿勢が如実に表れていた気がします。僕自身もすごく刺激になりましたし、それでこちらのお芝居が増幅された部分も少なからずありますね!
周りに影響を受けつつ、もっともっとお芝居をパワーアップさせていきたい?
もちろんです。これまでずっと活動してきたことで、少しずつ「前野智昭といえばこういう声だろう」というイメージが醸成されてきたとは思います。だからこそ、そういうイメージとは少し離れたところでも挑戦をしていけたら理想的だなって…。

ありがたいことに少しずつオーディションで受ける役の傾向も変わってきていますし、これまでのラインと違ったところで存在感を出せるような役者になっていこうと常に模索しています。

作品のオンエアを観たみなさんにそういうチャレンジがどうやって受け止めてもらえるのか、不安ながらも楽しみだったりするので! 自分にできることをがんばりながら、これからも一歩一歩前に進んでいきたいです。
前野智昭(まえの・ともあき)
5月26日生まれ。茨城県出身。A型。主な出演作は、『図書館戦争』(堂上篤役)、『うたの☆プリンスさまっ♪』シリーズ(カミュ役)、『刀剣乱舞』シリーズ(山姥切国広役)、『文豪とアルケミスト』(志賀直哉役)、『空挺ドラゴンズ』(ミカ役)、『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』(クロコダイン役)など。

作品情報

「はたらく細胞!!」最強の敵、再び。体の中は“腸”大騒ぎ!
9月5日(土)より公開中!
https://hataraku-saibou.com/

©清水茜/講談社・アニプレックス・davidproduction

サイン入りポラプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、前野智昭さんのサイン入りポラを抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
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受付期間
2020年9月16日(水)18:00〜9月22日(火・祝)18:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/9月23日(水)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから9月23日(水)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき9月26日(土)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
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