
現場にいる全員を“職人”と思うからこそ――向井理が作品に注ぐ、情熱と優しさ

2020年、向井理は役者生活15年目を迎える。
端正な顔立ちに比類なきスタイルのよさで人気を集め、ドラマや映画にも数多く出演。20代中盤は、「主演になってやろう」「ひとつでも番手が上のヤツを喰ってやろう」とギラギラしていたと振り返る。
しかし、NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』のヒロインの夫役で話題となり、ドラマ『ハングリー!』や『S -最後の警官-』などで主演を務め、さまざまな経験を重ねるうちに、心境に変化が生まれたという。
今は主演にこだわることはなく、共演者やスタッフ1人ひとりを“職人”として尊重しながら、己に与えられた役割を全うしたいと語る向井。クールなたたずまいのなかには、ストイックな情熱と周囲を気遣う優しさが秘められている。
スタイリング/外山由香里 ヘアメイク/井川千穂

人の心に残る作品になるためには、チームプレイが大事
- 以前、あるドラマのプロデューサーさんにお話を伺ったとき、向井さんについて「ベタベタ優しくするタイプではなくて、たとえばコップのお茶がなくなっていたら、当人が席を外している隙に、さり気なく入れてくれるような人」とお話されていたんですが……。
- 新井(順子)さんですよね(笑)。そんなこと、した覚えないんだけどなぁ。
- 【編集部注】
※新井順子…TBSドラマ『わたし、定時で帰ります。』のプロデューサー - きっと、向井さんのそういう優しさや気遣いに救われている方も多いかと思います。お仕事で人と接するときに、心がけていることはありますか?
- いつも思うのは、作品はたくさんの人が関わっているものだから、その人たちの期待を裏切りたくないということ。監督やプロデューサー、スタッフや演者、みんなの関係性がよくないといいものは生まれないですし、人との出会いを大事にしないと、この仕事は続かないんだろうなと思います。
それに、僕は現場に集まっているみんなのことを、与えられた仕事をきっちりと遂行する、ある種の「職人」だと思っています。だから、演者がいちばん偉いと思ったこともなくて。
僕らは照明がないと顔が映らないし、そもそもカメラがなければ仕事にならない。撮影でも、照明の方がシリアスな表情に見えるように光を当ててくれることではじめて、そのシーンが成り立つんですよね。 - 表舞台に出ている人のほうが持ち上げられがちだけど、ということですね。
- 演技力がある人ばかり集めたからといって、必ずしもいい作品になるわけじゃないですし。せっかくいい台本なのに、表現しきれなくてダメになることだってあります。
昨今は作品の価値を数字だけで測ることはできないと思いますけど、上質かどうか、という意味で人の心に残る作品になるためには、チームプレイが大事だと思います。
だから、できれば僕は、もっとスタッフの方と話したり、ご飯に行ったりしたいんです。でも、なかなかそういう時間を取ることが難しいので、今入っているドラマ『10の秘密』(関西テレビ系)の現場では、できるだけコミュニケーションを取ろうとしています。 - 一方で、ご自身がひとりで役柄に集中したいというときは……。
- 単純にひとりになりたいときは、楽屋に行きます。
雰囲気がたるんできたなと思ったら、場を引き締めるために、気合いを入れる言葉を発することもあります。 - チームプレイとはいっても、ただ雰囲気をよくすればいいというわけではなく。
- そうですね。僕、ベタベタっていうのはあんまり好きではなくて。むしろみなさんを職人だと思っているからこそ、与えられた役割をきちんと全うしない人は苦手です。
主演にしか言えないこともあるし、その人次第で現場の雰囲気も変わってくるので、難しい立場だなと思うんですけど。今回のドラマなら、キャストのいちばん最後に名前が来るということで、渡部(篤郎)さんにしか作れない雰囲気もあると思います。
僕はそういったキャストのバランスを見ながら、出たり引いたりを考えています。ピリピリした空気を作りたいわけじゃないですけど、集中してモノを作りたいとは常に思っていますね。


吉高由里子には、人を引っ張る天性の才能がある
- 向井さんは2020年で俳優生活15年目を迎えられます。現場での振る舞いや作品への姿勢は、この15年間で変わってきましたか?
- やっぱり、変わってきました。最初は、「主演になってやろう」とか「ひとつでも番手が上のヤツを喰ってやろう」とか、ずっと勝負だと思ってやっていました。
でも、今は正直、主演にこだわってはいないです。最近はちょっと引いたところから(現場や作品を)見る機会もあって、それこそ新井プロデューサーのとき(ドラマ『わたし、定時で帰ります。』)には、吉高(由里子)さんが前にいて。 - 向井さんが演じられた種田晃太郎は、吉高さん扮する主人公を支える役柄として大人気でした。
- 同じ2番手、3番手でも、20代の中盤と今では、主演に対する思いが全然違うんですよね。いかに大変かもわかるし、主演にしか見られない景色があるのもわかる。いちばん最初に名前が来るのは、そんな簡単なことじゃないんだ、というのもわかってるつもりです。
そういうときはなるべく主演をケアしたり立てたりするように心がけています。でもここ数年ですね、そういう意識に変わってきたのは。 - 何かキッカケがあったのでしょうか?
- 少しずつ変わってきたんですが、とくに昨年やらせていただいたTBSの作品の主役(吉高さん)を見て、こういう居方もあるんだなと知ることができたのが、面白かったんですよね。
- 自分が主演を経験してきたからこそ、「こんなやり方もあるんだ」という発見が。
- 彼女にはスゴい魅力や人間力があるし、ある種、強引に人を引っ張っていける、天性の才能があるんですよね。そして、誰よりもお芝居に向き合っている。そこがズレていない人だからこそ、一緒にやってこれたんだなと思います。
『時効警察はじめました』にゲストで出させていただいたときの、(主演の)オダギリ(ジョー)さんの居方も、独特で面白かったです。コミュニケーションを密に取ろうとするわけでもなく、本当に飄々と、自然体でそこにいらっしゃる方なので。1番手じゃないときのほうが、見える景色はいっぱいあるのかもしれないですね。

あとでラクできるよう、今はハードな場所へ飛び込んでいく
- 昨年主演された舞台『美しく青く』のとき、「ハードルが高い作品に挑みたい」とお話されていましたよね。そういうハードな状況に飛び込んでいくメンタルの強さは、どのように培われたのでしょう?
- メンタルが強かったら、たぶんやってないと思います。自分をもっと鍛えたいから、そういうハードなところに飛び込んでいくので。厳しいところに行かないと鍛えられないし、レベルアップできないと思うんですよね。
- 「もっと上を目指したい」というストイックさの表れですね。
- 結局僕は、なまけものなんだと思います。そうやって今のうちに引き出しをいっぱい作っておけば、50代になったときにラクできるんじゃないかな、とか(笑)。今ラクをしてしまうと、あとで大変だと思うので、そのために今いろいろと模索している感じです。
- 向井さんのストイックさを紐解くと、高校時代のサッカー部でのエピソードが印象的です。「毎日10kmを走らなくてはいけなかったが、先輩にやらされていると思うより、自分からやっていると捉えたほうがラクだったので、自発的に率先して走っていた」と。
- そうでしたね。
当時は、本当にしごきがキツかったんです。1週間に10人くらい辞めたりとか、走りすぎて吐く人がいたりするくらい厳しくて。練習が始まると、先輩がストップウォッチを回しながら(指にヒモを引っ掛けて、くるくる回すしぐさをして)、「はい、集合ー!」って言ってくるんですけど(笑)。 - こ、怖い……。
- それを毎日やられるんですよ。だからそのストップウォッチを、先輩が回す前に自分たちで取って走ろう!って。「やらされてる」と思うと本当にキツいので、どうせやるなら、「自分たちからやってやる」くらいの感じで。そのほうが、精神衛生上いいんじゃないかってみんなで話したんです。
同じメニューだけど「自分たちでやります」って始めたら、辞める人もいなくなり、泣く人もいなくなり。それで部員数が安定したんです。 - スゴいですね!
- でも、今考えたら、ああやって(長距離を)走るのもすごく大事なことだったんですよね。サッカーって走るスポーツなので。自分たちが3年生になったときに走るのを廃止したら、下の世代は1勝もできなくなってましたから。
- そんなことが……。
- 強くなるためにはツラいことも必要だったんだな、と思います。

- ただ、この話は今の仕事のやり方とはちょっと違うんですけどね。僕は自分で仕事を選んだことが、ほとんどないので。「舞台をやりたい」「こういう役をやりたい」っていう話は、最近でこそするようになりました。
どの作品をやっても勉強になるし、いろんな景色を見られる。簡単な現場なんて、そもそもないと思っています。 - ご自身がストイックだと、ラクな道に流れてしまいがちな人を見て、「もっと頑張ればいいのに!」と思ってしまうこともありますか?
- 人に対しては、ないですね。その人のやり方がありますから。それを否定して自分のやり方に当てはめるのは、逆に言うと自分を否定することにもなるので。単純に、「それは違うな」というより「面白いな」と思いながら見てますね。
- 他人を否定するのは自分を否定することにもなる、というのは?
- たとえば「そのやり方違うよね」って相手に言ったとしても、その人からしたら、こっちのやり方のほうが違うわけじゃないですか。そんなことを言っても意味がないと思うんです。だから他の役者さんのやり方に対して否定的な感情を抱くことも、ないんですよね。
ただ、経験が少ないとかで、監督の要望に上手くマッチできてない人がいるときに、アドバイスはします。それは、その人のやり方を否定しているのではなくて、監督や演出家の言い方と、役者の言い方って、全然違うから。
演出家さんは全体を見て「こういう画を撮りたい」っていうものがあるけど、役者に見えているのは「対・人」で、画面を観ながらお芝居しているわけではないので。監督が言っていることを1回噛み砕いて、「役者の言葉」で言ったほうが伝わる場合もあるんです。 - 向井さんから声をかけてあげるんですね。
- ただ、絶対に伝えるのは「実際にやらなくていいけど」っていうこと。あくまでアドバイスだから。あとは、そのシーンが終わってから言いますね。僕が言ったことを意識しすぎて、その方が本来できるはずのお芝居ができなくなるのは怖いので。終わってから、参考として「こういうパターンもあるよ」って言うようにしています。

ネット全盛期の今だからこそ。SNSをやらない理由
- ご自身の外見的な特徴やパブリックイメージについて、「役者をするのには損することのほうが多くて、コンプレックスもある」ともお話されていますよね。「普通の人」に見られづらい、と。
- そうですね。みんなそう(=コンプレックスがある)だと思うんですけど、外見的な特徴って髪型くらいしか変えられないので、役柄が限定されちゃうと思うんです。「もっとこういう役をやりたい」と言っても、「いやいや、全然違うでしょ」って止められたりだとか。
たとえば、プライベートで子煩悩みたいなキャラクターを出しすぎちゃうと、あまり殺人犯の役とかできなくなりそうで(笑)。だからSNSもやってないんですよね。プライベートを晒すことで役者としては損をすると考えているので、「あまり能動的にはお見せしません」っていう意味で。 - そういう理由があるんですね。
- 僕の場合は、ですけどね。他の方がやってるぶんには、全然いいんです。演じ方の話と同じで、他の人のやり方を否定するつもりは全然ないんですけど、僕はたぶん、器用にできるタイプじゃないので。
昔はブログもやってましたけど、ネット全盛期の今だからこそ、やらないほうが役柄が狭まることもないのかなって。じつは仕事もプライベートも全部円満、みたいな一面を出しすぎちゃうと、「不幸な人を演じても説得力がない!」みたいにツッコまれかねない時代になっちゃっているので。
別に自分をミステリアスに見せたい、とか思っているわけではないんです(笑)。自分の場合は損することのほうが多くなるから、そういう一面をひけらかしたりはしないっていう感じですね。


娘の秘密を知ってしまう父親の役。「いつか自分も…」
- 放送中のドラマ『10の秘密』で向井さんが演じる白河圭太は、建築検査確認員として働きながらひとり娘を育てるシングルファザー。娘の誘拐をキッカケに、元妻や娘の抱えていた秘密を知るという役柄です。2児の父親である向井さんは、今回の役柄をどのように感じますか?
- 娘の秘密を突きつけられていく展開があるので、率直に言うと、ちょっとショックというか(笑)。いつか自分にも、こういうときが訪れるのかなって。
共感とはちょっと違うんですけど、子どもが成長したときの気持ちを、先に体験させてもらっているような作品ですね。
秘密だけじゃなく、親の手を離れていくこともそうですね。大人になるってそういうことだと思うんですが、今回は娘を持つ父親の役なので、「もし知らない男と会ってたらイヤだなあ」とか(笑)。娘に反抗されるシーンもあるので、「なかなかツラいな……」と思いながらやってます(笑)。 - シングルファザーを演じられるというのは、いかがですか?
- ひとりで子育てをするのは本当に大変だなと思います。自分の仕事もしなきゃいけないなかで、毎朝子どもの弁当を作ったり、家のローンを払ったり。
でも、子どもができると、子ども第一にならざるを得ないと思いますね。いろんな向き合い方や育て方があると思いますけど、僕は常に子どものことを考えながら生きている気がします。誰しもそうなんでしょうけど、「子どもにとって、マイナスになるようなことはしちゃいけないな」とか、より考えるようになりました。 - では逆に、圭太と自分は真逆だなと思うところはどこでしょう?
- 僕は圭太よりは、もうちょっと考えて生きていると思います(笑)。けっこう不器用な役柄なんですが、もうちょっと上手く立ち回れるんじゃないかな、と。
- ストーリーが進むにつれて、不利な状況に陥った圭太が、娘との生活を守るために登場人物を恐喝する展開なども見られます。
- 子どものために犯罪に手を染めるっていうのも、もっと違う方法があるんじゃないかなと思いました。僕らは登場人物たちを俯瞰して見れるので、いい意味で「バカだなあ、こいつ」と思う部分もありますね。必死になっているところも含めて、愛されるキャラクターじゃないかなと思います。
結局、圭太は嘘をつけない人なんですよ。秘密だなんだ言いながら。だから、「もっとこういうふうに言えば信じてもらえるのにな」とか、「(重要なものを)ここに隠せばよかったのにな」とか思ってしまいますね(笑)。 - ご自身は、そういう隠しごとは得意なほうですか?
- 僕はあまり隠したりしないです。家に帰ったら僕、聞かれてもいないのに、その日にあったことを全部話しちゃうんですよ(笑)。隠すこともないですしね。今は家と現場を往復する生活ですし、舞台とかが始まったら、それこそみんな知ってるスケジュールになって、逃げようも隠れようもないので(笑)。
今は秘密を隠し通せる時代でもなくなってきているので、だったら最初から秘密なんて持たない、健全な生き方をしようと思っています(笑)。 - 向井さんは本作のストーリーを「上質なサスペンス」と表現されていますけど、向井さんにとっての「上質なサスペンス」とは、具体的にどのようなものですか?
- 僕は普段から、サスペンスを本で読むのも映像で観るのも好きなんです。謎が少しずつ明らかになっていき、「これはどういうふうに着地するんだろう」と頭を使いながら観ることで、知的欲求を満たしてくれる。
たとえば、ブラッド・ピットとモーガン・フリーマンの『セブン』。僕はあの作品が、たまらなく好きなんです。最後に謎が晴れて、すごく生々しい終わり方をするんですが、考えながら観る作品って頭のなかに残るんですよね。観た人の知識や頭脳を刺激してくれるのが、上質なサスペンスだと思います。

- 向井理(むかい・おさむ)
- 1982年2月7日生まれ。神奈川県出身。O型。2006年に芸能界デビューし、2009年の『傍聴マニア09〜裁判長!ここは懲役4年でどうすか〜』(読売テレビ)で連続ドラマ初主演。2010年のNHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』でヒロインの夫を演じて話題に。主な出演作は、映画『僕たちは世界を変えることができない。』、『いつまた、君と〜何日君再来〜』、『ザ・ファブル』、ドラマ『ハングリー!』(関西テレビ・フジテレビ系)、『サマーレスキュー〜天空の診療所〜』、『S -最後の警官-』、『きみが心に棲みついた』、『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)など。現在はドラマ『10の秘密』(関西テレビ・フジテレビ系)、NHK大河ドラマ『麒麟がくる』に出演中。2020年5月には主演舞台『リムジン』が上演予定。
サイン入りポラプレゼント
今回インタビューをさせていただいた、向井理さんのサイン入りポラを抽選で1名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。
- 応募方法
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— ライブドアニュース (@livedoornews) February 6, 2020
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- 2020年2月6日(木)18:00〜2月12日(水)18:00
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