のん、初舞台を踏む。演劇の世界に導いてくれた、渡辺えりとの出会いを振り返る

取材部屋にあった目隠し用のカーテンも、のんが前に立てば、劇場の舞台幕に見えてくるから不思議だ。

撮影中、「可愛いっ!」とスタッフから声が上がるとガッツポーズを決めてみたり、「でも、衣装が可愛いんでしょう……?」とおどけてみせたり。親しみやすさも人気の理由だろう。

女優として大ブレイクを果たしてから6年。のんを取り巻く環境は大きく変わったが、当の本人はあの頃から変わらない。現場の空気をパッと明るくする、ハッピーなオーラも健在だ。

2016年から、のんとして活動を開始。“創作あーちすと”として個展を成功させたり、自らレーベルを立ち上げCDデビューしたり、ジャンルを問わず、自分のやりたいことに貪欲に取り組んできた。

そしてこの夏、初舞台を踏む。舞台の世界へ導いたのは、朝ドラの共演以来の仲である、渡辺えり。インタビューでは、ふたりの深い信頼と絆を強く感じた。

撮影/宮坂浩見 取材・文/江尻亜由子
スタイリスト/山口絵梨沙 ヘアメイク/菅野史絵(クララシステム)
衣装協力/セーラーワンピース \120,000(SINA SUIEN)、その他スタイリスト私物

『レ・ミゼラブル』を観て大号泣。喫茶店で語り明かした

8月28日から上演する新作音楽劇『私の恋人』に、のんが出演。のんにとって本作が初舞台となる。原作は、芥川賞作家・上田岳弘の同名小説。女優の渡辺えりが脚本・演出を手がける本作では30の役柄を、渡辺と小日向文世、のんの3人が演じる。
渡辺えりさんとは朝ドラで共演して以来のおつきあいですよね。舞台出演が決定して、いかがですか?
すごくうれしいです。3人で30役という難しい題材のうえ、えりさんと小日向さんとの3人芝居というのも、これ以上ないっていうか。「これはやらなきゃいけない」と、心にバシッと来ました。願ってもない初舞台だと思います。
渡辺さんと親交を深めるようになったのは、そもそもどういうキッカケだったんですか?
えりさんから、舞台や映画を観に行こうってお誘いくださったりして。私は人見知りなのですが、もうそのときすでに、心を開いていたと思います。
最初は、『フランケンウィニー』というティム・バートン(監督)の映画を一緒に観に行こうと約束して、それなのにちょっと……私が時間を間違えて、(小声で)遅れちゃって!!
(笑)。
それで代わりに『レ・ミゼラブル』を観たんですが、えりさんが大号泣だったんですよ。映画館の近くの喫茶店に移動して、ずっと映画の話をしました。すごくいい1日でした。
共演した方とすぐに打ち解けられるほうですか? それとも、渡辺さんはめずらしいケース?
めずらしいですね。しかも、えりさんは大先輩なのに……!

えりさんは、私みたいな小娘というか(笑)、若者にも同じ目線でお話してくださる方。一緒にいてすごく気がラクというか、落ち着くんです。

目にパッと星が入って見えるのは、瞳孔が開いているから!?

撮影後も、交流は続いていたんですね。
えりさんが「私の舞台あるから来てね」と呼んでくださって。えりさんの舞台に、小泉(今日子)さんと尾美(としのり)さんと3人で行ったこともあります。3人で、席も並びで(笑)。
渡辺さんからも学ぶこともたくさんありそうですね。
そうですね。勉強することがすごくたくさんありました。カメラが回ってるときも回ってないときも、現場での居方というか。

えりさんは、役とか作品に本当に集中していて、テンションが下がらないんですよね。そこがスゴいなぁと。勉強になりました。
そんな渡辺さんは、のんさんを女優として高く評価されていますよね。2014年、TBSラジオ『たまむすび』にゲスト出演された際に、「演じ始めた瞬間に、パッと目の中に星が入る、スゴい女優さんだ」とおっしゃっていました。
星が入る……(笑)。ありがたいですねぇ。えりさんは優しいので、いつもたくさん褒めてくださるんです。
目に星が入るという表現は、ぴったりだと思います。のんさんの目っていつもキラキラ輝いてますが、なぜなんでしょう!?
えーっ(笑)。なんでだろう……。楽しんでるっていうのが、いちばん大きい理由かもしれないです。
楽しいときや、興味があるものを見るときは瞳孔が開くと聞きますね。
そうですよね。毎日、瞳孔開いてます!(笑)

今でも励みになっている、渡辺えりさんの言葉

舞台だと、映像とはまた別の緊張がありますよね。「一点集中」の状態が2時間くらい続くわけで。
今からすごく緊張しています。「不安」と「楽しみ」、ふたつの感情がせめぎ合ってる感じです(笑)。
もともと舞台をやってみたい気持ちはあったんですか?
興味はすごくありました。実際に目の前にお客さんがいる状態で演技するって、どんな感覚なんだろう、とか。映像だとそのシーンごとに、カットを変えてもう1回撮影とかやるけれど、2時間、ずっと流れを切らずにやるってどんな感じなんだろう、とか。
では本当にいいタイミングで渡辺さんにお声がけしてもらったんですね。
一緒に舞台をやることが決まったあと、私が「初舞台だから、お手やわらかにお願いします…」と言ったら、「のんちゃん、センスあるからできるよね!?」と。

「ハードルが上がっているところ申し訳ないんですけど、ちゃんと修行していこうとは思ってますが、初めてなので、お手やわらかにお願いします」ってもう一度言ってみたんです。

そしたら「その“お手やわらかに”っていうのが、どうするのかわかんないのよね」って(笑)。
優しいえりさんから、まさかの発言が(笑)。
だからきっと、スパルタなんだろうなと。心してかからなければと気合が入りました。
ほかに、えりさんの言葉で印象的なものはありますか?
のんとして活動を始めた頃、「私、絶対一緒に舞台をやりたいんだからさ、やらせてよ?」と言っていただいたんです。独立して大変だから気遣ってくださるんだなって。えりさんの優しい心を感じていたんですね。

でもそのあとも何回か、「のんちゃんと一緒に舞台をやりたいんだからさ、早くしてよ!?」と言われることがあって(笑)。
気遣いではなく単に一緒にお芝居をしたかったという(笑)。
そうなんです(笑)。でも、それが逆にうれしくて。ありがたいなぁって思いました。今でも励みになっている言葉ですね。
そこまで強い結びつきができたのは、おふたりに似ている部分があるからでしょうか?
あ、それは感じます。えりさんも「似た者同士よね」と言ってくださって。自分で言うのもおこがましいですけど、大人なのに“子ども心”を持っているところかな……?
“子ども心”というのは?
自分がやりたいと思ったことに貪欲というか。自分の意志を曲げないでそのまま突き進もうとする心の強さを、えりさんから感じるんです。私もそういうところがあって、似ているなぁと思います。
さて、稽古が始まった今、どういう心境ですか?
稽古は初めてのことだらけで大変ですが、面白い舞台になるというのは確信しています。上田岳弘さんの原作をえりさんの世界に落とし込んだ『私の恋人』は、この舞台にしかない衝撃や感動を与える、そんな作品だと思います。
私は、男性役も女の子役もおじいちゃん役もやります。えりさんの普通じゃ考えられない、少なくとも私には考えつかない、とんでもない脚本や演出を、小日向さんがリアリティをもたせて体現していく。そんな稽古を目の前で見ていて刺激しかないです。本当に心の底からスゴいと思うし面白いです。
この舞台は、私がどう挑んでいけるか、それにかかっているなとひしひしと感じています。焦りはありますが、ワクワクは抑えられません。
のんさんにとっての『私の恋人』とは……?
自分の生み出す表現のすべてなのではないかな?とそんなふうに思います。観た人それぞれの『私の恋人』を考えずにいられない作品です。ぜひ、みなさんにも劇場に来ていただいて、『みなさんの恋人』はなんなのか? 一緒に考えていただけたらと思います。

“のん”の活動も3年目。大変だけど楽しい毎日です

2017年に自ら代表を務める新レーベル『KAIWA(RE)CORD』を発足。シングル『スーパーヒーローになりたい』『RUN!!!』とアルバム『スーパーヒーローズ』を発売した。矢野顕子、真島昌利(ザ・クロマニヨンズ)、高橋幸宏などから提供された楽曲に加えて自らも作詞作曲を行い、音楽通にも高く評価されている。

“創作あーちすと”としても活動を行い、2018年には自身初の展覧会『‘のん’ひとり展‐女の子は牙をむく‐』を開催。その多彩な才能が話題となった。
のんとしての活動も3年目になりますが、これまでを振り返ってみて、自分のやりたいことが実現できているという実感や達成感はありますか?
すごくあります。自分が社長なので、全部をちゃんと把握できているし、自分で決断できる。「うまくいかないな」って思うことがあったとしても、それは自分の責任。それがいいなって思います。
仕事の選び方としては、以前のインタビューで「自分がやって意味があることとか、楽しめるものをやりたい」とお話されていました。
そこは今も変わりません。加えて今は、どんどん新しいことに挑戦していきたいという思いが強くなっています。挑戦的なメッセージのあるお仕事に、すごく惹かれますね。
“創作あーちすと”を名乗る理由について、「ビシッとしたアーティストに憧れはありますが、自分が名乗るのはおこがましい」と。個展も成功させた今、自信もついてきたのではと思うのですが、いかがですか?
そう……ですねぇ(笑)。自信はついたんですけど、もっと深いところまでいきたいなと。まだまだ“あーちすと”として、ぬくぬくとやっていきたいです(笑)。
表現者として好きなことを突き詰めながら、一方で経営者としての仕事もあるわけですよね。両方を行うのって、すごく大変ではないですか?
大変ですね……。「大好き!」っていうお仕事だけをやっていればいいわけじゃないし、そのバランスはけっこう考えています。でも、やりたくないことを無理にやることはありません。納得いくお仕事ばかりで、毎日楽しいです。

ハードルを跳び越えるのではなく、なぎ倒す勢いで

のんさんの創作の原点は「怒り」だそうですね。
たとえば、毎日怒りの感情を抑え込んでいる方がいたとして、その方の代わりに、私の作る曲が怒りを爆発させていたら、原動力は“怒り”でも、ポジティブな感情を抱くキッカケになると思います。

私自身、怒ってる曲が好きなんです。「そうだよね!」って共感することで、心が救われるというか。そのおかげで、前に向ける感じがある。私もそういう作品を作れたらなって思います。
ちなみに最近、どんなことで怒りましたか? のんさんが怒っている姿をあまり想像できなくて。
私の怒りってすごくフランクというか……ライトなんですよね(笑)。

たとえば、なんにもないときに怒るのが好きっていうか。今、この人に「キッ(可愛い表情で隣に座っている事務所スタッフをにらむ)」とやったら、どんな反応するかなぁって試してみるんです(笑)。
そんな、突然!?(笑)
で、ぱしっとはたいてみたりとか(笑)。そうすると、相手は「へ!?」ってなりますよね。
「ぱしっ」と言っているだけで、実際にはたくわけではないんですね(笑)。
コミュニケーションなんです。怒りのアプローチをしかけて、楽しくしたい、みたいな。
怒りの話でいうと、個展のサブタイトル「女の子は牙をむく」について、「もっとみんな気軽に、自由に牙をむいていいんだ、という想いを込めた」と語っていた記事を読みました。「#MeToo」運動の世界的な広まりが象徴するように、女性が怒りを表すようになってきたと思います。のんさんも時代の変化を感じますか?
そうですね。女の子が頑張っているな、というのは感じますし、性別や考え方が違っても、同じ目線になってきているように思います。

なんか、えりさんみたいな人が増えれば、円満になるんじゃないかなって思うんですよね(笑)。
えりさんみたいな人というのは、自分がやりたいと思ったことに貪欲な人という意味ですね?
そうですね。えりさんは楽しいことや喜びに対しても、怒ってることや悔しいことに対しても、本当に素直な表現をされる人。ハードルを跳び越えるっていうよりも、そのままハードルをなぎ倒して突っ切っていくくらいの勢いがある人(笑)。
「跳ばないんだ!」っていう(笑)。
「跳ぶ必要なんてないわよ!」みたいな(笑)。そのパワフルさみたいなものが、世の中を面白くするんじゃないかなって思います。
のん
1993年7月13日生まれ。兵庫県出身。A型。2016年から「のん」として活動を開始。2016年公開の劇場アニメ『この世界の片隅に』で主人公・すずの声を演じ、第38回ヨコハマ映画祭審査員特別賞他多数の賞を受賞。2017年、自ら代表を務める音楽レーベル「KAIWA(RE)CORD」を立ち上げて音楽活動を開始。2020年公開予定の映画『星屑の町』にヒロイン役で出演。

作品情報

舞台『私の恋人』
http://office300.co.jp/watashino.html

サイン入りポラプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、のんさんのサイン入りポラを抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
ライブドアニュースのTwitterアカウント(@livedoornews)をフォロー&以下のツイートをRT
受付期間
2019年8月9日(金)12:00〜8月15日(木)12:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/8月16日(金)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから8月16日(金)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき8月20日(火)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
  • 複数回応募されても当選確率は上がりません。
  • 賞品発送先は日本国内のみです。
  • 応募にかかる通信料・通話料などはお客様のご負担となります。
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