『わた定』『中学聖日記』『アンナチュラル』。新井順子Pが語る「熱狂」の極意
いいドラマって何だろう。その定義は人それぞれだ。
でももしその定義をひとつ挙げるとしたら、それはきっと何年経ってもずっと忘れず心に残り続けるもの。
主題歌を耳にした瞬間、ふっとドラマを観ていたあのときの気持ちが甦る。人生の折々で、画面の中の誰かが口にした言葉をおまじないみたいに噛みしめる。思い出のアルバムに、大切な記念写真みたいにしまってある。そんなドラマこそがいいドラマだと言えるんじゃないだろうか。
今、そんな優れたドラマを生み出し続けるプロデューサーのひとりが、新井順子だ。
『Nのために』『アンナチュラル』『中学聖日記』、そして『わたし、定時で帰ります。』(すべてTBS系)──新井順子の手がけた作品はどれも熱いファンを生み、放送中はもちろん放送終了後もSNS上で作品愛が語り継がれている。
彼女のつくるドラマはなぜこんなにも人を熱狂させるのか。そこには、これ以上ないぐらいストレートな「願望」が込められていた。
- 新井 順子(あらい・じゅんこ)
- 大阪府出身。2003年、株式会社ドリマックス・テレビジョン(現:株式会社TBSスパークル)に入社。プロデューサーとしての主な担当作品に、『わたし、定時で帰ります。』『中学聖日記』『アンナチュラル』『リバース』『私 結婚できないんじゃなくて、しないんです』『結婚式の前日に』『Nのために』『夜行観覧車』(すべてTBS系)などがある。
福永みたいに働いてる人を否定したくなかった
新井順子はこれまで『中学聖日記』『わたし、定時で帰ります。』など数多くの原作モノをプロデュースしてきた。企画として手堅さはある一方、原作ファンからの反発も受けやすいのが原作モノの宿命。しかし、彼女の手がけるドラマは原作の良さを活かしながらドラマならではの大胆なアレンジを見事に成功させている。まずは、どんなことを意識しながら原作を連続ドラマというフォーマットに置き換えているのかを聞いてみた。
- 『わたし、定時で帰ります。』(以下『わた定』)を拝見してすごく印象的だったのが、原作との方向性の違いです。原作は「長時間労働VS残業ゼロ」という対立構造がもう少し明確でしたが、ドラマはより多面的に働き方を描いていますよね。このあたりの意図を聞かせてください。
- やっぱり働き方って十人十色だし、残業したら悪なのかって言ったらそうじゃないじゃないですか。現に放送の世界も仕事が好きで、仕事をしまくっている人はたくさんいる。でも、そういう人たちに対してダメだとは言いたくないし。
働き方は人それぞれで、個人の自由。本人が幸せならそれでいいんじゃないか、と私自身が思っているんですね。だからこそ、一生懸命遅くまで働いている人を悪者にはしたくなかったんです。
- すごく象徴的なのが、福永清次 (演/ユースケ・サンタマリア)の描き方です。原作では福永を悪とし、最後は成敗されます。けれど、ドラマではそうしなかった。
- 福永は働きまくらなきゃ男として認めてもらえなかった時代の人。現実にも福永みたいに働いている人はいるし、福永を悪としてしまったら、その人たちの信念や頑張りを否定することになる。だから福永を成敗するんじゃなく、救いたいという気持ちがありました。
- 救いたい。
- たしかに福永の言っていることはめちゃくちゃです。でも、彼は彼で周りの人に仕事を分け与えようと懸命だった。もちろんズバッと彼を切ってしまうこともできたんですけど、それだと彼と同じ立場の人が救われない。
時代に翻弄された男の切なさや悲しさを描きつつ、でも今の時代はそうじゃないよね、と。そんなにもう頑張らなくていいんじゃないですか、と心を軽くしてあげられる終わりにしたかった。そこは最初から考えていました。
30代になった吉高由里子がどんな役を演じているのを見たいか
- その目線は、テレビがどのメディアよりも不特定多数の層にリーチする可能性の高い媒体だからですか?
- それもあります。それに『わた定』に限って言えば、視聴者によって見方がバラバラだったんです。普通、ドラマって主人公の立場から感情移入する人が多いんですけど、『わた定』は三谷(佳菜子)さん(演/シシド・カフカ)や賤ヶ岳(八重)さん(演/内田有紀)、(種田)晃太郎(演/向井理)といろんな登場人物の立場から見る人が多かった。
- ああ、すごくわかります。
- だから余計に、誰も悪くないということを強調したかった。何が正しくて、何が正しくないなんてものはない。そういうこともあって、(東山)結衣(演/吉高由里子)には「こうしたほうがいい」ということはあえて言わせなかった。あくまで「私はこう思う。以上」にとどめて、どちらを選ぶかはあなたが決めてください、でいこうと。
- いわゆる「お仕事ドラマ」のヒロインってこれまではもっとアクが強いのが定石でした。でも、結衣はごくナチュラル。これは、同じく新井さんがプロデュースした『アンナチュラル』の主人公・三澄ミコト(演/石原さとみ)に通じるものを感じました。このあたりは今の時代感を意識しました?
- キャラクターが濃い人って現実にはそんなにいないと思うので、実際にいそうなキャラクターにしようと意識しました。とくにこの作品の題材が、ありふれた日常のお話だからこそ、なるべく「実在しそう」と思ってもらえることを大事にしたかった。
吉高さんも最初は悩んでいたようです。「他の人はみんなキャラ立ちしているのに、私だけ普通すぎてどうしていいかわからない」って(笑)。
- でしょうね。演じる側は難しいと思います。
- でも、今の時代、あんまりガツガツした女性よりも、フラットなほうがいいと思いません?(笑)
- それはすごく感じます。
- あとは、吉高さんがやるからこそ、彼女の魅力を打ち出したいというのもありました。最近の出演作を全部観て、30代になった吉高由里子がどんなキャラクターを演じているのが見たいかをとにかく考える。
ご本人とも話して、こういう役はやっていないな、こういう表情は見せていないなというところを見つけて、新しさを出していくことを求めた結果、あの結衣ちゃんというキャラクターが生まれたんです。
最初の構成案は高校を卒業した黒岩と聖が結ばれる予定だった
- 原作モノのくくりで言うと、『中学聖日記』は放送前から「教師と中学生の禁断の恋」という設定に対して批判の声が巻き起こりました。これまでも『高校教師』(TBS系)や『魔女の条件』(TBS系)など教師と生徒の恋愛モノは多数あっただけに、 あれだけ否定的な反応が出たことに驚いたのですが、想定の範囲内でしたか?
- 正直に言うと、想定以上でした。というのも、『中学聖日記』は企画が決まったのがかなり前だったんですね。そこから発表までのあいだにいろんな事件が起きて、世の中の倫理観が一層シビアになった。時代の空気感は一瞬で変わるのだなと驚きました。
- 中学生という年齢設定が難しかったのかなという気もします。連ドラ化するにあたって年齢を高校生に引き上げることは考えましたか?
- それはまったくなかったですね。もともと途中で時間が経過するというのも決まっていましたし。だからと言って最初の段階で最終的に23歳になりますとも、もちろん言えないわけで。
連ドラは3ヶ月でひとつの作品。最後まで観てもらったら私たちの意図は伝わると信じていましたが、どうしてもその前段階で拒否反応が起きてしまう。そういう難しさは感じました。
- その中でつくり手の強い意志を感じたのが、ラストです。最終的に、聖(演/有村架純)は未成年である黒岩くん(演/岡田健史)との未来を選ばなかった。ふたりの純愛を正義として描かなかったことに時代性を感じました。
- 時代ですよね。やっぱり数々のご意見をいただき、これが今の時代なんだと肌で感じた。それを無視して、ふたりは幸せに結ばれました、はできないなと。
- つまり視聴者の意見を受けて、ラストのトーンが変わったということでしょうか?
- もともと最終的に結ばれることは決めていました。でも当初想定していたのは、高校を卒業した黒岩くんが聖を迎えに来るというラストだったんですよ。でもそれでは終われないぞと。
高校を卒業してもまだ18歳、未成年です。両親から認められたうえで、ちゃんとふたりが結ばれるには20歳は越えなくちゃいけない。実際のところ社会人1年目で相手の生活を背負えるかと言ったら難しいですけど、少なくとも立派な社会人になってから迎えに来させなくちゃいけないなと思って、23歳というラストにしました。
ドラマの登場人物をモンスターにはしたくない
- 最終回で突然、塩谷(三千代)教頭(演/夏木マリ)が黒岩の母・愛子(演/夏川結衣)の前に現れ、「あなたは間違っていません」と伝えました。ここにも制作者のはっきりとした意図が見えたのですが。
- そうですね。子どもを思う母親の気持ちを考えれば、愛子のしたことは決して間違いじゃないし、母親には母親の正義がある。とくに視聴者の中には母親世代の方もいますので、「間違っていない」と絶対に言わせたかった。
だから夏木さんには一度クランクアップです、となったあとにお電話して、再度来ていただいたんです。 - 愛子もそうですが、聖の婚約者である(川合)勝太郎(演/町田啓太)も、どちらも理性的なキャラクターでした。物語を盛り上げようと思ったら、このふたりをもっと振り切った役にしても良さそうなのにそうしなかったところにも時代性が見えました。
- 何かやりすぎると冷めませんか?っていう(笑)。
もちろんドラマなので盛り上げるためにある程度のことはさせましたが、あくまで母親なら実際そうするだろうという範囲内にとどめたかった。モンスターにならないようにしたかった、というのはあります。 - 登場人物を理解不能のモンスターにしたくないという思いが?
- それはありますね。非現実的すぎると私が冷めるんです。ぶっ飛びすぎている世界ならいいんですけどね。そうではないなら、そんな人いないよと思わせるようなキャラクターはあまりつくりたくない。やりすぎないことは大事にしています。
- では改めて、原作モノをドラマ化するとき、新井さんが大事にしていることを教えてください。
- 枝葉を広げることですね。たとえば小説って1点をがーっと掘り下げていっても成立するんです。でも、ドラマはその1点で勝負しちゃったら、そこに興味がない人には観てもらえない。だから、なるべくいろんな人に引っかかってもらえるように枝葉を広げます。
- やはりリーチ層が広いというのがポイントなんですね。
- たとえば、『Nのために』というドラマがありましたけど、高野夫妻(演/三浦友和・原日出子)はドラマオリジナルのキャラクター。10代の人ならきっと(杉下)希美(演/榮倉奈々)と成瀬(慎司・演/窪田正孝)の恋愛は響くだろうけど、それだけじゃ上の世代には刺さらない。
50代60代の人が観ても面白いと思ってもらえるように、高野夫妻の夫婦愛という要素を入れました。できるだけ幅広い(年代の)人たちに興味を持ってもらえるよう、とにかく枝葉を広げることが大事だと思っています。
『アンナチュラル』の魅力は編集のテンポ感と怒濤の展開
新井順子作品を語るうえで欠かせないのが、熱狂度だ。たとえば『Nのために』は2014年の放送にかかわらず今なおSNSで感想を語るファンは多く、『アンナチュラル』は高い完成度で絶賛の嵐。『中学聖日記』は岡田健史のブレイクを生み、『わた定』は種田フィーバーを起こすなどキャラクター人気も高い。思わずハマる新井順子流ドラマづくりの秘訣はどこにあるのか。
- 原作モノに強い印象ですが、『アンナチュラル』でオリジナルも手がけ、高い評価を得ました。視聴者もハマる人が続出しましたが、あの面白さの秘密はどこにあったのでしょう?
- あのテンポ感が大きかったと思います。『アンナチュラル』って脚本のボリュームがものすごく濃くて、普通のテンポでやってたら尺が足りなかったんですよ。だからテンポ良く演出する必要がありました。テンポを上げるには、少し早くしゃべる必要があったし、編集も細かく切っていかなきゃいけなかった。「何とかこの台詞を入れたいから、ここ5フレ(およそ0.16秒)つまんで」みたいな細かい作業を監督が行っていました。
- あのスピード感にはそんな理由が。
- その結果、ものすごくテンポが良くて1回じゃ追いつけないという反応が生まれて。巻き戻しながら観たいって録画する人も多かったし、TVer(ティーバー)もがんがん回っていた。しかもお話も二転三転どころか五転六転するぐらい展開が早くて。どうなるのかわからないというエンタメ感があった。
- また脚本がいいんですよね。。
- そこはもう野木(亜紀子)さんの粘りのおかげです。野木さんは、ロケの前日まで「もっと何かあるはずだ」「あと一転させられるはずだ」って文献を広げたり専門家の先生に聞きに行って、とにかく粘る。
そういう諦めない姿勢が生んだ意外性のあるシナリオが、何度も観たくなる魅力につながったんだと思います。
『Nのために』は3話の船を追いかけるシーンがやりたかった
- 『Nのために』は湊かなえさん原作のミステリーです。ドラマでは希美(榮倉奈々)と成瀬(窪田正孝)の青春時代のラブストーリーが前半で強く打ち出され、人気につながりました。ですが、これは原作ではそこまで前面に出ていない部分ですよね。連ドラ化するにあたって、ここに核を置いたのは何が理由だったんでしょう?
- 「罪の共有」がこの作品のテーマ。そうなったときに、最初の「罪の共有」となる希美と成瀬の高校時代のエピソードはちゃんと描いておいたほうがいいなと思ったのがひとつです。
あとは3話に出てくる、成瀬が乗った船を希美が追いかけるシーンがやりたかった! あそこを盛り上げるためには、3話ぐらいかけて高校時代の話をやったほうがいいだろうと。それだけです(笑)。 - むちゃくちゃわかりやすい理由です(笑)。
- やっぱり恋愛ってドラマには欠かせないんですよ。とくに、なかなか結ばれない恋は視聴者も好きだと思うし。途中から安藤(望・演/賀来賢人)も出てきて、「成瀬派? 安藤派?」って盛り上がったり。だから、意図的に恋愛要素を足しているところはありましたね。
- 一方で「今の時代、恋愛モノは数字が取れない」とも言いますよね。
- 実際、単なるラブストーリーというだけではダメなんだとは思います。若い男女がただ恋愛しているだけの話が今の時代にやれるかと言ったら、まず企画が通らない。何かしらひねりを入れないと。なので、恋愛ドラマの企画を通すのはとても難しいです。
『中学聖日記』9話のキスシーンは黒岩くんの手にこだわった
- そういう意味では、『中学聖日記』は「禁断の恋」という煽(あお)りはありましたが、王道のラブストーリーでした。熱のあるファンの多い作品ですが、その理由に岡田健史さんの存在は欠かせないのかなと思います。撮影が進むにつれて岡田さんの成長やポテンシャルの高さを感じたところはありますか?
- 色気ですね。最初は、少年として魅力的な表情がたくさんあって、それが青年としての色気のある表情に変わっていって。9話で、山小屋で聖と黒岩がキスをするシーンがあるじゃないですか。あのとき、聖の頬に手を添えるんですけど、あそこの手なんてすごく色っぽかったですよね。
- あそこの手はオンエア直後、ファンのあいだで話題になっていました。
- あれは私もこだわりがあって。脚本家さんにお願いして、脚本の段階で「聖の頬にそっと手を添え」って書いてもらいました。 現場でもわりと細かく注文をして。腕じゃない、顔にいくんだって(笑)。あそこをあれだけ色っぽくやれていたのは、スゴいなと思いました。
とくにあそこは、まだ黒岩くんが中学生だった4話のキスシーンと対比になっていて。4話では腕を引っ張ってキスをするんですけど、最初は頭を触るとか、いろいろ試したんですよ。でもそうすると色っぽくなりすぎると。結果的に、同じキスシーンなのに4話と9話ですごく鮮明に違いが出て良かったと思います。
- 髪を切ったり、見た目の変化のつけ方も見事でした。
- 私が初めて岡田くんに会ったときは髪が短かったんですよ。それがすごく良かったので、後半は切ってもらおうと決めていました。でも、つながりとか撮影スケジュールを踏まえると、5話終了段階で髪を切ってもらうには、2〜3週間ぐらい彼の撮影に空きが出ることになってしまって。
スケジューラーさんは大変だったでしょうけど、ここは絶対に譲れないと思ってバッサリ切ってもらいました。そこは判断としては成功だったと思います。 - 岡田さんのブレイクを見ながら、1本のドラマから人気俳優が生まれるのも連ドラの醍醐味だなと思いました。
- ミラクルですよね。はじめのうちはロケ中にひとりでコンビニに行けたのに、後半になるともう絶対無理。人だかりができて、なかなか帰ってこられなくなるんです。だから、後半は彼に付き添うのが私の仕事でした(笑)。
種田の口についているクリームは向井さんのアイデアです
- 人気という意味では、『わた定』の種田人気もすさまじかったです。
- まさかあそこまで人気になるとは思っていなかったです。
- この種田も原作とはちょっと印象が違うんですよね。原作の種田はもう少し体育会系であることが前に出ていますし、精神的にもマッチョな印象です。ドラマでも元野球部である設定は残っていますが、そもそも向井さんは体育会系というより理系男子のイメージが強いですし。
- たしかにご本人のイメージと違うと言えば違うんですけど、マッチング的にベストだという確信はありました。あの種田は、私だったらこういう向井理を見たいという願望を全部投影した役。ご本人にも本当に細かくキャラクターについてお願いしました。
- たとえば、どういうオーダーを?
- とにかく「大人カワイイをやってほしい」と。ご本人も私の思い描いているイメージはよくわかったみたいで。たとえば、4話でカップケーキを食べた種田の口にクリームがついているというくだりがあるんですけど、あれは向井さんからのアイデアです(笑)。
- SNSで話題になっていましたよね(笑)。
- これがやりすぎて「カワイイでしょ、僕」みたいになっちゃダメなんですけど。向井さんはすごく普通のテンションでやってくれるからいいんですよね。
たぶん素のご本人の感じに近いんだと思います。向井さんってベタベタ優しくするタイプではなくて。たとえばコップのお茶がなくなっていたら、私が席を外している隙に、さり気なく入れてくれるような人。
しかも、それを私に言うわけでもなく、帰ってきたらいなくなってて。「誰かお茶入れてくれたの?」って聞いたら他の人が「あ、それ、さっき向井さんが」って言ってわかるみたいな。そういうさらっと優しい感じと、種田のキャラクターがうまく合ったんだと思います。 - 最終話の「一緒に住もうって言ってんの」もすごい破壊力でした。
- あそこのシーンは打ち合わせだけで3時間ぐらいかかりました(笑)。たしか最初はもっと「結婚しよう」とかストレートな台詞だったんですよ。でも違うと。「一緒に住もうって言ってんの」だと。この「言ってんの」が大事なんだと力説しました(笑)。
- わかります…。
- 現場でも向井さんの前で私が実演しました(笑)。「ちょっと照れながらやってください」って細かくお願いしたりして。そしたら向井さんも「こういうことでしょ?」ってもうバッチリ。最高のものを見せてもらいました。
自分が見たい。それ以上に、熱狂を生む極意はない
- お話を聞いていると、新井さんの作品には必ず視聴者が夢中になるような男性キャラクターが出てくるんですよね。このあたりの極意って何なんでしょうか?
- 自分が見たいっていうだけです。それ以上は何もない(笑)。無理にやらせてもうまくはいかないので。この人だったらこういう感じが合うかな、というのをとにかく探っていく。
私が弱いのはギャップ萌え。一般的なイメージでは押しが弱そうに見える人を、あえて押しが強い役にしてみたり。
- プロデューサーの「こういうのが見たい」という「願望」は、ドラマづくりにおいて重要なものなんですね。
- 私はそれしかないです。たとえば『Nのために』の窪田くんはお芝居がうまいからいつか一緒にドラマをやってみたいと思っていて。『Nのために』の前にもご一緒したこともあったのですが、出番が少ない役だったので今回はガッツリやりたいというのが起用理由で。窪田くんは明るい役より陰の役のほうが絶対に似合うと思って 、彼をプッシュしました。
- そういうプロデューサーの嗅覚の鋭さが、熱狂の秘訣なのかなと。
- 結局、狙ってもうまくいかないんですよね。たとえばSNSのフォロワー数がこれだけいるからと見込んで起用しても、全然検索にも引っかからないし、トレンドにも入らなかったりする。結局、その人たちのフォロワーは、別にその人をドラマで観たいわけじゃないんです。
だからあまり意識はしすぎずに。私はこの人のこれが見たい、これが萌えるという感覚を信じるようにしています。
熱狂を生むには、見せすぎないぐらいがちょうどいい
- その上で、思わずみんながSNSで感想をつぶやきたくなるために意識して仕掛けていることがあるとすれば?
- 次回予告は意識しています。TBSってTVerとParavi(パラビ)の紹介のために、本予告にプラスして6秒ぐらい時間があるんですよ。入れられるのは3〜4カットぐらい。そこに画を見るだけで「来週はこういうのが来るよ」とわかるものを入れてみたり。
- たとえば、直近の『わた定』ならどんなことを?
- とくに後半は吉高さんと向井さんが並んでいるだけで反響があったので、なるべくふたりのカットを入れるようにしていましたね。
たとえば8話で種田が結衣をおんぶするシーンは、寄り(アップショット)は入れるけど引き(ロングショット)は入れないとか。
- それはどうしてですか?
- 引きで見せたら、おんぶするって言うのがわかっちゃうじゃないですか。でも寄りだと「これはおんぶされているの? されていないの?」って想像が膨らむぶん、さらに楽しみになる。よく出し惜しみするなって言われるんですけど、全部見せちゃうと、本放送のときに予告のまんまやんってガクッと来る。そのあたりのバランスはかなりこだわっています。
- 『わた定』なら中盤ぐらいから種田人気がどんどん盛り上がっていきましたけど、そういったSNSの反響を受けて出番を増やしたり、展開を変えることってありますか?
- 種田さんが萌えてるから、そういうシーンはちょっと増やそうかとかはありますけど、話のストーリーを変えることはないです。
たとえば、中盤で恋愛メインの回を入れようかという案が出たことはあるんですよ。でも、そこはいやいやそうじゃないと。『わたし、定時で帰ります。』って言ってるんだから、あくまでドラマの軸はお仕事。恋愛はサイドストーリーだと。
いくら反響が大きくても、そこに焦点を当てすぎると、望んでいない人からは供給過多になる。見せすぎないぐらいが、ちょうどいいのかもしれないですね。
観た人の人生に刻まれるドラマをつくりたい
- SNSの反響だったり見逃し配信の再生数だったり、いろんな指標は増えたものの、やはりドラマの評価を語るうえで視聴率は切り離せません。新井さんは視聴率をどんなふうに捉えていますか?
- やっぱり無視できないものだと思います。配信で観る人が多くなった時代だとどれだけ言われようと『半沢直樹』(TBS系)だったり、『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)だったり、数字を取る作品はちゃんと取っている。
今、ドラマの世界ではF3(50歳以上の女性)の支持を得ないと視聴率10%には届かないと言われています。そこからさらにティーンからシニアまで男女関係なく支持を集めていくことで、20%を取るドラマが生まれてくる。だからやっぱり私はあらゆる世代の人が観て楽しめるドラマをつくりたい。
もちろん視聴率が1桁台であっても優れたドラマはあるし、DVDが売れたとか配信の再生数が多いとかいろんな 指標はあるので、一概に失敗だとは言えない時代ですけど、それも踏まえたうえでちゃんと視聴率を取れるドラマはスゴいと思うし、そういうドラマがブームを呼ぶんだと思っています。
- YouTubeなどのネット動画視聴が若年層に浸透しており、娯楽も多様化しています。そんな時代に連ドラにしか提供できないものがあるとしたら、それは何でしょうか?
- それこそ熱狂度じゃないですか。よく「次の火曜が待てない」とか「毎週のドラマが人生の楽しみ」という声をいただくんですけど、そうやって「来週も観なきゃ」って夢中になれるのは連ドラならでは。気づけば3ヶ月経って、最終回にはこのキャラクターともうお別れなんだという寂しさで胸がいっぱいになる。そういうハマる楽しさはやっぱり連ドラが強いと思います。
- たしかに画面をタップすれば簡単にいろんなコンテンツにアクセスできるこの時代に、「待つ不自由さ」というのは代えがたい価値のように感じます。
- 「これどうなるの? 続きが気になる!」っていうね(笑)。決まった時間にテレビの前に座っていただくことは、今の時代、とても難しいんですけど、何年かに1本、そうやってみんながこの時間には家に帰ってテレビを観ているというドラマが生まれたらいいなと思います。
私自身、まだそういう大ヒット作をつくれていないので、これからも頑張っていきたいです。そして 『Nのために』のように放送からもう5年も経っているのに、いまだにいろんな人が「あのドラマは良かった」と言ってくれるような作品をつくれたことは、プロデューサー冥利に尽きること。そういう観た人の人生に刻まれるドラマをこれからもつくっていきたいです。
作品情報
- 『わたし、定時で帰ります。』
- 未公開シーンを含んだディレクターズカット版が動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で配信中!
- https://www.paravi.jp/title/42174
- 『わたし、定時で帰ります。』
DVD&Blu-ray11月6日発売
DVD-BOX ¥20,900(税抜)
Blu-ray BOX ¥26,400(税抜)
発売元:TBS 発売協力:TBSグロウディア 販売元:アミューズソフト
© 2018 朱野帰子/新潮社 ©TBS/TBSスパークル - 『中学聖日記』
DVD-BOX ¥20,900(税抜)
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©TBS
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