
年齢や性別で人を判断するのって、つまらない――“女王蜂・アヴちゃん”という生き方

「10年前、女王蜂がメジャーデビューしたとき、“日本のヘドウィグ”が出てきたと言われたのを覚えていて」
己の存在理由を問い続け、愛を叫び求めるロックシンガーの姿を描くミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』。一方で、女王蜂は年齢も国籍も性別も明かさない4人組のバンド。たしかに“日本のヘドウィグ”とはぴったりの言葉だったかもしれない。
女王蜂のヴォーカル・アヴちゃんは、どこかから借りてきた言葉や表現ではなく、自分と向き合って音楽を生み出してきた。だからこそ、バックボーンや考え方を知らなくても、女王蜂から生まれた音に触れれば“気づき”を受け取ることができる。
「属性で人を判断するのって、つまらないと思う。レッテルがおもしろかった時代もあったかもしれませんが、これからはそうじゃないでしょ?と思っています」。そう教えてくれるアヴちゃんの目は優しく、しなやかだった。
ヘアメイク/木村ミカ
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出身地なんて関係ないし、年をとるのは悪いことじゃない
- 2009年に神戸で女王蜂を結成してから10周年。バンドのヴォーカル・作詞・作曲にとどまらず多彩に活躍の幅を広げているアヴちゃんにとって、改めて女王蜂の存在とは?
- めちゃめちゃヤバくて、最高にステキでおもしろくて、かわいくて、カッコいいことをしているバンドです。もっといろいろな人に女王蜂を知ってもらえるように、戦っていきたいです。知ったら絶対好きになるはずだから!
- 女王蜂のこれまでの活動を振り返ってみて、印象に残っていることを教えてください。
- 女王蜂は活動を休止していた時期があるのですが、休止の前と後とでは、いろいろなことが全然違うんです。もちろんバンド自体も、です。
(編集部注:2013年2月のライヴ『白兵戦』をもって活動休止し、2014年2月のライヴ『白熱戦』にて活動を再開)
活動再開後は、もっと違うステージができるのではないかという可能性が見えてきたというか。今思うと、休止前は余裕がなくて周りが見えていなかったのかもしれません。
バンドに対する私自身の考え方もものすごく変わりました。今は女王蜂という大好きなバンドを続けていくために、みんなの士気を上げていくことを考えています。私がそういうスタンスでいることで、周囲がサポートしてくれることも感じています。新たに自分にもフォーカスできるようにもなりました。

- アヴちゃんをはじめ4人のメンバーは年齢・国籍・性別を非公表にしています。これは、属性よりも、音楽性を見てほしいという気持ちの表れなのでしょうか。
- (少し間をおいて)そうですね、音楽性を見てほしいという意味合いは確かにあります。でも、私、本当にそういうの、どうでもいいと思っているんです。年齢や出身地などで安心しようとする人って多いじゃないですか。
たとえば、「あの女優さんかわいいけれど、私より年上なのよね」とか、「あの人、どこどこ出身なんだって」とか。出身地なんて関係ないし、年をとることは決して悪いことじゃないじゃないですか。そういうふうに属性で人を判断するのって、つまらないと思う。
レッテルがおもしろかった時代もあったかもしれませんが、これからはそうじゃないでしょ?と思っています。 - アヴちゃんが、この8、9月に出演するミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(以下『ヘドウィグ』)もジェンダーにまつわる問題が大きなテーマとなっています。
- そうですね、でも、1997年にオフ・ブロードウェイで初演された作品を、今の日本で上演するのはある意味、古典的だとは思うんです。
- 古典的というのは?
- (主人公でロックシンガーの)ヘドウィグは(生まれたときは男性だったが女性になるために)性転換手術を受けるのですが、手術のミスで股間に「怒りの1インチ」が残ってしまいます。そもそも1インチだけ残ってしまう手術って、今時ないですよね。
また、作品の舞台では、ベルリンの壁の崩壊が重要なメタファーとして描かれています。でも、今の20、30代の人にとっては、ベルリンの壁って、歴史上の出来事という感覚だと思うんですよ。
(編集部注:ヘドウィグはベルリンの壁が築かれた1961年に生まれた。また1989年、壁が崩壊した日に最初の夫はヘドウィグの元を去る)
21世紀のニュースにまみれて生きている私たちが、『ヘドウィグ』という作品を通して、当時そんなカタルシスがあったことや心を伝えるというよりは、とにかく今、ガチンコのものをお見せしたいです!


女王蜂ではディーバではなく、みんなを連れてゆく女将のような存在
- 本作は、愛を求め、魂の歌を歌い続けるヘドウィグが“カタワレ”を求めてさまよう物語です。今回、ヘドウィグは浦井健治さんが演じます。アヴちゃんは、元ドラッグクイーンでヘドウィグの夫であるイツァークを演じますが、そもそもこの作品はご存じでしたか?
- はい。2012年には森山未來さんのヘドウィグも観ていますし、2017年には、(同作の原作者であり、ヘドウィグのオリジナルキャストでもある)ジョン・キャメロン・ミッチェルさんの来日公演も観に行きました。
- どんな印象を持ちました?
- イツァーク役の中村 中さんがスゴかった、それに尽きます。とにかく、“人間力”がスゴかったです! 観に行きました? 中さん、スゴかった。“中さん劇場”と言ってもいいくらい!
- 観に行ったのは、何かきっかけがあったのですか?
- 女王蜂がメジャーデビューしたとき、「“日本のヘドウィグ”が出てきた」みたいな感じで言われていたのを覚えていて。でも当時は『ヘドウィグ』がどんな作品かはわからなかったし、10代だったから誰かに似ていると言われるのはうれしくはなくて、すぐには受け入れることができなかったんです。
でも、森山さんの舞台を観て、「いつか出たい作品だな」と思うようになりました。 - その頃から、イツァークを演じたいと思っていたのですか?
- いえ。ヘドウィグを演じたいなって。
- では、今回イツァーク役の依頼を受けたときの率直な感想は?
- やったーって感じです! ヘドウィグとイツァークの両方を演じたことのある人は世界的にもめずらしいと思うし、両方を演じる可能性を持っている人自体、少ないと思うんです。今後ヘドウィグを演じるチャンスがあるかはわかりませんが、せっかくの機会なので、ぜひやってみたいなって思いました。
- なるほど。女王蜂のライヴと、魂が叫ぶように歌うヘドウィグのライヴシーンには、どこか通じるものがあるかもしれませんね。
- でも、私は女王蜂で、ヘドウィグのようにディーバ(歌姫)をやるつもりはありません。ディーバというより、女王? みんなを連れてゆく女将のような存在だと意識しています。そういうふうに意識し始めてから、バンドがよくなってきたようにも感じています。

「あ、そういうことね!」と納得できれば、自分は動ける
- ミュージカルへの出演は、2017年の『ロッキー・ホラー・ショー』に続き2度目となりますね。
- そうです。ジョン・キャメロン・ミッチェルさんの『ヘドウィグ』が上演されていたのは、ちょうど『ロッキー・ホラー・ショー』の稽古中で、スタッフに誘われて行ったんですよ。
- 初ミュージカルへの挑戦で、印象に残っていることはありますか?
- 最初は、借りてきた猫みたいになっていました。舞台用語もわからなかったですし。でも稽古を重ねていくうちに、あるとき、スイッチが入ったんです。その後はのびのびやらせてもらいました。
納得しないとできない、納得すればできる、ということがよくわかりました。なんでこんなふうに動くのだろうとか、なぜこういうことを言うのだろうとか、自分が演じている役柄の行動に納得ができないとうまく動くことができないんです。
でも、「あ、そういうことね!」と腑に落ちたら、動けるということを実感しました。バンドと違って、「集められた人が集う」という感覚も新鮮でしたね。 - 『ロッキー・ホラー・ショー』では女王蜂のメンバーも一緒でしたが、今回はアヴちゃんひとりです。
- そうなんです。最初は心細く思っていましたが、(稽古開始が)近づくにつれて、少しずつ「大丈夫!」と思えるようになりました。バンドのメンバーもきっと、舞台を観に来てくれるはずですし。なんか、自分と向き合えてきた、という感じかな。
イツァークを通して自分をレベルアップして、その成果をバンドに持ち帰って、女王蜂のレベルを一段上げられればと思っています。

- ヘドウィグ役の浦井健治さんとの共演は初めてですよね。どんな印象を持っていますか?
- 私、浦井さんが出演している作品は何度か観ているんです。『メタルマクベス』とか。セラミュが大好きなので、『美少女戦士セーラームーン』も観ています(浦井さんの初舞台はミュージカル『美少女戦士セーラームーン』のタキシード仮面役)。
舞台、好きなんです。友達が出ている作品を中心に、幅広く観ています。舞台って何が起こるかわからないし、人間力を見ることができるから。 - 稽古が始まるのはこれからですが、演出の福山桜子さんから何か指示やアドバイスはありました?
- 桜子さんは、お仕事をご一緒させていただくのは初めてですが、女王蜂のライヴにはよく来てくれて、すごく熱狂して帰ってくれます。最近ちょこちょこ言われているのは、「ヘドウィグもイツァークも人間力がすさまじくて、ふたりしか出ていないのにこの熱量はなんだっていう舞台にしたいから、よろしく」って。
「わかった、任せて! やります。でも私、納得するまで時間がかかるから、それはごめんなさい」と答えています。 - そういえば、アヴちゃんは漫画『ガラスの仮面』を愛読しているそうですが、演技の参考にすることもありますか?
- そう、大好き! お芝居への影響はもちろんあります(笑)。『ガラスの仮面』って情熱の大肯定じゃないですか。がんばればいいことあるよっていう。すごく勉強になるし、読むと元気が出ます。
あの激しさをそのまま現実の世界で出してしまうと大変なことになると思うのですが、激しさに嘘をつかずにやることは必要かなとも思っていて。まぁ、やりすぎたら、桜子さんが調節してくれると思います。


思春期のモヤモヤにフィットする『ヘドウィグ』の楽曲
- 今の時点で、どんなふうにイツァークを演じたいと考えていますか。
- この作品のラストシーンは「始まり」だと解釈していて。一度カオスになって、最後におぎゃあと何かが生まれるような。
ヘドウィグは、全部をとっぱらって自分に対峙し、イツァークは開放されます。その後、ふたりが一緒にやっていったのかどうかはわからないけれど、その先の「始まり」に向けて広がっていく。あくまでも私の解釈ですけれど。
だから、その「始まり」に向けて丁寧に演じていきたいし、イツァークはセリフの少ない役柄ですが、ヘドウィグ役としての浦井さんに、本気で「こいつ、めっちゃ光ってる。もう引っこんでろよ!」と思ってもらえるようなイツァークを作りたいですね。
私はたぶん、ほとばしり担当として呼ばれていると思うので、その意味でもバキっとしたものをやりたいと思っています。 - ヘドウィグとイツァークの関係はどんなふうにとらえていますか?
- 共依存というか、健全ではないですよね。どっちもちゃんとしていませんよね、このふたり。弱いふたりが一緒にいる、というような…。イツァークは、ヘドウィグに寄り添って身の周りの世話をするんだけど、もしかしたら「私ならあなたを救えるかもしれない」と思っているもかもしれません。
私はバンドを10年やっていますが、ヘドウィグのようなスタンスでは続かないので。私が自分だけにフォーカスして(活動を)休止したこともあるから、気持ちはわからなくはないけれど…。でも、そういう思いがわかるからこそ、イツァークも演じられるかなと思っています。 - 『ヘドウィグ』というミュージカルの楽曲の印象は?
- 思春期って、体の変化があるけれど、ここではないどこかに行きたいという心のモヤモヤみたいなものもあるじゃないですか。
そういう思いを抱いている人に対して、すごくフィットするやさしい曲がたくさんあると思うんです。かわいいし、日本語訳も気持ちを込めてアレンジしてくださっています。私はコーラスが多いのですが、ぞわっとしてもらえるように歌いたいですね。

音楽を聴くのはにごりたくないとき。だから自分で曲を書く
- 楽曲『Introduction』が、7月19日公開の映画『東京喰種 トーキョーグール【S】』の主題歌に決まりましたね。アニメとタイアップすることも多いですが、どんなところに親和性を感じていますか?
- アニメのために楽曲を作るというより、もともとある曲がタイアップに選ばれているんです。女王蜂ってすごく色があるから、(作品に)寄せた曲を作らなくても、自分たちのやるべきことをきちんとやっていればフィットするのかもしれません。やらせてくれ〜!と願ってやれるものでもないし、縁を感じています。
アニメはもともと大好き! バンドをやっていても、自分の好きなものに携わるチケットをもらえる人ばかりではないと思うんです。いろいろな人が力を尽くしてくれているのもありますし、これからも努力を惜しまずに縁をつなげてやっていきたいです。
『セーラームーン』も大好きだから、(トリビュートアルバムに)携われてうれしかったです。でも、『どろろ』も(『東京喰種』も)そうですし、人間ではない何かに呼ばれることが多いような気がします(笑)。貞子も生きながら死んでいるというか(映画『貞子』の主題歌を担当)。
でも貞子とバーサスしたら、絶対、私のほうが強いと思うし、(『東京喰種』の)金木くんとタイマンはったら…気持ちがまず負けていないから! - アヴちゃんは普段どんな音楽を聴くのでしょう。かなり幅広いジャンルの音楽を楽しんでいると聞いています。
- いろいろ聴きますよ。バンドを組んだのはPerfumeに憧れたからですし、影響はすべてのものから受けていると思いますが、私のなかのレジェンドはやっぱり中島みゆきさんかなぁ。フジコ・ヘミングさんもよく聴きますし、それこそビヨンセも。
彼女たちのように、歌の世界で一生やっていくという覚悟が感じられる人たちの曲って、元気や勇気が出てくるんです。 - 音楽はどんなときに聴くのでしょう?
- んー、にごりたくないときかな。
そもそも、にごりたくないから自分で曲を書いているので。うっ、となっているときや落ち込んでいるときに、好きな音楽を聴いて自分を鼓舞しています。音楽の力はやっぱり偉大です。

- アヴちゃん
- 2009年結成のバンド『女王蜂』(メンバーはアヴちゃん[Vo]、やしちゃん[Ba]、ルリちゃん[Dr]、ひばりくん[Gt]の4名)のヴォーカルを担当し、作詞・作曲も手がける。2011 年にメジャーデビュー。TVアニメ『東京喰種トーキョーグール:re』EDテーマやTVアニメ『どろろ』OPテーマ、映画『貞子』主題歌に楽曲が抜擢されるなど精力的に活動。2017 年にはメンバー全員で出演・演奏した初のミュージカル『ロッキー・ホラー・ショー』でコロンビア役を務めた。2019年5月にアルバム『十』をリリースした。
舞台情報
- 『HEDWIG AND THE ANGRY INCH/ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』
- 【東京】8月31日(土)〜9月8日(日)@EX THEATER ROPPONGI
【福岡】9月11日(水)〜12日(木)@Zepp Fukuoka
【愛知】9月14日(土)〜16日(月・祝)@Zepp Nagoya
【大阪】9月20日(金)〜23日(月・祝)@Zepp Namba(OSAKA)
【東京ファイナル】9月26日(木)〜29日(日)@Zepp Tokyo
作:ジョン・キャメロン・ミッチェル
作詞・作曲:スティーヴン・トラスク
翻訳・演出:福山桜子
出演:浦井健治(ヘドウィグ役)、アヴちゃん[女王蜂](イツァーク役) - https://www.hedwig2019.jp/
サイン入りポラプレゼント
今回インタビューをさせていただいた、女王蜂・アヴちゃんのサイン入りポラを抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。
- 応募方法
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— ライブドアニュース (@livedoornews) July 16, 2019
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・応募〆切は7/22(月)18:00
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- 2019年7月16日(火)18:00〜7月22日(月)18:00
- 当選者確定フロー
- 当選者発表日/7月23日(火)
- 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
- 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから7月23日(火)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき7月26日(金)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
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